【完結】私、巨人の母になりました!   作:ネイムレス

1 / 30
女子高生ママって良い。良くない?


第一話『凄く大きい!』

 拝啓、お父様お母様。そちらはそろそろ秋が去り、冬の訪れを感じさせる寒さが強くなる頃合いですがいかがお過ごしですか? 私は今――

 

「ヒャッハー! 待ちやがれぇ!」

「いい加減に止まりやがれぇ! 聞こえねえのか、ああーん!?」

「ヒャッハー! ヒャッハー! ヒャッハッハッー!!」×おおぜい

 

 照り付ける太陽の下で、地平線まで続く無尽の荒野を全力疾走しています。世紀末的な格好をした、無数の男達に追われながら。

 って言うか棘付きの肩パッドにモヒカン頭って、どんだけテンプレートな悪党なんだ。こいつ等は間違いなく私の事を捕まえて、色々やらかした後に売り飛ばすつもりに違いない。

 

 オーキードーキー。どうしてこうなったか少しだけ考えてみよう。

 私こと今全力で走り続けているこの可憐な美少女様は、確か高校の帰り道をスマホを見ながら歩いていたはずだ。それがふと気が付いたら見知らぬ荒野のど真ん中。更には、あれよあれよと言う間に変な外見の連中に迫られる始末。

 うむ、何が何だか全く分からない。誰か説明してくれよ! もちろんそんな誰かは居やしない。

 

 これはアレか、巷で流行りの異世界転生とか、異世界転移とか言う物なのだろうか。だとしたらずいぶんとハードルが高いのではないだろうか。こういうのは、大体読み飛ばされる様な神様何某とのくだらないやり取りや、その世界の住人が聞いたら噴飯モノのチートやら特典やらを貰えるものでは無いのだろうか。

 今の私には、もちろんそんな物はありはしない。あったら全力で走る必要なども無く、こんな漫画に出て来る様なやられキャラみたいな連中は指先一つでダウンさせられているはずだ。

 

 嘘ですごめんなさい。こんな怖そうな人達と戦いたくなんてありません。一介の高校生に、いきなりすごい力を与えたって、ベテランの戦士みたいに振る舞えるわけないじゃないですか。

 だけども誰も助けちゃくれない。だから私は走るんだ。行くぜべいびー、無限の荒野にさあ行くぞ。

 

「あの嬢ちゃん、スゲー足速いな! ぜんぜん追い付けねえよヒャッハー!」

「ヒャッハー! 泣き事言ってないでさっさと追うんだよ!」

 

 ああ、後ろでなんか言ってるみたいだが、そんな事を気にしている余裕はない。何処かに逃げ込める場所を見つけなくては。どこかに……。

 っ!? 見つけた! 洞窟がある、あそこに逃げ込めれば!

 

「兄貴ー! あの嬢ちゃん例の洞窟に入っちまいましたぜー!」

「ちっ! まあいい、あそこは袋小路だ! 追い詰めてとっ捕まえるぞ!」

「ヒャッハー!」×いっぱい

 

 今捕まえるって言った。確実に言った。絶対に捕まるわけにはいかない。私の純潔は、筋骨隆々な鼻筋通ったイケメンダンディに捧げると決めているのだから。最初から団体競技とかノーサンキューだ。

 

 最初は岩肌が露出していた洞窟の中は、外からの光が届かなくなると少しずつ人工の床や壁が見え始めて来る。それに合わせて通路を塞ぐ放置してある資材が増え、ぶつからない様に避けながら進まなくてはならない。どうやら、この洞窟は荒野の真ん中だと言うのに、何かを掘り出していた炭鉱の様なものなのかもしれない。

 落ちているツルハシなんかを武器にするかとも考えたが、あの人数相手に大立ち回りなど論外だ。何処かに隠れてやり過ごさなければ。いい加減走り過ぎて、喉の奥が血の味になって来て辛い。

 

 何とか追っ手を引き離して走り続けるうちに、不意に広い空間に出てしまう。ドームの様な天井の高い一室で、ひび割れた天井から木漏れ日が落ちて室内を薄明るくしている。しかも他に通路の様なものは無く、ここで終点行き止まり。右を見ても左を見ても何もなく、ただ正面には何か巨大な小山の様なものが天井近くまでそびえていた。

 隠れる為に入って来たのに、自ら袋小路に入り込むなんてなんと言う失態か。自分で自分を殴りたい。そんな暇も無く、背後から大量の男達が追い付いてきてしまった。

 

「いたいたぁ、やっぱりここに居ましたぜぇ!」

「ヒャッハー! 良くやったぁ! さあ、嬢ちゃん大人しくしなぁ!」

「ここは一般人立ち入り禁止だぜぇ! 俺達が安全な所まで連れてってやるよぉ!」

 

 なんと言う白々しい言葉の数々か。どうせ私を捕まえた後、ひん剥いたり何だりするくせに。悔しさと怖さで勝手に涙があふれて来る。恐怖心に思わず後退り、部屋の中央の小山に背中を預けてしまう。

 畜生こんなの嫌だ。『誰か、誰でも良いから誰か助けてよ!!』そう叫んだところで、何も応える者は居ない。ただ、虚しく声が洞窟内に響くだけだ。

 

「おいおい、なんか勘違いしてるみてーだが俺達は――」

「お、おいおい兄貴! なんかアレ動いてねーか!?」

 

 唐突に、本当に唐突に、私の背後で何かが動き始める音がした。ざわついている男達と一緒になって背後を振り返ってみれば、小山だと思っていた物がその『片腕』を振り上げている所が見えた。

 違う、あれは小山なんかじゃない。『両腕』もある、そして『顔』もある。下半身は土に埋まっているが『両足』もあるのだろう。あれは――

 

「やべえ! 総員退避ーーっっ!!」

「ヒャッハー! 逃げろー!!」×たくさん

 

 あれは巨人だ。フルプレートの西洋甲冑の様な似姿の、雄々しく聳える人の像。その材質が金属なのか粘土なのか、はたまた生きているのか無機物なのかすらわからない。ただ一つ分かる事は、この存在は私を助けているという事だ。

 巨人が無造作に腕を振り下ろして、私に迫っていたモヒカン達を蹴散らす。幸いと言うか、運が良いと言うべきか、直撃はしておらず惨状は広がっては居ない。トマト祭りみたいな光景なんて見たくも無いから、その方が断然ありがたい。うっ、想像しただけで吐き気がしてきた。

 

「くそ、まさか本当に動き出すとは! このままじゃまた荒野が広がっちまう! さっさとずらかるぞ、おめえら!!」

「ヒャッハー!」×ぼうだい

 

 一人だけ鉄仮面を付けたリーダー格の男がひと声あげて、モヒカン達は足並みをそろえて部屋の出口からぞろぞろと逃げ出して行く。何だかわからんが、とにかく良しだ。これでR指定な展開からは、おさらば出来た筈だ。

 次に片付けるべき問題は、やはり今も絶賛腕を振り回すこの巨人の事だろう。このままでは日の光の漏れる天井どころか、この洞窟自体が壊れてしまうのではないだろうか。そう思ってしまうと、一気に恐怖心が加速する。

 『もういい、もうやめて! このままじゃ天井が崩れちゃう!』なんて叫んでしまった。この巨人相手に、言葉が通じるかどうかも分からないと言うのに。

 

 ……止まった。巨人はまるで、私の言葉に従うかのように動きをピタリと止めた。

 え、ちょっと待って。この巨人、言葉が通じるの? と言うより、私の言う事を聞いてくれているの? これは……、確認しなければならない。

 

 恐る恐る、動きを止めた巨人の顔を見上げる。大きい……、凄く大きい! 私の何倍ぐらいあるのだろうか、掌なんて私が乗れそうなほどの大きさだ。

 視線を上に向ければ、牡牛の様な角のある兜を被った厳つく角張ったご尊顔。きちんと両目と口も備えられた人と同じ様な顔なのに、その質感は無機質で強烈な威圧感を放っている。

 アニメとかで見るロボットみたいだ。ファンタジーだと、ゴーレムって言うんだっけ。今私がいる場所がどんな所なのかもわからないけど、こんなのが沢山いる世界なのだろうか。

 

 巨人の力ある視線が、私の事をじっと見降ろしていた。その迫力に、思わずごくりと唾を飲み込む。でも、怖気付いてばかりではいられない。

 とりあえずは『えっと……、私の言葉が分かる? 分かるなら、ゆっくり片手を上げてみて?』と、緊張で声を震わせながら語り掛ける。私の言葉を聞いた巨人は、私の事を見つめたままでのっそりと右の手を上げた。

 

 やっぱり、この巨人は私の言葉を理解している。しかも、理由は分からないけど、私の言う事を聞いてくれるのだ。

 自分よりも巨大な存在が、力ある存在が私の言う通りに動く。これはなんと言うか、思わず顔がにやけて来ちまう状況じゃあないですか? さっきまでちっぽけだった私が、大勢の男達を蹴散らす巨人を意のままに操れる。しかも自分自身で戦ったりして、怖い思いはしなくていいと来た。これはもう、する事は一つじゃないかな。

 

「……まるで、『この力で世界を征服するしかない』とでも言いたげな顔だな」

 

 っ!? また背後から――この部屋の出入り口から、人の声が投げかけられて私はビクンと跳ねあがった。そして考えていた事を言い当てられたのも合わさって、私の緊張は一気に高まり動揺してしまう。

 再び巨人に背を預けながら振り返って、声の主を確かめるべく視線を彷徨わせる。目当ての人物は直ぐに見つかった。

 

「考古学者として忠告しておくが、その巨神を悪用するのはお勧めしない。その巨神を欲望のままに扱った者の末路がろくでもないと言う事は、まさに歴史が証明しているのだからな」

 

 新たに表れた人が何か言っているが、私はそれどころではない。

 人? 確かに人型をしてはいるが、その人物の顔は、顔が……、人間ではない。あれは、どう見ても、トカゲだ!

 

「失敬な事を。ワシは確かに人間ではないが、トカゲなどと一緒にしないでもらおうか。この頭の立派な二本角を見て欲しい。これこそ、竜の末裔たるドラゴニュートの証である」

 

 どうやら、思っていた事が口から漏れていたらしい。トカゲでもドラゴンでも爬虫類に変わりはないかもしれないが、確かに人と猿を同一視するような侮辱にはなるかもしれない。私は素直に、ごめんなさいと謝った。

 

「ふむ、分かってくれればよい。そして、少女よ。幾許か、ワシの話を聞いてもらえまいか?」

 

 しかし、そんな竜人が私に何の用なのか。もしや、先程の男達の仲間なのだろうか。だとしたら、この巨人の力を借りなくては!

 巨人に『あの人が何かして来たら、私を守って』とお願いして、もう一度腕を振り上げて貰う。戦いとかは怖いけど、自分が酷い目に遭うくらいなら……。

 

「……やめておけ。今この場でその巨神の力を振るえば死人が出るぞ」

 

 目の前の竜人は余裕綽々と言った表情で口元を歪め、ゆっくりと両腕を上げる。あの竜人はこの巨人よりも強いとでも言うのだろうか。私の全身が思わずぶるりと震えあがった。

 

「無論、このワシだ」

 

 アンタかよ! どっかで見たよこのギャグ! パクリだよ!

 どうやら両手を上げたのは降参の意志表示らしい。どっと疲労が込み上げて力が抜けた私は、『近づかないでその場で話をしてくれるなら、話を聞いても良いです』と竜人に伝える。

 

「うむ、良い妥協点であるな。ああ、両手は下ろさせてもらうぞ。疲れてしまうからな」

 

 なんと言うか、凄くマイペースな竜人さんだ。この人の性格なのか、それとも種族的な物かは分からないが。最初は怖かったが、さっきのやり取りでなんとなく毒気を抜かれてしまった。それだけは、ちょっとありがたい。

 

 私は、この時に漸くこの世界について詳しく知る事が出来た。私がなぜこの世界に来たのか。そして、何をしなければならないのか。

 この異世界での私の物語、その最初の一歩はこうしてはじまりを迎えたのだ。

 

 

 次回、第二話『お前がママになるんだよ!』に続く。

 




タイトルが卑猥?
落ち着いてください、これはただの言葉です。それ自体に意味はあっても、含まれた意図などありません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。