だが金剛の頑張りは確実に体を蝕んでいた。
※すべて金剛視点となります。
「ヘーイ!提督ぅ! 今日も資材ウンと持ってきたねー!」
「うんうん、ご苦労。 マジで助かるわー...じゃ、次はここ頼むわ」
「OKネー! じゃあ行ってくるヨー!」
鎮守府に着任して3ヶ月が経った。早々に長距離遠征に連れて行かれた時は少し困惑したが、次第に順応もすることができ、メキメキと実力を上げることができた。そんなワタシの頑張りを認めてくれたのか提督は次々とワタシに新しい仕事を与えてくれるようになった。段々と増えていく仕事に、うれしい悲鳴をあげながら、提督の「助かった」を聞くために死に物狂いで仕事をした。
「さて...今日はここと残り2箇所の遠征、あとは夜の出撃が1回で終わりですネ...ふー...」
部屋で次の出撃の場所を確認する。最近どうも疲労が取れない。高速修復材の効きも悪いし...どうしたものか。
ため息交じりにそんな考え事をしていると、部屋のドアが勢いよく開かれた。
「お姉さま! 今日もお疲れ様です! お怪我はありませんでしたか!?」
「ひ、比叡お疲れ様ねー。 大丈夫ヨ。この通り、ピンピンしてるねー」
「そう...ですか。で、でも絶対に無理はなさらないでくださいね!いくらスーパー艦娘のお姉様でもお身体は一つしか無いんですからね!大体姉様はいつも頑張りすぎです!この前も....」
(あー...また始まりましたネ...)
今、説教交じりのアドバイスをしているのはワタシの姉妹艦『比叡』。同室のルームメイトで、姉妹艦の彼女とは、着任してから一番最初に仲良くなった....と言うよりは一方的に彼女の方に好かれてしまった。
きっかけは一緒の出撃で比叡を敵の攻撃からかばったことが発端だった。正直そこまでする必要のある場面でもなく、「提督にいいとこ見せたい」と言う下心丸出しの行動だったのだが、それが彼女にとっては何より嬉しかったらしい。
「作戦よりも私をしてくれた...命の恩人です! 一生ついて行きます!」
そう言って、この一件以降は何があってもまるでコバンザメのように暇さえあれば私についてきて色々とよくしてくれるようになった。
最初こそ可愛い妹ができたようで嬉しかったが、日が経つにつれ過干渉の母親のようなうっとうしさを感じるようになっていた。
後から来た榛名も姉妹艦ということもあり、私を慕ってくれているが、比叡には「流石にやり過ぎですよ...」といつも苦笑いをしていた。
だが正直そんなうっとうしさなんてかわいく見えるくらい
「お疲れのようですね。よかった、ちょうど渡したいものが...」
「ん? なんですかこれ...。 はっ!」
「手作りのカレーが入ったおにぎりです! 今回こそはうまくいったと思うので!」
漂う異様な匂い、何を入れたのか見当もつかない色合い。彼女が差し出したそれは間違いなくカレーではない、いや食べられるかも怪しい何かだった。
「うーん...香辛料たくさんいれたんですけど...足りなかったかな」
(いやいやいや! 香辛料とかそんな些事な問題ではないですよねこれ!)
「あー!ソーリー!! 今回はあまり時間がないのでそれはまた今度で!!」ガチャ
「ちょ! お姉様! この前もそれ聞きましたよ! お姉様!?」
(他は良いとしてもあれだけは回避しないとですね...)
比叡、改めお母さんを振り切って出撃するために集合場所に到着したが、そこには絵に描いたように暗い顔をした艦娘たちがずらりと並んでいた。
「はあ...今日もお休みもないんだね」
「私なんてもうしばらく部屋にも戻れてないよー...」
ここの鎮守府では基本的には休みはない。よくて出撃や遠征で大破や轟沈寸前までいった艦娘が臨時休暇という形でドックに入れられるくらいだ。今思えば異常な環境だったが、当時の私含め多くの艦娘にとってはそれが「普通」であり、ワタシに至っては喜んでこの場を楽しんでいた。
「サー!みんな元気出して! 提督にいいとこ見せましょー!」
「...相変わらずだねー。金剛さんは」
「まあ、ぼやいてもしょうがないか。旗艦よろしくね!」
「任せるネー! レッツゴー!」
さあ、今日も出撃だ。連日の出撃で尚且つ負傷もしなかったから、すでに3日くらいはほぼ出ずっぱりだが、提督のためだ。少しでも役に立てるように頑張ろう。あー、でもやはり疲れが溜まっているのかな、目が少し霞む。
本調子ではないものの、そこまで難しい海域ではなかったので、難なく出撃を成功させた。
また1つ、提督の役に立つことができた。この喜びで疲れも吹っ飛ぶようなものだ。
ー提督!! 敵全艦撃破したヨー! 旗艦金剛、只今より鎮守府に戻りマース!
ーういー。よくやった、じゃあ早めに戻ってきてね。 もう1つ出撃してもらうからー
ー了解でーす!
(...と威勢よく返事はしましたが、もう一戦となると結構きついネー...一旦戻ったら補給を....)バタッ
「!? 金剛さん!? 誰か!! 金剛さんが!」
一瞬で視界が真っ暗になったかと思うと、私はその場に倒れこんだ。
「...ざけないでください。 こんなに無理させといてなんですかその態度は! それでも司令なんですか!?」
「あー? っセーな、ただの疲労だろ。鍛錬不足だろ」
誰かの口論の声で目を覚ます。どうやらここは病室か何かのようだ。
(あー...そうか..私...気を失っちゃってそれから...)
「こんなことが続くようじゃ...上に報告しますよ?」
「あ? んだと生意気だな、艦娘のくせに。お前の愛しの金剛お姉様だって俺には解体する権利だってあんだぞ?」
「っ....。サイテーですね...ほんと」
ぼーっとしていた意識と視界が、だんだんと戻ってきた。どうやら近くにいるのは提督と比叡のようだった。
「て...提督?...それに比叡....どうしたんですか...?」
「!! お姉様! ご無事でしたか!! 本当に...本当に良かったです!!」
ベッドからスッと起き上がり、声をかけると、今にも泣きそうになっていた比叡が飛びついてきて、前から思いっきり抱きしめられた。
「ちょ...比叡、苦しい! 苦しいですよー! もう!」
「はっ...すみません! お姉様! 安心してしまってつい!」
「別にいいですヨー。それよりこれは...」
比叡の話を聞く限り、どうやら私は疲弊が限界を迎え、倒れてしまったらしい。隊の艦娘に医務室に運んでもらったあと、約半日以上はこのベッドで寝ていたようだ。
「んだよ...やっぱ大丈夫じゃねーかよ。手間かけさせやがって...戻っていいか?忙しいんだよ」
奥の方で携帯片手に見ていた提督が、あくび混じりにこういった。
(あれ...想像以上に冷たいですね...。少し悲しいな。でも今回の失態で失ったものも大きいだろうし....)
「テイトク...申し訳
「ッザケンな!! 良い加減にしろよ!! てめえ!!」
「!? ひ、比叡!?」
言葉を発しようとした次の瞬間、激昂した様子の比叡が提督に怒鳴り始める。
「....お姉さまの手前、これまでずっと我慢してきましたがもう限界です」
「っせーな...。急に大声出すなよ」
「なんなんですかその態度、元はと言えば無能なあなたのせいでしょ? お姉様をこんなにして...司令としての自覚はないんですか?」
「自覚だぁ...? テメェこそ艦娘としての自覚あんのか? さっきから逆らいまくりやがって」
「クソみたいな環境で自分の昇級のことしか考えない上官になんで従わないといけないんですか? 私、マゾヒストじゃないんで」
「っち...。てめぇ...」
「...めて下さい」
「あーすみません。恐怖政治敷いといて大した戦果も残せてない司令なんて例えマゾだったとしても嫌と訂正しますね、このクソ...
「ヤメて! 私の提督を侮辱しないでください!!」
自分でもわからなかった。気がついたら私は大声で叫んで...そして泣いていた。ただ、心が締め付けられ、これ以上聴いていたくない。そんな本能的な衝動が無意識に行動に変わっていた。
「お願いだから...もうやめてください...」
「お...お姉様...? よく考えて下さい! こいつは...いえ..司令は」
「....出てって下さい。今は比叡とは話したくないネ」
「しっ...しかしですね、お姉様....」
「出てって下さい!! 」
「....申し訳ありませんでした。....失礼します」ガチャ...バタン
何か言いたげにしていた比叡だったが、泣いている私を見て少しうつむいた後、静かに部屋を後にしていった。
「ふふっ...あっはっは! すげぇ...いや最高だよお前! それでこそ艦娘だよなぁ! いやぁひさびさに気分いいわぁ。金剛..だっけ? お前ますます気に入ったわ!」
(私...どうして提督を....)
ずっと思い焦がれていた提督という虚像が、この事件をきっかけに少しづつ、崩れていくのを感じた。