カイ・トレローニーと正体不明の石   作:又瀬田那

1 / 3
めぐりめぐりて

事実は小説よりも奇なりと初めに言ったのは誰だったか。私はあまり文学には詳しくなかったが、確か西洋の詩人が書いた叙事詩だと聞いた事がある。しかし、それを書いた本人もそのままの意味で言った訳ではないと思う。だとしたら、今自身に起こっている出来事は一体何と言い現せばよいのだろうか?

 

私は、祈りにも似た気持ちで上を見上げる。そこには空を埋め尽くさんばかりの異形の者達がまるで夕刻の鴉のように飛び回っている。「それ」を一言で言うならば死神だ。穢れた黒衣を身に纏い、骨を凍らせんばかりの殺意をふりまき、無慈悲に命を狩りとる。尤も、命を奪う方法として鎌を振り下ろす代わりにキスをするのは意外だったが。

 

ああ、いつになったらこの悪夢は終わるのだろう。冷えた体をさすりながら考える。体を支えるコンテナ越しに見るやつらの数は減るどころかむしろ増えているかのようだった。私があそこで何を見たのかは分からないが、よほどやつらの逆鱗に触れたのであろう。私を絶対に逃がすつもりはない事は明白だった。

 

それ以上やつらを見た時に湧きあがってくる寒気に耐えきれなくなり、買ったばかりの腕時計に目を移すとまだ深夜零時を跨いだばかりである。

 

奴らが太陽の光に弱いのかどうかは疑問だが、どちらにせよ太陽が出る前に私の命が尽きる事は間違いないだろう。それでもただで死ぬつもりはない、私はかじかむ体に活を入れるとコンテナに体を擦りながら這うような速度で進む。するとある一定の地点からまるで壁に当たったように進めなくなる。いや正確に言うと自分でも馬鹿な事だが「自分の意思で向こうに行きたくなくなる」のである。

 

(くそったれ、またかっ)

 

心の中で毒づきながら頭の中でこの波止場の地図を描く、私の記憶が正しければこれで最後の出口のはずだった。

 

(まさか自分の優秀な記憶力を恨む日が来るとは思わなかったな)

 

そのままずるずると座り込むと私は細く息を吐いた。白く、人魂のようなか細い息は真夏の夜に溶けていく。それにしても寒い、まるで全身の骨が氷となったようだ。そういえばここにきてから全く楽しい事を心に描けなくなった、来る前はあんなに喜び勇んでたというのに。やっと退屈を感じでいた探偵業に別の何かを感じられるかもしれないと思ったのになぁ。そうすれば……

 

「いたぞっ、吸魂鬼共こっちだっ! 絶対に逃がすんじゃないぞ」

 

しわがれた老婆の声が幸せな空想を吹き飛ばす。

 

(くそっ敵地で居眠りとか馬鹿か私はっ)

 

体力の搾りかすを更に絞り体の動力炉に放り込む。まだいけると自分を鼓舞しながら自分に杖を向ける魔女の格好をした老婆から逃れるために脇道に逃げ込む、しまった確かこの先は……

 

「ばかめっ自分から行き止まりに逃げ込むとは、所詮マグルは脳みそまで腐っておるんじゃっ」

 

後ろから老婆の嘲りの声を受けながら臍をかむ。コンテナの列を抜けるとそこには闇夜に波打つ海しかなかった。そこに身も凍るような風が吹く、潮風などのような自然にある風ではない。わざわざ上を見るまでもなかった、先ほどまでバラバラに飛び回っていた異形共が全てこの狭い空に集結していた。

これでは逃げ場はない、私は最後の時を悟った。

 

思えば後悔の多かった人生だと思う、今までそれを過ちだと認められなかった事もたくさんある。

こんな場所に連れてきてしまったために死なせてしまった友への謝罪もしなくてはならない。でも、それでもこの命をただでやつらにくれてやるのは業腹である。

 

「よーうやく追い詰めたぞマグルッ、お前さんには聞かなきゃならん事が山ほどある。どーやって聞きだしてやろうかねぇ」

 

引き攣った笑い声をあげながら、ずるずるとナメクジのように重たそうなローブを引きずりながら近づいてくる老婆の顔の顔には怒り、あるいは屈辱に近い感情が浮かんでいる。魔女は一旦話を止め、次に呆けたように何もない空を見つめて陶酔した顔を浮かべると突然ケタケタと笑いだす。

 

この期に及んでその魔女然とした格好が伊達であるかどうかを疑うような事はしない。おそらくは私が思いもつかない方法で私を辱め、最後には彼のように異形のキスで魂を吸われるのだ。

 

「いいかっ。お前に許される幸せは素直にアレのありかを吐いて、私の手を煩わせた事に許しを乞いながら吸魂鬼の餌になる事だけじゃ。くれぐれも私にマグルごときに真実薬を使わせるなんてもったいないことをさせたら……」

 

目玉をギョロつかせながら煽るような口調で言う魔女を前に、私は覚悟を決めた。残念ながら生きる覚悟ではないし、今突然湧いてきた覚悟でもなかった。こいつから逃れられないと知った少し前から考えていた事だ。決断するのに少し時間がかかり過ぎたがこの場所ならちょうどいい。

 

魔女の言葉を最後まで聞かず私はなるべく 『浮きそうな物』を体から外しつつ海に飛び込む。着水する直前にこの世で最後の息を吸い込み頭から海に浸かる。

 

(まさか、自分が金槌である事に感謝する日がくるとはな)

 

皮肉に口元を緩めつつ私は冷たい海の底に沈んでいった。彼から託された物を握りしめながら……

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

生まれ変わりという物が実在する事を知ったのは、八歳の時だった。知ったというのは正確ではない表現か、正しくは実感したのが八歳になった頃だったわけだ。ある時、家庭菜園の薬草の採取に行った私は、庭に巣を作っていた庭小人に足を引っ張られ転んでしまったのだ。幸いけがはなく、すぐに母がジャイアントスイングで追っ払ってくれたのだが、転んだ衝撃で、記憶の詰まった風船が割れたかのように一瞬にしてわたしは前世の事を思い出した。

 

とはいえ、感覚としては昨日の夕食がなんだったか思い出したかのような物だったためあまり自分では実感が湧かないのが正直なところである。家族もそんな私に違和感を感じていないようで、最近になって魔力を持っていると分かった近所の家の子供の話題で持ちきりだった。

 

夕食を終えた私は八歳の誕生日に与えられた自分の部屋で寝転びながら改めて前世の自分に思いをはせる。といっても人生全体の事ではなく、私が死んだ事件の事だ。黒衣の異形に気味の悪い魔女、あの時は何が何だか分からなかったが今の自分であればある程度理解できる。前世の人生において私は魔法の世界など空想の産物であると思っていたが実際は違ったのだ。私が知っている世界はどうやら思っていたよりもずっと狭かったらしい。

 

そしてあの魔女の手にあった印を見ると、四年前まで魔法界を荒らし回っていた死喰い人の一員のでまちがいがないだろう。しかし、あの異形の事はよくわからない、人の口から魂を吸うのだから闇の魔法生物である事は間違いないだろうが、この世界に生まれてからの八年間ではあの異形の姿を見た記憶はない。いや、確かあの魔女が異形の名前を呼んでいたような。確か……

 

「確か……吸魂鬼」

 

吸魂鬼、それは魔法世界において最も忌み嫌われる者達の一つである。そんなものに襲われた事を考えるだけで今更のように体が震える。ハッとしたように私は口元に手を当てる、そうだあの海に飛び込んだ私に吸魂鬼共が群がって来てそしてフードをめくり……

 

「っく、げほっ、げほっ」

 

その先を考えようとした瞬間、頭に焼けた鉄の棒を突っ込まれたかのような激痛が走り、その先を考える事を拒む。ドクドクと早鐘のようになる心臓を深呼吸で落ち着かせて私はチカチカと点滅する視界を閉じる。どうやらこれ以上は危険のようだ、そもそも私がどのようにして生まれ変わったのかもわからないのだ下手な事をしない方がいいだろう。それに他に考えるべき事もある、私はベットの横の机の引き出しを開けてある物を取り出す。

 

子供の掌には少し思いなんの変哲もない拳大の石、前世において私の運命を変えた石、そして今は日本のとある海の底に沈んでいるはずの石。これがなぜここにあるのかは私には分からない、しかし母から産み落とされたその時から私はこれを抱えていたらしい。両親は私がこれを魔法で何処からか呼びよせたと考えているようだ。おかげで私は一族の中で最も早く魔法の力を目覚めさせた子供として期待されてしまっている。私は石を二、三度掌の上で転がすとまた机の中にしまった、どうやらあの時の事を思い出したからといって何か起こる訳ではないようだった。

 

死喰い人が求めていたからには何かしらの力が備わっているのだろうが、なんの知識もないまま変にいじるのは危険だろう。安全を考えるのならこれを捨てるのが一番だろうが、不思議な事にそんな気持ちは湧いてこなかった。考え方によっては私はこれが原因で命を失った様な物なのだが、また一方から見れば前世の私と今の私をつなぐ唯一の物だった。いつか私がこれを必要としなくなる日まで大切にしまっておくとしよう。

 

そんな事があったものの私の生活に特に変化はなく、私がこの日の事を思い出す事が少なくなった頃に家に一通の手紙が届く。

 

 

 

ホグワーツ魔法魔術学校 校長 アルバス・ダンブルドア 

 マーリン勲章、勲一等、大魔法使い、魔法戦士隊長、最上級独立魔法使い、国際魔法使い連盟会員

 

 親愛なるトレローニー殿

 

 このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。

 新学期は9月1日に始まります。7月31日必着でふくろう便にてのお返事をお待ちしております。

 

 敬具

 

 副校長ミネルバ・マクゴナガル

 

シールースの森のそば ウィンガモット通り5番地 2階 一番本のある部屋

 

カイ・トレローニー様

 

 

 

同封の紙を見ると入学時に必要な物が書いてあった、どれも初めてみる物で想像力を掻き立てる物だ。

 

 

ホグワーツ魔法魔術学校

 制服

 一年生は次のものが必要です。

 一、普段着のローブ三着(黒)

 二、普段着の三角帽(黒)昼用

 三、安全手袋(ドラゴンの革)一組

 四、冬用マント一着(黒の銀ボタン)

 衣類にはすべて名前をつけておくこと。

 教科書

 全生徒は次の本を各一冊ずつ用意すること。

 「基本呪文集(一年生用)」

 「魔法史」

 「魔法論」

 「変身術入門」

 「薬草ときのこ1000種」

 「魔法薬調合法」

 「幻の動物とその生息地」

 「闇の力 護身術入門」

 その他学用品

 杖(一)

 大鍋(錫製、標準、2型)(一)

 ガラス製又はクリスタル製の薬瓶(一組)

 望遠鏡(一)

 真鍮製はかり(一組)

 ふくろう、又は猫、又はヒキガエルを持ってきてもよい。

 一年生は個人用箒の持参は許されていないことを、保護者はご確認ください

 

 

以前から両親に11歳になったら魔法学校に行って魔法を習うとは聞いていたが、こうして実際に手紙を貰うと感慨が湧いてくる。どんな所なんだろう?両親が魔法を使うのは何度も見ていたが、杖を持っていなかったため持っている力をうまく使う事が出来ない事が密かなストレスだったのだ。

 

両親曰く最も素晴らしい魔法学校の一つだそうだが、入学試験を受けたわけではないためいまいち達成感という物がないが非常に楽しみである。

 

両親が明日ダイアゴン横町に学用品を買いに連れていってくれるそうだ、ダイアゴン横町も初めていく場所だ。私は今すぐ行きたいと言ったのだが準備があるから駄目だと言われた。少しむくれていると両親がニコニコしながら頭を撫でてきた。まあ前世の記憶を持ち大人である私はこんな事では騙されないのだが仕方ないので諦める事にした。まぁ両親に迷惑をかけるのはよくない事だ……よくない事だ

 

その日は久しぶりにわくわくしながら床に就いた、ああ早く明日にならないかなあ。

 




一人称が私ですが主人公は男です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。