艦娘満足度日本一の鎮守府で溢れる願い   作:マロンex

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分離装置の真相

あれは——龍田が倒れる、少し前のことだった。

深夜の工廠に——提督が来た。

 

「あれ...提督? 珍しいですね」

 

提督がこの時間に工廠に来ることはほとんどなかった。

少し気分が高揚したが、冷静を保った。

 

「明石」

 

「はい! えっと、こんな時間に何か...?」

 

提督が——明石の作業台の前に立った。

少しの間、黙った。

それから——静かに、言った。

 

「事情はあまり詮索しないでほしいのだが...龍田を——助けたい」

 

明石が——手を止めた。

 

「龍田の様子がおかしいんだ」

 

提督が続けた。

 

「最初は訓練中だけだった。気のせいかと思う時期もあったが、最近増えている。あいつがぼーっとする時間が」

 

「うーん...考えすぎでは? 疲れてるとか...」

 

「うむ。もちろん取り越し苦労の可能性も十二分にある。...だが...明らかに日に日にその時間長くなっている気がするんだ」

 

提督が静かに言った。

 

「廊下で。書類仕事の最中に。会話の途中でも——いつもの笑顔だが違和感がある」

 

明石が——黙った。

 

「龍田の中に何かがいる...気がする。そしてそれが侵食している。龍田の精神というか...何かを」

 

「なるほど...それで、私に何を?」

 

「その——何かを、龍田から引き剥がせるような装置を。作れないか」

 

明石が——提督を見た。

 

「...装置、ですか」

 

「ああ。以前の時雨にような二重人格ではない。おそらく別の何か精神的なものがいる。それを物理的に分離できるような——そういった仕組みが、できないかと思って」

 

明石は——しばらく、黙っていた。

精神を、物理的に分離する。

言葉にすれば、簡単だった。

でも——どれだけ無茶な話か。

 

「提督、お力になりたい気持ちはあるのですが...こちらもどうすればいいのか」

 

「...無茶なのはわかっている」

 

提督が静かに言った。

 

「すまない」

 

「謝らないでください。もちろん、提督の頼みです。全力を出してやってみます」

 

明石が続けた。

 

「ただ——途方もない話だということは、わかっていただけますか」

 

「ああ」

 

提督が——少しの間、黙った。

 

「だが...私は龍田を——失いたくない」

 

それだけだった。

明石は——天井を見た。

頭の中で、何かが——動き始めていた。

 

精神エネルギーの物質化。

分離の原理。

艤装の構造との類似点。

 

できる——はずだ。

 

「はい、わかりました」

 

明石が静かに言った。

 

「提督のため、全力でやってみます」

 

「ありがとう...恩に着る」

 

「いえ、では早速...」

 

「明石...もう一つだけいいか」

 

提督が——少し、真剣な顔になった。

 

「はい、なんでしょうか」

 

「本当はみんなに公表して全員でこの問題に目を向けようと考えた時期もあった。だが...」

 

「だが...?」

 

「あいつは今悩んでいる。そしてそれをあえて意図的に隠しているように感じる。...だからできる限り——俺は見守りたい。龍田が自分で答えを出せるように。時間をかけて」

 

「...確かに、龍田さんが隠すことです。何か私たちを思った意味はあるでしょう」

 

「だからこれは——本当に最後の手段だ。使わずに済むのが一番いい」

 

明石が——提督を見た。

その目が、真剣だった。

龍田のことを——本当に、思っていた。

 

「...副作用がないとも限りません。もちろん、使わずに済むなら——それが一番です」

 

「...すまないな。作れと言っておいて使いたくないとは...横暴な上司だな」

 

「ふふっ...そんなことないってわかってますよ。いざという時には——必ず、使えるものを作ります」

 

「...頼む。お前だけが頼りだ」

 

「!!...はい!」

 

提督が——工廠を出た。

明石は——一人、作業台に向かった。

深夜だった。

誰もいなかった。

ペンを取った。

 

(お前だけ...かぁ。ふふっ)

 

小さな高揚感と優越感をもって、私は作成を開始した。

 

明石が——その場に、崩れるように膝をついた。

 

手足が震えていた。

試作品で、理論だけで作ったもの。

一度も——試したことなどない、ギャンブルもいいとこだ。

 

それでもうまくいった

 

「...うまく、いった」

 

声が——かすれていた。

目の前が、滲んだ。

提督が——振り返り時雨を地面に降ろした。

 

明石が——立ち上がった。

提督に——抱きついた。

力いっぱい。

 

「...よかった」

 

声が、震えていた。

 

「うまくいきました!!」

 

提督が——少し、固まった。

それから。

小さく、苦笑した。

 

「...ああ、賭けに勝ったな」

 

「本当によかったです...」

 

明石が続けた。

 

「て、提督震えが止まらないのでしばらくこのまま...」

 

「——ちょっと!」

 

横から——腕が伸びた。

曙が——明石の襟首を掴み、提督から——引き剥がした。

 

「はい、そこまで」

 

「え——っ、ちょっと曙!!」

 

「よかったわね、うまくいって」

 

曙が明石を横に退かしながら言った。

 

「くっ...こんな専売特許を...こんな形で」

 

「うるさい、今そういう空気じゃないから」

 

提督が——二人を見ていた。

何も言わなかった。

ただ、小さく——苦笑していた。

 

提督が——龍田を見た。

 

「大丈夫か」

 

龍田は——提督を見た。

その目を見た。

いつもと同じ目だった。

静かで、真っ直ぐな目だった。

 

龍田は——笑った。

愛想笑いでは、なかった。

作ったものでは——なかった。

自然に——溢れた。

 

「...また助けられちゃいましたね」

 

「はて、何のことか」

 

提督が——少しの間、龍田を見た。

それから小さく、笑った。

 

そのあとは何も——言わなかった。

 

それだけでよかった。

龍田は——また、前を向いた。

頬が——少し、温かかった。

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