【完結】私、巨人の母になりました!   作:ネイムレス

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じわじわとお気に入りが増えている。
まったくありがたい事です。


第十六話『気持ちいい!』

 前回のあらすじ。

 再び現れたカピバラ博士と助手メイド。メイドとブーメランを組み合わせたまったく新しい戦闘術で、メイドさんは虫人相手に無双していた。そしてパワーアップしたレプリカ巨神に苦戦する巨人。助けを求められたような気がして走り寄ると、再び息を吹き返して肩に乗せられ反撃開始。良く分からないけど、一方的に相手を倒せました。

 

 

 風呂は良い。人類が生み出した文化の極みだ。特に手足をゆっくりと伸ばせるのが最低条件だと思う。じんわりと広がる熱が体の芯まで浸透して、疲労と言う名の老廃物がお湯に溶けて流れて行く。

 この世界に来てからは、良くてシャワーかタライでの行水。悪い時は手拭いで体を擦るだけ。最悪な時はそれすらも無い。多感な時期の乙女に、この仕打ちはなかなか過酷では無かろうか。

 

 だが、今入っている風呂は何とも素晴らしいではないか。薄黒色の温泉がかけ流しになっており、場所は森の中だが木製の仕切りで四方を高く囲んであって人目は気にならない。身体を洗う為の洗い場も石でしっかり組まれており、花の蜜や木の実の油から作られた石鹸まで置いてある。そして一番気になる虫の類は、虫人のおかげでまったくと言って良い程見かけない。

 これはもう天国では無かろうか。私は此処に住もうかと、少しだけ真剣に悩み始めていた。虫人のビジュアルよりも、毎日入れる温泉と言うのはそれだけ貴重なのだ。

 

 ちなみにトカゲのおっさんは、一月ぐらい入らなくても平気らしい。亜人って奴は全く、どこまでこの世界に適応しているのやら。脱皮でもしてるのかあのトカゲは。

 

「おーい、先に上がるぞー。あと、トカゲじゃないドラゴニュートだ」

 

 その当人から仕切り越しに、無駄にデカい声で話しかけられた。

 もう上がるのか、さっき入り始めたばかりだと言うのに。カラスならぬ、トカゲの行水だな。せっかく虫人達が温泉を利用させてくれたと言うのに、もっともっと堪能しないともったいないではないか。

 『はぁぁぁぁぁ……、くぅぅぅぅぅっ! 気持ちいい! もう出たくなーい……』等と、思わずそんな言葉が漏れると言う物である。

 

 虫人の集落が襲われた後、怪我人の手当てを終えてから、私達はもう一度第三の巨神の前に集まった。幸いな事に死人はおらず、怪我人達も磨り潰した薬草を塗りたくられたらすっかり元気に。おかげで特に滞りも無く、話し合いにはすんなり戻れたのだ。

 

 そこで聞かされたのは、新しい依頼と少々の厄介事。まったく、あの巨神の姉弟は何時だってこちらに難題を押し付けて来てくれる。

 『はぁ……、次は海かぁ……』なんて、溜息が零れてしまった。ここの湿度もきつかったが、潮風はもっと憂鬱にさせてくれる。

 出来る事ならこの風呂から離れたくない。名残惜しさを感じながら、私はとりあえずもう一度体と頭を洗おうと湯船から立ち上がった。

 

 小一時間後。

 お風呂から上がって身体をしっかりと拭いた後に、髪をガシガシと拭きながら巨人の元に戻って行く。

 この集落では綿花も育てていて、まさかのタオルが作られていたとは有り難さに涙が出る。ミシンが無いと作れないんじゃないかと思ったが、何でも虫人の中には糸を扱うのが得意な種族が居るらしい。どことなく、会うのが怖そうな気がするので深く追及はしないでおこう。腕いっぱいありそうだしな。

 

 この大樹の集落とそこで育てられている豊富な植物。そして荒野に突然現れた森林地帯。その全ては、第三の巨神の能力による物だった。

 二体の自律ユニットから広域散布される、ナノマシンによる土壌改善と成長速度の促進。正に豊穣の女神と言う訳だ。

 

 無駄に話を脱線させる十七歳の巨神の横やりに耐えつつ、第三の巨神から聞き出した話によるとその力で環境を整えたらしい。外の荒野ではろくに生活が出来ずに、死に絶えるのを待つばかりだった虫人を救う為に。

 自分の出来る事をしただけだと語っていたが、あれは間違いなくツンデレだ。今や純正の物は絶滅危惧種だな。虫人達に神格化されるのも当然と言うべき貢献だろう。

 部屋を飾られて、恭しく扱われているが話し相手には困らない。きっと、この関係を巨神も嫌っていないから、環境改善を続けているのだろう。

 

 巨神と人類の共生関係。これは、私と巨人の関係の理想形なのかもしれない。私は巨人の力を都合の良いように使っている。その私は、巨人に対してしっかりと返せているのだろうか。

 今はまだ、自分自身で納得する答えを見つけてはいない。

 

 そうだな、とりあえずは、お風呂がたっぷり使えるうちに私の巨人の全身を磨いてやろうかな。お風呂デビューって奴だ。滅茶苦茶苦労しそうだけど、ちょっとは日頃の恩を返してやろうじゃないか。

 次の日からの予定を考えてから、今夜は絵本を読み聞かせる為にさっさと巨人の所に戻るとしよう。

 

 更に日は流れ。

 そうしてそれから一週間ほどかけて、巨人の全身をピカピカになるまで磨き上げた。もちろん私一人では無理だった。トカゲのおっさんや虫人達も手を貸してくれて、総出で取りかかったのだ。

 長い間遺跡で放置されていた間の汚れと、長旅で着いた砂ぼこりを落として、隙間に詰まっていた土なども丁寧に取り去ってやる。

 この大清掃のおかげで、足の裏や足首の装甲の中には噴射口みたいな物が備わっているのに気が付いた。どんな機能があるのか巨人に尋ねてみると、『ホバー推進』とスマホにメッセージが。なんと、清掃したら新機能が生えた。いや、土汚れで今まで使えなかったのが復帰したのか。

 

 新機能はそれだけではない。一週間の滞在の間に良く話す様になった第三の巨神が、自分用に用意されていた貨物用ラックが遺跡内にあるので持って行っても良いと言ってくれたのだ。

 規格とか合うのかと思ったが、問題は無いらしい。『おまえのクロノスならば問題は無い』と言われたが、巨神の姉弟同士には規格の統一性でもあるのかも知れない。

 何はともあれ、これで私の巨人は背中に大容量の貨物コンテナを詰む事が出来る様になった。これで食料品や水の運搬には困らないだろう。旅の航続距離が延びると言う物だ。

 

 それからこれが一番の目玉だが、肩と腰回りに木製だが足場を付けて貰えたのだ。これで旅の間に座ったり、戦闘中に今までより楽にしがみ付いて居られる。絵本を読むのだって此処で出来てしまう。巨人もちょっと嬉しそうだった。

 腰回りの足場は、トカゲのおっさんの為に付けてもらった物だ。肩の足場に一緒に乗れると喜んでいたのだが、どうも巨人は私以外をあまり乗せたくないらしい。ふっ、これも母の役得と言う奴か。

 もちろん尻尾を垂らしてへこんでいたのだが、腰回りや掌なら今まで通り乗せてもらえると分かったので喜んで足場作りに参加していた。結局、乗れるなら何でも良いらしい。

 

 最初はどうなる事かと思ったジャングル探索だったが、結果的には得る物がずいぶんと多かったな。私達は装備や物資を増やせたし、巨人は今回私たち以外の人達と触れ合う事が出来た。

 巨大なロボはやっぱりどこの世界でも大人気。虫人の子供達に囲まれる巨人は、おろおろとしつつもどこか嬉しそうに見えたのだ。『沢山友達が出来て良かったな』って声を掛けたら、スマホには『はい』と肯定の返事が返って来た。

 今まで私とトカゲのおっさんと巨人の狭い世界で過ごしてきたが、やっぱり多くの人と触れ合う経験は得難い物なのだろう。今回の事で、巨人の世界は確実に広がったはずだ。

 

 もちろん、世の中良い事ばっかりじゃないのは分かっている。何時か、見たくもない現実と向き合う時が私にもこの子にも来るのかも知れない。でも、今はまだ、優しい世界に触れていて欲しい。

 それが親としての、私の正直な気持ちだった。

 

 見た目の問題はともかく、居心地のよかった虫人の集落だが、厄介な頼まれごとの為にも旅立たねばならない。

 依頼された事は二つ。行方が分からなくなってしまった四体目――三女の巨神を探し出す事。そしてもう一つは、暴走して人に迷惑を掛けている六体目――次男を止めて欲しいとの事。

 もちろん、最初に言われた最強の末っ子をなんとかするのも忘れてはいないし、最終目的である世界のリセットの阻止も絶対厳守だ。

 なんかもう、ほとんどの奴を止めなきゃいけないみたいだな。特に弟達はほぼ全滅じゃないか。

 

 その為にも、私達は此処から更に東にある、海岸線にある港町に向かう事となる。まずは居場所がはっきりしている六体目を何とかする事にしたのだ。

 旅立ちの準備は、もう既にできていた。出発の日に備え、するべきことは一つしかない。

 最後の温泉に、入って来ます。

 

 

 次回、第十七話『濡れちゃう!』に続く。

 




こういう地味ーな、改装って好きなんです。
もっとたくさんロボロボしたい。ロボ設定を盛り込みたい。
全ては行き当たりばったりです。
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