まあ、待ってる人も少なそうですが、完結まで頑張るのです。
前回のあらすじ。
気が付いたら光の射さない地下空洞に居た。焚火を囲んでカピバラ博士とおしゃべり。一時休戦して協力関係を結び、周囲の探索をする事となった。レプリカ巨神の動力が人間と機械の融合させた物だと聞かされ、そしてそれはあくまで雇用であると言い負かされて落ち込む。後なんかおっさん臭いって言われたので、閃光手榴弾を炸裂させてやろうと思いました。無礼者殺すべし、慈悲は無い。
探索は思いのほか順調に進んだ。何故なら、危惧して居た様な危険な生物との遭遇が全くなかったからだ。カピバラ博士が周囲を検分してみた結果、生物が生息している痕跡は有ったので、恐らく巨人やレプリカ巨神が落ちてきた音を聞いて逃げ出したのだろうと言う事らしい。
そしてそれは、この空間に出入り口がある事の証左なのであろう。やはり博士が言うには、出入り口が無いなら逃げ出す事も出来ないから、との事だ。
何だかさっきから言う事が適切で、博士が本当に頭が良い様に見えてしまう。外見はどう見てもカピバラなのに。
「おお、あった! あったあった、アタタタタタタッ!! 探索が終わったぁ! ついに見つけ出したのである、ケイローンの下半身よ! 会いたかった、会いたかったぞ時粒子エンジン! これぞまさしく愛だ!!」
何故そこで愛ッ!? 突飛な事を言い始めるのは今更だが、探し物が見つかった途端にこの荒ぶり様。これは相当、時粒子エンジンとやらにご執心らしい。
中に人が入ってるとの事だが、『生きているけど人の体を成していない』とかじゃないだろうな……。
「もーう、五体満足に決まってるでしょー? お給金払ってるって言ったのに、そんなマッドサイエンティストみたいな事する訳ないじゃないですかヤダー!! 我輩これでも紳士で通っているのであるからして、動力炉の中のおぜうさん方の安全はとんでもなく保証しているのであーる」
そう言えば確かに、やられる度に動力炉だけは何度も何度も回収していたなぁ。途中からは脱出装置まで付けていたし、大事にしている事だけは確かなのだろう。それ以外にも、中は呼吸と粒子抽出を兼ねた保護液で満たされていて、怪我もしない様にしっかり固定された上で眠らされているらしい。意識が戻る頃には一仕事終えて、お給金が待っているという至れり尽くせりな環境なのだそうだ。確かに、気の使い方は尋常では無い。
それが人間だからなのか、発明品だからなのかは分からないが。
発見してどうするのかと思えば、コンテナの様な下半身の外殻をメイドさんが無造作に抉じ開け始めた。繋ぎ目に指を突っ込んでメキメキと金属の筈の装甲版が、どう見ても力が有る様には見えない細腕によって捲り上げられて行く。
この人もこの人で、見た目と実力がまったく釣り合っていない。出会ってから今まで一言も喋らないし、いったいどういう人なのだろうか。
分からないので、とりあえず聞いてみる事にした。
「うん? 助手君のぱうわぁーがエゴいですと? それはホレ、当然なのである。なんと言っても助手君は我輩手製の高性能義体の被験者であるからして、そのぱうわぁは正に十万馬力を通り越した百万馬力! 空を飛べない以外は完璧なのである!!」
義体? 偽物の体と言う事だろうか。つまりメイドさんはサイボーグみたいな、後天的に強化された人間と言う訳だ。
動力炉の中に押し込められた人間にずいぶん気を使っているから心証が変わって来ていたけれど、やっぱりこのカピバラ博士に対しては警戒心が溢れて来る! やっぱり人体実験しているじゃないか!
「そりゃあ、人体実験はするべきであろうとも。治験は全ての生き物に必要なのである。それに助手君の場合は……」
反論の言葉を区切り、カピバラ博士はちらりとメイドさんに視線を向ける。その視線の先ではメイドさんが相変わらずの無表情で、ちょうど三つの金属の塊が寄り集まった様な動力炉を引きずり出していた。その形状は例えるなら、三色パン? 確かにあの大きさならば、ヒューマンの女の子ぐらいなら易々と納めてしまえるだろう。
メイドさんはそのまま動力炉をひょいと肩に担ぐと、涼しげな顔を崩さずにずしんずしんと博士の元に戻って来る。そして、何も言わずに博士に向かってコクリと頷いて見せた。
それは作業が終了した事への通達にしか見えなかったが、博士はそれを許可だと判断して言葉を続ける。メイドさんは博士の言葉を遮る様な事はしなかったので、やはり博士の方が正しく彼女の言いたい事を理解したのだろう。
「彼女は全身の筋肉が徐々に動かなくなる病に、幼いころから侵されていたのである。そして我輩と出会った時には自力で起き上がるどころか、満足に喋る事すら叶わなくなっていた。だからこそ、我輩は彼女に新たな肉体を贈ったのである。彼女こそが正に、我輩の最高傑作と言うべき存在なのであーる!」
む、筋肉が動かなくなる病気って、確か筋ジストロフィーだっけ。小説で読んだことがあるけど、まともな治療法が無いとか言う。……うっ、何か警戒してるのが物凄く悪い事の様な気がしてきた。えーっと……、その病気って今はもう大丈夫なんだろうか、それだけでもまずは確認しておこう。
「うむ、優しいのであるな。彼女はもうすっかりバッチリ元気なのである。神経系の一部と脳以外は全て作り替える事になってしまったが、今では家の清掃から裏社会の清掃まで何でもこなせる万能メイド。我輩の優秀な助手をしてもらっているのである」
それで助手君か。意外とぺらぺらと事情を喋ってくれるんだな。じゃあついでに、なんでメイド服なのかも聞いておこう。こうなったら、疑問に思った事は何でも聞いてみた方が得だ。
「うむ、それは助手君が自分で用意した物なのである。本来は我輩手製の戦闘にも耐えうるピチピチバトルスーツを着ているのであるが、どうもそれが恥ずかしく――あ、あの助手君? なぜ我輩の頭を掴んで持ち上げるのでせうか? あっ、あっ、痛い、痛いです。締まってる締まってるしままままままままあああああっ!!」
おっと、どうやら質問タイムはここまでの様だ。照れ隠しでアイアンクローが始まるとは、なかなかアグレッシブな愛情表現だな。このメイドさん、カピバラ博士が何か不都合な事を言う度に頭を締め付けているのだろうか。
それから程なくして、私達はもう一度陽の光を見る事が出来た。なんと言う事は無い。一旦壁際までたどり着いたら、後はそのまま壁沿いに沿って移動して出入口を探したのだ。
巨人が入れる程のだだっ広い空間には、都合の良い事に外に繋がる大きな横穴が存在していた。後はそこを巨大な動力炉をつっかえさせないよう慎重に通り抜けて、上り坂に苦労しつつも漸く外に出る事が出来たのだ。
肝心の巨人の脱出だが、これはほぼ一瞬で終ってしまった。ただ、スマホ越しに砂を塞き止めるのを止めさせた後に、砂中を掘り進ませて天井の穴から再び外に飛び出させたのだ。
ずーっと遠くで、砂塵を巻き上げて巨人が地面から出てくる光景は中々にシュールだった。
そんな事をしている間に、砂漠の空は夕闇に包まれてしまう。私達はもうその日の移動は諦めて、巨人を座らせて何時もの様に足の間にキャンプを張る事にした。
巨人の背中のコンテナから取り出した薪で焚火を作って、さして美味しくも無い干し魚とパンの食事を楽しむ事にする。これだって、粘土みたいな携帯食料に比べたらだいぶマシなのだからありがたい事だ。
どうせならカピバラ博士達にも振る舞おうとしたのだが、博士とその助手はなんと夜間の間に移動をすると言い出した。動力炉の中に居る女の子達を一度、しっかりした場所で診断してあげたいのだそうだ。そう言われてしまえば、引き留める事は出来なかった。
「一時休戦は脱出するまで、であったな。我々はこれで失礼させてもらうのである。次に会いまみえる時は、再び敵同士としてどちらの巨神が上か決めるのである。ところで一番近くの町って、どっちの方角でしょうか教えてプリーズ」
途中まではシリアスっぽかったんだけどなぁ……。
結局星の位置からトカゲのおっさんが大体の位置を読み取り、太陽の沈んだ方向から方角を割り出して近くの町の位置を教えてあげた。
そして、三つ連なった動力炉の上にカピバラ博士が乗り、それを更にメイドさんが背負って夜の砂漠を爆走して立ち去って行く。現れた時と同じく、その去り際もまた唐突であった。
「なんと言うか、更によく分からない存在になってしまったな。相手の事情を知ると言う事は、良い事ばかりではないのかもしれん」
確かに。根っからの悪人ではない事は良く分かった。だが、あいつ等の目的が私の巨人の打倒だと言うのなら、手加減して負けてやるわけにはいかないだろう。私の子供は強くて逞しいんだ。やられる姿なんて、正直見たくはないからな。
今日は色々な事を聞かされたけれど、ふと私はトカゲのおっさんの事をあまり聞いた事が無いのを思い出した。知っているのは、考古学者でトカゲの亜人で巨神マニアだと言う事ぐらいだろうか。
なんとなく、トカゲのおっさんの事もいろいろと尋ねてみたくなってしまった。
「トカゲじゃないドラゴニュートだ。ワシの事か? 特に、聞いておもしろい様な身の上は持ち合わせておらんが……。そうさな、どうして巨神の歴史に興味を持ったかぐらいなら話してやろうか」
焚火の薪が爆ぜる音を聞きながら、何処か自慢げに語るおっさんの話に相槌を打つ。その日は夜寝る前に絵本を読んでやる時間になるまで、話を聞かされることになってしまった。ちょっとだけ後悔したが、悪い気分はしない。
少しだけトカゲのおっさんの事が理解できて、私はきっと嬉しさを感じたんだと思う。胸の中に、焚火の熱とは違う暖かさを自覚する事が出来たのだから。
明日からまた、三人での旅が再開されるんだ。
次回、第二十五話『変な味!』に続く。
所でどのくらいで完結するんでしょうねぇ、これ。
行き当たりばったりって怖い。