ー回想 軍本部開発部
私は必死だった。
艦娘として特例で軍本部の開発部に在籍することが許されたのは、私の技術が認められたからだった。
でも、現実は違った。
「また艦娘か。なんで人間と同じ扱いなんだ」
「所詮は兵器だろう。開発なんてできるわけがない」
「どんな手を使ってここに来たんだ?」
廊下ですれ違うたびに聞こえる陰口。
会議では私の意見は無視され、成果を出しても評価されない。
それでも私は諦めなかった。
誰よりも早く出勤し、誰よりも遅く帰る。
休日も研究室にこもって勉強し、発明品を作り続けた。
それが、独りぼっちの私の唯一の楽しみだったから。
嫌がらせに耐えながら、私はひそかにある発明に取り組んでいた。
それは知能を搭載したロボット。
そう、私は私の手で私だけの友達を創ろうとしていたのだった。
誰にも理解されない孤独な日々の中で、せめて一人でも私を理解してくれる存在が欲しかった。
「で、できた...! うまくうごくかな..」
起動音と共に光る目が開き、こちらを見つめている。
モーター音が鳴り響いたのち、ゆっくりと口を開く。
「おは、よう、ございま、す」
「やった..!やった!! 動いた!」
「はい、よろしく、お願い、します。マスターのお名前、なにですか?」
「私の名前は明石よ、あ、か、し」
「あ、、か、、し、、。あかしさん。ですね。よろしくです」
孤独だった私の日々に明かりがともった気がした私は完成した唯一の友達に、私は「あかり」と名前をつけた。
不具合こそ多かったもののそこもたまらなく愛おしく、愛くるしかった。
初めて、心から私を受け入れてくれる存在ができ、日々の生活にも活気が出てきた。
「あかり、行ってくるね」
「はい、明石、いってらっしゃ! いってらっしゃ!」
「ふふっ、だからいってらっしゃいね。まったく」
こんな他愛もない会話だけでも今まで感じたことのない幸せに満ちていた。
あかりは私の話を聞いてくれて、一緒に研究をしてくれて、私が落ち込んだ時は励ましてくれた。
ーだが、その幸せは長くは続かなかった。
ある日、私が研究室に行くと、あかりの姿はなかった。
代わりにいたのは、開発部の部長と数名の職員だった。
「明石、君は職務規定に違反した」
「え?」
「私的な発明を職場で行い、資材を無断使用した。これは重大な規律違反だ」
「で、でも...そんな規律きいたこと...」
「艦娘のくせに出しゃばるな、まったく..ただでさえ厄介だというのに...」
部長の冷たい言葉が胸に刺さった。
「もういい、今回はこのガラクタの廃棄で大目に見てやる」
「きいたか、小娘! 上官の寛大なお心に感謝しろ!」
「へ!? ちょ、ちょっとまってください! それだけは!」
「...やれ」
しかし、部下たちはにやりと笑ったのち、無慈悲にハンマーを振り下ろし、無惨に破壊されていった。
「あかり...あかり!」
私は必死に破片を拾い集めようとするが、職員がそれを制止した。
「何をしている! これは処分だぞ! 上官の命令に逆らうのか!?」
「せめて資材だけでも...」
「だめだ! これは軍の資材を勝手に使用しただけだ! お前なんぞに所有権はない」
「わかり...ました。申し訳ありませんでした...」
涙は出なかった。そんな気力すらわかなかった。
本当に絶望したとき、心が死んでしまったとき、きっと涙なんて出ないんだろう。
後から思えばそんな状況だった。
その日、私はすべてを失った。
友達を、希望を、そして発明への情熱を。
支えの柱が壊れた建物のように、私はその後すぐに開発部に異動願を出した。
異動後は、一定の評価はされていたため、鎮守府の工房係として転々としていた。
だが、行う作業はマニュアルに準じた単純なものがほとんど。
刺激もなければ変化もない、モノクロな時間だった。
『やれ』
「あかし...さよなら」
「やめて!!」
「はぁ....はぁ...夢...か」
今でもその日のことは悪夢として現れる。
あかりを救えなかった自分の無力さ、理不尽さが最悪の目覚めを助長する。
私はもう二度と開発はしない。そう誓った。
ー病院 現在
「...それから私は発明をやめました。あかりを失った時の記憶が蘇って、どうしても...」
私の話を聞いた医師と提督は、重い表情を浮かべていた。
「辛い体験でしたね...」
医師が優しく言う。
「治療は可能ですが、時間がかかります。焦らず、ゆっくりと...」
「いや、もう大丈夫です。私、もう発明はしないので」
「明石...しかしお前はそれでも...」
「いいんです。もう心の整理はつきました。心配してくださりありがとうございます」
「明石...だが...」
提督が私の手を握る。
「君は一人じゃない。俺たちがいる。夕張も、金剛も、みんな君を大切に思ってる。辛いかもしれないが、もう一度だけ...」
「もういいんですって言いましたよね!」
イラつきが隠せない。医者がいうことも、提督がいうことも頭ではわかっている。そうするべきだと思っている。
だが、心が付いてこなかった。そこをつかれているようで、無性に理不尽な怒りがわいてしまった。
「...すみません。帰ってもらえますか。少し一人にさせてください」
「...わかった。すまなかったな」
(...私、なにしてんだろ)
ドアが静かに閉まり、静寂に包まれた病室で一人、明石はやるせない気持ちを抱えたまま、景色を眺めていた。