艦娘満足度日本一の鎮守府で溢れる願い   作:マロンex

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時雨と提督、交錯する思いの中、1日目の秘書艦業務が始まる。

※今回のお話の補足
提督は願望メガネをつけていますが時雨の願いは固定されており、また提督も調節機能を忘れているため、基本相手の気持ちは察せません

新キャラ紹介

赤城:温和で真面目。常に作戦や次の出撃のシュミレーションをし、絶対に勝つべくして勝つことをポリシーにしている。この鎮守府内で1番の戦力と噂される実力者。

龍田:提督の過去を知る数少ない艦娘の一人。それゆえか異常とも呼べるほど提督を溺愛している。性格は飄々としていて周りには流されにくい。艦娘をいじるのが好き

夕立:言われたことは信じて疑わない超純粋な心の持ち主で交友関係も広い。一方で提督と同様、悪意はないのだが少し的外れな行動をしてしまうことがあり、時雨はそれを気にかけている。


対立

ー9:00 執務室

 

「へえ、あれから数日しか経ってないのにね。新手の嫌がらせかな?」

 

「そんなつもりはないぞ、時雨。あくまでお前の病み上がりの体調を管理できるようにするのが目的だ。他意はない」

 

「僕はむしろここにいるだけで気分悪いんだよね、わかるかな」

 

「それは大変だ。隣の部屋に秘書艦用のベットもある。使いたい時はいつでも使ってくれ」

 

「.....チッ、最悪だね今日は。今日と比べれば他のどんな日だって最高に見えると思うよ、ありが..とっ」ガンッ

 

「はっは、なんだそれ、時雨はポジティブだなあ。足痛くない?」

 

あの居酒屋での『提督嫌い宣言』から数日後、私は時雨を呼び出し、これから1週間秘書艦業務をやってもらうことを告げた。露骨に嫌がり、舌打ちをし、机をわざと足で蹴った時雨は大きなため息をついて私の方を睨みつけていた。

 

『う、うわあ...。女って怖いですな。演技ってわかっててもこの場には居たくないですぞ』

 

『...というか提督様のメンタルの強さには驚かされますね。全く動じてないように見えます』

 

『動じてないっていうより鈍いのよ、多方面で。時雨の言葉を皮肉だって理解してるかどうかも怪しいわ』

 

『じゃ、じゃあ...ある意味適役中の適役ってことですね...。奇跡です』

 

執務室に仕掛けられた隠しカメラとマイクで二人の様子を見届ける医者と艦娘3人。私はいらないと言ったが、念のため本気で提督に敵意を向けて来た際にすぐに援護できるようにと取った対策らしい。あちらの声も私の小型イヤホンから聞き取れるので、動きの指示もできるしまあ、いいだろう。

 

(なんかよくわかんないけど、医者以外にすごいばかにされてる気がするぞー??)

 

「さ、さて、早速仕事やっちゃうかー!じゃあ時雨はここら辺の簡単な書類を午前中までに...」

 

「は?なにそれ、僕をばかにしてるのかい? こんなの1時間もあれば全部終わるよ。本当に指揮能力がないね、君と二人きりの時は無能提督って呼ぼうか?」

 

「そ、そうか。時雨は優秀だな、じゃあ終わり次第休憩していいぞ。無能提督かあ、曙にクソ提督って言われ慣れてるから正直違和感がないのが怖いな」

 

「...ふん、張り合いがないね。僕はもう作業に入らせてもらうよ...できるだけ早くこの空間から解放されたいしね....」

 

曙、というワードに若干声のトーンを下げ、顔を曇らせた時雨。宣言通り、1時間と経たず私が指示した書類を全て片づけてしまった。そして何故か私の書類の方に目をやり、やり残しているものに手をつけ始めた。

 

「おい、いいって。これ終わったら休んでいいって言ったろ?」

 

「嫌だね。さっきも言ったろ、この空間から早く抜け出したいんだ。...それに随分僕を安く見てるようだからここではっきり実力を見せておかないと、腹立たしいんだよ」

 

「いやいや、十分時雨の実力はわかっている。単純に病み上がりのお前が心配なんだよ。そんなに量もないしな、ほら書類返せって」

 

「....くっ、う、うるさいなあ!やるって言ったら黙って渡せばいいだろ!」

 

私が返してもらおうとつかんだ書類を、反対から時雨が引っ張った。勢いが良かったのか書類を持ったまま机の横に尻餅をついてしまった。

 

「ちょ!大丈夫か時雨!無理するなって」

 

「ってて....。誰のせいだと思って...って提督...?血が!血が出てるよ!僕のせいで...」

 

「ん?あ、本当だ。紙が擦れたときに切れちゃったかな。問題ないしお前のせいじゃない、気にするな。それよりお前の方が心配で....」

 

運悪く提督の手の平を通った時に切れてしまったのか血が滲んで来た。みるみる顔を青くして動揺する時雨だったが私の言葉を聞くと冷静になり、怒ってるような、悲しんでるような複雑な表情をした。

 

「....もういいよ、なんかもうやる気なくなっちゃった。ちょっと休憩してくる。....その手、消毒くらいしなよ、それくらいは無能な君でもできるだろ?」

 

そう言った時雨はスッと立ち上がりと早足で執務室から出て行き、思い切り扉を閉め何処かに行ってしまった。

結局時雨はその後お昼を過ぎても戻ってくることはなかった。

 

『時雨殿、戻ってきませんな...』

 

「これも嫌われるための行為の一環なのかなあ、こちらとしては来てもらわないと作戦も何もないのだが...」

 

『提督、時間も時間ですし、私たちも一旦お昼にしませんか? 改めて作戦を見直す必要もありそうですし...』

 

「まあ、そうだな。とりあえず休憩にするか」

 

『あー、すみません、私はもう病院に戻らないといけないので、お昼は遠慮しておきます。作戦成功、祈ってます』

 

「わかりました。本当にありがとうございました。携帯で随時報告しますね」

 

『はい、よろしくお願いします』

 

「....さて、お前らも付き合ってくれてありがとう。お礼に今日はお昼おごるぞ」

 

『『やったー!』』

 

「あー、曙? さっきから声が聞こえないぞ? 具合悪いか?」

 

『.....あ、ごめん、大丈夫よ、心配してくれてありがと。....ちょっと時雨のこと考えてて』

 

『キマシタワー!ボノたんまさかの両刀ですかな!? ご主人、聞きました!?』

 

「ん?ちょ、ちょっと待て、漣の声が大きくて音が...」

 

『りょ、両刀ってなによ!?私は提督一筋よ!バカ!!』

 

『曙ちゃん...。マイク繋がってるから...』

 

『あー!!!!!!今のなし!クソ提督!今の嘘だから!!!』

 

「音割れしてて全然聞こえん...」

 

なにやらわからないが騒がしそうにしている3人。本当に仲がいいようで微笑ましい。自然と笑みをこぼしながら無線を切り、3人のいる部屋に向かう。

その途中、私は時雨のことを考えていた。

 

(早く何か解決の糸口を見つけたいんだが...。今のところ収穫はないな...。午後からもっとこっちからグイグイ行く必要があるかもな)

 

 

 

ー間宮食堂

 

「ちょ、ちょっと島風!またファストフード食べてる!たまには他のも食べないと体壊すわよ!?」

 

「だって早いんだもーん!早くて安くてうまいんだよ!チキチー最高!コーラも最高!」

 

「なんで太らないのかしらこいつ....」

 

 

 

「ーそれでねー、吹雪ちゃんたら遠征で艤装忘れてきたんだよお、ドジよねえ」

 

「ちょっと!言わないでよお...気にしてるんだから...」

 

「それはドジのレベルなのか....?」

 

 

「ダメだ...お昼は力が出ないよ...早く夜戦....エナジーを貯めなきゃ....」カシュ

 

「川内姉さん!食事をモンスターで済ませようとしないでください!」

 

「わかったよー、じゃあこれで...」プシュ

 

「レッドブルもダメです!!」

 

 

3人を連れて久々に食堂に来た。お昼時ということもありほぼ満席状態だった。好きな食事について口論するもの、会話に花を咲かせながら楽しく食事をするもの、食堂で全く食事をしないものと十人十色の過ごし方をする艦娘たちが散らばっている。先ほどの曙たちの絡みでも思ったが、やはり艦娘が自然に過ごしている姿を見るのは微笑ましい。

 

(ウンウン、みんな幸せそうだ。私まで嬉しくなってくるな。だが食事の栄養面で少し問題があるようだな....しかし好きなものを食べるからこそだしな...)

 

「龍田殿!赤城殿!こんにちはです!」

 

「こ、こんにちは!」

 

「....ふん、早く行きましょ赤城さんはともかく、龍田に絡むとろくなことないわ」

 

「あらあら、相変わらずイケズねえ、曙ちゃんは」

 

「あなたの日頃の行いのせいでは?」

 

「だって、曙ちゃんからかうと反応面白いんだものぉ。......ってあらぁ? 提督じゃないですかぁ」

 

「あらほんとですね、これは珍しい。どうしたんですか」

 

 

食堂の様子を観察し、考え込んでいた私に声をかけてきたのは鎮守府の主力の二人、赤城と龍田だった。

入口近くに座っていた二人のテーブルには所狭しと次の作戦用の地図や関連の資料が広げられていた。どうやら次の作戦の見直しをしているようだった。

 

(時雨の件は....真面目な二人だ。余計な心配をかける可能性もあるし黙っておくか)

 

「まあ...なんだ、色々とあって、今までの私ではダメだと感じてな。これからはもっと艦娘とコミュニケーションを取ろうと決めたんだよ。今日はその第一歩として曙たちと食事をと思って食堂に来て見たんだ」

 

「なるほどねえ、私としては嬉しいけどぉ、無理はしないでくださいねえ」

 

「そうですよ。お気持ちはわかりますが、あまり自分を追い詰めないでくださいね。提督は今のままでも十分素敵だと思いますよ」

 

「ああ、ありがとう、無理せず頑張るさ。...ところでそこに広げられているのは明日の作戦関係か? どれ、見直しが必要なら私も...」

 

私が地図に目をやり二人の輪に入ろうとしたとき、後ろの曙から服の袖部分を強く引っ張られた。

 

「クソ提督...私もうお腹すいたわ。おごってくれるんでしょ、早く行きましょうよ!」

 

「ふふっ提督、可愛いお連れ様が待ってますよ。作戦は私たち二人で十分ですから、提督は艦娘とのコミュニケーションという業務に専念してみては?」

 

「あらあら〜、私たちはお邪魔だったかしらぁ? ジェラシーなんて可愛いわねえ」

 

「あーもう! だからこいつらに絡むのは嫌だったのよ!もう行くわよ!」

 

足早に去ろうとする曙に袖を引っ張られ、赤城と龍田の元を去った4人はなんとか席を確保した。テーブルでの注文を終え、曙と私は先に料理を取りに行くのだった。

 

「あんた...またカレーな訳? どんだけ好きなのよ」

 

「カレーはいいぞ。料理としてももちろんだが、まずこのバランスが素晴らしいんだ。ルーという下地に入る具材が織りなすハーモニー、だが決してお互いに喧嘩はしない。これは私のモットーにも通じるものがあるんだ」

 

「モットーに?」

 

「いいか、ルーは言うならばこの鎮守府。そしてこのカレーの具材たちはそれぞれ個性を持った艦娘だ。例えばこのジャガイモは...」

 

「あ、あれって時雨じゃない? 声かける?」

 

「お前から振ったんだから最後まで聞けよ!....無論だ。作戦は進行中だ、接触できる機会は全てこちらからするぞ」

 

曙が指差した方を見ると、姉妹艦の夕立と話している時雨の姿が見えた。カレーのお盆を持ちながら私はゆっくりと二人に近づいたのだった。

 

 

「ーってな訳よ。今度連れてってやるぜ、めっちゃうまいぞ」

 

「楽しみっぽい!」

 

「あー、おほん。時雨、夕立、少し邪魔していいか?」

 

「あー提督っぽい!珍しいね、どうしたっぽい?」

 

「何、日頃あまり接せられてなかったのを反省してな、ちょっと話そうと思ったんだ」

 

「....ごめん夕立、僕もう行くよ。お昼は別の子と取って欲しいかな」

 

私がきたのを確認した時雨は、すっと立ち上がり私をにらみながらその場から去ろうとした。先ほどの様子から察するに主人格に入れ替わっているようだった。

 

「し、しぐれ...? どうしたっぽい? イメチェンやめたっぽい?」

 

(イメチェンで通してたのか...ってか通ったのか...)

 

「ちょ、ちょうどいい。お昼がまだなら一緒に食べないか?」

 

「....うんって言うと思ったの? 午前中の執務は仕事と割り切るけど、プライベートまで邪魔されるのは流石に困るんだよね」

 

「まぁまぁそんなさみしいこと言うなよ。...そうだ、今日は曙たちに飯おごるつもりなんだが、時雨たちにも奢ってやろう、これでどうだ」

 

「やったっぽーい!なんでもいいっぽい?提督!」

 

「ああ、いいぞ好きにしろ」

 

「なんでも...か。わかったよ。...じゃあさ、その提督が持ってるカレー、それちょうだいよ」

 

さっきまでの否定的な態度からは一変、時雨は急にご飯に対して乗り気になった。だがその言葉とは裏腹に何か思いつめたような、または覚悟したような表情をしていた。

 

「え?あ、ああ、これか。あーそういえば、時雨は俺と一緒で昔からカレー大好きだもんな。ほれ、さっきとって来たばっかの出来立て間宮カレーだ。私の今日はカレーの気分でなあ気があうじゃな...」

 

「....提督..間宮さん...ごめん...」

 

トレイを受け取ったその瞬間だった、時雨は私のカレーのトレイを食堂の地面に叩きつけた。飛び散る皿やカレー、そして大きな音は先ほどまでの食堂の空気を変え、一瞬の静寂が襲った。

 

「し、時雨? 手が滑っちゃたか? すまん渡し方が...」

 

「そんなわけないだろ? わざとに決まってるじゃないか...ふふっ...ははっ! でも...これは気持ちがいいな!想像以上だよ!今日は最悪な日だったけどこれで少しは気も晴れたよ」

 

「時雨!!!あんた何してるかわかってんの!?」

 

落ちた皿の破片をしゃがんで拾っていると突然すごい剣幕の曙が時雨の胸ぐらにつかみかかった。

 

「...何って、見てわからないのかい? 提督が好きにしろっていうから、言われた通り好きにしたんじゃないか...何かおかしいかい」

 

「人の気持ち考えなさいよ!!何企んでるか知らないけど、やっていいことといけないことの区別くらいつかないわけっつってんのよ!」

 

「何も企んでなんかいないさ。ただ僕はこの男のカレーをこうしたかった、ただそれだけだよ」

 

「提督に謝りなさい、今日は時雨の日頃の行いに免じてそれで許してあげる」

 

「君は提督のなんなんだい?むしろこっちが謝って欲しいくらいだよ。..それに提督は優しいんだろ、こんな些細なこと笑って許してくれると思うな」

 

「...優しいわ、本当、バカみたいに優しいわ。私たちのことを思って行動して倒れちゃうような人よ。でもね、そんな人だからこそ人一倍私たちの些細なことに気を配っちゃうの、小さな変化の原因を知るために無理しちゃうの。だから私は決めた、どんなに敵を作ろうと私だけはこいつを信じようってね」

 

「....ぼ、僕は...」「もういい...てめえじゃ力不足だ。ここからは俺がやるよ」

 

(じ、人格が変わった? なぜだ、私がらみの時は変わらないはずでは...)

 

「さっきから聞いてりゃ提督提督って...こいつのどこにそんなに惹かれるんだか...優しい面を被ってるかもしてないけどなあ、この男は『あの事件の犯人』かもしれないんだろ?」

 

「......しなさい」

 

「あ?どうした、よく聞こえないぜ」

 

「...訂正しなさい。それは提督じゃないって結論が確かに出たこと、もうそんな可能性はないわ」

 

「結論だと?証拠もないらしいじゃねえか。お前だって反論はできないだろ。それってぼかすんじゃねえよ、艦娘殺しの...」

 

「訂正しろっつてんのよ!!!」

 

ガシャンと音を立て、曙に艤装が展開される。先ほどの怒りとはまた違い、明確で本気の敵意を時雨に向けているように感じた。時雨はそんな曙に全く怯まず、一つ小さなため息をついた後静かに口を開いた。

 

「....へえ...面白えじゃねえか。曙! お前がそいつを盲信して盾になるっていうなら、いいぜ。受けて立つよ。鎮守府最高戦力をなめんなよ」

 

「おい! やめろ二人とも!」

 

時雨も艤装を展開し、お互いの砲塔が体に向けられている状態。先ほどの音で集まった周りの艦娘もただならぬ雰囲気を察し、止めに入ろうとするが、伝説の5艦同士ということもあり誰一人その場から動けずにいる。緊迫した空気の中曙が静かに話し始めた。

 

「最後通告よ。10秒以内にさっき言ったこと、全て訂正しなさい。誤解を与えた艦娘にも伝わるように大きな声でね。そうしなかったら私躊躇なくあなたを撃つわ」

 

「嫌だね、事実は事実だ。結論の出ていねえ以上、俺は絶対に訂正しないぜ。撃てるもんなら撃ってみろや」

 

「残念よ、時雨。せめて苦しまないように沈めてあげる!!」

 

ガチャリと音を立て激しい轟音とともに曙、時雨の砲塔から砲弾が発射されたのが見え、二人の姿は煙に包まれるのであった。

 

<続く>

 

 

 

 




ペースを上げるとはなんだったのか、って感じですけど、とりあえずかけるところまで書きました。
今回書いてて思ったのは大きな施設を書く際は新キャラ(物語に出てこなかった艦娘)を置く書く必要があるのですがそれがまあ、楽しいってことです。シリアス展開多めの文章ですが、単発で終わるような日常回も書きたいなあって感じましたね(書く予定ではありますが)


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