艦娘満足度日本一の鎮守府で溢れる願い   作:マロンex

53 / 53
天龍との約束

龍田が——膝をついたまま、顔を上げた。

体から——重さが、抜けていた。

 

(...私だ)

 

(ちゃんと、私だ)

 

息を整えた。

手を見た。

震えていなかった。

 

その瞬間。

「龍田さん——っ!!」

 

時雨が——飛び込んできた。

抱きついた。

力いっぱい。

龍田は——驚いた。

 

こんなに力強い時雨を、見たことがなかった。

 

「時雨ちゃん——」

 

「よかった」

 

時雨が言った。

声が、くぐもっていた。

龍田の肩に顔を埋めたまま——続けた。

 

「よがったです...。戻っ...てきて...よかった」

 

同じ言葉を、繰り返していた。

龍田は——しばらく、動けなかった。

時雨の温度が、伝わってきた。

頬の血が、龍田の肩に触れていた。

 

この子は——

ずっと、怖かったんだ。

しばらく泣きじゃくったのち、少し落ち着いたのか震えが収まりつつあった。

 

「時雨ちゃん」

 

「...はい」

 

「その...ごめんなさい」

 

時雨が——顔を上げた。

目が、赤かった。

頬の傷から——まだ、血が滲んでいた。

龍田は——時雨の頬に、そっと手を当てた。

傷に触れないように。

 

「...あなたを悲しませてしまったわね」

 

龍田が静かに言った。

 

「謝らないでください」

 

時雨が言った。

 

「でも——」

 

「謝らないでください」

 

時雨が繰り返した。

その目が——真剣だった。

 

「龍田さん」

 

「なに」

 

「もう...一人で抱え込まないでください」

 

龍田は、答えられなかった。

 

「手紙に——提督には言わないでって書いてあった」

 

時雨が続けた。

 

「巻き込みたくないって」

 

「...ええ、そうね」

 

「でも」

 

時雨が静かに言った。

 

「少し...寂しかったです」

 

「時雨ちゃん——」

 

「危険な目にあったことに後悔はないです。...たとえどうなったとしても龍田さんが一人で消えていく方が——ずっと、嫌だった」

 

龍田の目が——揺れた。

時雨の言葉が——胸に、落ちてきた。

 

「あなたが抱えているものを、全部わかるとは言えない」

 

時雨が続けた。

 

「でも——隣にいることはできる。それだけは、させてください」

 

龍田は——時雨を見た。

目が、赤かった。

頬に、血が滲んでいた。

それでも——真っ直ぐ、こちらを見ていた。

 

「...わかったわ」

 

龍田が静かに言った。

 

「約束です。絶対ですよ」

 

「...ええ」

 

時雨が——少し、息をついた。

肩の力が、抜けた。

 

龍田は——時雨の頭に、そっと手を置いた。

 

「...ありがとう」

 

龍田が静かに言った。

 

「来てくれて、嬉しかったわ」

 

時雨は——答えなかった。

ただ、また——少しだけ、龍田に寄りかかった。

二人とも——しばらく、動かなかった。

波の音だけが、流れていた。

 

曙が——遠くで舌打ちした。

 

「ちっ...いつまでやってんの」

 

赤城が曙の頭を叩いた。

 

「少し、黙りなさい」

 

「べ、別に何も——」

 

「時雨が心配なのはわかりますが、今は少し空気を読んでください。あの子はあんなけがじゃ死にませんよ」

 

「しっ、してないわよ!!」

 

金剛が——空を見上げていた。

目が、少し光っていた。

 

「...いい鎮守府デスね」

 

誰も、答えなかった。

でも——全員が、空を見た。

水平線が、橙色に染まり始めていた。

 

ーしばらくすると、分離機から光が現れた。

 

小さな、幼い光だった。

形があった。

小さな女の子の輪郭が——ぼんやりと、そこに浮かんでいた。

 

輪郭だけが——かすかに、光っていた。

角が——小さく、見えた。

天龍だった。

天龍が——泣いていた。

 

幼い光が、波の上で——揺れていた。

 

「たつた」

 

天龍が——龍田を呼んだ。

声が、小さかった。

かすれていた。

 

「...天龍」

 

「ごめんなさい」

 

天龍が言った。

 

「ごめんなさい、たつた」

 

「謝らなくていい」

 

「でも——」

 

天龍の輪郭が震えた。

 

「しぐれを、きずつけた」

 

「...そうね」

 

「——ごめんなさい」

 

時雨が——天龍を見た。

幼い光が、波の上で揺れていた。

さっきまで——この光が、自分を殺そうとしていた。

 

ーでも

 

今は——ただ、泣いている小さな子供だった。

 

「大丈夫です」

 

時雨が静かに言った。

 

「かすり傷です」

 

「ごめんなさい」

 

「...大丈夫ですよ、天龍さん」

 

天龍が——また、泣いた。

声もなく、泣いた。

輪郭が——細かく、震えていた。

 

「たつた」

 

「なに」

 

「たつたが——きえそうだった」

 

天龍が続けた。

 

「わかってた。でも——とめられなかった」

 

「謝らなくていいわ」

 

龍田が静かに言った。

 

「あなたも——一生懸命だったんでしょ」

 

天龍が——龍田を見た。

 

「...うん」

 

波が、揺れた。

龍田は——天龍を見た。

幼い光が、今にも消えそうだった。

でも——消えなかった。

揺れながら——消えなかった。

 

「お母さん、探すんでしょ」

 

龍田が静かに言った。

 

「たつた...」

 

「約束したでしょう。一緒に探すって」

 

龍田が続けた。

 

「まだ——終わっていないわ」

 

天龍が——揺れた。

 

「...うん」

 

「だから——消えないで」

 

「わかった」

 

光が——少し、大きくなった。

 

提督が——立ち上がった。

龍田を見た。

 

「さて、一旦帰還だ。...戻って落ち着いたらでいい。全部——話してくれるか」

 

龍田は少しの間、黙った。

天龍の光を——見た。

波を——見た。

水平線を——見た。

それから——提督を、見た。

静かに、頷いた。

 

「...ええ」

 

夜明けの光が——水平線を、少しずつ染め始めていた。

橙色が——広がっていった。

天龍の輪郭が——龍田の輪郭がその光の中で、かすかに輝いていた。

二人は確かにここにいた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

壊れた世界で艦娘と(作者:@秋風)(原作:艦隊これくしょん)

 ありがちな理由で死亡した一般主人公が女神様に拾われて、壊れた世界で艦娘の自己肯定感を上げていく話。▼※注 各要素有、苦手な方はご注意ください。▼ 美醜逆転(明確には逆転ではない)▼ 神様転生(転移)▼ 男女比差有り▼ 貞操逆転▼ ハーレム▼ 一部残酷な描写など▼ 要素は限定的かつ独自的な部分を多分に含みます。▼ ※2024年 6月13日 追記▼ 主人公の口…


総合評価:6387/評価:8.49/連載:42話/更新日時:2025年11月16日(日) 00:16 小説情報

オレの周りの女の子達がフルネームを教えてくれない(作者:画面の向こうに行きたい)(原作:艦隊これくしょん)

人類はかつて、深海棲艦の脅威に晒されていたが、艦娘のおかげで助かった。だが、戦後に艦娘は姿を消した。▼なんて歴史は関係ない(と思っている)主人公が名字か名前しか教えてくれない女の子達と送るラブコメディ。


総合評価:3164/評価:7.81/連載:64話/更新日時:2026年05月02日(土) 00:00 小説情報

仮免提督といじわる空母・改二(作者:萩原 優)(原作:艦隊これくしょん)

俺は提督候補生。成績は平凡。ある日尊敬する女提督が、俺を呼び出して命じた。▼「あなた私の艦娘とケッコンしなさい」▼「はぁ?」▼深海棲艦の拠点に潜入するため、行方不明を偽装して泊地を離れる。自分の代わりに艦娘たちを守ってくれと彼女は言う。だが提督を失ったと信じている艦娘たちは、悲しむばかりで俺の事など見る余裕がない。▼ケッコンカッコカリとか言ってる場合じゃない…


総合評価:649/評価:9/連載:117話/更新日時:2026年05月09日(土) 18:03 小説情報

「あなたはやりすぎた」と危険視され女神に排除された異能の騎士、取って付けた詫び転生の勧誘を拒否して女神を斬り殺してしまう(作者:ますかるぽーね)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

「あなたはやりすぎたのです」▼類い稀な剣技と生存特化の異能《超感覚》を駆使し、帝国の領土拡大に多大な貢献を果たした近衛騎士ヒューガ。▼大陸統一により戦乱の世が終わり安寧がもたらされることで創造神への信仰が薄れることを危惧した女神の理不尽な都合の下、帝国は滅ぼされ、彼も世界から排除されてしまう。▼神の領域で再び目を覚ましたヒューガは、《天空の女神》サラから「償…


総合評価:206/評価:7/連載:58話/更新日時:2026年05月01日(金) 08:32 小説情報

離島鎮守府再建記(作者:フェレッ党)(原作:艦隊これくしょん)

庁舎全壊、人員ゼロ、艦娘ゼロ、物資少々、食料ほぼなし。▼離島の鎮守府に着任した艦娘提督の新任少尉に突きつけられる現実。▼そんな中で襲い来る深海棲艦。一縷の望みをかけた高速建造の結果、現れたのは――▼これは、1人と1隻から始まる、鎮守府を建て直す物語。▼


総合評価:2488/評価:8.82/連載:44話/更新日時:2026年05月09日(土) 22:03 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>