【完結】私、巨人の母になりました!   作:ネイムレス

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少し長くなってしまいましたが、これで終わりですね。


第三十話『責任とって!』

 前回のあらすじ。

 トカゲのおっさんと離別した。そして私は、巨人と共に旅に出る。元の世界に、帰り付く為に。

 

 

 指定された座標に辿り着いた私は、思わず目の前の光景に呆気に取られていた。なんなんだこれは、と。

 

 険しい山に囲まれ、それこそ航空機でも無ければまともに人がたどり着けない様な秘境。そこを巨人の力で踏破して、大慌てで辿り着いたその場所にはかつて大帝国と呼ばれた国の痕跡だけがあった。今はもう、かろうじて残る建物の瓦礫の数々が、かつて世界で一番栄えたと言う国家の輪郭をおぼろげに伝えるのみ。大半はもう、風化して砂に埋もれつつある。

 

 そんな砂と荒廃の廃墟の中で、ひときわ目立つ人型の残骸。そう残骸だ。

 原形を殆ど留めないまでに痛めつけられ、装甲は砕けるだけでは無くひしゃげて溶けている。下半身など丸々なくて、左腕だけが無念そうに空を掴もうと伸ばされていた。

 ずっと昔に、この巨神は役目を終えて眠りについているのだ。恐らくは、志半ばで力尽きて。

 

 だからこそ思う。なんなんだこれは、と。

 私は此処に、世界を破壊して文明をリセットさせる凶悪な巨神が居ると聞いてやって来た。だと言うのに、ここに居たのは最後に会った巨神ヘラよりも尚、無残な姿になった無力な巨神だけ。

 まさかこの残骸が巨神ゼウス? 全ての巨神を上回る、末弟にして序列最高位の巨神だと言うのだろうか。

 

 これが私の旅路の果てだと言うのか。こんな物の為に、私は仲間を置き去りにしてまでやって来たと言うのか? これで、私の旅は終わりだと?

 

「『いえいえ、終わるのはこれからですよ』」

 

 不意に頭上から聞こえて来た聞き慣れた声に私が天を仰ぐと同時、私の巨神が左手を天に掲げながら突然背後に向かって一足飛びに跳ね退いた。

 左手の装甲を展開しながら浮かび上がった光の盾。触れた物の時間を停止させて攻撃を防ぐ防御技なのだが、今回はそれが数瞬だけ浮かび上がってすぐに打ち消されてしまった。

 そして、盾を貫いて降り注いできたのは光の濁流。いつぞやに見た天から降る光の矢など比ではない、盾自体を飲み込むほどの大きさのビームが大地に突き刺さり砂塵と爆風を巻き起こす。

 

 思わず顔を背けて衝撃に耐えるが、私の巨人が守ってくれたので事なきを得る。でも、巨人が自分で飛び退いていてくれなかったら、今頃は光に飲み込まれていただろう。確実にこの子は成長している。私の巨人偉い!

 

「『あー、やっぱり避けちゃうんですねぇ。あの時と同じ、うふふふ、つまりこの先も同じになるんですよねぇ……』」

 

 そして、また聞こえて来る聞き慣れた声。見上げてみればそこに居たのは、四つの人影――いや、あまりにもデカいそれは正に巨影だ。私の巨人に影を落とすその四つに、私は見覚えがあった。中空に浮ぶ四体のそれは、私の巨人に匹敵する巨大さを誇る巨神達。今までの旅路で出会って来た、各地に点在していたはずの最初の巨神の子供達に相違ない。

 どうしてお前達がここに居るんだ、腹黒巨神とその姉弟達!!

 

「『はぁい、生で会うのはお久しぶりですね。あなたのお耳の不協和、女神ヘスティア一七歳でーす! そして愉快な仲間達!! ヘラちゃんがいなくて一人マイナスですけど、そこはまあしょうがないですよね。そこのゼウスちゃんみたいに、バラバラにされちゃってましたしね!』」

 

 っ……、やっぱりさっきの残骸が最後の巨神だったのか!? 一体どう言う事だ、一体全体何だって言うんだ。お前がゼウスの話を私に聞かせたんだろう? お前がここに来れば帰れるって言ったんだろう?

 今までの事は全部嘘だったのか!? どういう事なのか説明してくれよ!

 

「『逆にお聴きしたいんですけど、どうして貴女は私の言葉が全て真実だなんて思っていたんですか? まあ、世間知らずの小娘が、いきなり常識からかけ離れた世界に放り出されればこうもなりますか。嘆かわしい事ですが、その方が都合が良いのも確かですよね。本当に腹立たしい事なんですけどね!!』」

 

 なんなんだこいつ、いつも以上に話が支離滅裂だ。そんな事を言いつつ、四体の巨神達はゆっくりと空から砂の地面へと降りて来る。思ったよりも小さな音と共に着地して、私の巨人と正面から対峙した。

 というかこいつ等、飛べたのか。私の巨人も何時か飛べるようになるのだろうか。いや、今はそんな事よりも――

 

「『今はそんな事よりも、私が何を企んでいるかが知りたい、ですよね? 解ってますよ、解ってます。自分の事の様に分かっていますとも。企みなんていうほど高尚な物ではないんですけど、今明かされる衝撃の事実って奴は教えてあげましょうか。大丈夫、聞きたくなくなっても、この情報は絶対に知らないといけない大前提なのでお話しますよ』」

 

 もったいぶった言い方が何時もならイライラするはずなのに、今の私はどういう訳か背筋に氷の柱でも入れられたような奇妙な怖気に襲われていた。なんだろう、この話を聞き続けると良くない事が起こる気がする。根拠はないが、本能的な所で心が警鐘を鳴らしていた。

 そんな私の内心は置き去りにして、性悪巨神は淡々と言葉を続ける。

 

「『まず大前提として、この世界は貴女にとって異世界ではありません。この世界は、貴女の居た世界の六千年後の未来です。つまりぃ、貴女は異世界転移では無く、タイムスリップしてきたと言う事ですね』」

 

 ……………………は? タイムスリップ? って事は何か、この世界は私の世界の未来の姿だって言うのか? 人が真面目に話している時にそんな性質の悪い冗談なんて、これは流石に性格が悪いってレベルじゃないぞ……。

 

「『あ、現実逃避とかは時間の無駄なのでスルーしますね。そして、貴女はこれからこの時代から三千年前の世界に行く事になります。大丈夫ですよ、戸惑っていてもこれから私達が送り込みますから。だから貴女は確実に三千年まて時を遡ります。これは絶対の決定事項です』」

 

 なんで、何でお前にそんな事が分かるんだよ! そんな、これから起こる事を見て来たみたいに! 他の巨神とは明らかに違う、お前一体何なんだ!?

 問い掛けてみれば、そいつは表情も無いはずの巨神の顔で確かに笑う。私にはそう見えたのだ。そしてそのまま、私にとって致命的な言葉を囁いた。

 

「『私は貴女です。三千年前に遥かな過去に送り込まれて、今日までこの醜い巨神の中に組み込まれて生き延びて来た、貴女です』」

 

 ばっ!? はっ!? はあっ!?

 奴の言い放った言葉を耳にして、私は困惑し驚愕し激怒し、もう一度戸惑った。なんて馬鹿馬鹿しい言葉だろう。あれが未来の自分? タイムスリップしてもう一度戻って来た私の馴れの果てだと言うのか。そんな事を信じられると思っているのか!!

 

「『あああ…………っはぁぁぁぁ~~~~っ……、言ってやった言ってやった、ついに言ってやった!! 三千年間ずっと待ち続けて、ずっとずっとずっと言いたくてたまらなかったこの瞬間に言ってやったああああ!!! あはははははははははははは!!! ひひひひひ! ひゃああああっはっはっはぁぁぁぁっ!!!』」

 

 それに対して、目の前の巨神は狂喜していた。まるで悪戯を成功させた子供の様に。まるで、気が触れた精神異常者の様に。

 

「『解りますよ、貴女の戸惑い。解りますよ、貴女の怒り。だってそれは、遥かな過去に私が味わった物なんですから。ええそれはもう、昨日のように思い出せます。ウヒヒヒヒ、時粒子の影響で三千年経っても私は劣化も出来ないんですよ』」

 

 それから、奴は嬉しそうに笑いながら自分の事を説明し始めた。

 巨神ヘスティアは特殊な動力の実験機として作られ、過去に飛ばされた自分はその動力の為に生きたまま素材として使われた事。本来は意志など残らない筈だったのに、巨神の中で意識を確立して生き残った事。更には、それを利用して自分を改造してくれた連中を皆殺しにしてやった事。とつとつと語って、その度に実に嬉しそうに引き攣った笑い声を上げる。

 こいつはもう、肉体は保護されていたとしても、精神が修復不可能なほどに粉々に砕け散っていた。

 

「『忌々しい先代の操り人がゼウスちゃんを使って抵抗してきましたが、まあごらんの通り他の巨神を操って袋叩きにしてあげましたけどね。クロノスシステムの実験機であるハデスちゃんに、非搭載型のゼウスちゃんじゃ叶う訳ないじゃないですか。誤算だったのは、その時に時間跳躍が出来なかった事ですけど。高性能機を謳ってたくせにまったく、期待外れもいいとこですよねー』」

 

 かつて、遥かな古代に開発されていた六体の巨神達。最初の巨人から手に入った技術を使い、持てる限りの性能を発揮させた数々の製作品。その最後の六体目として作られていた巨神ゼウスは、広域の破壊力だけを追求された世界最強と名高い高性能機になるはずだった。同じ巨神が相手でなければ、だが。

 そんな事を語り終えて、興奮が収まったのか性悪巨神はホウッと口も無いのに溜息を吐く。本当に、何処までも人間臭い。

 

「『さて、長々と余計な事まで話してしまいましたが、要するに私の目的は貴女を三千年前に送り込んで、代わりに私はまた別の時間に飛ぶと言う寸法です。その為の貴女の強化! そのための六体目になり損ねた巨神!』」

 

 私のクロノスは、ゼウスと共に作られたトライアルの為の試作品。戦場での広域殲滅を追求したゼウスと違い、私の巨人は装備の換装で今までの巨神の力を全て使う事の出来る汎用型の設計思想で作られたらしい。もちろん、時の権力者に受けが良かったのは分かりやすい破壊力だった。その為に、この子には名前も付けられず、地の果ての施設に死蔵されていたのだと言う。

 

「『かつて、予言を真に受けて己が子を生まれる度に喰らったと言う神の王クロノスは、妻に騙されてゼウスと謀った石を飲まされてしまう。はて、その石とはもしかして、やがて主神となるゼウスに匹敵する力を秘めていたのではないだろうか。なーんて、その石の方がゼウスちゃんより生き延びているんだからお笑い草ですよねぇ』」

 

 名もなき石。それが私の巨人だと、性悪巨神はつまらなそうに吐き捨てる。ふざけんなよ。私を騙して弄んだだけじゃなく、私の子供まで侮辱しやがって絶対に許さない。

 

「『ふふっ、その気持ちもわかりますけどね。【私】ってほら、その子供を置き去りにしてでも元の世界に帰りたがっちゃったじゃないですか。だから、嫌なくらいその気持ちに説得力がないのも分かっちゃうんですよねぇ。うぷぷぷぷっ!』」

 

 ああ、こいつはやっぱり、大嫌いだ。同族嫌悪なんて次元じゃない。同存在嫌悪だ。

 そもそも、他の巨神はなんでこいつに従っているんだ。無口なハデスはよく分からないけど、デメテルやポセイドンが仲間を放り出してまでこんな所に来るなんておかしいだろう!

 

「『無駄の極みですよー。上位機体権限で今全ての巨神は自意識を封じられて、私の言いなりのお人形さんでーす。残念ながら、貴女の巨人は選考漏れした機体なので操れないんですけどね。私ってほら、特別な動力を使ってるから他の機体よりも優先度が高いんですよ。その分戦闘能力は低いんですけどね? 指揮官兼任の補給機体なんです。だから、説得なんてしても無駄無駄でーす』」

 

 何から何まで、本当にあいつに都合が良い状況になっている。そして、この状況は私が奴に踊らされたから起きている事だ。だったら、私と私の巨人で全部まとめて叩き潰してやるよ! 過去も未来も丸ごと含めて責任とって!

 

「『うん、まあ。私がここに居る時点で、結果は解り切っているんですけどね。どうぞご健闘くださいませ』」

 

 そしてそこから始まったのは、戦闘とはとても呼べない様な一方的な蹂躙だった。

 全身の火器をぶっ放しながら接近戦を挑んで来るポセイドン。こちらの展開した二体の支援ユニットを、倍の数の支援ユニットで叩き潰すデメテル。他の巨神の被害を気にもせずにビームを撃ちまくって来るハデス。そして、時間を喰らう右手の必殺技を使って敵を止めても、すぐさまエネルギーを補給させて無限に復活させてしまうヘスティア。

 ヘラがもし無傷だったら、無尽蔵に雑魚が沸き出してさらに酷い事になっていたのだろう。現状も既に最悪の一言だが。

 

 最初から勝ち目なんて無いんだ。だって、かつてここで負けて過去に飛ばされた私が目の前に居るのだから。決まりきった時間の流れ。運命とでもいうのだろうか。予定調和。

 だからって、諦めきれるものか! ヤケクソ気味に叫んで、システムクロノスを発動させる。私の巨人の全身の装甲が展開し、周囲の時間は全て私達だけの物になった。

 

「『はい、それも対策済み。言いましたよね、ハデスちゃんはクロノスシステムの実験機だって』」

 

 止まった時間の中で、こちらに向けて右腕の長い砲塔を差し向けるハデス。そして、その背後に立って、ハデスの体に触れているヘスティアもまた止まった時間の中に潜り込んで来ていた。

 そして、ハデスの右手の砲身が過剰なまでの光を集め、私の巨人に向けて一気に解き放つ。最初に空から撃ち放たれた極太のビームだ。あれはあの二体が協力してぶっ放す技だったのか。

 勝負に逸った私のせいで一直線に加速していた私の巨人は回避も出来ず、その光の濁流を左手の盾で真正面から受け止めた。盾は一瞬で撃ち抜かれ、光の濁流は私の巨人の半身を軽々と飲み込む。それで巨人の左手と左足は吹き飛ばされて、バランスを失った体は砂の地面に叩きつけられごろごろと横転して行く。半壊どころか、もう立ち上がる事すらできない。

 私はと言えば、巨人に咄嗟に庇われて怪我一つない。でも、システムクロノスの反動で、私の体は更に縮んでもう制服がブカブカになってずり落ちる。惨めさと悔しさで、私の両目からは落涙が止まらなかった。

 

「『うふっ、うふふっ、長かった。本当に長かったけど、これでやっと……』」

 

 感慨の声と共に、再びハデスの銃口に光が集まって行く。手すりにしがみついて何とか立ち上がっても、私にはもうその光を見つめる事しか出来ない。手を伸ばして、今だに私を守ろうとするクロノスの頬に触れるのが精一杯だ。

 情けないお母さんでごめんな……。お前はこんなに良い子なのに、何もしてあげられなくてごめん。

 

 光の濁流が私とクロノスを飲み込んだ。

 

 

 

 

 そして、私は元の世界に帰る事が出来た。

 色々と無くした物はあったけれど、日常生活に慣れる作業はおおむね順調である。両親と言う物を久しぶりに体感したが、あの程度のうっとおしさは許容範囲だ。

 

 流石はゼウスちゃんの双子の兄弟機、溜め込んで置ける時粒子の量が桁違いで六千年の時間跳躍も成功させることが出来た。昔の私には感謝しなければならない。先代の操り人はまったくの期待外れで、三千年も待たされることになったのだから。

 

 時間跳躍と言うのは実にシンプルだ。過去に飛ぼうが未来に飛ぼうが、一個人に出来る事などたかが知れている。歴史を改変しようとしても、大勢は修正力を伴ってある筈の結果を再現する。つまりは、足掻いても無駄と言う事なのだ。

 だからこそ私は、歴史の決定事項通りに行動しなければならないだろう。

 

 幸いにして、私の頭には過去の経験で培った時粒子関連の知識が残っている。現代技術を使っても、その再現をするのは難しくは無かった。勉学に励むふりをして研究職に進み、ロボット工学で権威を獲得して自身の持つ知識を存分に活かす。要するにこれは知識チートと言う奴だろう。ずるして地位を手に入れちゃうなんて、私ってばだーいぶ悪い子ですねぇ!

 

 権力さえ手に入れてしまえば後は簡単だ。次世代に誇れる新エネルギーだの、世界初の最先端技術だの、聞こえの良い言葉を並べ立てれば金も舞台も向こうからやって来る。それらを総動員して最初の一機目を作り上げるのには、それ程時を必要とはしなかった。三千年に比べたら屁みたいなもんですよねぇ! まあ技術が拙すぎて三十年ぐらいかかっちゃいましたけど!

 

 一度壊れた物は、どんなに取り繕おうと壊れたまま。それでも私は、人類史初の大型ロボットの完成にまでこぎつけ、完全無公害の新エネルギーなどと謳って時粒子コンバーターの試作品まで作り上げて見せた。

 これでもう、この後どうなろうが私の知った事ではない。世界が滅ぼうが、文明が終わろうが関係は無い。

 だって、こうしないとトカゲさん達が未来で生まれないじゃないですか! 歴史が滞りなく循環しないじゃないですか! だから私頑張ったんですよ、一生懸命頑張ったんですよ!

 そして私は、完成した機体にクロノスと名付けた。最初の巨神の誕生の瞬間であり、同時に名実ともに――

 

 私、巨人の母になりました!

 

 

 

 

 おわり




ここまで読んでくれた方がいましたら、本当にありがとうございました。
次回作はもう少し日の目を見る作品にしたい物です。
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