【完結】私、巨人の母になりました!   作:ネイムレス

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一日一話投稿とか無理っすわー。


第二十一話『ピクピクしてる!』

 前回のあらすじ。

 自称十七歳の巨神から割と重要な事が聞けた。私の髪が何故か短くなっている事にびっくり。そして、親としての格の違いを見せつけられて、物凄い敗北感を味わってしまった。

 

 

 落とし前は付ける。そう宣言した大柄な鮫人は、勝負に勝った巨人の保護者である私に対して交渉を持ちかけて来た。自分達には蓄えた財宝を放出する用意があり、それ以外の要求にも応じる事が出来る。それで足りなきゃ俺の首をやるから、他の奴らは見逃してくれないかと。

 正直、そんな事を私に言われても困るだけなのだが……。首ってなんだよ首って、戦国時代か。そもそも、その体のどこら辺からが首なんだよ。

 

 どうも話を聞く限りでは、この海賊団は最近になって海底の遺跡で巨神を発見したらしい。そしてそれから彼らは、巨神を乗り物では無く仲間の一員として受け入れた。船長を担っていたのは仕事を見て覚えさせる為と、一人で勝手に突っ走る性格を矯正する為だったらしい。

 

「俺ぁ海賊だ。海賊の生き様しか知らねぇ。だからこいつには、俺は海賊の生き方しか教えられねぇ。だからこそ、そこには一片の妥協も入れちゃあならねぇんだ」

 

 そう語った大柄な鮫人は、胡坐をかいて不貞腐れる海賊巨神を優しげな眼で見つめていた。私はその海賊巨神をつんつんと突く巨人を見つめる。果たして私達は、この親子のようになれるのだろうか。

 

 結局。私が海賊団に要求した事は、港町の漁師達への償い。そして、可能ならば和解して欲しいと頼んだ。私達が出会った漁師達は投石機を持ち出す程困っていたようだし、私達が居なくなってもわだかまりが続く様なのは正直気分が悪い。だったらこの際、纏めて解決してくれと要求したのだ。

 

 お願いとか提案だったら、この話はおそらく聴いてはもらえなかっただろう。海賊を生業にするという事は、生半可な気持ちで船や町を襲っている訳では無いのだろうから。だから私は、彼等の稼ぎ場の一つを諦めろと要求したのだ。殆ど棚ぼたで手に入れた勝者の権利だったが、この際有効活用させてもらおう。

 

「解った。その条件を呑もう。今まで奪った物と同じだけの物品と、詫びも込めて貿易品になりそうな物も届けよう。ただし、あの港町の奴らが和解を受け入れるかどうかは保証できないぞ」

 

 それは理解している。実際に襲撃され脅された側が、その相手を許せるかどうかなんて当事者にしかわからない。だから私がしようとしている事は、大きなお節介なのかも知れない。

 でも、せっかくうちの子が掴み取った勝利なら、最大限に有効活用してあげたいのだ。

 

 結果として、海賊と港町の和解はあっさりと成立した。と言うのも、街に戻って行った漁師達に促されて、町人のほぼ全てが巨神同士の戦いを目撃していたからだ。海賊巨神の戦闘力も、それを倒した私の巨人の事も全て見ていた町人達は、そんな物と事を構える位ならとあっさりと和解を受け入れた。

 大柄な鮫人の差し出した物が莫大な価値があり、その一助となったのもある。金銀財宝とまではいかないが、遺跡で見つかった価値のある発掘品の譲渡と、それから更に大型の海洋生物を確保して来るのを確約したのだ。巨大な肉食生物の跋扈する危険な外洋でも、自在に暴れ回れる巨神を有しているこの海賊団ならではの条件だろう。

 

 それでこの話はお終い。いさかいもわだかまりも無く、利害が一致して和解は成立だ。おめでとう、良かったな。巻き込まれたこっちは、堪ったモノじゃなかったけど。

 

 そうして、私達はまた旅の空。港町で必要な物を買いそろえて数日休み、しっかりお風呂に入ってから次の巨神を求めて旅に出た。髪を洗うのが楽になったのだけは、この騒動で唯一の収獲かも知れない。

 うん、完全に強がりだなこれは。

 

 旅するうちに日が暮れて、焚火で暖まりながらぼんやりと星空を見上げる。ついでに、上から覗き込んで来る巨人の顔も視界に入る。

 ああ、そう言えば今日はまだ絵本を読んであげてなかった。でもごめん、もうちょっとだけ待ってほしいなぁ……。

 

「どうした、道に迷ったような顔をして。今日は一日中そんな顔をしていたな。巨神も心配して、お前さんをずっと見ておったぞ」

 

 ああ、見られているのは絵本の催促じゃなかったのか。いかんな、そんな事にも気が付かないぐらい煮詰まっているのか。教えてくれてありがとう、ドラゴニュートのおっさん。

 

「トカ――そうだ、ドラゴニュートだ、トカゲじゃない。まったく、減らず口だけは健在だな。一体何をそんなに悩んでおるのだ。髪についての愚痴は港町での滞在中に、とっくと聞いてやっただろうに」

 

 おめー、女の髪についての愚痴があの程度で終ると思うなよ。それはそれとして、今の悩みは別口である。こうして口を利いたのも良い機会かもしれない、すこし相談をしてみよう。

 なあ、おっさんから見て、私は良い母親になれているかな? 良い親ってのは、何なんだろうな?

 

「何だ藪から棒に。それがお前さんの悩みの種だったのか?」

 

 そうだよ、悪かったな唐突で。これでも結構真剣に悩んでるんだぞ。髪の問題が後回しになるぐらいには、真剣に悩んでいる。つまり、今のところは悩み事ランキング第一位だ。

 それはともかく、何て言うか一人で考えてると色々煮詰まって来て、何でもいいからアドバイスみたいな物が聞きたいんだ。思っている事を素直に打ち明けると、トカゲのおっさんは焚火の火でお湯を沸かしながらうーむと大きく唸った。期待感から、思わずその顔をじっと見てしまう。

 

「ワシもまだ伴侶を持ったことは無いからよく分からんが、子供を育てるにあたって一番必要なのは子供の事を考え続ける事ではないか? 千差万別な種族が居るこの世界で、判で押した様な模範解答なんぞ無いだろう。であれば、後はどれだけ子供の事を思ってやれるか、子供の為に何をしてやれるかが焦点になるのではないか?」

 

 子供の事を考える。でも、それって親なら当たり前の事だよな? 子供の事を考えない親なんて、親とは呼べないんじゃないのか? そんな当たり前の事をしているからって、子供の為になるもんなのか?

 言われた事に更に思考が乱れる私に、トカゲのおっさんは至極落ち着いたまま言葉を続ける。

 

「その点、お前さんは常に巨神の事を考えておる。絵本にしろ清掃にしろ、自分で考えてしてやった事なのだろう? ならば後は、その気持ちを忘れずに接して行けばよいだろう。子は親の背を見て育つとも言う。お前さんが子に見せている姿は、少なくとも誇って良い物だとワシは思うぞ」

 

 そう、なのかなぁ……? ああでも、口元がちょっと緩んでしまう。私って、こんなに承認欲求強い方だったのかな。……うん、そうだな、相談して認められただけで悩みが和らぐなんて、私はどうも飽きれる位にチョロイらしい。

 まあ、ありがたい事に気持ちは少し軽くなってくれた。

 

 話している間にお湯が沸いて、おっさんがそのお湯を使ってティーバッグのお茶を淹れてくれる。受け取って啜ると、飲みなれないが頭がスッとする様な香りが喉の奥を抜けて行った。

 しかし、この世界は結構旅に役立つ物が売っているな。何処かで大量生産でもしているのだろうか。

 

「西の方にある大きな帝国では様々な遺物が集められていてな。工場と言う所で様々な物が作られて、トレーダーによって各地の町へ売りに出されている。その代わり帝国はサルベイジャーが集めた遺物を集めて、更に帝国の力を強大にしておるのだ」

 

 へー、そう言う風に経済が循環してるのか。でも、それが本当なら巨神とかもその帝国が集めてそうだよな。どうしても巨神が見つからないなら、何時かはその帝国にも行かないといけないかもしれない。

 なんにしても、それはこの世界をじっくりと探してからでも問題は無いだろう。

 

「ふっ、どうやらもう大丈夫そうだな。そうだ、お前さんは沈んでいるよりも、能天気に前に進んでいる方が余程似合うと言う物だ」

 

 止めてくれませんかねぇ。その言い方だと単純馬鹿みたいに聞こえるじゃないですか。せっかく良い気分だったのに、イラつきでこめかみがピクピクしてる! お前なんかやっぱりトカゲだ。トカゲで十分だこのトカゲ!

 

「トカゲじゃないドラゴニュートだ。元気が出たのなら、巨神を構ってやれ。さっきからずっと、お前さんの事を見ておるぞ」

 

 言われなくてもそのつもりですー。まったく、トカゲはこれだからまったく。……ありがとう。

 

 正直、私にはまだ自分が何が出来るかは分からない。でも、考える事だけはこれからも続けようとは思う。それが私の為にも、私の巨人の為にもなるのなら尚更に。

 その為にもまずは、今夜も巨人に絵本を読み聞かせよう。いっぱい顔に抱き付いて、よしよししてあげるのも忘れずに。愛情表現はしっかりが大事だろう。

 

 明日を憂う前に、まずは今日をしっかりと。私はお茶を飲み終えてから、うーんと伸びをして勢いよく立ち上がるのだった。

 

 

 次回、第二十二話『弄り回したい!』に続く。

 




起承転結の起のつもりで書いたのに、結っぽくなってしまった。

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