でも良いんだ、自己満足の為に書いてるから!
これを人は負け惜しみと言います。
前回のあらすじ。
トカゲ人間の話を聞いたら、異世界転移していた事実を確認できた。巨人はどうやら大昔に世界を滅ぼしたらしい。そんな奴の傍に居たくないから逃げようとしたら、世界を滅ぼさない様に教育しないと酷い事になると言われた。色んなことがあったので感情が爆発して泣き喚いてしまう。トカゲに慰められて凄い悔しかったです。
いっぱい泣いたからスッキリしたので、今後の事を相談する事にした。
とりあえず制服のブレザーのポケットに入れておいたハンカチで顔を拭いて、ついでだから色々つけてしまった竜人の服も軽く拭ってやる。小娘が余計な気を遣うなと言われたが、ムカついたので徹底的に拭いてやった。ざまあ。
「まったく……。では念の為に尋ねるが、お前さんは子を産んだ経験はあるか?」
有る訳ねえだろうがボケェ! 何いきなりセクハラかましてんだこのトカゲ頭!! こちとら、取れたて新鮮の女子高生様ですぞ!?
「トカゲじゃないドラゴニュートだ。まあ、お前さん垢抜けておらんから、おぼこなのは想定通りよな」
中々言ってくれるなトカゲ野郎。どうせ彼氏いない歴=年齢ですよ。つーか、それもセクハラだろ!
それは兎も角として、なぜ竜人がそんな事を言ってきたのかは分からんでもない。要は子育ての経験はあるのかと問いたいのだろう。無論、そんな物は無い。一人っ子だし、親戚の赤ちゃんとかも全く居なかったし。雑誌とかも、サブカル系ばっかり読んでたしなぁ……。
「あまりにも想定通りだが、そうなると今からの子育ては苦労しそうだのう」
言ってくれるな。自分でも女子としてどうなのかと、思わんでもないのだから。
と言うか、竜人も世界の平和を懸けた子育てに付き合ってくれるのだろうか? 事情の説明をしてくれた事と言い、ずいぶんと協力的ではないか。やっぱり何だか怪しい。実は巨人の力を狙っているとか……。
「ふむ、心中の思いが実によく顔に現れるな。そんな顔をしなくとも、ワシは世界征服などに興味は無いわい。こんな資料を発掘してしまった上に、本当に巨神を操れる人物を見つけてしまったのだ。放っておいて世界が滅びましたなどとなったら、後悔してもし足りないであろう」
…………確かに。この世界の事も知らない、帰る場所も無い私がこの巨人と二人きりになったら、先程聞いたお伽噺みたいに何処かの大きな国に自分の力を売り込むかもしれない。と言うか、間違いなくヒャッハーとか言いながら巨人の肩に乗って、この世界を力任せに練り歩いていただろう。
きっと、そんな先に待ち受けているのは、お伽噺と同じ様な終わり……。そんなのは嫌だ。少なくとも、碌な終わり方にならないのは目に見えている。
「さて、それではまず方針を決めねばならんな。最終目標はこのデカいのが大暴れするのを阻止する事だとして、とりあえず今日明日どう行動するかの小目標を決めねばならんな」
ああ、それについては現状全くのノープランだ。確かに話し合いは重要だろう。しかも私はこの世界の常識も情報もなにも持ち合わせていない。目の前の竜人は貴重な情報源であり、今の私が唯一頼りに出来る他人である。是非ともここで話を詰めねばなるまい。
そんな訳で、私は竜人からこの世界のことを幾許か聞いた。一度巨人にリセットされた世界は、再び長い年月を掛けて新たな文明を少しずつ発展させているらしい。
そこに住まう物は多種多様。普通の人間――ヒューマンはもちろんの事、漫画でおなじみの亜人なんかも沢山いて、それぞれの国を作って貿易やら小競り合いをしているのだとか。
そして、一番の特徴は世界中に点在する旧世代の遺跡だ。世界が滅び、人々が居なくなったとしても、その痕跡は大地に残り続けた。新たに発生した文明人たちは、旧世代の遺産を発掘して改修し、自らの生活に役立てて暮らしているらしい。そのせいで、人の生活基盤もかなりちぐはぐな事になっており。電気の無い生活をしている村もあれば、当たり前の様に電気製品を使う大都市までピンキリなのだそうだ。
何だろうこの中途半端に都合の良さそうな世界は。こういうのが異世界の流行なのか。まあ、ファンタジー世界にあまり深いツッコミを入れても仕方がないか。
そう思った私は、椅子代わりにしていた巨人の掌から立ち上がった。相談する為に落ち着ける場所を探していたら、巨人の姿が目に入ってなんとなく掌を貸すように命じてみたのだ。ちょっと固いけど指の一本ずつが太くて座るにはちょうどいい高さだった。
ちなみに、竜人も羨ましそうに見ていたので、私の隣に座る様に促したら尻尾を振って喜んでいた。やっぱり中身は子供だ。喋り方は凄い爺臭いのに。
とりま、小目標としては、とにかく巨人をこの場から動かそうと言う事になった。荒野のど真ん中にぽっかり空いた洞窟の先にあるこの遺跡は、今でも廃品を漁る為にサルベイジャーと言う遺跡荒らしがそれなりにやって来るらしい。私の事を追いかけて来た鉄仮面とモヒカン達も、竜人曰くサルベイジャーなのではないかと言う事だ。
そのサルベイジャーに動く巨人を見られたのならば、瞬く間に巨人の話は近隣に伝わるだろう。なので、この場に留まり続けるのは悪手であると私達は結論付けた。
しかしまあ、この馬鹿デカいのを手作業で掘り起こしていたら、いったい何日かかるか分かりはしない。なのでとりあえず、自力で脱出出来ないかと巨人に命じて見る事にした。
私の言葉を聞いた巨人は一度、その目力あふれる視線を己の下腹部に向ける。そして、今初めて自分が土に埋まっているのを認識した様子で、恐る恐るその巨大な手で地面に触れて土を掻く。野太い指が固いはずの土を易々と掬い上げ、私はその様子に凄い凄いと歓声を上げた。
すると、土を掬っては離れた所に捨てるという動作を、巨人は何度も何度も繰り返し始める。もしかして、誉められたのでやる気が出たのだろうか。でっかい図体の癖に、こいつも可愛い所があるな。
暫く掘り進むと、巨人の両膝が見える様になってきた。そこまで来ればもう後は、掘るよりも引っこ抜いた方が早いだろうと竜人が言う。私もそれに頷いて、巨人に穴から這い出て来る様に命じる。
念の為にと竜人が私を連れて部屋の入り口付近まで下がる。巨人の視線が私を追いかけて、そして両腕を地面に突いて身体を揺り動かした。巨大な体を強引に土の中から引き抜いて、力を込めながら少しずつ穴の中から下半身を引き摺り上げて行く。
その様子を見ていた私は、知らず両手を広げて巨人に語り掛けていた。頑張って。もう少しだから。頑張っておっきして! まるで幼子に語り掛ける様に、私は自然と巨人を応援していたのだ。
その声に導かれる様に、巨人は穴から足を一歩踏み出して、そして! 盛大にすっころんだ。私は今までの人生で、一番大きな音と振動に襲われる事になった。
「…………、離れていなかったら仲良くぺしゃんこであったな」
竜人がボソリと呟いて、振動で倒れそうな私を支えてくれる。うん、凄い感謝してる。感謝してるけど、支えるなら襟首掴むんじゃなくて、肩とか腰を抱くとかもっとあるだろう。このトカゲめ。
竜人の脇腹に肘を入れてから、顔から転んでしまった巨人に視線を向ける。巨人は、痛そうにはしていないけれど、何処か泣きそうな視線をこちらに向けてきている様な気がした。その姿が凄く可哀想に見えて、駆け寄って今すぐ大丈夫かって甘やかしたい衝動に駆られる。
それをぐっと我慢して、私は両手を差し伸べて言うのだ。『頑張って、ここまでおいで』って。
言葉を聞いた巨人は、倒れたままの状態から腕の力で上体を起こす。そして両膝を地面に突いて、まるで獣の様に這いつくばった。そのままズリズリと四肢を動かして、こちらに向かって這い進んで来る。その姿は無様だったが、私の胸には込み上げて来る物があった。
私の所まで手が届く距離まで来ると、巨人は私に向かって指の先を差し向けて来る。私はその指先を抱きかかえる様にして、『良くやったね、偉かったね』って誉めてあげた。
それから時間を掛けて、巨人を励ましながら立ち上がる練習をした。ハイハイできるって事は、両足が全く動かないって訳じゃない筈だし。竜人はきっと何千年も眠ってる間に、立ち上がり方を忘れたんだろうって言ってた。だったら、出来るようになるまで根気よく付き合ってあげればいい。
何度も立ち上がろうとしては転ぶ。転んで、それでも両手を突いて諦めずに立ち上がろうとする。角張ったその表情は変わっていないけど、私には泣くのを我慢している様に見えた。諦めて欲しくない。
それから、どれぐらい時間が経ったか。壁に手を付いてぶるぶると震えながら、それでも巨人は部屋の中でようやく立ち上がれるようになった。もちろん私は凄く嬉しくなって、思わず巨人の足に抱き付きに行ってしまう。制服も顔も土で汚れてしまったけど、そんなの気にならないぐらいに立ち上がってくれたのが嬉しかったのだ。
うん、決めた。私はこの子の母親になろう。
私はまだこの子が怖くて、この世界に連れて来られたのは理不尽だと思っているけれど。それでも、こんなに一生懸命にすり寄って来る子を、何時か世界を滅ぼす様な存在にはしたくない。だから、今日から始めよう。少しずつでも、一緒に育っていけるように。
私、巨人の母になりました!
次回、第四話『太すぎるでしょ!』に続く。
理性「女子高生ママのよしよし成分少なくね?」
本能「ほんとうにもうしわけない」
理性「何でこの巨人、頭の中まで空っぽになってるの?」
本能「わたしにもわからん」