艦娘満足度日本一の鎮守府で溢れる願い   作:マロンex

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提督という存在

「ーーそれで...潜水艦たちが心配で海岸のゴミ拾い...ですか。でもなんでわざわざ昼時に...一番暑い時間帯ですよ」

 

「別に困っていただけで何かお願いされたわけじゃないし...。彼女らが海岸を使っていない時間にやりたかったんだ。邪魔したくはないしな」

 

「....はあ、事情はわかりました。でも正直理解に苦しみますね...そんなの当人にやらせればいいんじゃないですか?」

 

艦娘が賑わう食堂の片隅。提督から奢ってもらった(奢らせた)海軍カレーを頬張りながら提督の言い訳にも似た先程のゴミ拾いの経緯を聞いていた。

 

ことの発端は先日の嵐だった。よく潜水艦たちが利用している海岸に嵐の影響でゴミが大量に漂流してきた。

大きなゴミや漂流物こそ、数日の間で他の艦娘たちの清掃がありすぐにきれいになったのだが、小さいゴミやガラス片など、彼女らが遊ぶ際に怪我をしてしまうものがまだ砂浜付近に残っているのではないか、そう思い立った提督が今回こんな行動を起こしたとのことだ。

 

「いいんだよ、さっきも言ったがこれは自主的にやった自己満足みたいなものだ。...むしろすまなかったな、変なことに付き合わせてしまって」

 

「...別にいいですよ。現にクソ高いカレー奢ってもらってますし。これでチャラです」

 

「そ、そうか? よかった。足りなかったら言ってくれよ、パフェだろうがなんだろうが私が全部奢ってやるぞ!」

 

「あー! ズルイ! じゃあイクたちにもパフェ奢ってよー! 金剛さんばっかりずるいー!!」

 

「じゃああたしもパフェ食べたいなー! できれば提督からアーンして欲しいかも〜!」

 

後ろで話が聞こえたのか、ワイワイと騒がしい潜水艦たちが提督のテーブルを囲むように現れると、提督の両腕にしがみつき、奢って欲しいと懇願を始める。

 

「え、えっと...すまん。これには少し事情があってな...彼女は少し特別というか...」

 

「あー! やっぱり提督と金剛さんはそういう...あう!」

 

「噂は本当だったのね! これはすぐに青葉さんに..あう!」

 

「コラー! 目的忘れて何やってんのよあんたらー! ...すみません提督、この子たち馬鹿だけど悪気があるわけじゃないんです! ほら、あんたたちも、他に言うことあるでしょ!」

 

「「ごめんなさーい!」」

 

颯爽と現れて、無茶苦茶する二人に拳骨を加えたリーダー格と思われる子が後ろから強めの口調で仲裁に入った。

一息ため息をつき、二人を強引に引き剥がすと提督の前で深々とお辞儀をした。

 

「...提督、お忙しい身にありながら我々のためにご尽力していただいたとききました。なんとお礼を申し上げたらいいのか...」

 

「ありがとー提督!」

「おかげで砂浜で安心して遊べるようになったのー!」

 

嬉しそうに後ろでピョンピョンと跳ねながらお礼を言う二人を尻目に、提督の手を愛おしそうに握った彼女の目はうっすらと涙を浮かべていた。

あまりの感極まった様子に少々混乱していたが、それは提督も同じようで、怪訝そうな顔で握られた手を見つめると、苦笑いした。

 

「ちょ、ちょっと待て。誰から聞いたかは知らんが、何か誤解してないか? ちょっと海岸のゴミを拾っただけでそこまで大層な事は...」

 

「...大層な事ですよ。我々潜水艦一同、こんなにも大切にされて過ごせる鎮守府はここが初めてなんですよ。少しくらいお礼をさせてください。そうじゃなきゃ私、申し訳なさで少しおかしくなってしまいそうで」

 

「...そうか。じゃあ、お礼と言うかはわからんが、まだ砂浜の掃除は途中でな。今度やる時にはみんなで手伝ってくれ。人手はいくらあっても困らんしな」

 

「はい...! 我々一同、全力を持っていただいた特別任務、遂行させていただきます! また連絡してください!」

 

「目指せパーフェクト掃除!」

「私頑張っちゃうからー!」

 

「...ここが初めて、か」

 

「え?」

 

ポツリと提督が漏らした声に思わず目がいく。

嬉しそうに何度もお辞儀をしながら立ち去った嬉しそうな彼女らとは対照的に提督は少し悲しそうな、少し怒っているような、陰鬱な顔をしていた。

 

私はその日からしばらくその表情が頭から離れなかった。

 

「...ふう、じゃあとりあえず今日はここまでだ、金剛ありがとな。また明日」

 

「...」

 

「...金剛?」

 

「...え? あ、ソーリーね! ちょっとボーッとしてて! 今日は失礼します!」

 

「おう、疲れてるなら言ってくれよなー!」

 

「...あーもう! 何やってるんですか私は...」

 

逃げるように提督室を後にした私は帰路の途中もずっとあの日のことが思考を乱す。

あの日、あの瞬間、提督は何を思っていたのだろう。何故あんな表情をしていたんだろう。

考えれば考えるほど、蟻地獄のように思考ははまっていき、堂々巡りを繰り返す。

理解できないことが悔しいのか、無意味なほど私は苛立ちを募らせていた。

 

そんな釈然としない日々を数日過ごしたある日、私に大きな転機が訪れる。

 

「...あ、そうだ金剛、明日の夜は暇か?」

 

「夜ですか? ええっと...別に特段用事はないですが...」

 

「そうか、もし金剛がよければなんだが...軽く飲みに行かないか? もちろん全額私が負担する」

 

「へえ、珍しいこともあるんですね。押しもお酒も弱い提督からお誘いなんて...」

 

実際、提督が艦娘から誘われることは星の数ほどあるこの鎮守府でも、提督の方から艦娘に酒の誘いがかかった話なんてほとんど聞いたことがない。

特段、提督がコミュニケーションに奥手なこともあるが、単純に他の人を誘って飲むという選択肢をあまり持ち合わせていないらしい。

遥か昔、同じく奥手であろう榛名から恨み節にも似たようにそう話された記憶が脳裏をよぎった。

 

「...一言余計だが、うむ、私も記憶の限りでは初めてだ。 ちょっと話したいことがあってな。...ここでは少し話しづらい」

 

「...うーん、よくわかりませんが...。いいですよ。明日は休みですし、そんなに遅くならなければ問題ないですけど」

 

「よし、じゃあ予約だけしておくよ」

 

就業時間が過ぎ、提督が予約した鳳翔さんの居酒屋に向かう。

人はあまり誘わない提督だが、鳳翔さんのお店にはたまに一人で顔を出しているらしく、のれんをくぐると大急ぎで厨房から鳳翔さんが私たちを迎えてくれた。

 

「提督! きてくれたんですね! お久しぶりです!」

 

「うむ、時雨の一件以降か、あの時は迷惑をかけた。 今日も個室を急に頼んでしまってすまんな」

 

「ぜんっぜん! 大丈夫ですよ! それよりもっときてくれたっていいのに! サービスしちゃいますよ! 今日のおすすめはこの...」

 

楽しそうに談笑する二人。嬉しそうにはしゃぐ鳳翔さんは普段の落ち着いた雰囲気のは違い、身嗜みを精一杯整えたであろう姿に、小学生のようなはしゃぎ方で提督に絡んでいた。その顔は終始自然な柔らかな笑顔を纏っており、まさに「恋する乙女」そのものだった。

 

「ちなみに今日はお席はどうしますか? もし金剛さんがよろしければカウンターで私も一緒に...」

 

「いや、個室で頼むよ。上司である私がいては気も休まらんだろう。仕事に支障が出てしまっても悪いしな」

 

「そ、そうですか。お気遣いありがとうございます。...では個室にご案内しますね」

 

明らかにしょんぼりとした鳳翔はせめてもとゆっくりと個室まで向かう。

この居酒屋には3~4人用の個室のほか、鳳翔さんと向かい合えるカウンターがあるタイプのお店だ。

カウンターであれば提督と話す機会も多少なり増えると勇気を出して声をかけたのだろうが、意味が分からないほど人の好意に鈍感なこの提督にはまったくの空振りになってしまった。

 

「ではごゆっくりー...」

 

「おう、ありがとうな。うーん、鳳翔さん、急に元気なくってしまったな。何か気に障ることでも行ってしまっただろうか、、」

 

鳳翔さんが出て行ったのを確認すると、少し首をかしげながらメニューを眺める提督。

自己肯定感の低さがここまで裏目に出ると、むしろ少し面白いまである。

 

通された部屋は暖簾や障子といった敷居ではなく、ドアが付いた完全な個室。

席に着き注文した酒やおつまみが届き、よくわからない提督との飲み会が始まった。

飲み始め、しばらくは最近どうか、とか職場に不満がないかとか、しょうもない質疑応答が続いた。

何かを話す機会をうかがっているのか、単に会話が下手なのかわからないが、なんとも退屈で、ただ酒が飲める状況でなければ今すぐ帰りたかった。

 

「えーっと、、好きな食べものとか、、」

 

「あの、奢ってもらう立場でこんなこと言うのあれですが、、結局なんで突然誘ってきたんデスか? あんなにもったいぶって話したかったことってこんなことですか?」

 

しばらくは我慢していたが、ずっとこんな調子で煮え切らない態度の提督につい、話をぶった切って聞いてしまった

 

「、、そうだな。すまん、いろいろと考えてしまってな。まわりくどい話をする柄でもないな」

 

そういって提督は慣れない手つきで頼んだお酒をグイっと飲み干して話を続ける。

 

「お前と、、比叡の話だ」

 

「、、え?」

 

提督から出た思いがけない言葉に酒を飲む手がとまる。

しばらくの間、せまい個室にいやな静寂が訪れるのであった。

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