女提督:提督の幼馴染。提督の過去を知っている人物であり、話すことのできる数少ない友人の1人。
大鳳:女提督の護衛。鎮守府から出る際は必ずついてくる。女提督の鎮守府の初期艦。
時系列的には提督が曙に休暇を言い渡してからとその後くらいです。今回は視点があっちこっちに行く回なので、どっち視点かは物語内で明示します。
ー女提督視点
突然の電話、相手は提督だった。私は不自然に早く取らないように、少し置いてから、ゆっくりと携帯を耳元に寄せた。
「はーい、もしもし、あんたから連絡なんて珍しいわね。どうしたの?」
『いやな、近くにきていると風の便りで聞いてな、聞きたいこともあるから連絡とっただけなんだが』
「あーなるほどね。そうよね、あんたがなんの用事もなく連絡よこすわけないものね。で、聞きたいことって何よ」
『相変わらずなんかトゲのある言い方だな.....。聞きたいことってのはその辺、施設というか、遊ぶところたくさんあるだろ?なんか女性目線で見て楽しそうなところとかを教えて欲しいんだよ』
「女性目線で...?あんた、か、彼女できたとかじゃないでしょうね!!誰よ!まさかついに艦娘に手を出したの!?」
思わず大声を出してしまった。訓練生時代から浮いた話の一つもない、と言うか私以外の女は寄り付こうともしないような悲しき男から突然女を匂わせる発言が飛び出したのだ。驚くなと言う方が難しい。
『違う違う、実はな自分の艦娘の1人に休みを取らせてな、その子が休暇を楽しく過ごせるように一応こちらからもリサーチしておきたいと思っていてな....』
「あー、そうゆうこと、そういやあんたの鎮守府、休日制度あったものね。でもなんでこの子にだけそんなにするのよ。休暇なんてあんたの鎮守府ならだれかは必ずとってるでしょ」
『まあ、そうだな。まずはこうなった経緯から話すべきかな...」
そこからあいつはその曙って子に悩みがあるか聞いたこと、そこから休日を与えた一連の流れを嬉しそうに語っていた。外野から聞いてる私ですら悲しくなってくる見当違いの優しさ、ダメだこいつ、昔から何も変わってない。
「..........。あんたそれまじで言ってんの?....その子どんな反応してたのよ」
「どんなって...喜んでたさ。まあ真面目なやつだからはじめは秘書艦はいいのかとか、1人で行ってもしょうがないとか言ってたけどな。最後の方なんか嬉しすぎてガッツp...」
「もういい分かった、そして決めた。ここの近くの遊園地のチケットが2枚、今ちょうど私が持ってるわ。これ今から送るから明日にでもその子誘ってあんたが行きなさい」
「は、はあ!?なんだよ突然!せっかくのあいつの休日を台無しにしたいのか?さっきも言ったように休暇は他の子も同時に取れるようにしてあるんだ、そっちを優先するだろ?」
「それで他の子優先するって言うならいいわよ、チケットは捨てちゃってちょうだい。でも予言してあげる。その子必ず休暇申請は空欄で出してくるわ、もしかしたら休暇なんていらないって言い出すかもね。」
『そんなわけないだろ、なんなんだよさっきから』
「なんでもよ、そこまで言うなら私の予言当たったらあなたからちゃんと誘いなさいよね。あ、証拠として遊園地行った後の写真も忘れずに送りなさい。あんたの事だから変に言い訳作っていかないかもだしね。じゃあせいぜい頑張りなさいあほ提督」
『あ、待て話はまだ』ーピッ
あいつが話している途中で私はしびれを切らして切ってしまった。
「ったくあいつは...どうやったらああいう思考回路になるか逆に知りたいわよ!」
少しむくれている私を、まあまあと落ち着かせる大鳳。それに甘え、ひとしきり私が愚痴を言いまくるのを黙って聞いていた彼女だったが、しばらくすると少し曇った顔で私に問いかけてきた。
「よかったのですか?あのチケットはあなたが誘う予定で買ったのでは?とても楽しみにしていたように見られたので...
」
「いいのよ、あんなチケットいつでも手に入るわ。それに私が思いつきで使うよりよっぽど有意義な使い道で後悔なんてないわよ」
「そう..ですか...。あなたがあの提督を本当の意味で好いているのはわかります。でも...」
「でも、何よ大鳳。いいのよ、私の願いはあいつが、あいつの周りも含めて幸せになる事よ。でも今の話だと、曙ちゃんて子は今確実に悲しんでるわ。あいつの周りの幸せのため、その延長線上の行動の最善がこれだったってだけよ」
「幸せ....ですか。私にはあの鎮守府は提督含めとても幸せそうに見えますが...」
「本当の幸せなんてさ、大鳳。そんな側から分かるような単純なものじゃないよ。人にはそれぞれ幸せの形があって、その瞬間を手に入れるためにに多くを経験してる。それは富や名声からほんの些細なことまで、違いはあっても優劣はない、その人にとってどうかで決まるんじゃないかな。例えば、ほらっ」
私は大鳳の手を強く引っ張り、彼女を胸に抱き寄せぎゅっと包み込んだ。唖然としていた彼女だったがだんだんと力を緩めていき、そっと私に身を委ねた。
「そう..ですね...。何と無く言いたいことがわかりました。私今、多分あなたが思っている以上に幸せです。」
そういってぎゅっと私の服を握る大鳳の手はしばらく私を離しそうになかった。
「頑張りなさい、優しいけどアホな提督さん。私の初恋相手なんだからこんな事で逃げたりしたら承知しないわよ」
私は彼のいるであろうと奥に見える鎮守府を眺め、小さく呟いたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー曙視点 執務室近く廊下
手に持った休暇申請希望書を持ちながら、私は1人、とぼとぼと歩きながら考え事をしていた。
『ー迷惑をかけた清算もしたいし』
『ー曙の手を借りずとも実は回せるように』
(やっぱり、私嫌われてるんだろうな....あんな距離の置かれ方したら嫌でも分かるわよ)
どうしてこうなってしまったんだろう。
他の子のように素直に気持ちを出せたら変わっていたのだろうか。
少しでも本音をありのまま話せてたら誤解も生まれなかったのだろうか。
また始まったネガティブな思考の負の連鎖はとどまることを知らないのだった。
(でもこれでいいのよ、私が望んでいるのは、私の幸せじゃない、あいつの幸せよ。それがどんな形になろうと受け入れるって決めたじゃない)
あの休暇の話を出され嬉しそうなあいつの笑顔を見たとき、私は決意した。いつまでもしがみつかないと、どんな関係であれあいつを思った行動をしようと
「....わかったわ。あんたがそれを望むなら...私はそれを受け入れるわ」
今にも泣きそうだった、だけど私は必死にこらえた。だってあいつはどんなに私のことが嫌いだって、どんなに距離を置いていたって私が悲しめば、どんなに私が憎くったって一緒に悲しんでくれる、私が泣けばきっと嘘でも優しく接してくれる。そんな奴だって知っていた。
だからこそ、あいつには一番あいつが自然な距離で接することができるいまの状況を受け入れよう、そう思って出た言葉だった。
(廊下でずっと悩んでたけど....やっと気持ちの整理ができたわ。私はこの現状を受け入れる。それが最善。漣と潮でも誘ってゆっくり羽を伸ばそうかしら...ってあれ?)
自室に戻ろうとした時、ふと榛名が執務室に向かうのが見え、私は反射的に彼女の後を追ってしまった。
彼女は執務室に入ると、提督の横で書類の整理を始めた。
「・・まないな榛名。もしかしたら明日・・・」
「いえ!・・・お役に立てて・・・どこい・・」
ドア越しに覗くように見ていたので、会話はよく聞こえないが、一つだけはっきりとわかることはある。
(これって....。秘書艦の業務...よね。私がいなくなってすぐ榛名に頼むなんてね...。実際に見ちゃうとキツイわね....)
覗いているのに気がついたのか、あいつがこちらを見た。逃げようとしたが私はいまの状況のショックで動揺してしまい、思わず尻餅をついて転んでしまった。
「あ、曙か?大丈夫か、そんな変な体勢で転んで、捻挫とかしてないか?」
すぐに近くに寄ってきたあいつは膝をおり、心配そうにこちらを眺めてきた。
(やめてよ...優しくしないでよ...私きめたのに...どうして...)
今までの思いが、不安が、悲しみが、ショックが、一気に濁流のように流れ出し、それは涙という形であいつの前に溢れ出た。必死に嗚咽をこらえ、私は
「...休みなんてっ...要らない....がらっ...謝る..がらぁ...」
突然泣き出した私に、狼狽していた提督だったが、私の落とした申請書を慌てて拾い上げその内容を見て小さく呟いた。
「申請書は...空欄...。曙のこの言葉...あいつの....予言通り...ならば」
そういうとしばらく膝を折った状態で、私を見守っていた。ようやく話せる程度に落ち着いてくると、おもむろに机に向かって歩き出した。
「曙、私と明日、遊園地にいかないか?」
机の引き出しから鎮守府の近くにある遊園地のチケットを2枚取り出し、怪訝そうにこちらを見ていた。
気持ちの整理どころか、思考すら止まり、少女はただ、そのチケットを眺めているのだった。
はい、ということで、やっと話が進展してきましたね。今までは単一の視点で書いていたのですが、どうも内容が重なっちゃって自分で読んでいてもなかなか進まないなーと感じていましたので、今回は思い切って視点を混ぜた物語にして見ました。(シナリオ上の変化はないです)
何か感想、読みやすかった、読みにくかった等ありましたら気軽にください。励みになります。