艦娘満足度日本一の鎮守府で溢れる願い   作:マロンex

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新キャラ紹介

比叡・・・榛名、金剛とともに前の鎮守府に在籍していた艦娘。金剛への依存が強い反面、自他の評価には全くの無関心。現在は戦線を離脱中。

西条提督・・・榛名たちが配属していた鎮守府の提督。素行があまり良くなく、指揮能力も低いのだが何故か高い実績を誇っており、悪い噂が絶えなかった。

新施設

国立横峯総合病院

国立の艦娘専用の病院。厳重な警備と監視が張り巡らされている。基本的に入渠で直らないレベルで傷を負った艦娘や精神的に治療が必要(PTSD等)な艦娘が入院し、戦線に復帰できるように治療を行う施設。厳重な警備と厳しい入館制限があり、病院関係者以外は存在自体を知らないものも多い。




光と闇

ー国立横峯総合病院

 

榛名に手を引かれ連れられたのは鎮守府から車で20分ほどの艦娘専用の総合病院だった。鎮守府の正門を出ると慣れた手つきでタクシーを呼び、「いつものところで」と運転手にいう榛名。

あっという間にこの病院に連れて行かれ、何が何だかという感じだ。病院について最初に気になったのは、不自然に厳重というか、警戒が激しいように思えるところだ。無数の警官が入り口では巡回?しており、病院のいたるところに監視カメラがついている。

艦娘専用の病院としか聞いてないが、そこまで厳重にする必要性が私にはいまいちピンとこなかったので困惑してしまった。

 

「ここは...初めて来るな。 誰か入院してるのか?」

 

「はい。私の姉妹艦である比叡がここで入院しています」

 

「榛名に姉妹艦がいたのか...。全然知らなかったな」

 

「無理もないですよ、横峯鎮守府在籍の頃ですからね。まぁ立ち話で話すような内容でもないですし...経緯は追って話しますね、ではこちらへ」

 

タクシーと同様、手際よく警備員らしき人に私のことを説明してくれたらしく、厳重な警備の中入館証をもらい、すんなりと入ることができた。一つ引っかかるのは榛名が私が提督だと説明した際、警備員に「B病棟では他の艦娘とは関わるな」と念押しされたことだ。初めて来る場所でなんのことを言っているのかはさっぱりだったが、何やら嫌な胸騒ぎがした。

 

中に入ると案内板があり、その前で榛名から病院についての説明を聞かされた。

 

「この病院は大きく分けてA、Bの病棟の2つのエリアに分かれていて、ここがA病棟です。比叡お姉様はB病棟の201号室で入院されていますので、少し距離がありますがご辛抱ください。あ、あとAからBに移動する際には提督が首から下げられている許可証の提示を求められますのでその際は見せるようにお願いします」

 

「わかった。じゃあすまないが案内を頼むぞ」

(病棟の移動で許可証が必要? さっきから解せないことが多いなこの病院は...)

 

榛名の後ろをついていきA病棟を歩いているとちらほらと他の艦娘の姿が目についた。必死に松葉杖をつきながら歩く練習をする軽巡洋艦、弓を引く動作を繰り返しては手の震えを抑える空母、他の鎮守府の提督らしきものにしがみ付き「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣きじゃくる駆逐艦の姿。

戦いという使命を背負った艦娘を指揮する以上、このような事態も想定するべきだろう、そう頭ではわかっていても実際にその現場を見てしまうと思わず目を背けてしまう。苦渋の表情でその様子を眺める私に榛名が声をかけた。

 

「...提督は艦娘の損傷ステータスはご存知でしょうか。ここの病院にも関係しているのですが」

 

「え? あ、ああ。もちろんだ。小破、中破、大破そして...轟沈だな。ここにいる艦娘たちは皆きっと大破以上の損傷を受けたが轟沈には至らなかった。だがあまりに損傷がひどいため入渠しても直らないのを復帰を目指して治療している...といったところか。 そもそもそうでなきゃ艦娘の病院があること自体に違和感があるしな」

 

「さすがですね。提督の仰る通り、大破と轟沈の間の艦娘がこの病院に入ります。実はこの間には正式ではありませんが損害状態には2つ名前がついています。1つはここA病棟に入る艦娘たち、そのステータスを『瀕死』としています」

 

「A病棟で『瀕死』...か、ということはB病棟はさらに...」

 

そう口にしかけ、前を向くと、重たい鉄の扉が立ちふさがった『B病棟入り口』と書かれた場所にたどり着いた。扉の前には4人の屈強な警備員、いや武装している様子を見ると警備兵が立ちふさがり許可証を要求してきた。慌てて許可証を見せると、表情をピクリとも変えず、比叡が入っている201号室まで連れて行かれた。B病棟は薄暗く、窓もない、またA病棟と病室には何重にも鍵がかけられており、外を出歩く艦娘も見当たらない。

 

(なんだここ...さっきとまるで雰囲気が違う、病棟が分かれていることには意味がありそうだな...)

 

「ここだ。面会が終わったらそこのブザーを押せばまた迎えに行く。では鍵を閉める」

 

淡々と指示され部屋に入れられた直後、ガシャンと、重たそうな扉が閉められ目に飛び込んできたのは、口には酸素マスクらしきものがついている『比叡』の姿だった。眠る比叡のベッドの隣には先ほど金剛が抱えていた花束が置かれており、金剛型の姉妹艦だろうか、4人で写った写真が飾られていた。

 

「彼女が比叡...なのか」

 

「はい、2年と5ヶ月前、轟沈しかけの状態で発見された比叡お姉様です。かろうじて生命活動は維持していますがいわゆる『植物状態』で現在も意識が戻らない状態が続いています」

 

「そう...だったのか。しかしこの様子だとやはりこの状態は『瀕死』ではない...それ以上の...」

 

「はい、御察しの通りです。先ほどの話の続きになりますが、B病棟は通称『亡霊病棟』。状態『亡霊』の艦娘が入渠します。比叡お姉様もこの『亡霊』として登録されこの病院に入院しています」

 

「ぼ、亡霊...?」

 

「『亡霊』...轟沈することはなかったにせよ、戦線復帰は絶望的、もしくは心に一生癒えない傷を負ったような艦娘を指す言葉です。死ぬこともできず、また艦娘としての使命を果たすこともできない。そんな生死の狭間を漂っているものたち...それがここB病棟の住人です」

 

そう話した榛名は長らく使われていない様子の来客用のパイプ椅子を取り出し、寝ている比叡のベッドの傍に用意すると

「長い話になると思うのでお茶を用意してきますね」と奥に消えていった。

 

しかし..窓の無い部屋、外側から閉められる鍵、そしてこの異様なまでの警備...本当に病院なのか? まるで...

 

「...まるで刑務所みたい...ですよね」

 

部屋を観察し、深く考え事をしていると、まるで心を読んでいるかのように

 

「あ、いや...まあ正直そういう印象だな。とても治療するために入る病院とは思えんな」

 

「無理もないですよ、私も最初ここにきた時はそのような感想でした。『亡霊』に登録され入院する艦娘の中には、提督、広義で捉えれば人間に対して嫌悪感を持ったものや、あまりの甚大な損傷ゆえに暴走する可能性のある艦娘も少なくないんですよ。そのため、外の監視や先ほどの警備兵によって厳重に警備されているんです。艦娘は人間よりも優れた身体能力を持つ故、反旗を翻した時の被害は甚大です。ここはそれを抑制する施設でもあるんです」

 

「『亡霊』...か...しかしどうしてこんな状態に...」

 

大抵の戦闘において損傷を受けた際は被害の大きさの有無に問わず一旦撤退するのが定石だ。これは戦場の情報を持ち帰る意味と艦娘たちの万が一に備えての意味を持っており、よっぽど逼迫した状況でなければこれを基本に作戦指示をするようにと教わった。

だからこそ不思議なのだ。運悪く一撃で大破することはあっても、状態が万全の状態から轟沈直前まで陥ることなど、想定上まずありえない。

 

「私も詳しくは知りません...。2年と5ヶ月前...。正確にはその前後1週間の間の戦闘の中で負傷し、この状態になった...とだけお姉様から聞かされました。それ以上はお姉様も話そうとしなくて」

 

「原因は比叡自身の練度が低かったか...もしくは疲労がたまっていて判断能力が鈍っていたとかか?」

 

「いえ、それは考えにくいです。比叡お姉様は金剛姉様に次いで練度は高かったですし、その...言いづらいのですが前の提督とは仲が悪くほとんど出撃させてもらえてなかったようで」

 

「そうか、ならその線もないか。しかし情報が少ないな。その事件後に金剛に変わった動きはなかったか?」

 

「あります。というか...変わりすぎてどこから話していいのか...。一つ確実にかわったと言えるのはそれ以降の前提督への態度...ですかね」

 

榛名の話によれば金剛はその鎮守府の着任した当初は、提督への忠誠心はかなり高かったらしい。どんな命令にも『提督のために』と二つ返事で従い、無理な出撃を組まされても文句ひとつ言わず、むしろ嬉々として出撃していた。だがある日、榛名が長距離遠征に行き、1週間後に帰港すると唐突に、比叡の戦線離脱、同時に金剛が問題を起こし、処分されたと聞かされたというのだ。

 

「榛名の遠征中に何かが起き、態度が急変...か。話を聞く限りにわかには信じられんな」

 

「私も最初は耳を疑いました。盲信...というと言い方が悪いかもしれませんが提督に全面の信頼を寄せていた金剛お姉様が些細なことで問題を起こすとは思えませんでしたし...」

 

「ふむ...となると前提督と比叡がらみで何かあったという線が一番強いな。金剛はともかく前の提督は比叡と仲が悪かったみたいだしな。前の提督の名前とかわかるか? もしかしたら士官学校で知り合ってるかもしれん、そいつと連絡を取れば....」

 

「名前...ですか? ええと確か着任時に一回だけ...確か『西条イツキ』って名のってたような...」

 

「西条イツキ...まさか....。榛名、そいつ右目に眼帯か何かしてなかったか?」

 

「あー!そうです! 大きな黒の眼帯を常につけてました!」

 

「やっぱりか...。金剛の話や比叡の状態でもしやと思ったが...。そいつは私の同僚、いや同僚だったやつだ」

 

「だった? 」

 

「辞めさせられたんだ。私が士官学校在籍中に、全生徒の中で唯一退学処分にされた男だ。それ以降は親の元で働いていると聞いたが...まさか...」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 確か提督になるには士官学校を卒業しないといけないんじゃ...」

 

「あいつの親、本部に配属されてる軍関係者なんだよ。そこのつながりで提督になれたのかもしれん」

 

「そうだったんですね...確かにそう言われるとあまり作戦指揮には参加していませんでしたね」

 

「榛名、できるだけ前の鎮守府での西条について教えてくれ。艦娘の扱いとか、作戦指示の方法とか、とにかくなんでもいい。もしかしたら今回の一件の手がかりになるかもしれん」

 

「わかりました! ええと...そうですね...」

 

眠る比叡の横で、昔の記憶を必死に掘り起こし榛名は私に情報を伝え続けた。どうやら私が思ってた以上に金剛の件、いやこの国の艦娘の扱いは闇が深い。言いようのない不快な悪寒が私の周りを包むのだった。

 


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