【完結】私、巨人の母になりました!   作:ネイムレス

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一年近くも放り出していた、不甲斐無い作者をお許しください


第二十五話『変な味!』

 前回のあらすじ。

 カピバラ博士とメイド助手の話を色々と聞いてしまった。今までただの敵だと思っていた相手にも色々と事情があるのを知って、相手を糾弾できるほど自分に正しさが無い事を自覚してしまう。地下から脱出した後は博士たちと別れ、今度はトカゲのおっさんの話を聞く事にした。そしてまた、旅が再開される。

 

 

 見渡す限りの白。三百六十度どこを向いても白一色の景色が、地平の果てまで続いている。

 その景色を彩る白は雪ではない。ここは雪原とは縁遠い、照り付ける太陽の真下。一面の白は、全てが塩で構成された無生物地帯であった。

 試しにちょっと味見してみたら、想像より塩っ辛い上に苦かった。ぺっぺっ、変な味!

 

「此処は元々塩湖が在った場所だが、今は干上がってごらんの通りの塩の大地となっておる。塩が採れる貴重な場所でもあるが、その代り草木は全く育たぬ死の世界でもある。あと、トカゲじゃないドラゴニュートだぞ」

 

 そうなのか、トカゲのおっさん。相変わらずうん蓄を語るのが好きだな。私もそれを聞くのは嫌いじゃないぞ。

 それはそうとして、この塩の大地は一面が真っ平らで目立った凹凸もほとんどない。だから自然と、巨人のホバー推進の速度も上がって行く。いいぞ、このまま私達は風になるのだ。

 

 そんな調子で塩の匂いを感じながら風を受けていると、ふと巨人が上空に視線を上げるのが見えた。この子の五感は計り知れない物があるので、私達には見えない何かを感じ取ったのかも知れない。

 視線の先の物が気になって、私はスマホを巨人の視覚とリンクさせる。画面に映った物を確認しようと覗き込んだ瞬間、その画面にチカッと何かの光が瞬いた様な気がした。

 

 その直後、巨人が左腕を天に掲げてその腕の装甲を展開、掌の前に円形の壁を生み出して降り注いできた物を受け止める。勝手に動き出した事に驚いた直後に、巨人が受け止めた物を見て更に驚いた。

 それはいつぞやに見た、空から降り注いだ光線だ。巨大な生物の頭をいとも容易く吹き飛ばした光が、今まさに私達を襲おうと降り注いでいる。

 

 というか、なんか巨人の方が押されていないだろうか。受け止めている光の壁の裏側に、動きを止められた光線がモリモリ溢れて行ってまるで決壊寸前の防波堤だ。このままだと光の壁から溢れて、こちら側へ雪崩れ込んで来るのではないだろうか。

 

 危機感を覚えた私は、咄嗟に巨人に回避する様に命じていた。途端に光の壁を維持したままで、巨人が急加速してその場を離れる。滑る様にして移動するホバー推進は、巨人の巨体をアイススケートの如く軽やかに移動させた。

 肝心の空からの光線だが、展開したままの光の壁に照射され続けている。逃げる巨人の事を正確に追尾してきて、当たるそばから動きを止められ、巨人の逃げる動きに合わせて中空に停止した光の帯が伸び続けていた。

 だが、それもやがて終わる。照射されていた光線がか細くなり、やがて勢いを無くして消失。続けて放たれるかと警戒したが、空から光の雨が降り注ぐことは無かった。

 冷却時間がいるのかは分からないが、どうやら連射は出来ないようだ。

 

「何とも非常識な……。あの停止した光がどうなるか想像もつかん、此処は少し距離を取った方が良いだろう。ただしあまり速度は上げない方が良い。あの光は本来空を飛ばん限りは撃たれない物だ。恐らくは、速度が関係しているのかもしれん」

 

 トカゲのおっさんに言われて、私は巨人を何時も通りの速度で移動する様に頼んだ。恐ろしい世界だなここは。スピード違反するとビームで撃たれるのかよ。

 光の帯から距離を取ったその直後、左腕の装甲を戻した途端に停止していた光の帯が爆裂した。パンっと乾いた音を立てて弾け飛んだ光はまるで花火の様だったが、爆発に巻き込まれた塩の大地は無残にもえぐり取られていたのでゾッとする。直撃していたら、巨人はともかく私達は跡形も無かったに違いない。

 

 とにもかくにも、何か事情を知って居そうなおっさんには、後で詳しく話してもらう必要があるだろう。

 

 

 と言う訳でキリキリ話せ、と焚火の前で座るトカゲのおっさんに詰め寄った。あの光について話してもらう為だ。

 あれから巨人をおっかなびっくりと日暮れまで走らせて、陽の沈まない内にキャンプを張る事を決めた。味気ない保存食の食事を済ませて、これだけは心の癒しである砂糖入りのお茶を飲んで人心地ついてから。それから漸く、あんな危険な存在について黙っていたおっさんに食って掛ったのだ。

 

「まてまて、落ち着け。別に隠していた訳では無い。地上に居る時に撃たれるとは、ワシも思ってはいなかったのだ」

 

 そんな言い訳から始まった説明は、正直常軌を逸していた。

 この荒野の世界では、実は航空機などの空を飛べる遺産はそれなりに発見されているらしい。だが、今現在それらはその大半が失われており、人々は空を飛ぶ事を諦めていた。

 その理由が、あの空から降る光だ。

 一定の高度まで飛行をすると、天から降り注ぐ光に撃墜される。それは一切の例外は無く、やがて現在の人類は空の旅を捨てた。低空飛行では大した距離も飛べず、地上を移動する乗り物と大して違いが無いと判断されたからだ。

 命を賭して空を行くには、あの光の脅威は人々には過剰に過ぎたのだそうだ。何より、燃料の調達が難しいのもその一助となっているのだろう。バイクとか車もそうだが、燃料どうなってるんだろうな。

 

「燃料は遺跡から見つかる事もあるし、水を使って動く物もある。大型の物になると、そもそも原理が分からないなんて事も良くあるな」

 

 良く分から無い物を使うとか、控えめに言っても頭おかしいわ。まあ、新しい物が作れないならそうやって生きるしかないんだろうけどさ。

 それにしたって、三千年もこんな生活をして、よく遺物は枯渇し無い物だ。

 

「それだけ、人が少ないと言う事だな。亜人もヒューマンも、ギリギリの数でしか生きてはおらん。減り過ぎれば消滅して、増えすぎればやはり死ぬだけだろう」

 

 それがこの荒廃した世界。そんなもの悲しい世界に、私は今居るんだな。空も飛べず、地を這いまわり、何時消えるともわからない命の世界に。

 

 聞きたい事は聞けたので、後は眠る前の絵本の時間になるまでは寛いで過ごす事にする。塩の大地にシートを引いて横になりながら、スマホで撮影した写真をぺらぺらとスライドさせて眺めていた。私の知らない間に、巨人が撮影しているのか気が付くと増えているのだ。

 

 なんとなくボーっと眺めていた写真の一番新しい物に、気になる物が映っていた。それは、例の空から降り注ぐ光の写真。こちらに向けて光が降り注ぐ瞬間を、連続して撮影した物だった。私はその写真を、撮影時間が若い順にスライドして眺めて行く。

 光が発生して降り注ぐ前に、光の発射地点に向けて横から光の線が走っているのが見えた。彗星にしては青空の元でくっきりと見えすぎている。この光はつまり、私達の頭上で直角に曲がったと言う事になるのだろう。

 

「これは、流石巨神の視力と言う物か。この横からの光の方向に向かえば、光の発射地点が分かるかもしれないな」

 

 気になった写真をトカゲのおっさんにも見せると、やはりそんな意見が返って来た。こんな傍迷惑な光を飛ばしている奴を特定できるなら、特定してぶん殴るのが世の為ではないだろうか。私の巨人に攻撃してくれたことだしな。

 何よりも、こんな常識はずれな事が出来る存在は、新しい巨神の仕業かも知れないのだ。探してみる価値はあるだろう。そして殴る。

 

 そんなこんなで、明日からの方針が決まった。漠然と各地を回るよりは、断然目的地があった方が良いに決まっているだろう。

 差し当たっては、こんな素敵な写真を撮ってくれた巨人をねぎらう事としよう。頬っぺたをいっぱいなでなでして、絵本も沢山読んであげなくっちゃ。次の街での買い物の時は、新しい絵本を買ってあげるのも良い。

 あれこれと世話を焼きながら、その日の夜はあっと言う間に更けて行くのだった。

 

 

 次回、第二十六話『ブルブルしてる!』に続く。

 




この変なサブタイトルを延々付け続けて来たとか、昔の私は馬鹿なんじゃないだろうか。
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