ヒーローアッセンブル!   作:鋼鉄ヒーロー

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評価バーが赤になってて変な声出た。こんなに嬉しい事はないです!


試験に向けて

 

 ホームルームが終わり先生が教室を出て行くと同時にクラスメイト達が自分の席に座っていた僕の周りを囲み質問が四方八方から飛んできた。

 

 

「お、お前まじで緑谷か! 別人じゃねーか!」

 

「いったい何の個性に目覚めたんだよ!」

 

「大人になる個性か!」

 

「ゴンさんかよ!」

 

「いや誰だよ」

 

「虚弱体質はどうしたんだよ!」

 

「筋肉すげーな、ちょっと触らせてくれ」

 

「腕も太い、まるで丸太だ」

 

「何㎝伸びたんだ! 大人並みじゃねーか!」

 

「うわ緑谷めっちゃ大人っぽくなってるじゃん」

 

「…カッコいい…」

 

「おいツン子! 愛しのが緑谷すげー事になってるぞ…おーいツン子? ……見ほれてやがる」

 

「ヤベー! まじすげーな!」

 

 

 みんなが一斉に話してしているのに誰が喋りかけてくるのか、誰が喋っているのかがはっきりわかる。まるで聖徳太子になった気分だ…カッコいいとか初めて言われた…なんか照れ臭いな。

 体を触られたり、みんなに揉みくちゃにされながらしゃべりかねていると大きな爆発音が鳴り響き教室が静まり返る。教室内で平気で個性を使う人物何て1人しかいない、かっちゃんが手の平から小さな爆発を連続的に起こしながら、僕に近づいてくる。

 

 

「よおデク、随分とご立派な姿になったじゃねーか。自分の情けない姿に悲観して改造手術でもしてもらったのかぁ?」

 

 

 何が気に食わないのか、かっちゃんはクラスメイトを押しどけて僕の目の前までくると何時ものように人を殺せそうな目つきで睨みつけてきながら煽ってくる。

 

 

「…そんなわけないだろ僕にも個性が出たんだ。聞いただろうけど遅咲きの個性発現さ」

 

「へぇ…無個性のデクに個性がねぇ…どんな個性だよ、虚弱体質の貧弱もやしがそんな姿になれる筈がねぇ、どうせ発現したばかりの個性で姿でも変えてんだろぉ? 恥かく前に元の情けねえ姿に戻ったらどうだよ」

 

 

 どうやらかっちゃんは僕が個性で今の姿に変身していると思っているようだ。まあつい最近までチビで貧弱だった僕がいきなり筋肉隆々な姿になってたらまず変形型、変身型の個性を思い浮かべるのは当然だろう。だが今の僕の姿は変身でも見掛け倒しでもない。

 

 

「お生憎様、個性が発現してから今の姿になったんだ。『超人』って個性が発現してからね」

 

 

 僕が発現した個性の名前(正確には個性じゃないけど)を言うとさっきまで静まり返っていたクラスが再びざわめき始める。

 

 

「な…なあ緑谷、超人の個性ってどんな事ができるんだ?」

 

 

 クラスメイトの1人がイラつくかっちゃんの様子をちらちらと伺いながらおずおずと質問してくる。

 

 

「えーと…医学者の人が言うには変異型と常時発動型の特性が合わさった複合型の個性らしくて、人間の持ち得る潜在能力を最大限までに引き出す個性なんだ。つい最近まで貧弱だった僕が今の姿になったのも超人の個性のおかげらしくて、僕の体の中の潜在能力が一気に引き出された影響なんだって」

 

 

「そ、それじゃあ虚弱体質はもう大丈夫なのか.?」

 

「うん、個性が発現した影響でもうなくなったんだって」

 

「おおおお! まじか! よかったじゃねーか!」

 

「個性の発現に加えて虚弱体質克服ってすげーじゃねーか!」

 

「こりゃマジで目指せるじゃねーかよ雄英を!」

 

「前の緑谷じゃ到底無理だったろうけど、今の緑谷なら行けるぜ!」

 

 

 僕が個性の詳細と虚弱体質の克服した事を告げると、クラスの皆は自分のことのように喜び祝ってくれた。個性が出た事を祝ってくれるのは純粋に嬉しいが、悪気がないとはいえ以前の自分では無理だと容赦なく言われるとやっぱり落ち込む…クラスメイト達が喜んでくれている中、かっちゃんだけはニヤニヤと僕を見つめてくる…嫌な予感しかしない。

 

 

「超人? …デクが? …ハッ…デクの棒のテメーには似合わねー言葉だなオイ! 何処が超人か証明してみせろやテメーの体でなぁ!」

 

(…! おいマジか! 皆がまだ近くにいるだろ!)

 

 

 皆が騒ぎ立てる中、かっちゃんは右腕を大きく振り上げ僕に向かって右手を突き出そうとしている、この動作はかっちゃんが爆破の個性を使う動きだ。

 まだ僕の周りに他のクラスメイト達がいるのにだ…! どうやら今のかっちゃんは周りが見えなくなるほど、僕にきれてるらしい。

 

 

(避けたら周りの皆に被害が及ぶ…だったら!)

 

 

 かっちゃんが腕を完全に伸ばしきる前に素早く椅子から立ち上がり、机から身を乗り出すとかっちゃんの右腕を掴み上げると同時に右肩を押さえつけ、僕の机の上に叩きつけるように上から体ごと押さえ込み動きを封じ上げる。

 僕が反撃してくるとは、露とも思っていなかったのか余りにも隙だらけな動作だった事に加えてリーチの差、体格の差で簡単に押さえ込みことができた。

 

 

「ぐは!! っっ! テ、テメェ! デク! 離しやがれ!」

 

「かっちゃん! 急に何するんだよ! 危ないだろ!」

 

「クソがクソがクソがぁ!! ふざけんなクソがぁ!! デクの分際で! 俺に触れてんじゃねー! ぶち殺すぞ!」

 

「…相変わらず滅茶苦茶な! 」

 

(前まで手も足も出なかったかっちゃんをこんな簡単に押さえ込めるなんて…やっぱすごいなこの体)

 

 

 無茶苦茶な事を言いながら拘束から逃れようと体を必死に動かすかっちゃんを体全体で更に力を込めて押さえ込みながら、今の自分の力に驚愕する。入院していた一ヶ月間で、体の検査に加えて身体能力テストなどである程度、今の自分の身体能力を把握していたが、あのかっちゃんを、こうも簡単に押さえつけられているという事が自分でも信じられなかった。

 

 

(あー…押さえ込んだはいいけど、どうしよ…このまま離してもまた襲いかかってくるよな)

 

 

 かっちゃんを押さえつけた際にクラスの皆はすでに巻き込まれないよう距離を取っている。僕としてはこれ以上かっちゃんと喧嘩をするつもりはないが、手を離せばまた襲いかかってくるのは目に見えてるし、僕が止めろと言っても逆上してますます暴れまわるだろう。

 このまま喧嘩を、しかも個性を使ったと先生に知られたら、来年の雄英の受験に悪い影響が出るだろう…爆発的なみみっちさを持つかっちゃんが分からない筈がないのだが。

 

 

(一体僕の何が気に食わないんだよ…)

 

「いい加減…離れろや!」

 

「っ!」

 

 

 僕の拘束が緩んだ一隙を狙って、かっちゃんは両の掌から大きな爆発をおこし、その衝撃を使って無理やり僕の拘束から逃れ、距離を取った。

 かっちゃんは先程よりもギラついた目で僕を睨んでくる、こうなったかっちゃんは止まらないだろう。

 

 

「道端の石ころ風情がぁ…調子乗ってんじゃねえぞデク!」

 

「かっちゃん止めろって! これ以上個性を使うとマジで洒落にならないぞ!」

 

「洒落にならねぇだぁ? ざけんなクソが! 体がでかくなった程度で俺に勝てるとでも思ってんのか? 調子乗りやがって! テメェは.…無個性で、口だけのクソナードだろうが! 見下してんじゃねーぞお前が下なんだよぉ!」

 

「なっ! 何でそうなるんだよ! 見下した事なんて今まで一度もないだろ!」

 

「黙れや! そのクソムカつく目もテメーの態度にもうんざりだ!」

 

 

 制止を呼びかけるもかっちゃんには逆効果でますます怒りをつのらせて、今にも飛び出さんと身構えている。

 

 

(かっちゃんには絡まれるとは思ってたけど流石にすぐに喧嘩になるなんて思ってもいなかったよ! クソ!)

 

 

 復学早々にスティーブさんから受け継いだ力をこんなくだらない喧嘩に使うことに内心嘆きながら、ボクシングスタイルの構えでかっちゃんをいつでも迎え打てるよう構える。

 

 

「ち、ちょっと待てって2人とも! 喧嘩は止めろって」

 

「そうよ! 個性を使って喧嘩した何て知れたら雄英を受けるどころじゃなくなるわよ!」

 

「バクゴーも落ち着けって!」

 

 

 一触即発、今にでも殴り合いに発展しそうな雰囲気の中、流石にまずいと思ったのかクラスメイト達が喧嘩を止めようと間に割って入って来てくれた。

 

 

「何だモブ共が! 邪魔すr「爆豪! あんたもいい加減にしなさいよ! 雄英の受験が受けられなくなってもいいわけ!」あぁ!? なんだとぉ…」

 

「そうだぜ爆豪、この時期に喧嘩はまずいって…お前ら2人のためにもならないって…落ち着こうぜ…な?」

 

 

 クラスメイト達の正論に怒りで体を震わせているが、多少頭が冷えて冷静になったのか、構えを解いたが未だに僕を睨みつけてくる。

 

 

「っっ〜〜〜〜ああ〜〜〜クソが! 。おいデク! まさかあの時の言葉を忘れたわけじゃねーよなぁ! 個性が発現した所でお前は木偶の坊の『デク』

 だ! 心の底で諦めてたテメェが今更ヒーローになれるわけがねぇんだよ!」

 

「っ! ……そんな事はない!」

 

 

 クラスメイト達が僕が言い返した事に驚いた顔で僕を見る。僕がかっちゃんの火に油を注ぐ行為をした事に驚いているのだろう、だが言い返さずにに入られなかった。スティーブさんが…キャプテン・アメリカが僕にヒーローになれると言ってくれた、僕を信じて【力】を託してくれた、スタートラインに立つ権利を与えてくれたんだ。

 

 

「個性が発現する前の…諦めかけてた僕に『ヒーロー』が言ってくれたんだ!ヒーローになれるって、その資格は誰にでもあるんだって! だから僕はもう諦めない! 個性が発現したからヒーローを目指すんじゃない! ヒーローになれると言ってくれたあの『ヒーロー』の想いに答えるために…僕がヒーローになれると信じてくれたあの人の想いに応えるためにヒーローを目指すんだ!」

 

 

 ヴィランの様な目つきで睨んでくるかっちゃんの目を見据え、言い返す。

 しばらく睨み合いが続いたがかっちゃんは大きく舌打ちをして自分の席に戻っていき、クラスから緊張感が解けた安堵からため息が辺りから聞こえた。

 

 

「……フゥ…みんなごめん助かったよ」

 

 

「いいっていいって! それよりさっきすごかったな! あの爆豪を一瞬でバッ! と押さえつけて! 最初早すぎて何してるのかわからなかったぜ!」

 

「馬鹿お前! せっかく爆豪が収まったのにまた爆発したらどうすんだ!」

 

「でも流石個性が超人て言うだけあるよなぁ、すげースピードだったぜ」

 

「今じゃ爆豪と喧嘩しても勝てるんじゃねーのか!」

 

 

「あー…どうだろうね、まだ個性が発現したばかりで、今の体に完全に慣れきってはないんだよ」

 

「それってまだ慣れきってない個性で爆豪をあっさり押さえ込んだってことじゃん! やっぱスゲーって!」

 

(おーい…みんな! わざとじゃないよね! 絶対かっちゃんに聞こえてるって! うわぁ…かっちゃんが凄い顔でこっち見てるし…)

 

 

 此方を最早ヴィランと言ってもいい程凶悪な表情で睨みつけてくるかっちゃんに内心焦りながらも、答えられる範囲で皆の質問に答えていった。

 

 

 

 _________________________

 

 

 

 

 緑谷が病院から復学し、爆豪とのいざこざから早くも五ヶ月がたった。

 緑谷は真冬の夜中に、ゴミが大量に不法投棄された海沿いのとある海浜公園で山の様に積み立てられたゴミを足場に全力疾走で駆け抜けていた。

 パルクールを彷彿とさせる動きで暗闇の中、常人では明かりなしでは到底歩けないような不安定なゴミ山の中と砂の足場を飛び跳ねまわり、走り抜けながら右手に装備していたラウンドシールドを手に取り赤い丸印の付いた冷蔵庫に向けて最低限の動作で投擲、正確に投擲されたシールドは赤い丸印部分にぶつかり冷蔵庫に大きな凹みを作りながら反射し跳ね返ってくる。

 

 

「25個目! 次!」

 

 

 全力疾走する緑谷は自分の元に跳ね返ってきたシールドを掴むと今度はゴミ山の上のヴィランに見立てたくず鉄で出来たカカシに向かってシールドを投擲、ぶつかったシールドは反射して再び手元に戻る…かと思われたが、反射どころかカカシを真っ二つに切断してしまいシールドは勢いよくゴミ山の向こう側に飛んでいってしまった。

 

 

「やば! 力加減間違えた!」

 

 

 緑谷は飛んでいってしまったシールドを探しに慌ててゴミ山を駆け上る。

 緑谷が今何をしているかというと特訓である。自身の身体能力を理解し、シールドを使いこなすために丁度いい特訓場所である人が寄りつかない海兵公園で全力で体を動かし特訓に力を注いでいたのだ。

 

 

「全力で動きながらの投擲はまだ力加減が難しいな.反射の計算自体は完璧だけど少しでも力加減や回転のかけ具合を間違えると鉄を容易く切断する凶器になってしまう。ヴィラン相手だと無意識に手加減できるけど物だと遠慮なくやっちゃうからなぁ。ちゃんとした力加減とこのシールドの特性を考慮した投擲方を覚えないと。だけど体の使い方はだいたい分かってきたぞ。パルクールを調べておいて正解だった、体の使い方と自分の身体の動きの限界を知るのにも最適だ。マーシャルアーツの方も力を入れていかないといくら身体能力が高くても技術が素人じゃ無駄になってしまう…次の休日は…ブツブツ

 

 

 ゴミの山の中に紛れたシールドを回収しゴミのない開けた砂場まで歩きながブツブツと呟き、幾つもの付箋が付いたメモ帳に改善点や次の課題を書きなぐっていく。

 

 

「……しかし本当すごいなこのシールド…軽くて頑丈、弾力性も高い、どんな衝撃も通さず吸収して内側に留めておくなんて…一体どんな素材でできてるんだろう? 」

 

 

 緑谷はスティーブから託されシールドを見て既に何度も思った疑問を口に出しながら不思議そうにシールドを見る。

 特訓初日にスティーブさんがしたようにシールドを投げて反射できるかやってみようと試しに投げてみるとまるでピンボールの様に普通ではありえない物理法則を無視した挙動で壁や床を反射して跳ね回った挙句、シールドが背中に直撃し悶絶したのも記憶に新しい。

 あれから何度もシールドを投げて挙動を観察し、衝撃を完全に吸収し内側に留める特性と、留めていた衝撃を外に放出するという2つの特性を持った盾であることが分かり、その特性を計算の内に入れて幾度となく訓練や実戦を重ね、つい最近漸く壁や物に反射して自分の手元に戻る様に出来てきたのだが、このシールドを完璧に投擲できるようになるにはまだ時間がかかるだろう。

 こんなトンデモシールドを自在に操って見せたキャプテン・アメリカの技量の凄さに脱帽しながらふと左手の腕時計を見た。

 

 

「…ってやば! もう9時過ぎてるじゃないか! 門限の10時をすぎたら母さんにまた怒られる!」

 

 

 以前、特訓に夢中になりすぎて深夜に帰り着いた際、母親に泣きながら滅茶苦茶怒られた事を思い出した緑谷はメモ帳やバックを背負いリュックに詰め込み、フード付きパーカーを着直すと全速力で家に向かって走り出した。

 

 

(努力や訓練ってこんなに楽しいものだったけ?)

 

 

 緑谷は走りながらふと心の底から感じた充足感に、今までの訓練や努力を思い返す。虚弱体質の体では日々どんなに体を鍛えてもそれが成果として現れずに落ち込み、疲れが心身にたまる負の連鎖が続くだけだった。少なくともこんなに心から充実したものではなかった。

 自分の理想とした動きをパルクールの練習やマーシャルアーツの訓練を通して鍛え洗練させていく…以前より遥かに厳しい訓練でこんなにも充分した気持ちが湧いてくるのは、以前までの自分では絶対にできなかったことができるからだろう。

 今までヒーローになろうと必死に勉強して蓄えた知識をフルに活かし体を動かす度に自分の今までの努力が決して無駄なモノではないと思える。スティーブさんから力を託されたらこそこうやって以前の自分ではできなかった全力の鍛錬が、努力ができて日々自分が成長している事を感じられるのだろう。

 

 

(スティーブさん…絶対になってみせます! ヒーローに…! 貴方の想いに応えてみせます)

 

 

 緑谷は心の底から自分に力と盾を託してくれたスティーブ・ロジャースに感謝しながら全力で走る。

 全速力で走る事20分、海浜公園からあっという間に、自宅近くの街中まで着くとスピードを落としながら、夜の喧騒で賑わう街中を走る。さすがに街中の歩道を車並の速度で走る訳にはいかないからだ。

 

 

(このペースで走れば門限の10時前には戻れる、家に帰ったらご飯食べて、風呂入って、宿題を終わらせて、それから…!)

 

 

 緑谷は突如凄まじい悪寒を感じ走るのを止め、すぐ近くにあるビルの間にある裏路地の前まで来ると暗闇に包まれた裏路地の奥を目を凝らして見つめ、耳を澄ます。

 

 

(悲鳴? それもかなり焦ってる…何かに追われてるのか? それにしても何だこの感じ…今まで感じたことがない)

 

 

 常人では街中の喧騒で決して聞こえないであろう小さな悲鳴を超人的聴力で確かに聞いた緑谷は周りを見渡し人がおらず監視カメラの類も見当たらない事を確認すると、リュックの中から身バレを防ぐための顔全体を覆うマスクを素早く被り、フードを目元深く被り直し、シールドを装備すると迷う事なく暗闇に包まれた裏路地の中に向かって走り出した。

 既に誰かが襲われている可能性が高く、ヒーローを呼ぶ間に連れ去れるか、手遅れになる可能性が高いと判断したからだ…それだけではなく力を託されてから初めて感じる凄まじい悪寒と胸騒ぎ、裏路地の奥から感じる『何か』の正体を確かめるためでもあるのだが…本来ならここでヒーローや警察に通報し、待つのが常識的に正しいだろう。ヒーローの資格を持たない者が個性を振るうのは如何なる理由があろうと犯罪行為だ。だが、ヒーローや警察が来るまでの間に手遅れになったら? スティーブ・ロジャースから人を助けられる力を託されて、ヒーローになれると言ってもらっていながら、力を託されていながら何もしなくていいのか? という思いが緑谷を突き動かした。

 緑谷は緊張感を保ちつつ、裏路地にいる何かに警戒しながら走りだした。

 

 

 

 

 

 _________________________

 

 

 

 

「はっはっはぁ! 何なんだよあいつはああああ!」

 

 

 薄暗い裏路地を1人の男が息をきらしながら必死に走り続けていた。男はこの街の裏側では名の知れたヴィランチームの1人だった、殺しや盗み、暴行、何でもやる筋金入りの悪党集団で運がいいのか、ヒーローや警察達から幾度となく逃げ続けているそれなりに名前の知られていたヴィランチームだった。自分達を止められる者など誰もいないと調子づいていた…だが今ではヴィランチームは壊滅し、その生き残りの最後の1人は必死に自分を追跡してくるモノから逃げ続けていた。

 

 

「ギ、ギギギ、ギギ!」

 

「ひ、ひいいいい!」

 

 

 二メートル近くの人間離れした巨体に灰色の体色、鈍い銀色のライトアーマーとマスクを装着し、戦棍と銃と刃が一体化したような武器、スタッフを装備した1体の怪物が黒い靄の中から突如現れてヴィランチームを襲い、男を残して全滅したのだ。男はチリ1つ残さず消滅した仲間達の姿に恐怖し、命辛々何とか逃げおおせているが、今も怪物が凄まじいスピードで後ろから追走してくる。捕まればかつての仲間達のようにあの武器でチリ1つ残さず消しとばされて殺されるという恐怖がチンピラを襲う。

 

 

「な…何なんだよおおおお! お前ぇ! 何で俺を狙うんだよおおおおお!」

 

「ギギギギギィ!!」

 

 

 怪物は叫ぶ男を無視し、スタッフを走る男の足に向けて構えると銃口と思われる先端から青白い光弾が放たれ、男の右足を撃ち抜いた。

 足を撃ち抜かれた男は短く悲鳴をあげながらゴロゴロと地面を転がり、余りの激痛に叫び、足の一部が抉れ血を流す右足を抑えてうずくまっている。怪物は地面にうずくまる男に近ずき首を掴むと片手で軽々と宙高くまで持ち上げる、男は首を締められ息ができずに足掻く事しかできない。怪物はスタッフの刃を男の顔に向けて始末しようとしたその時、凄まじいスピードで飛来したシールドが男を持ち上げていた怪物の右手に直撃した、怪物の手から離れた男が地面にどさりと落ちる。

 

 

「ギ!? ギギギギギィ!!」

 

 

 怪物はシールドが飛来し、反射するように戻っていった通路に向けてスタッフを構えると躊躇なく撃ち始めた。男の右足を撃ち抜いた時よりも出力が高いのか先程よりも大きい青白い光弾が放たれ薄暗い路地を照らす。青白い光弾が飛び交う中、シールドを装備し直した緑谷が光弾をシールドで防ぎながら怪物に向けて全速力で駆け出していた。

 

 

 

 

 ____________

 

 

 

 

 僕は目の前の光景が信じられずにいた。裏路地の中を駆け抜けて叫び声が聞こえた場所にたどり着いたら、明らかに人間離れした風貌の…異星人じみた外見のヴィランが、今にも武器と思われる杖を右足の一部が抉れた男の人に向けて何かを…恐らく危害を加えようとしている所を咄嗟にシールドを投げつけて阻止した。普通なら個性で外見を変えているか、異形型の個性ゆえの外見かと思うだろうが僕の体の中の直感に近い『何か』があれは人間では無いと、人を殺す事を躊躇しない怪物…倒さなければならない敵であると告げてくる。間違いなくあの怪物が自分が感じた悪寒の正体だろう。

 

 

「早く逃げて!」

 

 

 怪物が放つビームの様なものをシールドで防ぎ、避けながら地面を這いながら必死に移動する男に逃げるよう言うと一気に怪物に向かって肉薄する。未知の技術で造られた飛び道具を持っている上、どの様な能力を持っているかすら分からない以上様子見をしている暇ない、余計な行動をさせる隙を与えずに制圧する! 

 

 

「ギァギゲグギャギギガアアアアアア!」

 

 

 怪物は僕を睨みつけ凄まじい敵意を此方に向けながら叫ぶ。ビームがシールドで防がれ、避けられ効果が無いと判断したのか、未知の武器に付いている青白い光を放つ刃で切りかかってくる。距離を取りながらビームを撃たれるよりかはむしろ此方の方が都合がいい。振り下ろされた刃をシールドで正面から受け止め、鍔迫り合いの様な状態で一瞬拮抗状態になった、怪物も人間離れした凄まじいパワーで押し倒そうと力を込めてくるが、単純なパワーは此方の方が上らしく徐々に怪物を後方に押し返している。

 

 

「おおおおおおおおお!」

 

 

「ギギギギギィ!?」

 

 

 力負けをしている事に困惑する声を上げる怪物を一気に後方へ押し返し、体制をくずした所をシールドで武器をはたき落とし、金属のマスクで覆われた顔面に手加減無しの全力のパンチを叩き込む。怪物は吹き飛び、顔を覆っていた金属のマスクが外れ地面に転がる。殴り飛ばされた怪物はフラつきながらも素早く体を起こし、僕の足元にあるはたき落とされた武器を回収しようと凄まじいスピードで飛び出してくるが武器がない事に焦っているのか隙だらけだ、無防備な怪物に向けてシールドを投げ飛ばし、胴体に直撃させ再び吹き飛ばした。怪物は悲鳴をあげながら地面を転がる。今度は立ち上がれない程のダメージを負ったのか昆虫の様な口から紫色の血を流し、地面でうずくまっている。

 

 

「……お前は一体なんなんだ?…」

 

「ギ…ギギ…」

 

 

 昆虫と爬虫類が混じった様な異形の素顔に、紫色の血、ビームを撃つことができる未知の武器、明らかに普通ではない『まるでこの世界とは別の世界』からやってきた様な異質な怪物に思わず尋ねるが言葉が通じるはずもなく、怪物はうめき声を挙げている。人に危害を加えていた以上こいつはこのまま野放しにしとく訳にもいかない…警察やヒーローに捕まる事覚悟で通報してコイツの身柄を引き渡した方がいいだろう。この怪物は間違いなくスティーブさんが言っていた『世界の危機』に関わっている。

 

 

「……とりあえず警察とヒーローに連絡して.っ! 何だ!」

 

 

 警察に連絡しようとスマートフォンを取り出そうとした時、突如怪物の周りを黒い靄が何処からか覆いはじめた。更に黒い靄は怪物の周りだけではなく徐々に辺り一面に広がり始めたため急いで後退し、盾を構え警戒する。

 

 

「…!! 消えた.?」

 

 

 裏路地一面を覆っていた黒い靄が徐々に消えてくと、そこにいたはずの怪物が消えていた。辺りを見渡すが怪物が持っていた武器も、怪物に襲われていた男の人も血痕1つ残さず初めから何もなかった様に裏路地から消え去っていた。

 

 

「一体何だったんだ…」

 

 

 いつのまにかにか悪寒と胸騒ぎが止まっていたが、困惑と疑問だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 __________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「使えねーなぁ…この『チタウリ』とか言う奴。雑魚ヴィランチームを全滅させる事はできてねーし、たった1人のヴィジランテにやられるとか、こんなんじゃまだ脳無の方が使えるじゃねーか」

 

「それは仕方ありません。『チタウリ』は本来軍隊を組み、指揮官の指示の元、連携をとり戦う事で真価を発揮する殺戮生体兵器と聞いています。たった1体でヴィランチームを全滅させる事ができるだけでも上々でしょう」

 

 

 

 暗闇の中、2人の男が床に転がっている怪物…『チタウリ』を見下ろしながら話している。上半身の各所に掌をつけている男は『チタウリ』に文句を言い、そんな男を黒い霧の様な外見した男が宥めている。

 

 

「それにしてもあのフリスビー野郎…いい所で邪魔しやがって。あいつのせいで雑魚1人殺し損ねたじゃねーか…」

 

「あれはフリスビーではなく盾では…しかし乱戦なら兎も角1対1でそこらのヴィジランテに倒される程チタウリも弱くはないはずなのです….動きもそこらのサイドキックとは比べ物にならない程洗練され、チタウリ以上の身体能力…ただのヴィジランテではありませんね…」

 

「….まあいいや所詮コイツらは数だけならいくらでもいる雑魚キャラだ。性能テストもこれぐらいでいいかなぁ。あとは連合の数を揃えるだけ…楽しみだなぁ…雄英襲撃!」

 

 

 掌の男はニヤリと笑い、チタウリの頭を右手で鷲掴みながら笑った。左手に持つ穂先に青い宝石が付いた槍を眺めながら、ボロボロと体が崩壊するチタウリの悲鳴を気にもとめず、いずれ行う予定である雄英襲撃を心底楽しみに.心待ちながら呟いた。

 

 


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