【完結】私、巨人の母になりました!   作:ネイムレス

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やっと最終話が書けたのでひとつ前を投下。
見直しとかもしてないので、お見苦しい事になっているかもしれません。


第二十九話『もう一回したい!』

 前回のあらすじ。

 市長さんに案内された工場区画の奥で、分解された巨神を見付けて再起動させることが出来た。ついでに、何時もの十七歳巨神の性格の悪さも再確認させられる。

 そして私は、大きな決断を迫られた。

 

 

 結局、再起動させられた巨神ヘラは、その腕を私に向かって伸ばしただけで動きを止めてしまった。何か言いたい事があったのだろうか。その胸中は知られる事も無く、彼女は再びの沈黙を迎えてしまう。

 そして、沈黙した巨神の代わりに、腹黒巨神がスマホ越しに煩く宣ってくれた。

 

「『端的に言えば、貴女は巨神に使われている動力にエネルギーを補給する事が出来ます。旧式の時粒子エンジンはもちろん、時粒子コンバーターの活動を活性化させる、いわば触媒ですね』」

 

 そして語られたのは、うすうすと察していた自身の秘密。そうか、それで私はあの時、クロノスに求められたんだな。時を食べる巨神に、正に電池の様にエネルギーを充電していたわけだ。

 いや、母的には子供にご飯を食べさせていたと言うことなんだろうか。だとしたら、私はまた一つあの子に親らしい事を出来ていたのだな。そう思って居た方が、精神衛生的にも良い。

 

「『そして、その触媒としての力は巨神に触れる度に、共振作用を起こして出力が増幅される。貴女の巨人の力が少しずつ解放されて行ったのは、触れ合った巨神が増えて出力が上がった事が要因なのですよ。今の貴女は全ての巨神に触れた事で、かつてない程にその素養を高めている筈です』」

 

 私を触媒として成長させる為の巨神探しか。確かに、私の巨人は旅をつづけるほどにその機能を取り戻して行った。それは私を通して注がれる力が、次第に増量していた証なのだろう。

 でも、それがどうして私達の旅に必要だったのだろうか。素直に聞いてみれば、腹黒はこう答えた。

 

「『その方が都合が良いからに決まっているじゃないですか。貴女の巨人も強くなるし、その身に溜め込める時粒子の量もどんどんと増えて行く。そして、その高まりが最高潮の今こそ、ゼウスちゃんを討つのにうってつけという訳なのですよ。それに、あなたが帰還する道筋にも繋がっている話なのですよ?』」

 

 なるほど、強敵を倒すにはこっちも強くならないといけないと言うのはよく分かる。だが、それが私を元の世界に戻すと言うのはどういう事だ。この際だ、疑問に思った事は何でも口にしてしまおう。

 

「『うふふふっ、全てはヘラちゃんから伝えられた座標の位置に行けば解る事です。もちろん、その為には今の最高の状態で挑む事が望ましい。時間を掛ければ掛けるほどに、せっかく高まった貴女の力が平均値に戻ってしまいますからね』」

 

 つまりは、時間がない、と言う事か。

 

「『貴女と巨人なら、その時間を限りなく有効に扱えます。選択肢は一つしかないと思いますよ。それとも諦めちゃいますか? 帰還への道は、もう見えていると言うのに……』」

 

 そんな一方的な話を聞かされてから、私は今一人で星空を眺めていた。市長から宿を紹介されて、巨人は工場区画の大型ドックで簡易なメンテナンスを受けている。もちろんスマホがあるから、こっちの様子は逐一見ているだろう。

 絵本の時間も終わったので後は眠るだけなのだが、あんな話を聞かされた後でグースカと眠れるはずもない。だから私は、窓越しに空を眺めて物思いにふけっている訳だ。

 

 なんだろう。なんか違和感がある。それが何なのかは理解できないけれど、私はあの腹黒巨神の言葉に違和感を覚えていた。そもそも私はどうして、あの巨神の言葉を――

 

「起きているか? 少し伝えておきたい事があるんだが、入っても構わないだろうか?」

 

 私の思考は、不意に聞こえて来た控えめなノックの音と、聴き慣れた声に遮られた。

 この声は、トカゲのおっさんか。開いてるから入っていいよと声をかけると、おっさんはずいっとドアの隙間から頭を入れて、中を確認してから部屋に入って来る。誰か居ないかチェックしたのか? こんな夜更けに私なんかを訪ねて来る奇特な奴なんて、おっさんぐらいな物だろうに。誰も居やしないさ。

 

「フッ、色気のない奴じゃのう。まあ良いわ、それこそちょうど良い。お前さんに言って置かにゃならん事がある」

 

 何だい改まって。明日からの旅の日程なんかはもう話したし、『私達の旅』の話なら別に明日でもいいと思うけど。そんな風に言って話を促してみると、トカゲのおっさんは尻尾の先をピンと立てて至極真面目な表情で話し始めた。

 

「ああ、その『お前さんの旅』の話なんだがな。単刀直入に言おう、今回はワシを置いていけ。私はお前さんの足枷になるつもりはない」

 

 …………。やっぱりその話だったか。そうだよな、あの腹黒の話は一緒に聴いてたもんな。学者なアンタなら、その答えに行きつくのも当たり前か。

 

「お前さんの巨人の移動用の機能を使えば、ホバー走行で移動するよりも遥かに早く目的地に着ける。それこそ一晩もあれば走破してしまえるだろう。だが、私が乗っていてはその機能は使えずに移動に時間が掛かってしまう。だったら、取るべき選択肢など一つしか無かろう」

 

 でもその選択肢を選んだら、アンタの旅は終わっちまうんだぞ? アンタが居てくれたから、私はここまで来られたんだ。その恩人を自分の都合で置いて行くなんて、そんな身勝手なことしたくないよ。

 おっさんはもう私と旅が出来なくなっても良いのか? 私は、私はもう一回したい! 何度だって、何時までだって……。おっさんは寂しくなったりしないのかよ!

 

「何を言うておる、旅に出会いと別れは付き物よ。それにワシはまた別の旅に出るだけじゃ、ここで旅を止めたりはせんよ。何よりも、お前さんの為になるなら、ワシは喜んで今の旅を諦めてやるわ。行って来い。行って、世界の平和も自分の帰り道も、もぎ取って来い。お前さんと巨神なら、それが出来るさ」

 

 おっさん、ごめんな……。おっさん、ありがとう。私は気が付いたら堪えきれずに、何時かみたいにおっさんの胸で泣きじゃくっていた。何度も謝って、何度もお礼を言って。そんな私の頭を、おっさんのごつい指が優しく撫でてくれる。

 むう、嬉しいのに悔しい、複雑な気分だ。くそう、何だかいつも恥ずかしい思いをしている気がするな。トカゲの癖に生意気だよ、やっぱりさ。

 

「トカゲじゃない、ドラゴニュートだ。まったくこの小娘は、出会った頃からトンと変わらんのぅ。最後の最後まで、しょうの無い奴だな……」

 

 結局その夜は、だいぶ遅くまで二人で話し込んでしまった。落ち着いた後に始めた、旅の思い出話に花が咲いてしまったばっかりに。名残惜しむ様に、長く楽しく。

 

 

 翌朝になって、私は旅の空の下に居た。トカゲのおっさんや市長たちに見送られて、今はもう果ての無い荒野のど真ん中だ。

 行先は既に、座標をスマホ経由で巨人に送ってある。後は私が眠りコケていても、私の巨人が目的地まで一直線に行ってくれるだろう。とても眠る気分には成らないけれど。

 私の巨人は昨日と少しだけ姿が変わっていた。朝起きてみたら腰と肩の部分の荷台が撤去されて、代わりに手すりのついた金属製の足場が取り付けられていたのだ。市長さんとトカゲのおっさんからの餞別代りと言う事で、都市の人達が一晩でやってくれたのだ。

 

 真新しい足場に座って、無数の線となった風景を横目にぼんやりと何も考えずにいる。下手に何か考えてしまうと、静かすぎるせいで一人になった事を余計に実感してしまいそうになるから。

 すると、私の巨人がチラリと視線をこちらに向けて来た。ん、そうだったね、ごめんね。お前がいるから、私はまだ一人じゃない。だからよそ見はやめ様な。高速移動技のアクセラレーター併用でホバー走行している最中に、岩や村なんかに足を引っかけたらとんでもない事になってしまう。

 

 私は手すりに掴まって立ち上がると、地平の先に有るだろう目的の場所へと目を向ける。腹黒巨神の話が本当なら、この先に私が元の世界に帰還する為の道がある筈だ。ごたごたと悩むのは昨日までで良い。後は行くだけって奴だな。

 景気づけとまではいかないが、私は景色を眺めながら口笛を吹き鳴らす。音を置き去りにするような加速の世界で、その音色は何処まで響くかは知らないが、少なくとも私の巨人はその音色を喜んでくれたようだ。心なしか更に移動速度が上がった様な気がする。

 

 初めての二人旅。この道の先には、恐らく最大の障害が待ち受けて居るだろう。期待と不安は入り混じってあるが、私には私の巨人が付いていてくれる。大丈夫、絶対大丈夫さ。

 ごまかしの口笛が、途切れる事無く荒野に流れ続けて行った。

 

 

 次回、第三十話『責任とって!』に続く。




泣いても笑ってもあと一話。
これで漸くケジメがつけられると言う物です。

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