※今回から願望メガネの機能が追加されますので、その機能で見える願いは『』で括りたいと思います。また物語の都合上必要な時以外は願望は表示しないつもりですが、一応メガネをかけている間は逐一願いを確認できる仕組みとしておきます。
「遅い!女を待たせるなんて最低ね!」
時刻は丁度9時30分。少し早めに着こうと集合時間の40分前位に正門前に向かったのだがそこには既に曙がいた。普段とは違い私服での登場ではあったが、素人目ながらやけに気合が入っている様に見える。買い替えたばかりであろう服に髪はキラキラと光沢を放ちながらもしっかりとまとまっている。極め付きは耳元につけた大きな貝殻のピアス。結婚式に行きますと言われても違和感のないレベルの格好に私は少したじろいでしまった。
「すまんすまん、まさか30分前にきて既にいるとは...。というか今日は遊園地に行くんだよな?その格好は...」
「こ、これはあんまり休みがないもんだから服を買いに行く時間もなくて....。あったもんで用意したらこうなったのよ!文句あるわけ!?」
「いや、ないない。半分私のせいみたいなものだしな。今後は随時増やして行くつもりだからその時にでも買ってくれ」
「ふん、増やせる予定あるのかしら。この前だって業務にヒイヒイ言ってたの隠して秘書艦は要らないなんて豪語してたくせに」
「あ、あれは思いつきで急にやってしまったからな、今度は大丈夫だ。任せとけ」
「そう、わかったわ。期待せずに待っているわね。....でさっきから気になってたんだけどあんたメガネなんてかけてたっけ?」
「これは、その...そう!伊達眼鏡だ!久々に外に出るからな、少しおしゃれをしようと思ってな」
嘘である。私がかけているこのメガネは明石から貰った願望メガネそのもの。私だって昨日までは使うつもりはなかったのだが、内情を知っている明石に報告がてら曙の件を伝えたら絶対に使って欲しい、というかなんで使わないの?みたいな口調で詰め寄られたので、仕方なくつけて行くことを了承してしまった。明石からは補足で
『このメガネの機能で新しくわかったことがありまして、メガネの横に小さな出っ張りがあるんですけど、これ実は動かせるみたいで動かすと、願望の大小を調節できるみたいです。私たちが実演した際はメモリが最大で使用したので深層的な願いだったんですけど、ここを調節すれば例えばいまやりたい軽いお願いや、はたまた今日食べたい食べ物といったものまで見ることができるようですね。明日のデートにはきっと役にたつと思いますよ』
とも言っていた。
(まあ、私の性格上、曙を今日一日満足させるにはこれは必須だろうしな。途中からつけるのも今思えば違和感あるし、丁度いいか)
「へえ、意外ね。あんたが急におしゃれなんて。.....まあいいわ、行きましょ」
「そうだな、せっかくの休日だ、早速向かうとしよう」
曙の言葉が妙に引っかかったが、曙の頭に浮かんだ願望には特に違和感はないし、気にすることもないだろう。私たちはその後電車に乗り込み、1時間程度で目的地の遊園地へとついた。チケットを渡し園内に入るとまるで外国にきたような景色と建物が眼前に広がっていた。
「ここが...伝説の夢の国ってやつか。初めて来たが圧巻だな。まるで日本じゃないみたいだ」
「当然よ、ここは数ある遊園地の中でも風景や建物には特に力を入れているので有名よ。園内を歩いただけで世界旅行にきたような気分になれるからアトラクションや人混みが苦手でもそれ目当てにくる客もたくさんいるくらいなんだから。入口近くのここはアジアゾーンだから、こんなので驚いてたら身がもたないわよ!」
「へえ、全然知らなかった、随分詳しいんだな。曙実はこういう類のもん好きなんだろ」
「こ、こんなの普通に生活してたら常識よ!あんたがこういうことに疎いだけでしょ!別に昨日から楽しみになんかしてないしね!」
『早く入りたい!早く入りたい!』
(なるほど、確かにこれは役に立ちそうだな)
「そ、そうか、私ももう少しこう言ったことも勉強しないとな。とりあえず早速どこか行くか、時間も勿体無いしな」
「そうねえ、あんた絶叫は好き?朝から行くとなるとそういうとこは早めに並んどいた方が効率がいいんだけど」
「うーん、実は正直にいうとあまり得意ではないな。酔ってしまうんでな」
「そう...。じゃあまあいいわ。私も別に乗りたいってわけじゃなかったしね。他のアトラクションにしましょうか」
『一緒に乗りたかったな』
「...と言うのは建前だ!実はこの手の乗り物には昔から憧れがあってな!曙!一緒に乗ってくれるか!この年になると一人じゃ恥ずかしいしな!」
(危ない、メガネがなかったら曙の思いに気がつけなかった。てかなんだこのテンション)
「え?あ、うんじゃあ乗りましょうか。あんたがそこまで言うなら断るのも気分悪いしね♪」
まあこう言った具合で、乗りたいアトラクションや休憩したいタイミング、食べたいレストランに食べたい食事まで、願望レベルを一番下に調節したおかげでその日の曙は終始ご満悦だった。普段は鈍感男が、突然英国男児顔負けの紳士になったもんだから曙に本気で不審がられる事は多々あったものの、この日のために勉強してきた、と言って切り返してなんとか事なきを得た。それどころかそれを言った瞬間、今まで見た中で一番かもしれないほど笑顔を一瞬見せてくれた。...まあすぐにいつもの調子に戻ってなぜかキザ男、とビンタされたが。
(しかし...人の心が読めるだけでここまで人を気遣えるようになるなんてな。...逆にこれまで私は一体どんな対応の積み重ねをしてきたのか、怖くて考えたくもない)
そして夕方になった現在、メガネの『甘いものが食べたい』と言う情報を見て、自然な流れで休憩を取ることにした。
ソフトクリームを食べて、楽しそうに風景を眺めている曙を見て、普段どれだけ不快な思いをさせていたのか、と日頃の行いを鑑み、罪悪感に満ちた表情をしていると曙が口を開いた。
「何辛気臭い顔してんのよ、安心しなさい、もうすぐ帰るわよ。私に嫌々連れ回されて疲れてるのはわかってるわ。」
『もっといたい、ここにいたい』
「いやそんな、嫌々なんて、鎮守府ナンバーワン提督を舐めるなよ?まだまだいけるぞ!」
「いいわよ、そんな。朝からそんな調子で無理してるのがばればれだし、それにやけに気を使ってくれるのがが逆にむず痒くてね。私は満足よ、わがままに付き合ってくれてありがとうね」
「いやいや、私は知ってるぞ、曙はまだまだ楽しみたい。そうだろ?それに私は無理などしていない!」
(真面目な性格が仇となってるな、なんとか本当の気持ちを優先して欲しいものなんだが)
「....はぁ、今日はやけに強引にくるのね。ご名答よ、私だって知識はあるけどここにくるのは初めてだしね、まだまだ乗りたいものがあるのは本当よ。でもいいの、私だって子供じゃない。あんたがへとへとで付き合ってるのを見ても無頓着にはいられないわ」
「そ、そうか、私が不甲斐なくてすまんな。じゃあ、すまないが私からのお願いだ、観覧車、と言うものに乗って見たくてな。最後に付き合ってくれないか?」
「いいわよ、そんなの。私の乗りたいものの中にも入ってたしね、ちょうどいい折り合いね。行きましょ」
そう言って曙はそのあと、何も言わずただただ、周りの建物や景色をじっと眺めながら観覧車のある場所まで向かっていた。願望メガネにも特に反応はなく、おそらくこれがいまの曙の願いの実行中なのだろう。時々出る『記憶に残したい』と言う単語を見てだいたいそれを察した私も、曙の隣を無言で歩いてついて行った。観覧車乗り場の待ち時間も、観覧車に乗り込んでも、彼女はしばらく無言であったので、気まずくなって私から話し始めてしまった。
「...それにしても、今日は久々に曙とこんなにゆっくり話せたな」
「...そうね」
「しかし、今こうしてここにいることがまるで嘘みたいだな。今でこそこんな鎮守府だが、昔はひどかったもんな。設備はないし、金もない、艦娘だって両手で数えるくらいしかいなかった上に嫌がらせのように敵は多かったしな。あの頃は苦労をかけた」
「....別に、艦娘なんだから当然よ」
「いやいや、こんな上司に付き合って無理な出撃をさせていたのは事実だしな。....それで思い出したが昔一度だけ日々の労いとして曙を海に連れて行ったことがあったな。その日は午前に急遽、軍の会議入るわ、そこで次の日出撃になるわで結局2時間くらいしかいられなかったのを思い出したよ。『2時間しかいられないで、きた意味あったわけ?』って曙の言葉、いまになって思えば当然だな!ははは...」
「やっぱり嫌...」
私がそんな思い出話に一人盛り上がっている最中、消え入るような声に気がつき顔をあげると曙の頬には一筋の涙が伝っていた。
「あ、曙....?どうした、気分でも悪く.....」
そういった私は途中で言葉を無くし、思わず一瞬フリーズしてしまった。なぜなら彼女の頭には『嫌われたくない』とただただ強く書かれていたからだ。願望の調節レベルを最小にしてこの願い、ということはいまこの瞬間の思いということになる。
「...やっぱり嫌!私はあんた無しじゃ生きていけない!それがどんなにあんたを苦しめるか、どんなにあんたを傷つけてしまうか、分かってても私は!あんたを思えるほど....大人にはなれない!」
「私だってそうだ!なんだこの前から!私が嫌っているだの、距離を置いているだの!そんな行動したつもりはないぞ!?」
「建前はもういいっつってんのよ!じゃあなんで急に出撃回数を減らしたの?なんで私を避けて会議の日程を組んだの?なんで秘書艦業務をやらせないようにするの?....なんで昔みたいに私を叱らなくなったの....」
正直唐突な行動に驚いてしまったが、願いを知っている分、彼女の気持ちが理解できた。だからこそその発言に誰に対してではなく苛立ちを覚えてしまい激昂してしまった。それに対して曙もまくし立てるように叫びながら私を睨んでいたが、次第に声は小さくなり、最後は下にうつむきまた泣いてしまった。
狭い観覧車の中、彼女の嗚咽の声だけが響く間、私は彼女の発言に動揺を隠せなかった。いま言われた行動は確かに本当に私の指示でやったことだ。彼女が元気がないと感じ出撃を減らしたり、心労していることを考慮し会議や秘書艦業務を敢えて避けさせていた。だがこの一連の行動は全て彼女にとっては、いやもしかしたら普通の感性を持つ人間にとっては堪え難い行為だったのかもしれない、そう思ったからだ。だが、その一瞬の動揺もつかのま、私はある告白をすることを決めた
「曙!どうしても聞いて欲しいことがある。実は今日一日、私はお前に隠していたことがある。聞いてくれるか」
「.....隠していたこと?何よ」
「私のかけているこのメガネ、本当はただのメガネではなく、相手の願うことがわかる機能のついたメガネでな。それで今日一日は曙のやりたいことが手に取るようになったわけだ」
「.....なるほどね、それで今日一日の気持ち悪いほどの気の利き方にも納得がいったわ。普段のあんたを見ている分、違和感しかなかったしね。...で、そんな最低な道具を使って私の心を覗いてたってのが聞いて欲しいことのわけ?」
本来だったらこんな突拍子も無いこと言われてもにわかには信じられないが、一昔前まで毎日のように明石が変な道具を作っては周りを実験台にしていた影響で、昔からいる艦娘は割とすんなりと納得してしまうのだった。
「このメガネで...私を見て欲しい。どんなに口で言ったって納得してもらえないならこの方法しかない。それで私の心を見ることができるからな。嘘偽りのない真実を伝えられる」
「....わかったわ。じゃあその眼鏡貸しなさい」
そういって彼女にメガネを手渡す。覚悟がいるのか、何度か深呼吸をし、私を見つめた後、ゆっくりとメガネをかけて私を見た。すると彼女はまたさっきのように涙を流しながら、今まで出会ってから最高の笑顔を私に向けた。それを察した私は曙の頭を撫でながら話しだした。
「では、現実を突きつけられ弱っている曙くんに私から攻撃するとしよう。曙、これが私の気持ちだ。私は君を嫌ってなどいない、むしろ好きだ。それ以上に感謝もしている。昔からダメダメだった私を精一杯支えてくれたことは今でも忘れない。...私は知っている、曙が出撃した仲間を誰よりも心配している仲間思いなことを、自分のことを差し置いてでも周りを気遣おうとしている優しさを、そしてそんな性格上、抱え込んでしまうこともな。だから私は決めたんだ。曙が支えてくれる以上に私も支えよう、とな。....まあその行動で曙を傷つけてしまっては元も子もないがな...はは」
「はぁ、全く完敗ね。これだけ完全に論破?されたら私も何も言えないわ。....私の方こそごめんなさい。あなたの厚意に気が付かないばかりか勝手に勘違いしちゃって。あなたがそこまで私を見ていてくれたこと、正直嬉しくてまた泣いちゃいそうだったわ。だからここで私からも言わせて貰うわね」
私の撫でている手をすっと握ると、彼女は私を見つめ力強くこういった。
「私もあなたのことが好き。いえ、大好きよ。私だってこれからもずっとあなたを支えていくつもりなんだから」
「お、おう...。なんかそこまでどストレートに告白されると気恥ずかしいな。セリフもなんだかプロポーズみたいだし...
」
「バッ、バカじゃないの!?そういう意味じゃないわよ!あくまで提督として支えていくってだけ!ほんと昔から空気読めないっていうか、人の気持ち察せないというか....。というかずっと思ってたんだけど、機械に頼らないとこんなこともわからないわけ?クソ提督ね!艦娘一人でも危ない目にあったらタダじゃおかないからね」
「な!クソ提督だと!?人が下手にでていればいい気になりやがって!このツンデレネガティブ女!」
「はあ!?あんたなんか「あのぉ、お客さま方?他の方にご迷惑ですので痴話喧嘩は降りてからやっていただけると...」
気がつくと観覧車はすでに一周して降り、扉が開いた状態で係員がいた。私たちは周りに笑われながらそそくさと遊園地を後にするのであった。帰りの電車では行きの電車では考えられないほど曙は気持ちをオープンにしていた。手を繋がされ、肩に頭を置いて、嬉しそうに寝息を立てていた。鎮守府に着くと、パッと手を離し、そこし前に行くと彼女はこういった。
「これからも、よろしくね。クソ提督♪」
「ああ、これからもこの鎮守府を頼むぞ、曙」
こうして伝説の五艦、曙の『嫌われたくない』という願いは、叶い、二人のこじれた関係も無事元どおりになることとなった。この後やけに仲良くなった二人にたくさんの噂が流れたり、鎮守府を揺るがす珍事が起きたりしたが、それはまた別の話で。
ー病室
「うーむ...これはかなり厄介な症状ですな、どうしたものか」
ある病室の一角で、一人の艦娘の様子を見ながら診断書を書く鎮守府専属の医者は頭を抱えていた。前代未聞の症状に対処のしようがないのだ。
「なあに、心配すんなよじいさん、気楽に行こうぜ。考えたってしょうがないことだって世の中にはあるもんさ」
彼女の名前は、駆逐艦 時雨。普段からは信じられない荒々しい口調で医者にこう言った。
つい先週に倒れ、ある問題を抱えてしまった少女。提督が知らないうちにまた一人、大きな願いを抱えた艦娘が現れたのだった。
お久しぶりです。そして更新大変遅れてしまい申し訳ありませんでした。私情は落ち着いたの、また普段くらいのペースで書こうと思います。ひとまずこれにて曙編は終了です。後日談や、別視点も書くつもりですが、他の子の話の箸休めに入れようかなと現段階では考えています。(やらないことはないです)
シリアスと日常回の比率って難しいですね。
なので次回からは一旦切り替えて時雨編になります。よかったら気軽に見に来てください。