艦娘満足度日本一の鎮守府で溢れる願い   作:マロンex

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大淀から伝えられた部隊壊滅の知らせ。降りしきる雨の中、時雨たちの部隊は遠征で何が起こったのか?

『』内は時雨の表に出ていない方の人格のセリフです。


壊滅の真相

ー遠征開始直後

 

「ひい、ふう、みい、....うっしこれで全員だな。今日はよろしく頼むぜ」

 

「「「よろしくお願いします!」」」

 

「いい返事だ。じゃあ出発すっか」

 

雨が強く降り続ける中、俺の遠征部隊は目的地へと出発した。部隊編成は俺を合わせて4隻。新しく入った睦月型の睦月、弥生、皐月、そして旗艦の自分で構成されており、自分以外は遠征は初とのことだった。

 

「き、旗艦が時雨さんなんですね....。足を引っ張らないでしょうか...心配です....」

 

「えっと、目的地に着いたら、種類ごとに詰めて、出発前には量を確認して....それからそれから...」

 

「み、みんな緊張しすぎだよ。今回は簡単な航路だし、距離もそこまで遠くない。学校で教わった通りやれば問題ないさ」ガシッ

 

「そうだな、皐月。だが、とりあえずお前が一番落ち着け。さっきから俺が抑えてねえと変な方向に進んでんぞ」

 

新人の弥生を先頭に向かわせ、俺はあえて一番後ろでそれを見守る形で進んでいた。目的としては地図を見ながらゴールまで到達できるようにするのと、逐一全員の様子を確認できるようにするためなのだが...。初めてということもあり、3人とも緊張と不安でガチガチであった。

 

「へへっ...懐かしいな、俺も緊張したもんだぜ、初めての遠征は」

 

「し、時雨さんも私たちのような時代があったんですか...? 信じられません....」

 

「あー、あったよ、俺なんかは心配性でよ、遠征前から怖くて眠れなくてな。そのまま一睡もせずに向かったんだぜ。そのせいなのかミスしまくってよお、周りにゃ迷惑かけまくったのを今でも覚えてるぜ」

 

「い、一睡もせずに!? そんなんじゃまともに...」

 

「ああ、そりゃもうフラフラで向かってよ、途中で転んで小破するわ、積んだ荷物おいて行くわでそりゃもう散々だったぜ。当時の旗艦だった龍田にも『こんなできの悪い子は初めてよお』なんて笑われたっけな。ははっ」

 

「....でも、やっぱり信じられません。今の時雨さんはこんなに強くてかっこいいのに...」

 

「旗艦の龍田にな、そのあとこうも言われたんだ。『不安は持っておけ、緊張はしておけ。その全てを払拭できるまでは心に刻み込んでおけ』ってな。そこで気づかされたんだ。俺は周りに迷惑をかけないかそればっかりが不安で、実際にはどうしたら改善できるなんて考えは浮かばなかったんだって。きっと龍田は俺のそういうとこを見抜いてたんだと思うぜ」

 

「不安を...刻み込むですか...」

 

「ああ、誰しも最初は不安なのは当たり前だ。大事なのはその不安と向き合えることができているかどうかだ。一歩ずつでいい、それを潰して行くだけだ。それがわかってからは俺は毎回の遠征、出撃が少しずつ楽しくなった。もっと強くなれる場なんだってことを理解できたからだ。そしたら自然と周りを守れるくらい強くもなれた、それだけだ」

 

「....今日のこの気持ちを大切にして、次回はもっと強くなるようにする、ということですね。確かにそう考えると頑張ろうって思えてきました」

 

「そういう積み重ねなんだよ結局、お前らだって絶対に強くなれる。だからまずはこの遠征、成功させるためにはどうするか考えな」

 

「「「はい!」」」

 

そんな小話をしている間に、無事に目的地に到達した。しかし資材調達している間も雨はさらに激しさを増し、所々では雷がなっていた。予想外の天候の悪化に当時の予定を切り上げ、早々に撤退することを決めた。

 

「雨、すごいですね。嵐になるかもしれません...」

 

「こりゃ、早く帰らねえとまずいな。資材は持てるだけでいい、帰るぞ!」

 

「「「了解です」」」

 

その時だった。一瞬近くで光ったかと思うと、大きな爆発音とともに砲弾が睦月をめがけて飛んできた。

 

「避けろ! 睦月!」

 

その言葉とともに、反射的に俺は睦月をかばい被弾した。幸い当たりどころが良く、艤装の一部が壊れる小破で済んだ。が、周りの状況は最悪だった。天候が悪くよく見えないが、少なくとも10隻はいるであろう、おびただしい数の敵。それは激しい雨の音に隠れ、いつの間にか自分たちを囲む形で接近していた深海棲艦だった。

 

「時雨さん!! ごめんなさい!私がぼーっとしてたばっかりに...」

 

「嘘...。どうしてここに深海棲艦が...」

 

「俺のことは気にすんな! それよりよく聞け!全員資材を全部捨てて、艤装を展開して目を塞げ!今からこの緊急用の閃光弾をあいつらにぶつけて、砲撃する!俺が合図したら、お前ら3人は俺が開けた穴から脱出して鎮守府に戻れ!いいな!」

 

「そんな! 3人って...時雨さんはどうするんですか!」

 

「俺はあいつらを引きつける! その間に逃げろっつてんだよ!」

 

「おいてなんかいけないです!時雨さんが被弾したのは...私のせいなのに...」

 

「そうですよ!いくら時雨さんでもこの敵の数で一人で挑もうなんて無謀です!私たちも戦います!」

 

「勘違いすんな! お前らにも鎮守府への報告っていう大事な役目があるんだよ!この状況を伝えられるんはお前らだけけなんだから。それを全うしろ!」

 

「でも....でも....わたしぃ....」ポンッ

 

俺に庇われた自責の念からか、睦月の頭を優しく叩いた。涙目になりながらもこちらを見た睦月に俺は諭すように話し始めた。

 

「バーカ、安心しろ。このくらいの敵の数、時雨さんにとっちゃ屁でもねえよ、全員ぶっ潰して土産話聞かせてやるよ。だからたのむ....今は俺の指示に従ってくれ」

 

「わかり...ました。....必ず使命を果たしてきます! 時雨さんもどうかご無事で...」

 

「絶対に帰ってきてくださいね!!」

 

「おうよ! 帰りは豪華な出迎えに期待してるぜ! じゃあ...行くぞ!作戦開始!」

 

俺は閃光弾のピンを抜き、敵に向かって一直線に投げた。一瞬の眩い光に包まれた敵艦隊は動きを止めた。その一瞬の隙の間にできる限りの砲撃をし、爆発は深い煙の壁を作った。敵部隊に致命的な損害は与えられなかったものの、包囲網に穴を作るには十分だった。

 

「いまだ! 早くいけ!」

 

一瞬できた穴に滑り込むように3人は全速力で離脱。それを捉えようとする深海棲艦だったが、時雨の猛攻により動きが鈍ったおかげで、無事脱出に成功。煙が晴れる頃には3人の姿は遥か遠くにあった。

 

「うっし..とりあえず、第一関門突破ってとこだな。後はこいつらだな」

 

接近してきた敵の数は20....いや30はいるだろうか。統率のとれた部隊のリーダー格らしき深海棲艦が先頭を切ってこちらに話しかけてきた。

 

「...ワレワレモナメラレタモノダ。ナカマヲカバッテノコッタノガ、テオイノクチクカンイッセキノミトハ」

 

「へっ、実力差考えりゃ、この傷だってハンデになってちょうどいいくらいだぜ、こいよ、まとめて相手してやんよ」

 

「ソノヨユウ、イツマデモツカナ!クラエ!!イッセイシャゲキ!!」

 

「上等だあ!歯ぁ食いしばれよ!」

 

無数の砲撃が雨に混じってこちらにめがけて飛んできて、瞬く間に時雨の周りは硝煙に包まれたのだった。

 

それから俺は長いこと戦い続けた。四方八方からくる砲撃の雨を避けつつ、無我夢中で応戦し、一体、また一体と撃破していった。途中避けきれず何度も被弾したが、相手が全員いなくなるまでは決してその砲塔を下すことはなかった。

 

 

「バ、バ...カナ....タッタヒトリノクチクカンゴトキニ....」

 

「ハア...ハア...これで終いだ、あばよ。久々に楽しかったぜ」

 

「バカナアアアアア!!!」パアン!

 

最後の深海棲艦を撃破し、俺は近くに岩場に寄りかかった。

夢中で気が付いていなかったが、戦闘が終わる頃には、体はボロボロで艤装は半壊、片腕の感覚は全くない状態であった。激しい雨に体温を奪われ、体力は激しい消耗をしていたせいで意識は朦朧としていた。

 

「ってて...。無様だな。...すまねえ時雨。てめえの体こんなにしちまって...」

 

『ふふっ、いいんだよ。むしろありがとう。本気であの子達を守ろうとしてくれて、素直に嬉しかった。君は本当の強さを持っていたんだね。それがよくわかったよ...色々とひどいこと言ってごめんね、僕君のこと全然わかってなかった』

 

「鎮守府の仲間を守るのは当たり前だ。....それに謝らなきゃいけねえのは俺の方だ。ここ数日の記憶の共有の中で、お前がどれだけ提督や周りの艦娘をよく思っているか、大事にしているかがわかった」

 

『まあ、この鎮守府には思い入れもあるしね、僕って心配性だから余計に周りを気にしちゃうんだ』

 

「...なのに俺は...そんなお前に『嫌われればいい』なんてひどい提案しちまった。その行為がお前にとってどれだけ酷なのか、辛いのかなんて考えもせずに、問題の解決に比べれば些事なものだとタカをくくっちまった」

 

『提案したも何も君は僕だろ? それにその提案に乗ったのも、嫌われることを解決の糸口と判断したのも僕自身だよ。謝るようなことじゃない。君の言う通りそれ以外なんて些事なことだよ』

 

「ふっやっぱすげえよ....お前は俺に、本当の強さを持ってるって言ってたが、そんなことねえ。お前は強い、俺なんかよりよっぽどな...」

 

『ふふっ、それは自画自賛ととっていいのかな?』

 

「へへっ...そうかもな。お前は俺で、俺はお前だからな。さすがは俺だぜ........うっ...クソっ...こりゃまずいな...」

 

混濁する意識の中、お互いに笑い合い冗談を投げかけあう二人(一人)だったが、次第に、意識は薄くなって、走馬灯のように今までの記憶が蘇った。

 

『提督....ごめん....』

 

歪む視界の中で時雨の言葉とともに流れる涙は、雨にかき消されるのであった。

 

ー同時刻 鎮守府 

 

龍田は湯飲みの不吉な予兆に不安になり、港付近で時雨の部隊の帰りを待っていた。しかし遠征の帰りの時間になっても彼女たちは帰って来ず、不安はより大きなものとなっていった。

 

「おかしいわね...。初心者がいるとはいえあの時雨ちゃんがここまで大幅に遅れるなんて....あら...あれは?」

 

予定時間より30分が過ぎたあたりだろうか、時雨部隊らしき艦娘が息を切らして帰ってきた。だがその部隊の中に時雨の姿はなかった。よほど焦っているのか何度も転びそうになりながら鎮守府に行こうとする3人を呼び止めた。

 

「あなたたち、どうしたのよ?そんなに慌てて。時雨ちゃんの部隊の子よね?」

 

「た...龍田さん!大変なんです 、時雨さんが....時雨さんが私たちを庇って....深海棲艦に一人で...って龍田さん!?どこへ....」

 

 

皐月がそういかけた次の瞬間、艤装を展開した龍田が鎮守府を飛び出したのだった。

 




前話のあとがきにも追記しましたが、物語が長くなってしまいそうなので、今回は完結しません。申し訳ないです。

戦闘シーンって難しいですね。他の方の作品参考に少しずずうまくなりたいと思います。

追記 本日夜から明日にかけて最新話投稿予定

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