前回のあらすじ。
トカゲさんと今後の事について話し合った。大目標は世界のリセットの阻止として、とりあえずの小目標としては遺跡からの移動をする事に。その為に巨人に自分自身を掘り起こさせたが、何と巨人は立ち上がる事が出来なかった。何度も繰り返し立ち上がる訓練をして、いっぱい応援して立ち上がれるようになる。
私は改めて、巨人の母になる決意を固めた。
立ち上がる事が出来たのは良い事だ。問題は巨人が出入り口より大きくて、部屋の中から出る方法が無いと言う事だけだろう。どうやって中に入ったんだよこいつは。
暫し熟考した後に、竜人と私は天井を破壊して外に出ようと意見をすり合わせた。もともと木漏れ日が落ちる程度には崩壊しかけている天井だ。巨人が手を伸ばして軽く押し上げただけで、ごそっと天井が剥がれて上から大量の土砂が落ちて来る。それをもろに浴びた巨人は暫し呆然としていたが、砂浴びが楽しかったのか剥がした天井を投げ捨てて次の天板を剥がしに掛った。
適当に引き剥がしても良いが、なるべく残骸は足場になる様に積み上げて欲しい。その様に伝えると、天井の残骸を持ったままおろおろし始める。どうやら、もっと細かく指示をしないと自己判断が出来ないようだ。
どんな風に積み上げればいいんだろう。私にだってそんなのは分からない。と言う訳で隣に立っている竜人の方をじーっと見つめてみる。
「天井の残骸を壁に立てかけて、スロープのように使えばいいのではないか?」
なるほど、良く言ったトカゲ。伊達に偉そうな口調な訳では無いらしいな。そう素直に称賛したら、毎度の様に『トカゲじゃないドラゴニュートだ』と返された。お約束な奴め。
それからは竜人のアドバイスを元に瓦礫を積み上げさせ、大きな天板を立てかけゆるい傾斜を作らせる。天井を殆ど引き剥がす事になったが、何とか這いあがれそうな位の道を作る事に成功した。真上から巨人がじっと見つめて来るので、私は手を差し伸ばしながら偉い偉いと誉めてやる。誉めて伸ばすのは大事な事なのだ。
天蓋の無くなった部屋から空を見上げれば、既に空には星々が見え始めている。立ち上がる練習に時間を取られた為に、周囲はとっくに夕闇に染まっていた。異世界にも夕暮れはあるんだなぁ。
どうせならと言う事で、私は初めて見る異世界の夕闇を、巨人の右肩に乗せてもらって眺める事にした。竜人もすっごく尻尾をブンブン振っていたので、巨人にお願いして反対側の肩に乗せてもらっている。
私たち二人を肩に乗せながら巨人がスロープを上って、すっかり巨大な穴に様変わりした遺跡から地上へと這い上がった。瞬間、私の視界は地平線の果てまで続く、日の光と闇のマーブル模様の空に釘付けになる。周囲に何も無いからこそ、頭上から落ちて来る様な夕闇空が、怖い位に美しくて思わず魅了されてしまう。
これが、私の知らない世界の景色なんだ。
「こりゃあ、堪らん絶景だな。遺跡探索を続けてきた甲斐があったと言う物だ!」
巨人の頭を挟んで反対側に居る竜人も大はしゃぎだ。彼の場合は景色よりも、巨人に乗っているという事が感動的なのだろうけども。
さあ、これからどこに行こうか。はしゃぐ竜人に近くに隠れられそうな場所か、せめて寝泊りだけでも出来そうな場所が無いかを聞こうとする。聞こうとしたのだ。
だが、それは突然の振動で遮られてしまった。足を滑らせそうになった私を巨人が指先を差し伸べて支えてくれる。巨人の頭の角に捕まった竜人が、緊張した声色で大声を上げた。
「いかん、ランドウォームだ! ちぃとぱかし騒ぎ過ぎたようだ! 好戦的な生き物だから襲って来るぞ!」
まるでタイミングを計った様に、竜人の言葉に合わせて地面から巨大な物が姿を現した。
それは、とても長い体をしていた。長く長く天まで伸びるんじゃないかってぐらいに地面から飛び出して、そして急に先端の向きを変えて地面に再び潜り込んで行く。段々と浮上と潜行の間隔が短くなって行き、最後にはその全身を私達の前に露わにする。蛇の様だとも思ったがその生き物には鱗が無い。代わりに節が沢山付いた胴体をのたくらせ、先端にある頭には円状になった口の中にヤスリみたいに沢山の歯が並んでいた。
って言うか、でかっ! ながっ! こんなの太すぎる! この異世界ってこんな生き物が蔓延ってるの!?
「ここまでデカいのは珍しい方だな。恐らく、地下で何度も派手に転んだから、音で引き寄せられたんだろう。この肉食ミミズはどうしようもなく凶暴な性格で、そう簡単には獲物を逃がしたりはせんぞ」
『そんな生き物が近くにいるなら先に言えよ!! そしたらもうちょっと静かに訓練させてたよ!』と言っても、もう既に覆水は盆に返らない。こうなったら、巨人に頑張ってもらう時が来たかもしれない。よしいけ、襲ってきたらぶん殴ってやれ!
鎌首をもたげていた肉食ミミズが威嚇の為か唇を引き剥いて吠え声を上げる。その拍子に折り畳まれていた四本の巨大な牙が展開して、気持ち悪さが更にパワーアップした。そのまま奴は、目標を巨人に定めて頭から突っ込んで来る。
ガッキィィィン! と耳をつんざく金属音と共に、肩に乗る私にも振り落とさされそうな振動が襲って来る。巨人の指に捕まってなかったら、今のできっと吹き飛んでいた。こんな高さから真っ逆さまだなんてぞっとしないな。
巨人は無事なのかと見降ろしてみるが、牙を叩きつけられた胴体には傷一つない。流石お伽噺で大暴れしていた巨人だ、実に頼もしい。
好戦的だと言うだけあって、肉食ミミズは何度も何度も巨人に攻撃を仕掛けて来る。それを巨人は私を庇っていない方の手で弾いたり、腕に付いた分厚い装甲で受け止めたりして防ぐ。これならやられる事は無さそうだ。
でも防戦一方で、自分からは攻撃しようとはしない。どうした、こんな奴ぶん殴ってやっつけちゃえば良いのに、一体何を……。
「ワシらだ! ワシらが居るから迂闊に動けなくなっておるんだ!」
頭の反対側から聞こえて来た竜人の言葉に、私は思わずハッとして息を飲んだ。巨人は私達を気遣って本気で戦えないのだ。私がこの子の足かせになっている。この子の母親になるなんて決意した直後に、この子の邪魔になってしまうなんて何たる失態。
「くそっ、おおっ!?」
角に捕まっていただけの竜人が、ついに衝撃で振り落とされてしまった。その様子を見て私は反射的に叫ぶ。『お願い助けてあげて!』と。
果たして、巨人は私の言葉通りに、落ちて行く竜人をもう片方の手で受け止めた。いままで、防御に使っていた腕で。
戦闘中に思い切り隙を晒した巨人に対して、肉食ミミズは一気に飛び掛かって来た。その長い体で巨人の身体に巻き付いて、足から頭までをギチギチと締め上げて行く。
「ぬおおおおおっ!?」
一度は助けられた竜人が、巨人が拘束された拍子に手の中から零れ落ちてしまった。でも、今回は巨人の膝辺りの距離からの落下なので、竜人は受け身を取って着地できたようだ。特に怪我らしい怪我も無い様で、すたこらサッサと元遺跡の方に逃げて行く。理知的なあのトカゲの事だ、恐らく戦闘の邪魔にならない様にとの判断だろう。
「トカゲじゃないドラゴニュートだ!」
心の中にまでツッコミを入れるんじゃない! お前はエスパーか!?
私は未だに巨人の腕で庇われているが、何時までもこの状態で耐えられるものだろうか。更に締め付けが強まれば、守られている腕ごと圧殺されるかもしれない。
でも、今はそんな事は重要な事では無かった。相手が組み付いた事で、邪魔な戦闘音が止んだ。だからこそ私は、思い切り息を吸い込んでから、腹の底から声を張り上げた。
『戦いなさい! 私の事は気にしなくていいから、思いっきりやってこんなミミズぶっ飛ばしちゃえ! お母さんを信じなさい! 私に、アナタが強い子だって見せて!』そんな風に耳元で、思っていた事を叫んでやる。
私を守る為に、あんな大勢の男達を追い払ってくれた。だったら、この子がこんなミミズ程度にやられるはずはないんだ。齧りついてでも振り落とされないと覚悟を決めて、私は今までしがみ付いていた巨人の指から手を離し、直ぐに巨人の角に体いっぱい使ってへばりついた。女としてどうかと思う格好だが、それがどうした!!
巨人は私の言葉を聞き、行動を横目で見送ってから、改めて正面に視線を戻す。そして、その全身に圧倒的な力が漲った。今までギリギリと己を締め付けていた肉食ミミズの体を、内側から無理矢理に抉じ開け強引に投げ飛ばす。引き剥がされた肉食ミミズは悲鳴の様な吠え声を上げて、大きく距離を開けて地面に墜落する羽目になる。
すっげ! 大迫力! でも腕痛い!
私は必死にしがみ付きながらも、何とか目を開いて戦況を盗み見る。見えてしまった光景に内心驚喜していた。ロボットと怪獣の戦いがこんな至近距離で繰り出されるなんて。怖いけど。怖いけどかなり嬉しい!
巨人は改めて肉食ミミズと対峙すると、両腕を顔の位置まで上げて腕に付いた装甲を相手に向け、ガードを固めながら突っ込んで行った。ズシンズシンと台地を揺らす足音が響き、肉食ミミズが直ぐ眼前に迫り来る。
先に攻撃を仕掛けたのは迎え撃つ肉食ミミズ。再び牙を剥きだしにして装甲の上から噛み付こうと飛び込んで来た。
その牙を正面から受け止め、攻撃をいなした隙に片手で牙を掴んで頭を引けない様にする。そこへ追撃に逆の手を振り被り、掴んだ頭を引きながら握りこぶしを口の中に叩きこんだ。
湿った布を思い切り壁に叩きつけたような音が当たりに響き、巨人が拳を突きこんだ肉食ミミズの頭部が爆ぜた。なんと言う威力か。肉片が飛び散って、超気持ち悪い。吐きそ……。
頭部を失ったミミズの体が、ビクンビクンとそれでものたうつ。まだ生きているのか、これだから無脊椎動物は性質が悪い。巨人は掴んだままの牙を振り回して、暴れ続けるミミズの体を放り投げる。再び地響きを起こして巨体が大地に叩きつけられ、もうもうと砂埃を巻き上げた。
頭を失った以上その内動かなくなるだろうけど、あの大きさだといったいどれだけ生き続けるのやら。ここはきっちりとトドメを差しておいた方が良いだろう。巨人に向けて、トドメを差してやれと指示をする。
数秒ほど停止した後、巨人は再び歩き出す。のたうつ肉食ミミズに近づくと、その胴体に向けて拳を振り被った。動かなくなるまでぶん殴るのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
見守っていると、拳を振り被っていた腕の装甲が音を立てて展開し、生まれた溝に輝きが走って装飾の様に彩られた。必殺技か!? 必殺技なのか!? 俄然食い付く様に私の興奮は高まった。
紋様の輝きが増して、拳にバチバチと雷光を煌めかせる青白い光の球体が纏い付く。巨人はその球体を拳と共に、のたうつ肉食ミミズの胴体へ、真上から打ち下ろす様に叩きつけた。
次の瞬間、頭を失っても生き続けていた肉食ミミズの体が、その活動を完全に停止する。全身から精気を無くして朽ち果てた様に、萎びてひび割れ枯れ果てたのだ。それ処か、形を保てなくなってバサリと崩れ落ち、荒れ果てた大地に砂となった肉食ミミズの体が広がった。
その光景を見て、私は改めて強く思う。
この子の教育を間違えれば、世界は確実に滅ぼされるだろうと。
次回、第五話『ご立派ですね!』に続く。
連続投下はここまで。
一応起承転結のつもりで書き上げたので、この話は結となります。
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