前回のあらすじ。
怒られるかと思ったら全力で宴会された。一泊してから旅立ちの準備。亜人は凄い力持ちだと再確認した。お世話になった人達と別れて、新しい場所へと出発する。巨人の事を撫でながら、少しずつでも強くなって行こうと改めて思った。
無尽の荒野を突き進む巨人の肩で、私は流れゆく景色を見ながら口笛を吹いていた。適当に頭に沸いたフレーズを口遊んだり、昔聞いた事のある音楽を空真似したりして。暇を潰すという目的もあるが、荒野と言えば口笛なのだ。古いゲームで良く流れていたから間違いない。
「お前さん……、本当に緊張感がまるで無いな。本来ならこんなおおびっらな場所で音を立てとったら、ワシらを餌にするために怪物どもがうようよ寄って来るのだぞ?」
え、何それ聞いてない。怪物ってこの間のでっかいミミズみたいな奴? うわぁ、知らなかったとは言えとんでもない事をしでかしていた様だ。って言うかもう街を出て三日経ってるのに、指摘遅くない!? とりあえず謝っておこう。トカゲのおっさん、ごめんなさい。
「いや、ワシも今まで言わなかったしな。それにこの巨神が居れば、そうそう襲われる様な事は無かろうよ。あと、トカゲじゃないドラゴニュートだ」
はい、お約束頂きました。襲われないのなら、まあ退屈しのぎは続けても良いみたいだ。
それにしても、この世界はやっぱり人間には厳しい世界の様だ。夜眠る時も本来は見張りを立てたり、焚火を着けたまま短時間だけ仮眠をしたりして夜をやり過ごすらしい。私は本当に、巨人のおかげで楽が出来ているんだな。
それからも口笛をBGMにして、足音を響かせながら巨人が歩く。巨人の歩みはゆっくりだが、その巨体故に進行速度は下手なトラックよりも速い。徒歩なら何日掛るか分からない程の道も、比較にならない速度で安全に進む事が出来ていた。順調な旅路にはやがて、流れる景色に変化が訪れる。
「そう言えば、行先は説明したが、そこがどんな場所かはまだ話してなかったな」
周囲が背の高い岩に囲まれた渓谷に彩られる様になると、唐突に下からトカゲのおっさんが話しかけて来た。岩肌が剥き出しのその深い谷間の道を進みながら、私に対してのレクチャーが始まる。
私達が向かっているのは、出発した町の北にあると言う鉱山の町だった。元々は炭鉱夫が家族連れで身を寄せ合う小さな集落だったのだが、資源が豊富に取れる上に遺跡もいくつか近くに見つかって、あっと言う間に人が増えたらしい。
今では発掘された機械で大規模な掘削をする炭鉱夫と、遺跡目当てのサルベイジャーで賑わう、人の出入りの激しい町となっている。
人の出入りが激しいと言う事は、私達みたいな余所者が混じっても特に気にされないと言う事だ。ここで暫く情報収集と本格的な隠れ場所を探そうと言う事になった。トカゲのおっさんが鉄仮面さんとの相談の末に決めて、私もあとから聞いてそれを了承している。
本当は町の間を行き来するトレーダー達の為の大きな道があるらしいのだが、私達は敢えて大回りで迂回して渓谷を突っ切って進んでいた。途中で巨人を隠せそうな場所を探して、そこから更に徒歩で向かわなければならない。少し起伏がある地形なのでちょっとだけ気が重いが、その辺りは仕方ないと諦めよう。
岩肌のちょっとした窪地を見つけたので、巨人にはまた両手両足を縮めた土偶みたいな待機モードになってもらう。その状態で首まで地面に埋まったのを確認すると、私達は町までの残りの道を徒歩で向かって行く。町にほど近いので危険な生き物には遭遇しないが、険しい道なので直ぐに疲労が溜まってなかなか進めない。結局、町に辿り着いたのは、巨人を置いて行った次の日の昼頃になってしまった。
「ほれ、しっかりせんか。せっかく町に着いたんだ、寝るなら宿に着いてからにしたいだろう?」
うおおお……、足が痛い。背中も痛い。痛い所が見つからないぐらい痛い。正に半死半生と言った様子で、私はトカゲのおっさんの背中を追いかけていた。荷物の背負っての山道ハイキングは、なかなかに辛い物がありましたよ。
そんな苦難の道を乗り越えて、辿り着いた町は私の疲労を吹き飛ばすに余りある様相を携えていた。一目見た感想はそう、正に穴倉だ。
その町は巨大な、本当に巨大な大岩に横穴を穿って存在していた。その穴の中にへばりつく様にして、岸壁に足場を掛けて無数の採掘口が開いており、その周囲に大型の機械や小屋なんかが配置されている。その採掘場の足元には町の中央を巨大な道が分断していて、その道の左右に沿って例によって豆腐ハウスがごちゃごちゃと乱雑に並んでいる。何て言うか、掘り過ぎて岩が崩れたらまるごと埋まりそうな造りの町だな。
もちろんそんな感想は沢山言われたらしいが、この町の住民の大半を占めるモグラの亜人はこう言ったそうだ。『元より穴を掘ってできた町だ。埋まったらまた掘り返せば良い』と。
町に付いてまず真っ先にした事は、宿の確保だった。外からの人の出入りが激しいこの町には、当たり前の事だが沢山の宿屋が営まれている。そんな無数の宿屋の中で、トカゲのおっさんが以前に利用した宿に行こうと言う事になったのだ。対して大きくは無く表通りにも面してはいないが、その分部屋の質と飯が美味いらしい。
飯が美味いのは良い事だ。一も二も無く賛成して、その日は疲れを取る為に早々に休む事にした。この町は蒸気機関が発達しているので、お湯が豊富に使えるらしい。念願のお風呂にも入る事が出来て、私の疲れは次の日には綺麗さっぱり吹き飛んでしまった。
と、ここまでは良かったのだが。
「正直な話、お前さんにしてもらう事が無い。情報収集と言っても、ワシが顔なじみに会うか、酒場で話を聞けばいいだけだしな」
なんと言う事だ。ここにきて私にイベントが何も発生しないなんて。このストーリー進行、行き当たりばったりにも程があるんじゃなかろうか。
とは言え、この町はそれ程治安が悪い方でも無いらしい。モグラの亜人の自警が行き届いていて、私一人で出歩いてもいきなり裏道に連れ込まれてあれこれされると言う事は無いそうだ。最終手段に巨人へのSOSもある事だし、少し大胆に動いても良いかもしれない。
せっかくなので私は、この機会にお金を稼ごうと思い至りました。
そんな訳でやってきたのは、町の掲示板に張り付けられていた日雇いの鉱石拾いのアルバイトの現場。そこに私は、マントを外して動きやすくなった格好でやって来ていた。
何でも、無数にある古い坑道でも、他所の採掘作業の影響で偶然新しい鉱脈に繋がる事もあるらしいので、取り残しを回収しつつ探索をしているのだそうだ。何しろ坑道自体数が多いとの事で、日雇い労働者を雇っての人海戦術なのだそうだ。
日当は低めだが、その分珍しい物を見つければ歩合制で増額もあるらしい。要するに、金が欲しければ頑張れと言う事だ。体力も付けたいし、とにかくコツコツと取り組もう。
しかし、私以外の作業員は殆どが子供ばっかりだな。おまけにそんな子供達の方が次々に鉱石の欠片などを見つけ出していて、一人だけ大きいのに手間取っている私はなんだかとても恥ずかしい。
くっ、負けてなるものか。私は今日の日当で、トカゲのおっさんに酒の一杯でも奢ってやると決めたのだ。
「ねーちゃん、俺達よりデカいくせにのろまだなー。俺達がお手本見せてやるよ」
私のもたつき具合を見かねたのか、子供達が声を掛けて来てからかい半分に仕事を教えてくれた。悔しいけど有り難い。年下の先輩達、よろしくお願いします!
そんなこんなで、子供達と仲良くなってしまった。トカゲのおっさんの情報収集も一日では終わらなかったので、私のアルバイト生活もしばらく続く事になる。
酒を奢った時はトカゲのおっさん、ちょっと驚いた後に照れくさそうにしてたな。あの顔を見れただけでも疲れた甲斐があったと言う物だ。
知り合った子供達はもう何度もこのアルバイトをしているらしくて、良く鉱石の取れる穴場みたいのを教えてくれたりもした。中身を空にして持って来た私の背嚢が、『やめて、そんなに入らない!』って位になるまでパンパンに膨らむ日もあった。どうもこの子達は、私を荷物持ちにする算段で声を掛けて来たらしい。子供が持って帰れる鉱石量には限りがあって、そんな時に見つけた私はとても都合が良かったのだろう。
でもまあ、動機はともかく世話になった事には違いない。あの子達には感謝の念しかわかなかった。今度お菓子の一つでも配ってやろう。
そんな日々を過ごしていたある日。一際古い坑道を漁っていた私と子供達は、不自然に崩れた横穴を発見する。これが話に聞いた、新しい鉱脈と言う奴だろうか。報酬の増額の可能性に色めき立つ子供達だが、私はその横穴の先に何か嫌なものが潜んでいる様な気がしてならなかった。
根拠のない感覚だけの物だったが、その予感は直ぐに的中する事になる。
次回、第十一話『奥まで来てる!』に続く。
アルバイトの下りは書きながら思いついた即興なので矛盾が生じているかもしれませんが、指差して笑ってやってください。