前回のあらすじ。
新たな巨神の手がかりを教えられて大都市に向かうも、量産化されたレプリカ巨神の大群を差し向けられてしまう。多勢相手に対処を悩んでいたが、突如巨人の背負っていたコンテナから支援ユニットが発進、レプリカ巨神達をなぎ倒し始める。丁度憂さ晴らししたい気分もあったので、巨人も戦線に投入させ大暴れをさせる事にした。
とりあえず動く物が無くなるまで大暴れした後に、コンテナに自律ユニットを格納しつつ大都市へと向かうと、街の入り口となっている門の前で何人もの人物達に出迎えられた。ただの町人ではない様で、各々ボウガンやら銃器やらで武装している様だ。流石は技術を集めて発展している大都市の警備隊は重武装だな。
すわ今度は人間相手に武器を向けられるのかと思いきや、門前の人々を掻き分けてずんずんと一人の女性が進み出て来る。手に拡声器を持っているから、もしかして戦闘前に無茶な事を言って来た人だろうか。他の者達よりも上等そうなスーツをかっちりと身に着けて、癖はあるが手入れされた長い髪を揺らしきつめのつり上がった瞳でこちらを睨み付けて来る。
そんな彼女は、誰よりも私達の前に進み出るとすううっと大きく息を吸い込み――
「本当に、申し訳ありませんでしたああああああああっ!!」
それはそれは、美しい流れの土下座であった。
姿勢を正して両膝を突き、両手を突いてから地に顔を伏せての平身低頭。全ての責任を肩に乗せ、全ての罪は自分にあると見せ付ける心からの謝意の姿勢。こんなに流れる様な綺麗な土下座を見たの、生まれて初めてだよ私。
まあ、土下座を生で見るの自体二回目だけど。
「……市長、どうしてこんな馬鹿な真似を……」
「あああああっ!? 裏切り者のトカゲ男! いっぱい資金提供したのに、巨神に乗って攻めてくるなんて何て恥知らずな!! 少しでも人としての良心が残っているなら土下座しなさい!! うわーん!!」
「トカゲじゃない、ドラゴニュートだ。裏切りって、一体何のことを言っとるのか説明してくれ」
周囲が突然の土下座でざわめく最中、巨人の腰から這い降りたトカゲのおっさんが女性に話しかける。すると彼女は這いつくばっていた姿勢から一転、ピョンと飛び上がるとトカゲのおっさんに詰め寄り始めた。どうやらこの二人は顔見知りらしいが、そうかこの人がおっさんの言っていたこの都市の市長なのか。
傍から見てると、身長差のせいで大人と子供にしか見えないが。おっさんがデカいのもあるが、この市長さん凄い身長低いな。泣きながら両手振り回してるのに、頭に手を置かれただけで簡単に受け止められてしまっている。
それから小一時間ほどかけて、激昂している市長さんをなだめつつ詳しく事情を聴く事になった。そして、原因はやはりトカゲのおっさんがPDAで送った連絡のせいだと言うのが判明する。
『稼働状態にある巨神でそちらに向かっている。楽しみに待っていろ』って、もうちょっと詳しく説明してやれよ。これじゃあ、そそっかしい性格だと言う市長さんが脅迫文だと勘違いしても仕方がないじゃないか。
「はっはっはっ、すまんすまん。ワシの指だと爪が邪魔で、長い文章は打ち難くてな」
パソコン苦手なおじいちゃんかよ。こんなんでも市長から直々に遺跡の調査を任せられるって言うんだから、この世界での機械文明の衰退は深刻なのだろうな。
ともあれ、誤解から始まった大都市との戦闘は何とか和解へと辿り着く事が出来た訳だ。損害の責任は、自体を引っ掻き回した市長が取らされることになったらしい。また休暇と給料が減ってしまうと市長は泣いていた。お願いだから皆市長に優しくして!
そして私達は今、市長と数人の護衛に連れられて大都市の中枢である工場区画の奥深くへと移動していた。
この大都市は元々遺跡から発掘された機械部品を使った工業製品を増産する目的で人が集まり、次第に増えて行く住民の為に住宅区と商業区が後付けで作られた工業都市なのだ。都市の北部に工場区を構えて、そこから輸送の為のメインストリートを南へ一直線に引く。巨大な一本道の東に商業区が、西に住宅区が立ち並ぶと言う実に機能美を優先した造りになっている。
問題なのは工場の立って居る地下にあると言う遺跡。その遺跡こそが、この大都市を工業都市へと至らせた巨神の眠って居た遺跡だったのだ。
「……よし、ここだ。ここがこの工場の最重要区画。私達がカピバラ博士から賜ったレプリカ巨神を量産する事が出来た、その理由がこの区画にはある」
そう言いつつ、先頭を歩いていた市長が装飾の欠片も無い武骨な観音扉を両手で押し開ける。その部屋の中に足を踏み入れた時、私は大きく息をのんでしまった。そう、この部屋にこそ私が求めていた物が存在していたからだ。
物言わぬ、躯としての姿で。
「…………これは、分解したのか。話には聞いていたが、あの頑強な巨神を良くもここまで……」
トカゲのおっさんが思わずと言った様子で口元を押さえる。私も似たような気分だ。だって、目の前で座り込む巨神の姿は、まるで全身の肉と皮を引きはがされた様な無残な姿だったのだから。
辛うじて残る骨の様な金属フレームと、それにまとわりつく血管の様な配管と配線のチューブ。部品を取り外されてぽっかりと穴の開いた胸部に、まるでそれを虚ろに見下ろす様な剥き出しのカメラレンズの瞳。『貪り尽くされた死体』――そうとしか形容が出来ない哀れな巨神の姿に、瞳の奥がぐっと熱くなる様な感覚に襲われる。泣きそうだ。
「弁明をしておくと、我々がこの巨神を発見した時には既にこいつは機能を停止していた。我々は巨神を復活させるべく色々手を尽くしたが至らず、それ故に必要な部品を取り外して工業区に組み込んで利用させてもらっている。そのおかげで、この都市は多くの富と物資を生み出して人々を潤わせているのだ」
市長さんが巨神の屍の前に悠然と立ち、表情を引き締めてこれは当然の権利なのだと主張する。理屈は分かるさ。便利な機械があるなら、それを誰だって使いたくなる気持ちはわかる。
でも私は、彼らが意志を持ち、言葉を交わす事が出来る事を知っているんだ。今のこの姿を見て、何も思わずにいるなんてできないよ。
「『彼女の名はヘラ。私達姉弟の第三子にして三女。ちょっとやきもち焼きですけど、子供が好きな優しい子だったんですよ。能力的には出産……、取り込んだ物質を体内で加工して、機械部品を製造する力を持っていました。その気になれば即席の軍勢を作ったりも出来たんですよ。昔はずいぶんとお世話になったなぁ、懐かしい……』」
何も言えずにいた私の胸元から、ポケットに差し込んでいたスマホを通して良く聞いた声が発せられる。何時も唐突に会話に参加して来る自称一七歳も、今回ばかりはその声に覇気が無かった。いや、ふざけていないだけで真剣なだけなのかも知れないが、どこか無機質な声色に感じてしまう。やはり妹を失った事に対して、慮る事があるのだろう。
「『一つ、お願いがあります。もっと近くに寄って、彼女に触れていただけますか? 優しく、貴女の巨人にしているように……』」
私はその言葉に素直に従った。今この場に居ない自分の代わりに、妹を慈しんでくれと言われたように思えたから。
市長さん達も特に止める素振りも無く、黙認してもらえた私は座り込む巨神の躯にそっと手を伸ばす。座り込む巨神の足の間に立って、装甲の剥ぎ取られた脛の当たりの武骨なフレームにそっと掌を当て一撫で。
すると、それに反応して死んだと思っていた巨神の体が、がくんと背中を反らせて全身を痙攣させ始めた。あ、これ、またやられたかもしれない。
「『あはっ! あははははははははっ!! やーっぱりだぁ! この時代の人間に動力炉が弄れる筈ないと思ってたけど、なるほど量産機能の部分だけ取り外して別の動力に繋げて動かしていたんですねぇ。どうせ時粒子コンバーターが起動できなくて、死んだって判断したんでしょうけど。おかげでヘラちゃんを再起動する事が出来ましたねぇ。あははははは!!』」
調子が戻った様で何よりだよ腹黒巨神。やっぱりお前はそういう奴だよな。ちょっとでも同情して、傷心に浸っていた自分が恥ずかしい限りだよ。
「『うふふっ、私は何時だって貴女のお耳の不協和音ですから。ヘスティアちゃん一七歳、今回はもう感謝感激雨あられですよー。これでヘラちゃんの頭から色々と情報を引き出せますです、はい』」
そうかそうか、うさん臭くて感謝の欠片も感じ取れそうにないよ。
それにしても、また動かなくなった巨神に私が触ったら動き出すと言う場面に遭遇したな。海の巨神も一度動かなくなったけど、私が殴りつけたらまた動く様になったし。これはもしや、こいつ等の動力と私に何か関係があるのだろうか。
「『はい、ありますよ。そもそも、私が各地で巨神を探してほしいとお願いしたのも、半分ぐらいは巨神を起動させてほしかったからですので』」
あっさり暴露したな。半分って事は、もう半分は一体どんな意味があると言うのか、どうせならキリキリ白状してしまえばいい。鼻持ちならないお前なら、聞かなくても自分から説明するんだろう?
「『あー、酷いなぁ。私は私でやれることを必死でやっているだけなんですよ? でも、まあ良いです。もう既に目的は達成されましたしね。お望みなら聞かせてあげちゃいましょう。あなた自身の、有用性について、ね?』」
そうして、性悪巨神は朗々と有用性とやらを語り出した。私もトカゲのおっさんも市長たちですら置いてきぼりにして。
そこで告げられた内容は、私にとって非常に重要かつ興味深い事柄で。そう、つまるところ、私の今の目的である元の世界への帰還に関わる話だったのだ。
そしてそれは、私に大きな選択を迫る物でもあった。
次回、第二十九話『もう一回したい!』に続く。
ヒッ!!