では、本編どうぞ!
「紗夜、映画でも行かないか?」
今思えば、全部「これ」のせいだ。調子に乗った僕の発言が身を滅ぼしたんだ。この時によく考えて提案するべきだったんだ。映画館なんて暗闇に、紗夜と一緒に行って普通の事が出来る訳無いんだから......
僕達は紗夜の希望していた楽器屋に寄り、ウキウキ気分で退店した。なんでも、欲しかったピックが格安で売っていたらしく、安いならと僕がプレゼントしたのだ。紗夜はピックよりも僕がプレゼントしたことが嬉しかったらしく、先程から腕を絡ませ、絡まってない左手をぶんぶんと振っている。
.........正直な話、こいつのキャラがわからない。学校などではキチッとした性格で風紀の乱れを許さない。楽器を持てば性格無比な演奏をするギタリスト。子供のように無邪気に喜ぶと思ったら、家ではケダモノ。この子、冗談抜きで多重人格なのでは?そう思い始めた僕であった。
そして、楽器屋を出てラブラブ状態の時に、僕のこの爆弾発言だ。紗夜の答えは勿論、OK。この時は気づかなかったけど、多分こいつの顔は恍惚として、口元は大きく歪んでいただろう。だって紗夜は最初から.........
──する気満々だったのだから。
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「ばっかお前、人がいるんだぞ。触るなって」
「そんなこと言っても無駄よ。私が止める訳ないじゃない」
さっきまで楽しく観ていた筈の映画の内容がきれいさっぱり分からなくなっている。さっきまで出ていた弟のヘンディーはどうした?え、闇堕ちした?なんだそれ、めちゃくちゃ気になる。今度DVDを借りに行こう。勿論、Blu-rayでな。
今思えば、入る前から予兆は沢山あった。なんか息は荒いし、ソワソワしてるし。
.........何よりやばいのは取った席だろう。紗夜が任せてと言ったので一任したが、取ってきた席は左側最後方。いわゆるカップル席と言う奴だ。こんな席取るの、言っちゃ悪いが、ヤるか睡眠かの二択だろう。そこで僕は一応確認したんだ。ほぼ無意味だろうけど、静止の意味を込めて。
「さ、紗夜?僕に触るなよ?」
「ふふっ、なんですかそれ。大丈夫ですよ」
と、紗夜は言った。言ったはずだ。じゃあ、これはなんだ?さっきから太ももをまさぐられ、耳に息を吹きかけられ、愛を囁かれる。なんという拷問だ?
「おま、え。さっき触らないって。あと囁くのやめろ」
「肌に直接触れているわけでは無いから、別にいいでしょう。それに、映画館では静かにするのがマナーよ」
さすが学年首席、と言ったところだろうか。こいつと口論しても一生勝てる気がしない。紗夜に喋られるとどんどん状況か悪化するので、少し黙っていてもらおう。
「わかった。わかったからぁ.........」
「いいわね、龍樹。その泣きそうな顔、声。全部全部、大好きよ」
しまった、逆効果にも程がある。これじゃあ、火に油を注ぐどころか、火にニトログリセリンを投げ入れるレベルだ。何それ怖い。
──そして僕は、彼女に弄ばれた。
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「お前なぁ.........もうちょっと自重ってもんを覚えて.........どうした?」
映画館でめちゃくちゃにされること60分。満身創痍で映画館を出た僕達は、デートの続きをしていた。さっきまでやられていた事への文句を紗夜へぶつぶつ言っていると、急に彼女が止まって前を凝視し始めたのだ。
僕達の前方には、仲が良さそうな女の子が二人、楽しそうに遊んでいる。この光景は、微笑ましいと思う人が大多数だろう。しかし、僕の隣に立っている彼女だけは、その光景を羨ましそうに、悲しそうに見つめている。
「日菜ちゃん.........か?」
「どうしてその名前を知っているの?」
「さっき、映画見てる時にお前が泣きながら寝言で言ってた。誰なのかは知らないけど」
「.................妹よ」
彼女は、苦虫を噛み潰したように、苦しそうに呟く。その表情は、僕も見たことない程、悲哀に満ちていた。
「怒らないんだな。てっきり僕は、怒り狂うかと」
「別に私は、日菜の事が嫌いな訳じゃないわ。苦手なだけ」
「それを世間では嫌いって言うんだぜ」
「世間的で当てはまらないのが私よ」
少し、不安になった。なんだ、このモヤモヤは。取り除きたい、解消したい、気になる。
「.........なぁ、紗夜」
「.........何よ?」
「僕達の関係って、お前が日菜ちゃんを克服したら、終わっちゃうのかな」
──だから、聞いてしまった。
「もし、紗夜が日菜ちゃんと仲直りして、普通になったらさ、僕達の関係って無くなっちゃうよな」
──未来の話は嫌いと言った彼女に、こんな愚問をしてしまった。
「.........く.....わ....い」
「え?」
「無くなる訳ないじゃない。私は龍樹さんが好き。この気持ちに日菜は何の関係もないわ。.........それに、私は龍樹さんの助けがないと日菜を越えられない。克服出来ない」
──しかし、彼女は違った。終わらないと、そう言ってくれた。
「大丈夫よ。日菜とはいつか、決着をつけるから。そうしたら、もう一度、ちゃんと告白して?」
初めて見た彼女の無垢に笑う姿は、とても魅力的で、儚い。その姿は、今にも消えそうだけど、紗夜は震えながらも、気丈に振舞ってくれていた。
赤バー&お気に入り登録100人突破、ありがとうございます!嬉しい嬉しい。というか、作者の私が言うのもなんですが、こんなに頭おかしい小説でも、ちゃんと読んでくれる神様みたいな人っているんですね.........
では、今回はこの辺で。
お読みいただき、ありがとうございました!
(次回はRoselia登場!?)