じっくり読んでくれる人が居るのだなぁとちょっとうれしくなりますね。
前回のあらすじ。
砂漠で再び出会ってしまったカピバラ一家。追いかけっこをしていたら、巨人よりデカい砂蜥蜴に襲われる。中空に跳ね上げられたカピバラ一家と、それを追いかけて飛んだ砂蜥蜴を、天空から降り注いだ一条の光が撃ち抜いた。死体に潰されない為に相手を砂に変える必殺技を使ったけど、頭の上で使った為に大量の砂を被る羽目になる。そこで意識を失ってしまった。
ぴちょんぴちょんと、水の滴りを耳にする。耳が痛いぐらいの静寂の中に響くそれがとても気になって、私は気だるげな微睡みの中から意識を浮上させて行った。
起きて直ぐに視界に映ったのは、焚火の傍でお湯を沸かすトカゲのおっさんの後ろ姿。おはようと声を掛けると、彼は首だけで振り向いて声を掛けて来る。
「……起きたか。この状況下で高いびきとは、ずいぶん呑気な奴だな」
くっ、やめろ、乙女はいびきとか掻かないんだよ。とりあえず、ベシベシと背中を叩いておいたが、あまり効いてないようだ。うろこ状の皮膚が意外に固い! 涼しい顔してまた火の方を向いてしまった。
仕方ないのでどっこいせっと起き上がり、とりあえず周囲をきょろきょろと確認する。周囲は真っ暗で焚火の周囲しか見えないが、感覚的に閉所に居る様な気がした。あの砂の洪水の後に、一体私達はどうなってしまったのだろうか。
解らない事は人に聞けばいいの精神でもって、何があったのかをトカゲのおっさんに尋ねる。それに応えたのは、何故か全く別の声であった。
「うむ、それにはこの吾輩がお答えしよう。我輩ほどの知恵者に講義をしてもらえるとは、報奨金で学校が建ってしまうのであるぞ。学校では教えてくれない事が目白押しなのである。それはつまり――イテテテテテ、はい、ごめんなさい! 話を脱線させてごめんなさい! 助手君、我輩の頭脳が圧殺されちゃうーーーー!!」
何で此処にカピバラ博士が居るのだろう。もちろんその助手であるメイドさんも、カピバラヘッドを鷲掴みにしながら焚火の傍に正座している。トカゲのおっさんの陰になっていて二人とも見えなかった。まさかこの二人と、こんなに落ち着いて言葉を交わす日が来るとは。
「さて、我々がどうしてあの大量の砂に押しつぶされなかったか、という質問であるが。その答えは、今我輩らが居る場所、あの砂漠の地下に広がる地下空間にあるのである。なんかアルアルアルって続いて、似非中国人みたいですね」
相変わらずのぶっ飛んだ発言だが、それに耐えながら聞き取った内容はこうだ。
大量の砂が落ちてきた時に、巨人とレプリカ巨神の重量が一点に集まり地面の底――つまりは今いる地下空間の天井が抜けたらしい。そのまま大量の砂と一緒に私達は地下の空洞に入り込んでしまい、結果砂に埋もれて潰される事は無かったのだ。
なんと言うありがちな展開。でも、そのおかげで助かった。
「さてさて、我輩らがなぜここに居るかと言う理由であるが、それはもう実に単純明快。そこな竜人の旦那には既に説明してはいるが、我輩らはそちらに休戦の申し出を持ち掛けに来たのである」
休戦? 今まで何度もそっちから襲って来たくせに、いまさら何を虫の良い事を言うのだろうか。そんなの全く信用できないし、どんなに信頼を得ようとされたって心が動くとは思えない。
そんな頑なな私に対して、カピバラ博士は実に落ち着いた声色で語り掛けて来る。
「あくまでも一時休戦と言う事である。我輩等は少々困った事になっているし、そちらも巨人がその有り様ではこの空洞の探索にも困るのではないかな?」
至極冷静に追及されて、私は語句に詰まってしまう。
そう、確かに私の巨人は今、この場所から動く事が出来ない。直立した巨人が天井にまで差し伸ばした、左腕の装甲を展開して光を灯らせた掌の先。私達が落ちて来たと言う天井の穴から大量の砂が落ちて来るのを、円形の壁を使い停止させて塞き止めているから。
地中に潜れる巨人だけならまだしも、私やトカゲのおっさんは生き埋めになった時点で潰れてしまうだろう。私が意識を失っている間もずっと、この子は私を守ってくれていたのだ。
「この空洞の中を調査するのであれば、こちらは助手君の戦力を提供できる。そこになんと、我輩の驚異的な頭脳もお貸ししちゃってお買い得! アッハイ、脱線しません。しませんから締め付けないでください、オナシャス……。我輩達の利害は一致していると思うのであるが、いかがかな? 『そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが』と言う奴である」
なんだろう、最後の一言で凄い不安になった。
でも、少なくともここから出られる場所を見つけない事には、いずれにしろ進退が極まってしまうだろう。ここは、覚悟を決めるべき所だろう。
それから小一時間後。
しっかりと休息と食事をとってから、私達は巨人をその場に残して周囲の探索に出ていた。地形の把握と出口の捜索、それからカピバラ博士には他にも探し物があるのだそうだ。
ランタンの明かりだけでは心もとないが、それでも私とメイドさんがそれぞれ一つずつ持てば、周囲を何とか確認は出来るくらいにはなっている。
「我輩の作り上げた傑作機、レプリカ巨神のケイローンに使われている動力炉。今回のそれは通常の三倍を誇る特別製で、大きさも重さも三倍と言う素敵仕様なのである。これは回収せずにはいられぬと言うモノ、スポンサーさんに怒られちゃう! なので、人命救助だと思って協力してほしいのである」
なんで動力炉を探すのが人命救助になるのかはよく分からないが、それを手伝うのがメイドさんが付いてきてくれる条件なので仕方がない。こんな何が潜んでいるか分からないような所を、トカゲのおっさんと二人で歩くなんてぞっとしない。なんたって、トカゲ顔してるのに学者肌で戦闘とかはからっきしだと豪語しているからな。
そうだよな、トカゲのおっさん?
「トカゲじゃないドラゴニュートだ。それはともかく、作り上げたという事はやはり、巨神達と同じ動力源なのか?」
「吾輩が古代の遺物から発掘したデータを元にして、なんとか再現しようとして諦めたタイムコンバーター。その模造品として自力で作り上げたのが、時粒子人機融合炉。数多の人体実験の果てに、時粒子の源であるヒューマンを内包する傑作。それこそが、通称『時粒子エンジン』なのである!!」
諦めてるなら同じ物じゃないんじゃないか? いやそれよりも、こいつは今とんでもない事を言わなかっただろうか。もしかして、その時粒子エンジンとやらには……、人が入っている?
「イカにもタコにもクラゲにも! 我輩の長年の研究によりヒューマンの女性、それも十六から十八までの特定年齢の娘には非常に強力な時粒子が観測されているのだ。そんでもって、ちょちょいと融合炉に入っていただいて、融合炉はケイローンを動かすに至るエネルギーを生み出す事が出来たのである」
に、人間を機械に入れる? まさか前に街中で女性を集めようとしていたのは、動力炉に使う為だったのだろうか。だとすれば、やはりこいつはいかれている。今更ながら、こいつに協力したのは間違いだったかもしれない。
「誤解があるようなので言っておくが、我輩何も無理強いして彼女等を利用している訳では無いのである。ちゃんと同意を取り付けてお給金だって支払っているし、脱出装置や慣性制御等の安全面にも十全に配慮しておる。何よりも、彼女達は身体能力に劣るヒューマンであり、身内に売られるほどに窮しておった者達。我輩の所で雇わねば、路頭に迷ってしまうのである」
だからって……。機械の中に押し込めて、あんな危ないロボットに乗せるなんて……。
うまい反論が思いつかなくて、思わずトカゲのおっさんに視線を向けてしまう。助けを求めるような私の視線に、おっさんはふむと一つ呟いて短く息を吐く。浮かんでいる顔色は多分、困惑だろうか。
「まあ、言うている事は間違いではないよ。ヒューマンはこの世界では、圧倒的に生き辛いのは確かなのだ。倫理観的に思う事はあっても、それを非難できるほどワシは強くはない。今は巨神の歴史を探求する事で精一杯だよ」
そっ! …………そう……、だよな……。トカゲのおっさんだって、誰も彼もを助けられるわけじゃない。私にだって出来ない。それ処か巨人の力が無いと、きっと荒野を歩く事も出来ないだろう。
そんな私が、まがりなりにも人助けをしているカピバラ博士に何かを言えた立場ではない。心で反目していても、頭では理解できてしまえる。これは、子供の我儘なんだと。
でも、それでもと納得しきれない私の腕が、胸元のスマホに伸びてしまう。
「……巨神の見ている前で、正しさを示したいという気持ちはわからんでもない。だが、世の中には出来る事と出来ない事があると言う事も、立派な教育になるとワシは思うぞ」
くそっ、そうだよ格好つけだよこんなの。だから指摘されれば余計惨めになる。こんなのは、胸ポケットに居る私の子には見せたくも聞かせたくも無かったな……。
ああ、周りの風景同様に、気分が何処までも暗く落ち込んで行ってしまいそうだ。
「それはそうと、おぜうさんは何時もその様な語り口なのであるか?」
ナーバスな気分だったのに、カピバラ博士がなんか言い始めた。そうだけど、何? なんか私の喋り方で、気に入らない事でもあったのだろうか。正直もう、布団に顔を埋めて足をバタバタさせたい気分なんですけど。
まあ、話題を変えたいと言う気は分からんでも無い。で、どうしてまたいきなりそんな事を言い始めた? きいちゃるから言うてみい?
「いや、まあ……、なんと言うか、婦女子としてはなかなかどうして、男前な語彙であるからして。正直、こうして言葉を交わしてみて意外性にびっくりしたと言うか何と言うか、とても……」
「…………、おっさん臭い?」
カピバラが遠慮がちに言葉を濁して、トカゲがずはりと直球で言葉の先を口にする。私は無言で腰のベルトから閃光手榴弾を引き抜いた。乙女に向かってなかなか面白い事を言ってくれるな、安全ピンに掛けた指が震えてカタカタ音が鳴るってもんじゃないか。
「まてまてまてまてまて、落ち着け! 謝るから! 悪かったから!」
「落ち着いてください! 落ち着いてください! こんな閉鎖空間でそんな物使ったら、鼓膜が破裂してしまうのである! うちの職場労災おりないんですよ!? じょ、助手くーん、助手君たすけてー!!」
それからしばらくの間、ぎゃあぎゃあと三人で騒ぎ合った。そしてメイドさんに、この後むちゃくちゃ正座させられた。無言ののままなのに、三人とも従わせられてしまう圧力があったのだ。
正直、地肌に直接正座するのは辛いんで勘弁してほしいです。
次回、第二十四話『溢れて来る!』に続く。
女の子に夢を見過ぎるのも、夢を諦めすぎるのも良くないと思います。
何事も程々が一番ですね。