艦娘満足度日本一の鎮守府で溢れる願い   作:マロンex

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明石の願い
ガラクタ


『艦娘のくせに出しゃばるな』

『そんなガラクタ、現場で使えるか』

 

そうか、私はダメなんだ。あの日の夜、私は真剣に発明をすることをやめた。

 

ー鎮守府食堂

 

「テートクぅ〜♡ 今日は一緒に昼ゴハン食べるデスよ〜!」

金剛は食堂の入口で、提督の腕にがっちり絡みついていた。

 

「お、おい金剛、今日は遠方演習じゃなかったか?」

 

「そんなのとっくに終わらせてきましたヨォ! それより、今日はとっておきの食材で作ってきたのでぜひ!」

 

艦娘たちの視線が集まる中、金剛はまるで子どものように笑って離れようとしない。

 

演習でも。

 

「ナイス指揮デース! 流石私のテートク!」

報告を終えるたびに抱きついてくる。

 

執務室でも。

「ん〜♡ ここ、私の指定席デスね!」

そう言ってソファではなく提督の椅子の肘掛けに腰を下ろす。

ペンを動かす提督の肩に頭を預け、時折「テートク〜」と小声で呼びかけてくる。

 

あの夜、彼女が泣き崩れた姿を見ている故、無碍にもできず、ここ数日ずっと対処に困っていた。

当然彼女の豹変ぶりをみた艦娘たちは気が気でないようだ。

 

「て、提督! あんた! こいつに何したのよ! 数日前まで殺す気満々だっだのに! まさか手出したんじゃないでしょうね!?」

 

「ねえ、提督、噂で聞いたんだけど、金剛の部屋で一夜過ごしたってほんと? 嘘だよね?...嘘だよね!?」

 

なぜかここ最近ずっと激高している曙に胸倉をつかまれ、目からハイライトが消えている気がする時雨になぜか首元にナイフを突きつけられている。

 

あの事件から数日、普段よりさらに騒がしい日々が私を待っていた。

 

 

「それにしても...姉さまがあんなに惚気るなんて...予想外です。ちょっと油断してました」

 

榛名がぽつりと呟く。

今までの反動か何かわからないがしばらくは金剛が私に依存する日々は続きそうだ。

 

 

『こんなもの創って何になる、早く廃棄しろ』

『そんなガラクタ、現場で使えるか! 艦娘のくせに!』

 

「やめてください!! それは私のたった一人の!!」

 

「ーやめて!!」

 

ベットから飛び起きた私の体は冷や汗でぐしゃぐしゃだった。

「大切な発明」が壊され、金属の塊となったあの日から私は発明をやめた。

 

ー明石の工房

 

「あの...明石さん?」

 

工房の奥で部品の整理をしていた私は、聞き慣れない声に振り返った。

 

入口に立っていたのは、見覚えのない艦娘だった。

私よりも少し小柄な女の子。

 

「初めまして! 夕張です。今日からこちらでお世話になります」

 

「あ、ああ...夕張さん。聞いてる。修理担当で配属されたって」

 

私は作業台に置いていた工具を片付けながら答えた。

そういえば、ここ最近、修理の依頼を数を鑑みて、提督が新しい子を赴任させてくれると聞いていた。

この子がきっとそうなんだろう。

 

「この鎮守府の工房、噂以上にすごいです! 設備も充実してるし、工具の種類も豊富で...赴任できるって聞いてから眠れないくらいわくわくしてたのに...想像以上ですよ!!」

 

夕張は目を輝かせながら工房内を見回している。

その様子を見ていると、昔の自分を思い出してしまう。

 

(...昔の私も、こんな風に新しい機械や部品を見るのが好きだった)

 

「でも、私が一番驚いたのは...」

 

夕張が私の方を振り返る。

 

「ここに私の憧れの先輩がいるってことです!」

 

「え?」

 

思わず手に持っていた部品を落としそうになる。

 

「あ、憧れって...私のこと? そんなにたいそうなこと...」

 

「ほら、あの自動修理装置とか、効率化エンジンとか...私、明石さんの発明に憧れて修理の道を志したんです! わたしも艦娘がよりよく生活できるような発明を作って...」

 

夕張は純粋な瞳で、嬉々として自分の夢を語る。

キラキラとした彼女の声はノイズのようにしか聞こえず私には届かない。

...いや、届かないんじゃない。体が拒否してるんだ。

私のあったかもしれない幻想の姿を映しているような気がして。

 

(...あの頃の発明を、覚えている人がいるなんてね)

 

胸の奥が苦しくなる。彼女が語っているあれらは全て「ガラクタ」だと言われ、壊されてしまったものたちだった。今はもう設計図さえ残っているかわからない。

 

「あ、あれは昔の話よ。今は修理専門でやってるから...」

 

「でも、明石さんの発明品は本当にすごかったです! 特に自動修理装置なんて、今でも実用化されてもおかしくないくらい...」

 

「やめて!」

 

思わず声を荒げてしまう。夕張がびくりと身を縮める。

工具から油がたれ、ポチャンと響く。そんな音すら聞こえるほど、工房は静寂に包まれた。

 

「ご、ごめんなさい...私、何か嫌なことを...」

 

「い、いや...こっちこそごめん。...ただ、その話はもうしたくないから...ごめんね。....とにかく! 私はいま、修理専門で、発明はその...引退したの!」

 

「そ、そうなんですね...ごめんなさい、配慮できなくて...。でもなんで...」

 

そういいかけて、はっとした様子の夕張は、口を手で押さえ申し訳なさそうに謝る。

 

「...それもごめんね。とにかく、今はこれでいいんだ。私は。ははっ」

 

痛いところを抉られ、夕張に苦笑いするが、彼女の申し訳なさそうな顔をみて私は俯いてしまった。

気まずさで、下を向いたまま手元の部品をいじり始める。いやな沈黙が工房に流れた。

 

その時、工房の扉がバタンと開いた。

 

「明石〜! 大変デス〜!」

 

金剛が慌てた様子で飛び込んできた。その後ろから、困ったような表情の提督も続いて入ってくる。

 

「どうしたの、金剛?」

 

「実は...」

 

提督が苦笑いしながら口を開く。

 

「ちょっと直してほしいものがあってな。ちょっと年季の入った機器なんだが...金剛、渡せるか」

 

「ソーリー...。ワタシ、テートクのために一生懸命だったのデスが...」

 

金剛が申し訳なさそうに、壊れた通信機の部品を差し出す。見るからに複雑そうな精密機器だった。

 

「うーん...これは結構大変ね。部品も特殊だし...」

 

私が部品を見ていると、隣から夕張が覗き込んできた。

 

「あ、これ見たことあります! 確か中央の基板がキーになってて...」

 

「そうね。でもこの基板、もう製造されてない型だから、作り直さないと」

 

「作り直すって、...明石さんなら新しく設計できるってことですか!?」

 

夕張の期待に満ちた視線が私に向けられる。

 

「い、いや...私はただの修理屋よ。そんな大それたことは...」

 

「でも、明石さんならきっと!」

 

「だから、私はもう発明とかは...」

 

また気まずい空気が流れそうになった時、提督が口を開いた。

 

「夕張か、今日から赴任だったな。よろしく頼む。明石、無理しなくていいからな。できる範囲で頼む」

 

提督の優しい声に、少し安心する。でも、金剛の困った表情を見ていると、何とかしてあげたい気持ちも湧いてくる。

 

「...分かりました。やれるだけやってみますね!」

 

(もしかしたら、私でも)

期待に応えたいと言う気持ちが私を突き動かす。

 

「本当デスカ! 流石明石デス!」

 

金剛がぱぁっと明るい表情になる。

 

「あ、あの...私も手伝わせてください」

 

夕張が恐る恐る申し出る。

 

「え? でも夕張さんはまだ...」

 

「大丈夫です! 明石さんの技術を間近で見られるなんて、願ってもないチャンスですから」

夕張の熱意に押されて、私は頷いた。

 

「分かったわ。でも、期待しすぎないでね。私ほんと大したことないんだから」

こうして、私たちの修理作業が始まった。

 

作業を進めながら、夕張は私の手元を食い入るように見つめている。

 

「明石さんの手つき、本当に繊細ですね...」

 

「普通の修理よ。大したことじゃない」

 

「でも、この配線の仕方...教科書には載ってない方法ですよね?」

 

「あ...これは昔、自分で考えた方法。効率がいいから...」

つい口にしてから、はっとする。これも私の「発明」の一部だった。

 

「やっぱり! 明石さんの発明の応用なんですね」

 

夕張が嬉しそうに微笑む。その笑顔を見ていると、何だか胸が温かくなってきた。

(...この子は、私の発明を本当に認めてくれている)

 

「明石、すごいじゃないか」

提督が感心したように言う。

 

「これだけ複雑な機器を、こんなに短時間で...」

 

「ま、まだ途中よ」

照れ隠しに俯くが、内心では久しぶりに誇らしい気持ちになっていた。

 

「明石さん、ここの部分なんですが...」

夕張が質問してくる。技術的な話をしているうちに、私は少しずつ気持ちが軽くなっていくのを感じていた。

 

(...こんな風に、誰かと一緒に作業するの、久しぶり)

 

「流石明石デス! こんなに難しそうなのに、どんどん直っていくデス!」

金剛が目を輝かせて見守っている。

 

でも、まだ心の奥で、あの日の記憶がちくりと痛んでいた。

 

(...また「ガラクタ」だって言われるかもしれない)

 

自分が大切にしていたものが、一瞬で無価値だといわれ、破棄される。

鮮明に覚えている負の思い出がフラッシュバックする。

動悸が早くなるのを感じていると、それを察したように提督が優しく話しかける。

 

「お前の技術は本物だ。俺たちにとって、君は欠かせない存在だよ」

 

「そうデス! 明石がいないと困っちゃうデス!」

 

金剛も力強く頷く。

三人の温かい言葉に包まれて、私は久しぶりに心の底から安らいでいた。

 

「明石さん! もう一度発明してみませんか!? 私、明石さんの新しい発明見てみたいです!!」

 

「えぇ...そんな」

 

しかし否定する言葉とは裏腹に私の口角は上がっていた。

 

(...もしかしたら、もう一度...)

そんな想いが、心の奥で静かに芽生え始めていた。

 

ー数日後 明石の工房

あの日の修理作業が成功してから、私の心には小さな変化が生まれていた。

 

(...もう一度、やってみようかしら)

 

工房の奥で、私は古い設計図を取り出していた。昔描いた発明品の設計図。

あの頃の情熱を込めて描いた、大切な宝物だった。

 

「よし...まずは簡単なものから」

 

私は作業台に向かい、手慣れた様子で部品を並べ始める。久しぶりの発明作業に、心が躍っていた。

 

でも、作業を始めて30分ほど経った時だった。

 

『艦娘のくせに出しゃばるな』

『そんなガラクタ、現場で使えるか』

 

突然、あの日の記憶が鮮明に蘇った。

 

「あ...あ...」

 

手が震え始める。持っていた工具が床に落ちて、甲高い音を立てた。

 

『壊してしまえ、こんなもの』

 

ガシャン、ガシャンと、大切な発明品が次々と破壊されていく音が頭に響く。

手の震えはやがて体まで伝播して、ガタガタと震えが止まらない。

 

「だめ...だめよ...」

 

私はその場にうずくまってしまった。息が苦しくて、目の前が真っ白になる。

「明石さん! 大変明石さんが!!」

 

大きな声が反響し、私はそこで意識が途切れた。

最後に目に映ったのは泣きそうになりながら私を抱きかかえる夕張の姿だった。

 

 

ー病院 個室

目を覚ますと、見慣れない白い天井が見えた。

 

「明石さん!! よかった...ほんとによかった...」

 

恐らく泣いていたであろう、赤くはれた目をこすりながら、嬉しそうに夕張は私に抱きつく。

ぎゅっと近づかれた彼女の体は、何かを恐れるように震えていた。

 

「..ご、ごめんなさい! 私が無理やり...私のせいで...」

 

震えていた彼女は泣いていた。さっきまで泣いてたであろうに。

優しく彼女の背中をさすりながら大丈夫、大丈夫と優しく語り掛ける。

 

 

「おぉ、明石、気がついたか」

 

抱き着いたままの夕張が離れぬまま

病室に駆け付けた提督からホッと安堵のため息が出る。

 

「あの...ここは?」

 

「病院だ。夕張が倒れた君を見つけて、すぐに運んでくれたんだ。...覚えてないか?」

 

そうだった。工房で...私は発明をしようとして...

記憶が蘇ると、また胸がザワザワと不安になる。

 

その時、扉がノックされ、白衣を着た医師が入ってきた。

 

「明石さん、調子はいかがですか?」

 

「は、はい...大丈夫だと思います」

 

「...そうですか。検査結果が出ましたので、お話ししたいことがあります」

 

医師は椅子に座り、カルテを見ながら渋そうな顔をして私を見ていた。

悩んでいるような様子をしながらゆっくりと、だが気まずそうに口を開いた。

 

「明石さんの症状は、PTSD、心的外傷後ストレス障害の一種だと思われます」

 

「PTSD...?」

 

「ええ、退役軍人の方がよくなるのですが、過去の辛い体験が引き金となって、フラッシュバックやパニック発作を起こしている状態です。...今後もそれが引き金になるかもしれないです。何か心当たりはありませんか?」

 

私は俯いた。言いたくない。あんな過去、きっと誰に言ったって...

悲しい記憶が走馬灯のように頭をよぎり、反射的にぎゅっと、こぶしを強く握る。

嫌な汗をかきながら、倒れた時のように体が震えだしたとき、私の硬直したこぶしに重ねるように提督が手を握る。

 

「明石、無理に話す必要はない。嫌なことはいやって言っていいんだ」

 

それを見た夕張が負けじと私の手を同じように握り、うんうんとうなずく。

二人の優しさに触れ、ゆっくりと心の氷が解けていくのを感じた。

 

「す、すみません。野暮なことを聞きましたね。これは失言でした。忘れてください」

 

少し慌てた様子の医者。きっとこの人だって悪気があったわけじゃない。私のことを本気で直したいんだ。

 

(...私も、自分と向き合う必要があるのかもしれないな)

 

震える手はもう、二人に守られている。私も変わる時だ。

 

「...この鎮守府に来る前の話です」

 

病室の重苦しい雰囲気の中、彼女がトラウマを抱える原因となったある事件が話され始める。

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