Dream Shout   作:Re:GHOST

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特にありません!


感情変化

 以上が、僕の語るべき話、黒歴史だ。氷川紗夜と対話して、命を救われた恥ずべき話。今思い出しても僕は、あの出会い方はとてつもない失敗だと思う。しかし、それと同時に、あの恥ずかしい出会いがなければ、もし、氷川紗夜がギターを引いていなかったら、きっと僕はここに存在していないだろう。その点では、というか、それ以外も引っ括めて、僕は氷川紗夜に大恩があると言える。まぁ、だからと言って、別に僕は恩を返すとか、一生尽くすとか、そういうことがしたいんじゃない。ただ、もう一度、氷川紗夜と話がしたい。明確な理由は無いが、僕が自殺を取り止め、帰宅した時に、いの一番に思ったことだ。こんなにも一人の人が気になるのは、いつぶりだろう。自分でも思い出せないくらいに、僕は人との関わりが薄いようだ。

 

 そんなことを、僕は熱砂が舞い上がる、グラウンドで考えていた。

 

 今日は、来週に控えた体育祭の練習日。あちらこちらから、うぇーいだとか、女子の黄色い声援とかが飛び交っている。今は借り物競争の練習中で、グラウンドの中央は、視線をキョロキョロと動かす生徒でいっぱいだ。ちなみに僕の出場予定はないので、応援席で座っている。そこ、陰キャとか言うな。

 

「一緒に来てください」

 

 ふと、声をかけられる。声の主を見てみると、なんとタイムリーな事か、青緑の髪色をした凛とした少女が、僕の前に立っていた。

 

 .........どうやら、人と話す機会というのは、案外近くに転がっているらしい。僕は、サッと立ちあがり、体育着についた砂を払い落として、恩人についていく事にした。

 

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「「今、1番気になっている人!♡」」

 

 氷川紗夜が、箱の中からこの紙を引いた時の感情は、無であった。口をポカーンと開け、視線を落としてみる。みるが.........書いてあることは、さっきと一言一句変わってはいなかった。そして、次にしたことは、脳内のデータベース検索であった。日菜は他校.........戸山さんは.........どちらかと言えば、心配で気になるという感じね。だから、この紙に書いてある、私が気になるという条件には一致しない。

 

 氷川紗夜はこの手の問題になれていなかった。数学や現代文は勿論得意だが、彼女は感情というものが、イマイチよくわかっていないのだ。明確な答えはないし、自分で正解を変えられる。氷川紗夜は、コミュニケーション能力が若干不足していると言えるだろう。

 

 脳内であーでもない、こーでもないと、思考を巡らせていると、一人、脳内検索に引っかかった人物がいた。一昨日出会った謎の人物。西上龍樹と名乗っていたので、謎ではないが、氷川紗夜は、彼のことをよく知らないので、この場合は、謎の人物という認識でいいだろう。

 

(彼は.........確かに気になるわね。一体何者なのかしら)

 

 違う、そうじゃない。誰が借り物競争の気になる人に、不審人物という意味で連れていくのか、お巡りさんでも連れていかないというのに。

 

(.........まぁ、練習だと思えば.........)

 

 練習だと自分に言い聞かせる。これなら、彼に変な勘違いをされないし、自分への言い訳にもなる。氷川紗夜はそう考え、紙を折りたたみ、ポケットへと仕舞った。

 

 こうして、長い逡巡を経て、氷川紗夜は彼の元へと行く決心がついたのだ。

 

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「それで、紙にはなんて書いてあったんだ?ついていくのは全然いいけど、やっぱり気になる」

 

「.........この紙には1番興味無い人を連れてこい、と書いてありましたよ」

 

「げ.........ま、まぁ僕の1番どうでもいいやつもお前だから、当たり前っちゃ当たり前か」

 

 いけしゃあしゃあと嘘をつく僕が、そこにはいた。寧ろ一番気になってる人だと言うのに、なんか悔しくて見栄を張ってしまう。だって、相手からはどうでもいいと思われてるのに自分は超気になってるとか、恥ずかしすぎるだろ。それ、ただの片想いって言うんだぜ?

 

「.........早く行きますよ」

 

「え?ちょっ、おわ!」

 

 脳内で悲しいやり取りをしていると、氷川に腕を引っ張られた。こいつ.........実は僕と同じで見栄を張っただけなのか?本当は一番気になってる人とか書いてあったけど、そんなこと言う勇気がないから誤魔化した.........嘘ですごめんなさい、謝るからその視線だけで人殺し出来そうな目で僕を見るな!

 

 そんなこんなで、引っ張り引っ張られ、体育委員会が揃っているゴール地点に到着した。僕達が記録係の所に報告に行くと、記録係が3位とかほざきだした。言っておくが、この順位は断じて僕のせいではない。なぜなら僕の50メートル走タイムは7.1秒。こんな僕が本気で走ったら「女子」の氷川さんは怪我しちゃうもんなぁ〜あー残念だなぁ〜。ま、名誉のために一応タイム聞いといてあげるか、僕の同じくらいって可能性もあるだろ。天文学的な確率で。

 

「なぁ、氷川。お前って50メートル何秒?」

 

「.........なんですか、いきなり。6.7秒ですが、それが何か?」

 

「.........え?」

 

「気づいていなかったんですか?貴方、途中から私の手を引っ張って、先を走っていましたよ」

 

 なんという失態だ。記録で負けるだけに飽き足らず、本気で走っていたら、僕の方が怪我をしていたなんて.........

 

「は、早いんだな。僕の興味ランキングが36位から3位に急上昇したぞ」

 

「.........逆に私は、貴方の遅さにがっかりして、1位から36位に暴落ですよ」

 

「だよなー!はっはっは.........え?じゃあやっぱり、あの紙って1番気になっているやつを連れてこいって指令だったのか!?」

 

「さぁ、どうでしょう。私は先に戻りますので」

 

「あ.........行っちゃったよ.........」

 

 氷川はそう言い残し、応援席へと去っていった。僕は、その後ろ姿を眺めながら、興味ランキングの1位に、氷川紗夜をランク入りさせることを決意した。




今回は少し長めでしたね。

少し悩みというか、相談というか.........前作に比べてあまりUA数が伸びないんですよね。まぁ、投稿ペースは遅いし、万人受けしない内容だし、駄文だし.........と、要因はいくらでも出てくるんですが笑 もうちょっと色々な人に読んで欲しい!ということで、次回から甘成分入れていきます。甘くなかったらすみません。なるべく頑張りますので!

では、今回はこの辺で。

お読みいただき、ありがとうございました!

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