比叡とのあの一件以降、私は提督に大層気に入られトントン拍子で専属秘書艦まで上り詰めた。
出撃の時は毎回旗艦、遠征等の雑務は全く回されず、その時間を提督の上官との会議や食事会に使われた。
憧れだった提督の右腕として毎日を過ごす日々とは反比例して、比叡とはめっきりと会うことがなくなっていた。
(比叡...最近は部屋にも帰ってきませんネ....)
相部屋ということもあり、この前の一件について話す機会はあるだろうと軽く考えていたのだが、当の本人がめっきり部屋に戻ってこない。提督に聞いても答えてくれず、周りの艦娘に聞いてもただ、遠征や出撃が大量に入っているらしい、とだけ。
以前は割と暇そうにしていた印象だったのだが...
(まぁ...いつか話せますよね。怒ってはないみたいデスし)
そう楽観視できるのはあの日以降はいつも部屋に作り置きのカレーと置き手紙があるからだ。
手紙にはいつも手書きで「今日も頑張ってください、私も頑張ります」とだけ書いてある。やけに殴り書きしているところを見るとよほど時間の合間を縫ってくれてるのが想像できる。
もう一踏ん張りという意味がよくわからないが、
(うへえ...何度食べても結構厳しいですね...)
そうは思いつつも、置いてあるカレーは完食した。
あの一件以降、私は提督というある種偶像化していた尊敬の念が崩れはじめ、それとは対照的に比叡に惹かれはじめていた。
私のことをまるで自分のことのように怒ってくれた姿。正直ひどいことをしてしまった私を許してくれる寛容さ。
相変わらず刺激的な味のカレーだが、そんな思いがある今はとても愛おしく、そして温かかった。
「さーて! 今日も元気100倍ネー! しゅつげーき!!」
いつしか、比叡のカレーを朝食べてから出撃するのが私の日課になっていった。本物の宝物を見つけたようなワクワクした日々だった。
それから1週間ほど経ったある日、なぜかいつもあるカレーや置き手紙が見当たらない。
(あれ? 今日は忙しかったんですかね? まぁ善意でやってもらってるわけですからネ。 文句は言えないデス)
まぁ朝からドタバタしていたのだろう。そう軽く考えていた私の予想は最悪の形で裏切られた。
お昼手前くらいだろうか、軽い遠征から戻ると何やら鎮守府内が騒がしい。ひょいと様子を除くと何やら人だかりと、医療班?が大慌てでいるのが見えた。
「な、なんの騒ぎですか? 誰か怪我でも...」
「金剛さん! 大変です! 比叡さん、比叡さんが大怪我を!!」
「!?」
「早く! 早く手当てを! 血が止まらないぞ!?」
「ダメだ...傷が塞がらない。 許容できるダメージを超えている」
「おい! 誰か酸素マスク取ってこい! 緊急だ!」
周りを取り囲む救助隊や医療関係に努めている艦娘、その中心には自分が最も愛する妹の一人、比叡がいた。絶え絶えの呼吸、止まらない出血。
「比叡! どうしたの!? その傷! 比叡!」
「ダメです! 近づかないでください!! 今は一刻を争ってます!」
「イヤね! ここを通して...「今は一刻を争う状況です!落ち着いてください! 事情は後で話しますから!」
「...はい」
「金剛さん...ですね。お気持ちは察しますが、比叡さんのことについてはまた詳しくお話ししますので今は抑えてください、では」
「わかり...ました」
必死に比叡に近づこうとしたが、医療班に制止された。若干パニックになっており、気持ちを抑えられず強行しようとした私は叱咤され、ようやく少し落ち着きを取り戻した。
「そうね...今は比叡の治療を...」
運ばれる比叡は鎮守府を出たところのすぐに待ち構えた救急車に搬送され、おそらく病院へと運ばれていった。
「一体何が...どうなって....比叡...」
全く状況の掴めない私はただその場に立ち尽くす。
比叡との最後の会話を思い出しながら、放心状態の私はただ、彼女の無事を祈っていた。
今回は少し短め。
これくらいの長さだとボリューム不足ですかね?