艦娘満足度日本一の鎮守府で溢れる願い   作:マロンex

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出会いは突然に

「あの...どなたですか?」

 

その男はある日突然訪れた。

恐らく提督と思しきその男は、私を見るなりぎょっとした様子ですぐに近づいてきたのを覚えている。

 

「...君、艦娘か。その傷はどうした」

 

「え? わ、私ですか?」

 

受付で書類整理をしていた私に急に話しかけられ、驚いて顔を上げた。

 

「少し、時間をもらえるか」

 

「え、でも、私はこれから出撃の準備が——」

 

「それはもういい」

 

その男は急に私の手を取った。

 

「君は、俺と一緒に来るんだ」

 

「え……? ちょっと、何を——」

 

「説明は後だ。今すぐ、ここを出る」

 

男の目は真剣だった。そこには、一切の迷いがなかった。

 

「で、でも! 許可なく鎮守府を離れることは——」

 

「許可?...いるか。私が責任を取る」

 

そういって腕を引かれたが、不思議と強引さは感じなかった。

本当に心配している、そんな思いが伝わってくるような力強さだった。

 

「...君を見た瞬間に分かった。このままじゃ、君は本当に壊れる」

 

「司令官、お願いです。私は大丈夫ですから——」

 

「大丈夫じゃない!」

 

男の声が響いた。

その場でかがんだその人は泣きそうな表情で私の方に手を置いた。

 

「素人が見てもわかる。装備はボロボロ、体にはいたるところに傷、誰がどう見ても正常じゃない...正常じゃないんだよ...」

 

私は言葉を失った。

この男は——まだ会って数時間しか経っていないこの人は、どうしてこんなにも自分のことを心配してくれるのだろう。正直当時の自分にはわからなかった。

 

「行くぞ。私の鎮守府まで」

 

「でも、勝手に連れ出したら、規律違反に——」

 

「構わない」

 

男が赤城を真っ直ぐ見つめた。

 

「さっきも言っただろう。私が全ての責任を取る。君は何も心配しなくていい」

 

その言葉に、赤城の目が揺れた。

責任を取る——誰かが、自分のために責任を負ってくれる?

 

「さあ、行こう。...傷が痛んだらすぐに言ってくれ」

 

男に手を引かれ、赤城は半ば強引に鎮守府を後にした。

 

どれくらいたっただろうか。

気づいたときには、見知らぬ港に到着していた。

 

「ここが...?」

 

「ああ、私の鎮守府だ」

 

新設されたばかりの鎮守府は、まだ設備も整っていない状態だった。

だが、清潔で、整理されていて——前の鎮守府とは全く雰囲気が違った。

 

「提督! お帰りなさい!」

 

若い艦娘たちが駆け寄ってくる。

 

「ただいま。悪いが、今すぐ工廠を開けてくれ。それと、明石を呼んでくれ」

 

「はい! ...あの、その方は?」

 

「すまん説明は後でするが別の鎮守府の艦娘だ。これから、ここで治療を受けてもらう」

 

周りの艦娘たちが、ボロボロの私を見て息を呑んだ。

 

「こ、こんな状態で...どうして?」

 

「説明は後だ。今は一刻を争う」

 

男に工廠へと案内される。

 

「司令官、本当にいいんですか? 私は他の鎮守府の所属で——」

 

「今は関係ない。...困惑させてすまないが私を信じてくれ」

 

慣れた様子で工廠に着くと、何やら電話で誰かを呼んでいる様子だった。

 

「まずは君の体を治す。それが最優先だ」

 

程なくして、工作艦の明石が駆けつけてきた。

 

「司令官、呼ばれて——って、な、なんですかこの状態...」

 

明石が赤城の状態を見て、顔色を変えた。

 

「酷すぎる...どうしてこんなになるまで...」

 

「すぐに修理できるか?」

 

「できますが...かなり時間がかかります。装備の損傷もそうですが、栄養状態も最悪です。まず入渠させて、それから——」

 

「頼む。できる限りのことをしてやってくれ」

 

「了解です」

 

明石が私に優しく微笑みかけた。

 

「大丈夫。すぐに楽になるからね」

 

——私はまだ状況が理解できていなかった。

なぜ、自分はここにいるのか。

なぜ、この人たちは自分を助けようとしてくれるのか。

 

「あの...」

 

「ん?」

 

「どうしてこんなことを...こんな見ず知らずの艦娘に何してるんですか。下手したら懲戒もあり得るのに...」

 

困惑した私にその男は頭に手を置いた。

 

「私が許せなかったからだ」

 

「...え?」

 

「君を見て見ぬふりはできない。君ら艦娘はもっと大切にされるべきだ。命がけで国を背負っている仲間がそんな扱いを受けるのは許せない」

 

男の目は真剣だった。

 

「俺は、不当な扱いから君を守る。それが俺の責任だ」

 

その言葉に、私の目からは自然と涙がこぼれた。

悲しいわけでもない、つらいわけでもない。

きっと体が勝手に出したサインのような、自分でも気が付かない涙だった。

 

ー三日後

 

私の状態は相当よくなかったようだ。

明石に説明されながら治療を受けている最中、鎮守府の玄関に怒声が響いた。

 

「ここの提督を出せ! 今すぐだ!」

 

それは私の提督だった。

顔を真っ赤にして、怒り狂っている。

勝手に私を持ち出したことに相当怒っているようだった。

 

「どういうつもりだ! 俺の艦娘を勝手に連れ出して!!」

 

応対に出た男は、冷静に答えた。

 

「...私はこの子を保護しただけだ。随分ひどい状態だったからな」

 

「だまれ! 赤城は俺の鎮守府の所属だ。俺の所有物をどう扱おうと勝手だろう!」

 

所有物——その言葉に、男の表情が凍りついた。

 

「...今、何と言った?」

 

「だから、俺の所有物だと言っている! さっさと返せ!」

 

「所有物」

 

男の声が、低く、静かになった。

だが、その声には抑えきれない怒りが渦巻いていた。

 

「艦娘を、所有物だと?」

 

「当然だろう! 戦力として配備された以上——」

 

「黙れ」

 

男の一言が、彼の言葉を遮った。

 

「もう一度言ってみろ。艦娘が所有物だと」

 

「な、何を——」

 

「もう一度言ってみろ!」

 

男の怒声に、前の司令官が一瞬たじろいだ。

 

「艦娘は道具じゃない! 所有物でもない! 一人一人が、心を持った存在だ!」

 

男が一歩、前に踏み出した。

 

「お前は、赤城に何をした?」

 

「何をって——」

 

「瑞鶴を失った責任を、全て彼女に押し付けた。違うか?」

 

先ほどまで顔を真っ赤にしていた提督の顔がどんどん引きつっていく。

 

「視察前に資料は一式読ませてもらった。...あの作戦の失敗は、間違いなくお前の情報収集不足が原因だ。だが、お前はそれを認めず、赤城一人に罪を負わせた...最低だ」

 

「知ったような口をきくな! 俺が瑞鶴を失ってどれだけの損失を被ったかわかるまい!」

 

「損失...お前、ここにきてまだ得だ損だの話をしてるのか」

 

「」

 

「一番辛かったのは赤城だ!」

 

男の声が震えた。

 

「親友を失って、自分を責めて、絶望の中で生きていた。そんな彼女に、お前は何をした?」

 

男が前の司令官の胸ぐらを掴んだ。

 

「慰めの言葉一つかけず、ただ危険な任務に投入し続けた! 修理も満足にさせず、休息も与えず、まるで使い捨ての道具のように!」

 

「は、離せ!」

 

「お前に、こいつを管理する資格はない」

 

男に突き飛ばされた提督は、床に倒れ込む。

 

「赤城は、もうお前の元には戻さない」

 

男が冷たく言い放った。

 

「私が赤城を正式に引き取る。転属の手続きは、俺が上層部と交渉する」

 

「そ、そんな勝手な——」

 

「勝手? お前に勝手だと言う資格はない」

 

「なっ...」

 

「帰れ。二度と、ここに来るな」

 

男の言葉に、前の司令官は屈辱に顔を歪めながら、鎮守府を後にした。

宣言通り、提督は私を正式に鎮守府に転属させ、私は新たな地で生きることとなった。

 

 

ー私、どうなるんでしょうか。

 

ー突然の離別

ー突然の異動

 

赤城は目まぐるしく変わる世界に不安と困惑、そして感じたことのない提督への感情を感じながら与えられた部屋でつかの間の休息をとるのだった。




提督が二人でてくるため、読みづらかったら申し訳ないです。
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