艦娘満足度日本一の鎮守府で溢れる願い   作:マロンex

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夢の続き

ー審査会当日会場にて

 

近隣鎮守府の大ホール。

合同技術審査委員会の会場は、多くの技術者で賑わっていた。

 

「明石さん、緊張してますか?」

 

夕張が隣で声をかけてくれる。

 

「...うん、すごく」

 

展示ブースには、様々な発明品が並んでいた。

 

高性能な照準器、軽量化された装甲板、新型の推進装置...

どれも技術の粋を集めたものばかりだ。

そして、私のブースには。

小さな、手のひらサイズのロボット。

新しいあかりが、そこにいた。

 

「こんなの...やっぱり地味すぎるよね」

 

不安が押し寄せる。

 

「明石」

 

提督が私の肩を叩く。

 

「君の発明は、誰かを助けるために作られた。それに大きい小さいは関係ない。あかりを信じろ、そしてそれを作った自分自身を信じろ」

 

「...はい」

 

私は深呼吸をして、自分のブースに向かった。

 

発表

「次は、第三鎮守府、明石の発表です」

 

アナウンスが響く。

私は壇上に立った。

 

観客席には、多くの技術者や提督たちが座っている。

 

手が震える。

でも、もう私は逃げない。こちらを見つめるあかりに笑みを浮かべ私は説明を始める。

 

「...私が開発したのは、整備補助用小型ロボット、『あかり』です」

 

スライドに、小さなロボットの写真が映し出される。

会場がざわめいた。

 

(やっぱり...ダメなのかな)

 

不安に押しつぶされそうになり、マイクをぎゅっと握る。

 

「この『あかり』は、整備員の手が届かない狭い場所での作業補助を目的としています」

 

私は一つ一つ、機能を説明していく。

小型カメラによる内部確認、簡単な工具操作、音声による作業報告。高度な機能はない。

だが、確実に現場で役立つ設計をぎゅっと詰め込んだ存在。

それが「あかり」だった。

 

「以前、私は...軍の秘密裏に『あかり』を作りました」

 

私は一瞬、言葉を詰まらせた。

 

「...孤独だった私を助けてくれる友達...。感情を持ち、人間と同じように考えられる、そんな「あかり」という存在です。目新しい性能も、アッと驚くような機能もないですが、私を支えてくれる存在と信じていました」

 

会場が静まり返る。

 

「でも...それはもうこの世にはいません。理由は...ご想像にお任せします」

 

心臓が激しく鳴る。

でも、言わなければならない。

 

「私は「あかり」を失ってから技術職としてやる気も希望も...そして夢も失いました。...でも支えてくれる存在に、環境に後押しされ、私は最後にもう一度私の夢の続きを見にきました」

 

「何度も言いますが『あかり』は性能面も、技術面も目を見張るような派手さはありません。もちろん、画期的な機能ももっていません。...でも」

 

私は小さなあかりを手に取った。

 

「これは、確実に私と同じ技術職を助けられます。私が生きてきて、救いになっている。それだけで、十分だと思うんです。この子は道具じゃない。良きパートナーとしてあなたの夢をきっと手助けしてくれる存在になれることを私が保証します」

 

「以上です」

 

発表を終えた瞬間、会場は静まり返った。

 

(やっぱり...つまらなかったか)

 

私は俯きそうになったその時、

 

「質問いいかな?」

 

一人の整備員が手を挙げた。

 

「は、はい」

 

「このロボット、実際に狭い場所での作業、できるのか? もしくは夜間の暗い場所とか」

 

「はい。試作段階で、エンジン内部の点検などに使用しました。また小型ライトを拡張する機能があるため、手元を照らすことができます」

 

「ほう...バッテリーの持ちは?」

 

「連続稼働で約8時間です」

 

「なんと...この大きさで」

 

質問が次々と飛んでくる。

最初の不安は消え、私は一つ一つ丁寧に答えていった。

 

審査結果

全ての発表が終わり、審査員による協議が始まった。

私は控室で待機していた。

 

「明石さん、すごかったです! 私感動しちゃいました...」

 

夕張が声をかけてくれる。

 

「うん...でも、やっぱり賞は難しいかな。地味だし...」

 

他の発明品は、どれも革新的なものばかりだった。

以前のモデルとの比較、刷新されたスタイルや機能、新しいシステム...。

どれもきらびやかで反応も上々だった。

 

...だが、私のあかりは、あくまで実用品。華やかさには欠ける。

発表が最初の方だったこともあり、印象も薄くなってるかもしれない。

時間がたてばたつほど、不安が押し寄せる。

そんな不安な手を、夕張がずっと握っていてくれた。

 

「結果発表を行います」

 

アナウンスが響き、私たちはホールに戻った。

 

「では、まず今大会の最優秀賞は...第一鎮守府、新型対空レーダーシステム、製作者は壇上へ」

 

会場に拍手が響く。

やはり、そうだよね。

 

「つづいて優秀賞は...」

 

次々と名前が呼ばれていく。

私の名前は呼ばれなかった。

 

「技術革新賞...」

 

「実用化促進賞...」

 

全ての賞が発表され終わった。

 

(そうか...やっぱり。でも悔いはないわ)

 

私は静かに席を立とうとした。

その時、提督が隣に座った。

 

「明石」

 

「提督...」

 

「約束は、約束だ。すまんが、提督としての責務は果たす」

 

提督が懐から、あの辞職願を取り出した。

私の名前が書かれた、白い封筒。

 

「これの件だ」

 

その言葉に、涙が溢れそうになった。

 

(そうだよね...当然だ。...あれ、なんでだろ、わかってたのに)

 

私は約束を果たせなかった。

賞を取ることができなかった。

だから、辞職しなければならない。

私から言い出した至極まっとうな流れ。受け入れざるを得ない。

 

「提督...今まで、本当にありがとうござい...まし..」

 

涙が頬を伝う。

 

「私...やっぱり...続けたいです...」

 

自分でも何を言っているかわからなかった。

体で、頭でわかっていても、心が事実を拒否していた。

膝をつき、提督の手の辞職届を握り、懇願した。

 

「...身勝手なのは重々承知です。罰だってなんだって受けます...だから...」

 

だが、提督は私の手をゆっくりと引き離し、官帽を深くかぶると、こういった。

 

「いや、約束は約束だ」

 

提督が優しく微笑んだ。

 

「君はの辞職届を破棄する」

 

そして、その封筒を。

ビリビリと、目の前で破り捨てた。

 

「え...」

 

「おめでとう、明石」

 

「どういう...」

 

その時、アナウンスが響いた。

 

「そして、今年度の特別審査員賞...第三鎮守府、明石」

 

「え?」

 

私は自分の耳を疑った。

 

「明石さん! 呼ばれてますよ!」

 

夕張が私の背中を押す。

私は壇上に上がった。

 

「明石の整備補助ロボット『あかり』は、華やかさや革新性では他の作品に劣るかもしれない」

 

審査員長が語る。

 

「しかし、技術者としての真摯な姿勢、そして過去の失敗から学び、再び立ち上がる勇気。それらを高く評価し、特別審査員賞を授与する」

 

私に賞状とトロフィーが手渡される。

会場から、温かい拍手が送られる。

私は...また泣いていた。

でも、今度は違った。

嬉しくて、嬉しくて、涙が止まらなかった。

ゆっくりと流れる大粒の涙をぬぐってくれたのは、感情を搭載していないはずの「あかり」だった。

少し混乱している私に近づき、小さなおなかにメッセージが表示された。

 

ーみ・つ・ケ・て・ク・れ・て・ア・り・ガ・ト・う

 

そうか、ずっと勘違いしていた。

夢を壊されたと、誰かに夢をつぶされたと思い込んでいた。

 

ーでも気が付いた。

 

ー夢をつぶしてしまっていたのは「諦めてしまった自分自身」だったんだ。

 

 

ー鎮守府

その後、艦娘初である、賞の受賞は瞬く間に鎮守府中に広まり、私は一躍有名人となった。

 

「明石、おめでとう」

 

鎮守府に戻ると、提督が改めて祝福してくれた。

 

「ありがとうございます...」

 

私はトロフィーを抱きしめながら、提督を見上げた。

 

「提督...あの、どうしてあの時、発表より前に辞職願を破ったんですか?」

 

「ああ、あれか」

 

提督が笑う。

 

「明石を信じていた...とかっこつけたいとこではあったが...実は、審査員の一人から事前に連絡があってな。『明石の発表は素晴らしかった。何らかの形で表彰したいが軍部からの猛反対があるのをどうにかしてほしい』と申告を受けていてな」

 

「え...」

 

「君は正当に評価されたんだ。艦娘というだけで行われるいわれのない差別がある中、お前の発明は確かに、一人の審査員の心を動かしたんだ。軍という強い圧力が合っても尚な」

 

「そんな...じゃあ、提督が...」

 

「当たり前だ。いったろ、提督としての責務を果たすと。審査員の評価の責任はすべて私が請け負った。今のお前は私がいる。お前の夢を、私にも一緒に見せてくれ」

 

私は言葉を失った。

 

「まあ、なんだ。結果は副産物だが、つらいことから逃げず、最後まで諦めずに挑戦した。それが何より大切だったんだ」

 

提督が私の頭を優しく撫でる。

 

「明石、私がしたのはあくまで「正当な評価」をさせるための手助けだ。それ以降は君の力、君の成果だ。君は十分に成長した」

 

その言葉に、また涙が溢れた。

 

「提督...私、気づいたんです」

 

「ん?」

 

「夢を壊して、逃げていたのは...自分自身にも原因があったって」

 

私はトロフィーを見つめる。

 

「前のあかりがいなくなってから私ずっと逃げていました。ずっと早くこの地獄から解放されたいって思ってました。」

 

「明石...」

 

「これからは、提督に導いてもらいながら、少しずつ前に進んでいきたいです。私の夢の続きが見られる場所まで」

 

私は提督の目をまっすぐ見つめた。

 

「ああ、約束しよう。君をしっかりと導いていく」

 

提督が優しく微笑んだ。

私は嬉しくて、提督の胸に抱き着いた。

 

ー工房にて

 

翌日、私は工房に向かった。

久しぶりに、本当に前向きな気持ちで。

 

「明石さん、おはようございます!」

 

夕張が笑顔で迎えてくれる。

 

「おはよう、夕張。今日から、また一緒に頑張ろう」

 

「はい!」

作業台には、新しい修理依頼が積まれていた。

私はそれを一つ一つ確認する。

もう、手は震えていなかった。

 

(まだ、完全に過去を乗り越えたわけじゃない)

 

最初のあかりのこと、あの時の記憶。

それらは、まだ私の心に傷として残っている。

でも、それでもいい。

傷を抱えながらでも、私は前に進める。

 

(誰かの役に立つために)

 

それが、私が技術者である理由だから。

 

「明石さん、これ見てください!」

 

夕張が新しい依頼書を持ってくる。

 

「新型の小型ロボットの量産化の話が来てるんです! あかりの実用化ですよ!」

 

「本当!?」

 

私の目が輝く。

 

「はい! 審査会を見ていた整備員の方々から、正式な要望が来たんです」

 

「そっか...あかり、本当に役に立てるんだね」

 

私は作業台の隅に置いてあった、試作機のあかりを手に取った。

小さなボディ。

シンプルな機構。

でも、確かに誰かを助けられる存在。

 

「ありがとう、あかり」

 

私は小さく呟いた。

 

「君のおかげで、私は前に進めた」

 

窓の外から、温かい日差しが差し込んでくる。

まだ、道のりは長い。

でも、私はもう一人じゃない。

仲間がいる。

信じてくれる人がいる。

そして、私を必要としてくれる人がいる。

 

(ありがとう、提督。夕張)

私は小さく微笑んだ。

明石の新しい物語が、今ここから始まる。




明石編は終了ですが、この後、少しその後のお話を挟みます。
提督との関係性の変化に着目してみてください。
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