「さて! 泣いても笑っても最後の勝負!最終戦では勝った方には何と! 100ポイント差し上げちゃいまーす!」
「今までの勝負は何だったのよ!」
「クイズ番組によくあるじゃないですか!どのみちこの勝負で決まるんだしいいじゃないですかぁ。一度やって見たかったんですよお!!」
「ま、まあ...どの道次で決まるし特に支障ないからいいけど...」
(なんだろう...なぜか嫌な予感がする...)
「お二人の了解も取れたということで!! 最終戦いっちゃいましょー! 先攻はどちらが行きますかー?」
「私よ! 先手必勝!」バン!
「はーい!先攻は曙さんでーす!...曙さんのお料理はー...うーんとこれは....何でしょう、何かの揚げ物でしょうか....?」
出された料理は長年料理をやっている僕ですら見たことのないものだった。黄色い衣に包まれた揚げ物?のような見た目をしている。周りには大根と人参らしき和え物もついているところを見ると和食だろうか...?
「ピカタですね。イタリアが発祥のお料理で豚肉やスパムに小麦粉と卵をつけて揚げたものです。曙ちゃんよくこんな料理知ってましたね」
「おお、流石間宮さん、そんな料理もあるんですね。...しかし本人の手前申し訳ないが、朝から揚げ物ってのは...」
「確かに、朝食から油を使ったお料理はなかなかハードルが高い気もしますね...卵もかなりのカロリーですし...」
「まっ、とりあえず食べて見なさいよ。この料理には自信があるのよ!」
自信満々といった様子の曙。 確かに二人の言う通り朝からこんな高カロリーのものはなかなかヘビーだ。何か工夫されているのは間違いないようだけど、元の料理がわからない以上推測すらできない。
「......ふむ。 なるほどな、これはいい。見た目とは裏腹のさっぱりさだ」
「お豆腐が生地に練りこんでありますね。ぺろっといけるのに、栄養はしっかりと取れる...。素晴らしいです」
「横に添えてあるわさびマヨネーズも絶妙ですね。このお料理とベストマッチです」
<めっちゃおいしそー!!
<私も食べたーい!!
「おーっと!これは過去の料理の中で最高評価をされているのでは!? 全員が文句なしの評価です! 時雨さん続けるか!?」
<めっちゃおいしそー!!
<私も食べたいっぽい〜
「ふん! どう?時雨。これが私の切り札よ。おばあちゃんから教わった曙家直伝の料理! 」
「流石だね...曙...正直ここまで料理で追い込まれるとは思ってなかった..」
「ふん、私もそれなりに勉強してきたからね」
「やられたよ、じゃあ僕も遠慮なく切り札を出させてもらうよ!」
「な! これって....!」
「出ましたぁ!我が鎮守府の朝食で最も人気の料理、フレンチトーストを出してきました! なるほど、これは考えましたねぇ。 では!審査員の方々、実食をお願いします!」
(鎮守府内でこの料理を知らないものはいないはず...。鎮守府で食事を摂っていれば誰もが一度は食べたことがあるこの料理で唸らせることができれば勝ったも同然...後は評価をもらえれば!)
「.......!!」
「これは....」
「おっと...? 一口食べるや否や動かなくなりました! 一体どうしたのでしょうか!」
出されたフレンチトーストを口にはこんだ瞬間、3人の動きはピタリと止まった。少し間が空いてから、今度はまじまじと料理を眺めつつ、一口、また一口と頬張り始めた。
「うまい....こんなにうまい料理は生まれて初めてかもしれない...手が止まらん...」
「なんと!審査員提督! 泣いております! どんだけ美味しかったのでしょうか!?」
「はい、感無量の一言です。これほどのフレンチトーストを食べたのは初めてだと思います。バケットに染み込んだ卵液のきめこまやかさ、焼き目をつけるくらいしっかりと焼いているのに食感はプリンのよう....。正直私の食堂のものとは比較にならないレベルです....相当な腕前と経験がないとできませんよこれ...」
「正直洋風のお料理はあまり詳しくありませんが、素人目から見ても味、見た目ともに高級ホテルで出されてもいいほどだと感じます。特にこの上にかかっている粉砂糖の装飾が...」
(あれ...? 周りにそんな装飾なんかしたっけ...? というか確かに自信はあったけどそこまで本格的に作った覚えは..)
「何よそれ! あんたどこでこんな技身につけてきたのよ!! 聞いてないわ!こんなのふぁふぇっふぉないじゃないの!! 何これ!めっちゃうまい!!」モグモグ
「これ...僕の料理じゃない...」
「へ?じゃあこれは...」
「では審査員の方々!ボタンを....」バタン!
「はあ....はあ....取り込み中にごめんなさい!! 食堂に置いてあったお皿取り違えちゃって...ってもしかして...」
全員が時雨のボタンを押そうとしたその瞬間、勢いよく食堂のドアが開かれ、何故か息を切らした榛名が会場に飛び込んできた。どよめく会場をかき分け、審査員席でまじまじと料理をみると深くため息をついた。
「あー...食べちゃいましたかー....。申し訳ないです....」
「榛名、どういうことだ? これは時雨が作ったんじゃ....」
「あー...えっとですね...かくかくしかじかで....」
榛名の話をまとめると、大会が開かれる前日、偶然榛名は金剛さん用にフレンチトーストを作っていたのだが、それを食堂に忘れてしまった。翌朝に慌てて取りに行ったのだがタイミング悪く料理大会ををやっていた。 それを邪魔してはいけないと、裏でこっそりとったお皿と料理が、これまた偶然時雨の作ったものと同じで取り間違えてしまった。それに気がついた榛名は急いで食堂に引き返して今に至る...。
とまあ、こんな感じらしい。
「抜け出してお姉様に持って行こうとした時に付箋が貼っていないことに気がつきまして...本当に申し訳ありません....」
「あ、本当だ。お皿の横によくみると付箋が貼ってある...。全然気がつかなかった...」
「えっとじゃあ何だ。さっき食べたこのフレンチトーストは....榛名が作ったのか。正直驚いたぞ...。あんなに料理がうまかったのか」
「い、いえ..この料理が得意というか...昔から朝食にお姉様や他の方に振舞う機会が多かったので、自然と味や見た目にこだわるようになってしまいまして...」
「なるほど...長年の経験が生み出した料理だったんですね。 これは...決まりですね。私は榛名さんに一票」
「同じく私も榛名さんに! 提督さんは?」
「え? あ、ああそうだな。この料理に関しては文句のつけようがない」
「と、いうことで! 何やら色々と一悶着ありましたが満場一致のパーフェクトということで! 『自由料理』部門 得点は榛名さんに入りまーす!!」
「くっ...悔しいけどぐうの音も出ないわ」
「まあ...しょうがないね。 こればっかりはこのあと出しても勝てる気が...ってん? この部門の得点って確か...」
「はい! ということで最終結果、榛名さん100ポイント! 時雨さん1ポイント! 曙さん1ポイント!という結果になりましたので! 第一回!朝食王は、榛名さんに決まりました!!! おめでとうございまーす!!」
「へ? 私? あ、ありがとうございます?」
「榛名さん!料理そんなにうまかったんだ! 今度教えてください!」
「私も! 私も知りたいです!」
「コツとかあるんですかー!!?」
優勝の言葉とともに唖然としている榛名の頭上でくす玉が開かれ、青葉からは優勝トロフィーを差し出された。困惑しながらも受け取った榛名の元に多くの艦娘が押し寄せ、質問責めにあっていた。
「はーい! お後もよろしいようで! 第一回朝食王決定戦はこれにて閉幕でーす! みなさんお付き合いいただきありがとうございましたー!!」
結局、嵐のように訪れた二人の料理対決は、お互いに何とも言えない敗北感を味わいながらドローという結果に終わった。まだ質問責めから解放されない榛名以外の曙と僕、そして提督の3人で料理の後片付けをしていた。提督がゴミを捨てに食堂から離れると、皿洗いをしている曙が話し始めた。
「にしても...榛名には完敗ね。 まさかあんなダークホースがこの鎮守府にいたなんて」
「そうだね...。僕ら二人は井の中の蛙ってことを思い知らされたよ...」
「そうね...。まだまだ努力が必要ってことね...はあ...料理って難しいわね...いっつ...」
洗剤が傷にしみたのか、絆創膏だらけの手の平を眺め涙目になる曙。目の下にはよく見るとクマができていた。ここ最近色々あって知らなかったけど、提督のため相当練習をして来たのが勝負の中でひしひしと伝わってきた。。
「でもさ...僕は榛名以上に君に驚かされたよ」
「は?私?」
「うん。実はこの勝負が始まる前は経験的にも知識的にも絶対に曙には負けないって、思い込んでた。戦闘ならともかく長年好きでやっている趣味だったから自信があったから余計ね。でも勝負して行く中でやっぱり曙はすごいなってなんども驚かされた。」
「そんなことないわ...正直今回の勝負だって私が有利な条件があってやっと成立したしね。審査員(提督)の好みを知っていた時点でアンフェア...それを利用して私は1点もぎ取っただけよ」
「提督の好みは僕の研究不足、作戦ミスさ。 僕がすごいって思ったのはそこじゃないよ」
「じゃあ...どこよ」
「曙はさ、負けず嫌いで強気で、たまにわけわかんないプライド押し付けてくるけどさ....やっぱり努力家なんだって。絶対に勝ちたいって、そんな気合いが伝わってきて僕は思ったんだ、『どんな勝負でも曙には負けちゃうかも』ってね」
「ふん。努力家なんじゃなくて負けるのが嫌なだけよ。それに結果だけみれば私の惨敗。 まだまだ修行が必要ね」
「僕もさ。知識や経験以上にまずは提督に気に入ってもらえる料理を作れるようにならないとね。まずは提督の研究からかなぁ...」
「あのさ.....その...今度料理を教えてくれないかしら。べ、別に私は一人でも全然いいと思ったんだけどね! 同年代の経験者から教わるのが一番って間宮さんにも言われて...。も、もちろんただで、とは言わないわ! 対価に私と潮たちで作った提督の好みのリストを...いや...その一部を提供するわ!」
顔を真っ赤にしながら必死に自分にお願いする曙。そこは素直にお願いすればいいのに、なんて思ったけどまあこれもまた曙らしいな。
「いいよ。その話のった。せめて僕のライバルに見合うレベルにはなって欲しいしね」
「くっ...言ってくれるじゃない。今に見てなさい、教えなきゃよかったって後悔させてあげるんだから!」
「おーい! 二人ともー! 一息ついたらちょっとこっち手伝ってくれー!」
「「提督の朝食は譲らないよ(わよ)」」
事件後、ギクシャクしていた二人の関係は春先の雪解けの如く、静かに融解し始めた。
提督への朝食勝負が再び行われる日もそう遠くはなさそうだ。
次回金剛編
番外編、完結です。前々からシリアスなしのギャグパート書いて見たいなーって思ってましたが、書いてみるとめっちゃ難しい....。 練習あるのみかなって感じです。
次回からは金剛編です。
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