【完結】私、巨人の母になりました!   作:ネイムレス

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意外とPVが増えている事に驚きが禁じ得ない今日この頃。
誤字脱字の修正ありがとうございます。


第二十六話『ブルブルしてる!』

 前回のあらすじ。

 スピード違反したら頭の上からビームを撃たれた。巨人の視覚が捕らえたビームの軌跡を頼りに、犯人を見つけ出す為に行動を開始する。

 

 

 まったく。びっくりしたもんだよ全く。

 ビームの発射地点に向かって突き進んだところで、見上げる様な山を見つけて山越えを敢行。ある程度登った所で山頂から何かが飛んで来たかと思えば、それはビームの雨だった。

 

 咄嗟に巨人を岩陰に隠れさせ、左手の防御技で岩事時間を止めて即席のバリケードにして雨をしのぐ。ご丁寧に、飛んでくるビームは寸前で散弾の様に分裂して、文字通り雨へと変わってくれた。どういう技術だそりゃ。特許取れたら大儲けできるぞ。

 

 そしてそんな最中、降りしきる豪雨の音に負けじと、私のスマホが着信音を奏で始めた。気分的に無視しても良いかとも思ったが、どうせこのスマホに掛けてくるやつは出るまで鳴らし続けるに決まっている。

 渋々と通話の表示をスライドさせ、電話に出る事にした。

 

「『はーい、貴女のお耳の不協和音。巨神ヘスティア、十七歳でーす。あらあら、凄い轟音ですね。こっちの声は聞こえてますかー? もしもーし?』」

 

 聞こえているわクソッタレ。案の定、掛けて来たのは奴だった。このクソ忙しい時に、くだらない用件だったらひっぱたいてやるからな。

 

「『そろそろ次の巨神に出会った頃かと思ってご連絡したのですが、どうやら無事に出会えているようですね。不幸中の幸いと言う奴ですね。良かった良かった、では私はこれで……』」

 

 おいマテ。やっぱりこの攻撃は新手の巨神の仕業だったのか。通話を切るのは大歓迎だが、その前に知ってる事を洗いざらい話せ。この巨神の特徴とか弱点とかも知ってるんだろうが。

 

「『えー。そんな事したら面白くないじゃないですかぁ。特に、ハデスちゃんと貴女の巨人の相性は最悪ですし、システムクロノスでも使わない限りは接近するのもままならないんじゃないですか? ほらほら、こんな所でもたもたしてると、時間を止めた光線が溢れて来ちゃいますよ』」

 

 まるで見ているみたいに言うじゃないか。他人事だと思ってこの女郎。何時も通りのふざけた物言いに、ブチ切れそうになって握った拳がブルブルしてる!

 

 とまれ、こんな所でぐずぐずしていたら塩の平原の二の舞だ。折角ヒントをくれたのならば、使ってみようか海以来のあの凄い奴を。

 

「『あ、それから。システムクロノスを使うなら、トカゲさんは降ろしておいた方が良いですよ。空気との摩擦で焼きトカゲになってしまいますから』」

 

 え、それって私も危ないんじゃないか? でも、前回使った時はまったく空気抵抗とか感じなかったんだけど。あ、髪の毛は短くなったな。

 

「『貴女は特別です。巨人が守ってくれますから、そのまま引っ付いていて大丈夫ですよ』」

 

 良く分からんが至れり尽くせりだな。だが方針は分かった。

 とにかく、節分の鬼より撃ちっぱなしにされているんだ。いい加減に一発仕返しをしてやろうじゃないか。

 

 トカゲのおっさんは危ないから、とりあえず近場の岩陰に隠しておく。焼きトカゲになったら何時もの台詞が聞けないからな。

 

「焼きトカゲじゃない生ドラゴニュートだ。それはともかく、巨人が一緒なら無用だとは思うが、何をしてくるか分からん相手だ、気を付けて行けよ」 

 

 言われるまでも無い。油断して返り討ちなんて、そんなの私の巨人には相応しくないからな。どうせやるなら、勝ち戦が一番だ。

 システムクロノス、発動! 一方的になぶって来る様な奴は、一発顔面に叩きこんでやれ!!

 

 そして私の巨人は一筋の流星となった。見送るトカゲのおっさんも、飛んで来る閃光も全てがぴたりと動きを止める。音も無い空間の中を、全身の装甲を展開して姿を変貌させた私の巨神が駆け抜けて行く。両足の移動技での加速状態。こうなれば、飛び道具なぞ怖くもなんとも無い。

 

 程なくして、私達は狙撃してきていた犯人の顔を漸く拝む事が出来た。私の巨人に少しだけ似た雰囲気の、甲冑姿の様な体躯。その巨躯を覆い隠す様に構える大きな盾と、右腕と一体化している長槍の様な長銃身の大砲。人の様な二つの瞳を持つ顔の額には、闇色の単眼が一つ――いや、後頭部にも同じものが付いていて全部で四つの瞳を持っている様だ。

 

 以前に海で出会った巨神に比べれば実にシンプルなデザインだが、その分頑強さが滲み出て来る様な武骨さがある。これが今から叩きのめす相手なら、実にやりがいがありそうじゃないか。

 私の意識を汲み取ったかの様に、私の巨人が拳を握りしめて振り被る。そのまま、真っ直ぐに顔面を狙って巨大な拳が突き出されて行った。

 

 だが、その拳が顔面に突き刺さろうかと言う瞬間、ぎろりと相手の巨人の瞳がこちらを睨み付けて来る。そして、あろう事か大楯を使ってこちらの突き出した腕を弾いて見せたのだ。

 がら空きになった胴体に向けて、奴は右腕の大砲の先を突き出して来る。加速状態に何故追従できるのかという疑問はさておき、私の巨人はその銃口を左手で掴み力任せに胴体から離れさせた。

 

 互いに両腕を逸らされて、後は力任せの取っ組み合いだ。ぎちぎちと装甲が悲鳴を上げて、至近距離で二つの巨体がにらみ合う事になる。巨神同士で戦うといつも組み合ってる気がするな。

 距離を開けられると飛び道具の無いこちらが不利だ。このまま距離を離さずに、強引に力でねじ伏せるのが上策。油断も慢心もせずに、全力で押し切ってしまえ!

 

「『はーい、そこまで。これだけ近づけば、通信を遮断して引き籠って居た貴方にも私の声が直接聞こえますよね? 上位固体権限により命令します。無線封鎖解除。三千年の引き籠り生活を終わりにしなさい、第四子かつ長男のハデスちゃん』」

 

 ここからが本番と思った矢先、とっくに切れたとばかりに思っていた通話先から声が響いた。その事にも驚かされたが、もっと驚いた事にそれまで抵抗していたはずの相手の巨神が突然抵抗を止めたのだ。突然相手が引いたために、私の巨人が思わずつんのめってしまった程だ。

 一体全体、何なのだこの状況は。

 

「『実はこの子はずいぶん昔から音信不通だったのですが、今回発見できたので近くまで行ってもらう事にしたのです。全ては、私のちみつな計略の通りと言う事ですね』」

 

 人を都合の良い様に利用しやがって、相変わらず性格が悪い。というか、結局私は何時もこいつの掌の上か。くそう、絶対にいつかぎゃふんと言わせてやる。

 

「『そんな事より、貴女の体の方は大丈夫ですか? システムクロノスを使うのもこれで二度目ですからね。どんな反動が出ているかの確認もかねて、些細な事でも報告して下さい』」

 

 は? 反動があるなんて一言も聞いてないんだけど。別に今のところ変化はなさそうだけど、デメリットがあるのだとしたら今後は使用を控えないと――

 そんな風に陰険巨神の言葉に警戒心を抱いていた時、私の体からストンと一枚の布が落下した。それは、紛う事なき私の下半身を守っていたスカートそのものであり、それが地に落ちた様を目で追うと次第に私の中に一つの感情が沸き上がって来る。全身をひたすらに駆け巡る衝動で、顔が熱くなるのを感じ私は感情のままに悲鳴を上げた。

 その感情の名は、まさしく羞恥だ。

 

「『あ、キャーって悲鳴初めて聞きました。これはアレですね、らっきーなすけべえが発動しちゃった感じなんですかねぇ。この場にトカゲさんが居ないのが本当に悔やまれます。今からちょっと舌打ちしますね。チイッ!』」

 

 やかましい! なんだこれは、どうして今までなんとも無かったのにスカートがずり落ちる様な事が起きるんだ!? これが反動って奴なのか!? スカートずり落ちる反動とか一体全体どうなっているんだ!!

 

「『あらあら、まあまあ。あまりにも見事な錯乱っぷりで、いけないと思っていてもついつい愉快になってしまいますね。プーックスクスクス、失礼。ゲラゲラゲラ、失敬。ブフホッ、ゲホゲホ、恐縮です』」

 

 もーっ! ほんともー! なんなんだよこの状況はー!!

 腐れ巨神の煽りに耐えながら、私は取り急ぎ落ちたスカートを拾って履き直す。何時までもこんな姿を晒している訳にもいかないし、私の巨人の教育にだって悪いからな。おう、こっち見てるハデスとか言う奴も、じろじろ見てるんじゃないぞ。金取るぞ。

 そうして再び腰までスカートを上げた時に、私は自分の身に何が起こったのかを察してしまった。

 

 この世界に来てからの大切な一張羅であり、長旅にも耐えた学校指定の制服のスカート。それが、あっけなくずり落ちてしまう程に、私の体が縮んでいると言う事に気が付いてしまったのだ。だってほら、ウエストに指が三本も入る様になっている。

 

「『そうですか。もうそんなに、時間を食べられていたのですね。今後、システムクロノスを使う時には、ある程度の覚悟をしておいた方がいいかもしれませんね。あまり食べさせすぎると、着られる洋服が無くなってしまいますよ?』」

 

 時間を食べられた? そう言えばだいぶ前に鉄仮面の人が、私の巨人の事を『時食いの巨神』って呼んでたっけ。そうか、あれはそう言う事だったのか。私は時間を食べられて、体が縮んだり髪が短くなっていたんだ。

 なんだそれ。何で今更そんな、私の巨人が怖くなる様な事を言うんだよ。

 

「『と、そんな事を言っている間にデータリンク完了。流石、静止衛星軌道上に多数のビーム反射衛星を配備しているハデスちゃん。三千年ボッチしてたくせに、情報収集能力は桁違いに高いですね。そのおかげで最後の巨神の現在位置が判明しました。それによって、貴女の現状を何とかできるかもしれない提案が出来そうなんですけど、お聞きになられますか?』」

 

 私の心境を完全に置き去りにして、スマホから流れて来る無機質な言葉。そこに含まれた甘い誘惑に、私は思わずゾクリと背筋を震わせるのだった。

 

 

 次回、第二十七話『いやらしい!』に続く。




無口な巨神だって居てもいい。自由とはそういうことだ。
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