カイ・トレローニーと正体不明の石   作:又瀬田那

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ダイアゴン横町

ダイアゴン横町は魔法界が誇る最大規模の商店街である。魔法学校の備品を取り扱っている事でも知られており、学校の卒業生でここを訪れた事のない者はほぼいないだろう。また、その品ぞろえは多岐にわたり学校関係者以外の者が足を運ぶ事も多い。

現代社会などではこういった商店街は大規模デパートなどに追われ消えゆく運命を背負っているが、魔法界ではそんな心配はいらないのはこの人通りの多さが十分に説明してくれることだろう。それもこの人混みの全ての人々が魔法使いかそれに関わる魔法生物なのだ!いかにも魔法使いという格好の者もいればスーツをビシッと決めた小鬼がやくざのように肩をいからせて歩く。市場では今朝卸されたばかりのドラゴンの肝の競りが行われており、ピクシーが八百屋から果物を盗もうとして魔法で追い払われる。そんな光景に私は興奮のあまりぽけーっとその場に立ち尽くしていた。目に映るもの全てが新鮮に映るのは前世において初めて都会に出た時以来だろうか。

 

 

「カイ、そんなとこに立っていると危ないわよ」

 

母が苦笑しながら私の手を引いた事でようやく正気を取り戻した私は、道のわきにそれて改めて通りを眺める。すると私と同年代くらいの子供達が同じように両親に手を引かれて歩いていた。それもヨーロッパ系に留まらず、アジア系やイスラム系などあらゆる人種が入り乱れていた。その中で一際目立っていたのは赤毛の集団だった。幼い子供も含めれば十人近くの人間が皆同じような赤毛を持っているのだ。私の視線に気がついた父があれはウィーズリー家だなと教えてくれた。

 

「ウィーズリー家?」

 

私の質問に母が答えてくれた。父は少しアーサーと話してくると言って集団の先頭に立つ男性に話しかけていた。

 

「ウィーズリー家は私達と同じ純血の家系の魔法使いよ」

 

「純血」とは魔法使いの一族同士での婚姻を繰り返してきた一族で私自身もそれに当たる。とはいえ、大抵の魔法使いは非魔法使いの血が流れているらしく、遠い祖先に非魔法族の血が混じっていても純血と名乗る者も少なくないという。そのため本当の意味での純血の家系は数えるほどしかないとのことだ。

 

少し誇らしげに語る母だったが、それでは近親婚による遺伝子疾患が怖いと思ってしまうのは前世の影響かもしれない。それに純血の魔法使いだけでは社会が回っていない事は話を聞くだけでも明らかなのである。また、非魔法使いの事をマグルといい魔法使い達は嫌っているらしい。そのためマグル出身の魔法使いは「穢れた血」と呼ばれる事もあるそうだ。

 

それを聞いて魔法世界といってもやはり人の作った社会であるのだなと思ったがそれでも「純血」の家系が減り続けているという事はそういったしがらみを断ち切ろうとする人たちも多くいるのだろう。

 

「待たせたねメーア、それじゃあ行こうか」

 

少しすると父が戻って来てまた出発する。家族同士での紹介をしない辺りどうやらそれほど父と親しい訳ではないようだ。

 

すれ違いざまに赤毛の家族に視線を送ると、双子だろうかそっくりの顔をした兄弟と目が合う。彼らは私の視線に気がつくと全く同じタイミングでニヤッと笑いウインクをしてから先を歩いていた弟らしき子供にちょっかいをかけて母親に叱られていた。

 

手に持った学用品を見ると彼らがホグワーツに入学するのだろうか?ちょっとばかり古い品のようだからもしかしたら中古かもしれない。父と同じ魔法省に努めているならそこまで貧乏ではないと思うのだが、あんな大家族だとそれも仕方のないのだろう。

 

 

「ほら、今日中に全部回らないといけないのだから早くいらっしゃい」

 

「はい、母さん」

 

 

私は彼等とホグワーツで会えるといいなと思いながらその場を立ち去った。

 

 

◆◆◆

 

 

その後母は主婦らしくテキパキとリストの品を買いそろえてまった。おかげで面白そうと思った店も十分に見て回る前に出てしまいわくわくしていた私としては少し拍子抜けだった。

 

しかし母はそんな反応まで予想していたらしく、最後に「オリバンダーの店」と書いている古ぼけた店に入っていく。これまでの店でも中が古い物がたくさんあったが、ここはそれらを遥かに上回っていた。紀元前からあると聞いても思わず納得してしまいそうだ。天井まで積み上がった棚には、何かを入れた箱がぎっしりと詰まっており記憶力に自信がある私といえども簡単に把握できそうにない。

 

「母さん、ここは何の店なの?」

 

後で考えれば実に馬鹿な事を聞いたものである。リストに乗っている物で買っていない物はは一つしかなかったのだ。

 

 

「馬鹿ね、お前は杖を持たずにどうやって魔法を使うというの?」

 

母はからかうように言ったが、私はそれどころではなかった。

魔法の杖! ついに自分の杖が手に入るのだ!魔法の世界に生まれて11年周りの大人達が魔法を使うのをどれだけ羨望の目で見つめた事か。そんな事を考えているといつの間にか一人の老人が近づいてきていて私の体をまさぐっていた。

 

「わっ」

 

「動かないで、彼がこの店の店主のオリバンダー翁よ。あなたに一番いい杖を選んでくれるわ」

 

私がびっくりしていると母がこの老人の事を紹介してくれる。

 

「おや、あなたはメーアさんではないですか。柳の木、グリフォンの風切り羽、18センチ、よく曲がる。ええおぼえておりますとも!そして後ろのあなたはイチイの木、ユニコーンの尾、26センチ、頑丈でしたね。非常に頑固な杖でした」

 

「相変わらずですね、あなたは杖の事になると少年のような瞳になる」

 

父が苦笑する。聞くとホグワーツに通う物は皆彼が選んだ杖を使っているらしい。オリバンダー老人はひとしきり私の体を触った後、杖の入った箱をあちこちひっかきまわした後で一本の杖を差し出す。

 

 

「紅葉の木、ドラゴンの心臓の琴線の芯、15センチ、まっすぐ」

 

これが私の杖かと手を伸ばすと彼は私の手が触れるかどうかという所で引っ込めてしまいまた棚を物色し始める。肩透かしを食らった私が唖然としていると両親が私達の時もそうだったのよと肩に手を置いて宥めてくれる。一瞬私には魔法の才がないのかもと疑ってしまったが、これはいつもの事らしく安心する。

 

その後いくつかの杖をとっかえひっかえした後、オリバンダー老人は手を止めて何やら考え事を始めた。

 

「もしかして……うむ、そうかもしれん。ええとあれはどこにしまったかな」

 

そう呟きながら店の奥に入っていく。どうやら杖はここにあるので全部ではないらしい。しばらくするとオリバンダー老人は一本の杖を持ってやってきた。私はそれを見た瞬間、電流が走ったかのように唐突に理解した「アレは私の杖」だと。

 

「イチジクの木、不死鳥の尾羽、23センチ、すこしだけしなる。少し時間がかかりましたがこれならばあなたにぴったりでしょう」

 

オリバンダー老人の目利き通り手渡された杖は私の手によくなじんだ。まるで掌の先にもう一つ腕がついているみたいだった。

 

「振ってみたらいかがですか、杖の事を知るには振るのが一番です」

 

言われたとおりに振ってみると杖の先から虹色の光が溢れだして部屋の中を満たした。オリバンダー老人が息を呑むのが聞こえた。しばらくしてゆっくりと光が消えると、私はようやく魔法使いになったのだなという実感が湧いてきた。生まれ変わって11年、前世においてただの人間だった私が本当に魔法使いになれるのだろうかといつも心の中で考えていた。両親や親戚は貴方は偉大な魔法使いになれると口々に言ったけどそう言われる度に少しずつ肩が重くなった。それに耐えられたのはひとえに前世でも似たような経験があったからだ。だけど杖を振った瞬間そんな事はすっぱりと忘れてしまった。

 

掌が、熱い。でも不思議と心地よかった。

 

そんな私にオリバンダー老人はにっこりと笑って「よい学校生活を」と言った。多分オリバンダー老人はこうして毎年自分の選んだ杖を持った子供を送り出し、その子供が成長して次の子供を連れてくる。それを見守っていく事が好きなのだろう、その笑顔を見て私はそんな事を思った。

 

 

 

◆◆◆

 

 

オリバンダーの店を出たのは昼を少し回った頃だった。母は「シビルを待たせているの」と少し足早で私を「漏れ鍋」と書いてあるパブに入っていった。ここも例のごとく古びていたが、そこそこの客がおり、ギリーウォーターやファイアウイスキーなる物を飲んでいた。前世の私ならうまそうだなと思う所であったが、子供の体のためかアルコールの匂いにむせてしまった。

 

「メーアこっちよ」

 

「シビル!久しぶりね。あなた全然ホグワーツから出ないんだから」

 

母が中に入ったのを見てすぐに奥の方から声がかかった。奥にいるのはスパンコールで飾った服を着た一人の魔女だった。

 

『シビル・トレローニー』名前だけは効いた事がある。確か私の母の姉であり、私との関係は叔母にあたる。

 

「ほらカイ、叔母さんに挨拶なさい」

 

母に促されて一歩前に出る。彼女は酒瓶に伸ばした手を一旦止めて分厚いメガネの向こうから値踏みするような眼で私を見ていた。

 

「初めまして、シビルおばさんカイです」

 

「この子今年からホグワーツに入学するの」

 

「まあ、それではわたくしの教え子になるのですね。あなたの才能を引き継いでいればわたくしの占いの真髄のほんの一端ですがお教えする事が出来るかもしれませんわね」

 

「この子は生まれてすぐに魔法を使ったのよ!きっと偉大な魔法使いになれるわ」

 

「えっと、よろしくおねがいします」

 

意味深に視線を送ってきた叔母さんに何とか返事をする。どことなく酔っているような気もするが、これがこの人の素なのだろうか?叔母さんのテーブルの上には栓の空いたシェリー酒がいくつも置いてあるとこを見ると結構な酒豪のようだ。母も結構な量の酒を飲むので将来私もそうなるのかもしれない。

 

 

「それにしてもシビル、その格好もう少しどうにかならないの?」

 

「あら、わたくし、この恰好を気にいっておりますの。それにわたくし趣味を共有できない殿方はお断りですわ」

 

「それにあなたまったくうちに顔出さないじゃない。こないだのイースターのときだって……」

 

「それは……」

 

 

どうやら母と叔母は積もる話があるようであっと言う間に話に置き去りにされた私が隣の父を見るとと、父は既にバタービールの二杯目の攻略に取り掛かっていた。仕方ないので私も亭主のトムさんに飲み物を頼む事にした。やけ酒ならぬやけミルクである所がしまらなかったが。

 

 

 

ちなみに後で知った事だがバタービールはノンアルコールらしい。ミルクじゃなくてそっちにしとけばよかった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

私がダイアゴン横町に行ってから一週間が過ぎた。しかし、私の生活にはこれといった変化はない。なぜなら魔法の杖を手に入れたからと言ってすぐに魔法が使えるなんて事はなかったのだ。大変遺憾な事に、未成年の魔法使いはホグワーツ以外の場所では魔法を使ってはいけないというやっかいな法律があるのだ。これを知った時の私の悲しみは想像に余りあると思ってほしい。折角買ってきた杖も家に戻ったとたん取り上げられてしまった。

 

この事をどうして教えてくれなかったのかと私は再三両親に詰め寄ったのだが、両親は笑うばかりで取り合ってはくれなかった。そういう訳でこの一週間は買ってきた教科書を読んで過ごしていた。私の実家にある本は、占いの本や、それに使う魔法薬の本ばかりなので妖精の呪文の本や魔法史などは非常に興味深かった。

 

妖精の呪文は読んでいる内に試したくなってくる気持ちを抑えるのに苦労したために純粋に楽しめたとは言えなかったが、魔法史の方は人間界の歴史所々リンクしている上に所々人間以外の視点も入り混じっている所が魔法界ならではと言ったところでとても面白かった。

 

「薬草ときのこ1000種」と「魔法薬調合法」はセットで覚えた方がよいだろう。魔法薬に関しては実家の本でこれまでも勉強していたが、こちらの方が体系立っていて初心者向けのように思える。こちらも実際にやってみるのが非常に楽しみである。

 

また「幻の動物とその生息地」は図解付きで非常に分かりやすかったが、残念ながら吸魂鬼に関する詳しい情報は得られなかった。ただアズカバンという刑務所で看守をしているという情報は初耳だったため完全に無駄という訳ではなかったが。

 

また、漏れ鍋であったシビル叔母さんの担当教科である占い学は三年時から始まる選択科目のようで急いで勉強する事もないようだ。身内に授業を教えてもらうのは変な気分だが、三年に進級する前に行員の交代もあり得るため深くは考えない事にした。

 

それにしても前世においても読書は好きな方であったが、これだけ熱中して本を読んだ事は数えるほどしかなかった。ホグワーツに入学するまで後三週間ほどであるが、これだけあればあっと言う間に過ぎるのではないかと思うほどだ。幸いホグワーツからは宿題が出ていないために、入学するまでは好きな事をしていられる事だろう。父も珍しく休暇が取れたそうなので私にクディッチを教えると張り切っていたためそちらも楽しみである。箒に乗って空を舞う、魔法使いの最もポピュラーなイメージの一つだ。前世において飛行機に乗った事は幾度かあるがそれとはまた違った感覚なのだろう。今夜、こっそりデッキブラシで練習でもしてみようかなぁ……

 

 

 

そんな心躍らせる毎日がホグワーツに行く日が来るまで続くのであった。

 




ちなみにあなたの杖チェッカーで調べてみると主人公の杖は楓、ドラゴンの心臓の琴線の芯、37センチのしなりやすい杖とでました。ほぼかぶりなしとか何なの……
次回はようやくホグワーツ入学です。


※嘘予告です

次話タイトル
「実際にやるより、想像している時が一番楽しい」
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