【完結】私、巨人の母になりました!   作:ネイムレス

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実は短めの文章を書こうとして毎回10kbに収まる様に文章量を調整していました。
ですが、今回の話はどうしても10kbを越えてしまいました。
自ら決めたルールを守り切れず大変申しわけございません。

全部カピバラが悪いんです。


第八話『こんなの初めて!』

 前回のあらすじ。

 再会した鉄仮面と愉快なモヒカン達は、凄く良い人達だった。私の為に開いてくれていたお葬式が、一転して大宴会となる。この世界のまともな料理を堪能させてもらって居たら、町に見た事も無い新たな巨神が現れた。ついでに、第四の壁に喧嘩を売る様な発言をする、機械越しの大音声が街中に響き渡る。

 

 

 街中に突然響き渡った大音声。それはどうも、例のスクラップ置き場に居る人型の方から聞こえてきている様だった。

 私とトカゲのおっさんは顔を見合わせて、声の方に近づいて見る事に決める。何事もまずは確認からだ。うちの子が関わっていないのなら、尚更情報は集めておいた方が良いだろう。

 

「うむ、危なそうならば逃げれば良いしな。さあさあ、早くあの新しい巨神を見に行こうじゃないか」

 

 こいつぜってぇ好奇心優先だろう。尻尾ブンブン振ってるし、お前は犬か!

 

「犬じゃないドラゴニュートだ」

 

 言うと思ったよ!

 

 そんなやり取りをしつつ息を弾ませて走れば、やがて町の傍のスクラップ置き場に辿り着く。かさ張る荷物を酒場に置きっぱなしにしたおかげで軽快に走れた。お願い、パンケーキと一緒に取っておいて酒場の店主さん。

 

 大きさも大きさなので走っている間中ずっと見えていたが、間近に来てみてようやく分かった。この新たに現れた巨神は、人の形をしてはいない。人型に見えるのは上半身だけで、下半身は四角い箱になっている。箱の前面がまるで足の様に形を変えているので、なるほど正面から見れば巨神に見えるのだろう。

 

 そして、その巨神もどきの前には二人の人物が佇んでいた。一人は長身で髪の長いメイドさん。もう一人は、そのメイドさんに片手で後ろ頭を掴まれ、プラーンと持ち上げられている、白衣を着た毛むくじゃらのげっ歯類顔の亜人。あれは間違いなくカピバラの顔だ。背が低いせいでケモ度は八十パーセント位に見える。

 

 その場には、巨神もどきとさっきの大音声で人だかりが出来ていた。その集まり具合を見て、ぶら下げられていたカピバラがじたばたともがいて、メイドの腕から逃れ地面に降り立つ。そして奴は、手に持っていたメガホンみたいな物を口元に持って行き、また機械越しの大音声で話し始める。

 

「『はーい、静かに、静かに。はい、今皆さんが静かになるまで、五秒かかりましたー。えー、今日はこの街のゴミ虫の諸君に嬉しいお知らせがあって我々は交渉に参りましたー。なんとなんと、我が陣営では若い女性の皆さんの協力を募集しておりまーす。えー、一六歳から一八歳前後の女の子が良いと言う事でありまして。この年代の女性を連れて来てもらえれば、なんと高額な謝礼が支払われまーす。明朗会計ですよー』」

 

 聞こえた言葉に思わずどきりとしてしまった。私は慌てて首元の布を持ち上げ顔を隠す。一六~一八って、丁度私ぐらいの年齢じゃないか。って言うか、もしかして誘拐事件が頻発してる理由って、こいつ等が関わってんのか?

 似た様な事を考えた奴が居たのか、何のためにそんな事をするのかと群衆の中からヤジが飛ぶ。それを聞いて白衣のカピバラは、鼻先に着けていた小さな眼鏡をクイッと指で押し上げる。

 

「『それはもちろん、我輩の崇高なる人体実験に使うに決まっているのである。この吾輩の作り上げたレプリカ巨神の動――痛いタイタイタイタイ! 割れちゃう、我輩の貴重な頭脳が割れちゃう! 助手君、我輩の天才的頭脳が喪失しちゃう!! 茹で卵の殻みたいになっちゃう!!』」

 

 物凄い事を言い放ったカピバラの頭を、またもやメイドさんが片手で掴みあげた。そして、一体どんな力が掛かっているのかミシミシと何かがきしむ音が聞こえて来る。あんなに細くて長い腕なのに、握力ばねぇ。しかもメイドさんの顔色は、無表情を通り越して絶対零度に近かった。超怖い。

 

 その後、カピバラがごめんなさいと連呼していたら、しぶしぶと言った様子でメイドさんは頭を開放した。地面にぼてっと落ちたカピバラは、直ぐにシャキッと立ち上がって再びメガホンで話し始める。めげない奴だな。

 

「『我輩としてはこの交渉に応じて、町の娘どもを素直に差し出してくれると大変喜ばしい。交渉が決裂した場合は、この背後にそびえる我輩自信作のレプリカ巨神をけしかけて、直接回収させてもらうのであーる』」

 

 最後の一言を聞いた時、周囲の空気は一変した。あんな巨大な物をけしかけると言ったのだ、その真偽は兎も角としてこれは明確な脅しになるだろう。

 周囲の空気の不穏さを感じた私は、トカゲのおっさんに逃げる様に伝えようとして隣に視線を向ける。しかし、隣にも周囲にもトカゲの姿は見えなかった。あの野郎、一人でさっさと逃げやがった!?

 

「『ん? おお、ちょうどそこにギャァルがおるではないか。今その子をこちらに連れて来れば、素敵な褒章があなたの物に! 視聴者の皆さんも是非この機会にご応募を! お申込みはこちらの番号まで!』」

 

 やばい、色々やばいカピバラに見つかった。周囲に居た人達も一斉にこっちに視線を向けて来る。色々思いは違うのだろうけど、その誰もが必死そうな顔をしていた。はっきり言って怖い。絡みついて来る視線が気持ち悪い。

 じりじりと私に向けて包囲が狭まって来る。なんだよ、金や安全の為なら私はどうなっても良いってのかよ。怖さと理不尽さで勝手に涙があふれそうになってしまった。

 

「買い物の時に言った事を思い出せ!!」

 

 聞き慣れた声音で大声が上がり、包囲の中にスチール缶みたいな物が投げ込まれる。それが何なのかを理解した瞬間、私は顔を背けながら目を閉じて両手で耳を塞いでその場に蹲った。

 程なくして、耳を塞いでいても身体に響いて来る轟音と、瞼ごしにも感じられる閃光の気配。それから、私の周囲でバタバタと人が倒れる音も続いて行く。恐る恐る目を開けると、私を包囲していた連中が倒れ込んでいるのが見えた。

 

「何してる! さっさと逃げんか!!」

 

 再び聞こえて来る、聞き慣れたトカゲのおっさんの声。逃げたくせに、助けに戻ってきてくれたんだ。街中で使うなとか言ったくせに、自分ではあっさり使っちゃうなんてズルいじゃないか。

 

「身の危険を感じたら、迷い無く使えと言うのを忘れておったわ」

 

 それは一番大事な事なんじゃないだろうか。後で尻尾を蝶々結びにしてやろう。

 

 私はトカゲのおっさんの手招きしている方に全力で走る。その私の前に、スッと横からメイドさんが現れて道を遮って来た。あのカピバラの隣に居た筈なのに、何時の間に移動したのだろう。まったく気配を感じなかった。

 メイドさんは今まで背中に背負っていた、布に包まれた巨大な棒状の何かを片手で引き抜く。布を解かれたそれは、彼女の手の中で中心から別れてくの字型になる。最初は剣かと思ったが、違うあれは――

 

「小娘!! うおおおおっ!?」

 

 建物の影から手招きしていたトカゲのおっさんが、メイドさんにくの字型の巨大な物を投げつけられて慌てて逃げ出す。投擲された得物は高速回転しながら弧を描いて、再び彼女の手元に戻って来た。彼女が得物を手にした瞬間に、通り道に在った建物が悉く切り裂かれて崩れ始める。

 あれは巨大なブーメランだ。現実のブーメランは、何かに当たったら返って来ないんじゃなかったのかよ!!

 

 メイドさんがブーメランを肩に担ぎながら、私の方に手を伸ばして来る。やばい、今度はトカゲのおっさんの助けは期待できそうにない。捕まったら私もアイアンクローされるのか!? くそっ、人体実験も茹で卵の殻も御免だぞ。

 

 そんな戦慄する私の後方から、地に轟く様な爆音が近づいてきた。私は危機的状態だったが、思わず背後に視線を向けてしまう。

 

「ヒャッハー!! 嬢ちゃん捕まりなぁ!」

 

 近づいてきたのは、轟音奏でる大型二輪車に乗った鉄仮面さんだった。彼はすれ違いざまに私を掻っ攫い、更にはメイドさんに向けて手にした武器をぶっ放した。それは水平二連式のソードオフショットガンで、女性相手だと言うのに容赦なく顔面を狙って放たれる。そして、メイドさんはそれを事も無さげに担いでいたブーメランで払い除けた。

 ショットガンの弾って、あれって確か散弾って奴だよね。何であんなにあっさりと凌げるんだよ! さっきから凄い体験のオンパレードだ! こんなの初めて!

 

 元々街外れに在ったスクラップ置き場を抜けて、鉄仮面さんは二輪車を町の外に向けて走らせる。荷物みたいに抱えられていた私は、その間に自力でなんとか鉄仮面さんの後ろに跨る事に成功した。こえー、スピード出てるのに動くの超こえー。でも、巨人にしがみ付いて戦闘した時よりは楽だったな。

 

「『くおおおおらああああああ!! 我輩のおめめを目がー目がーってブラックアウトさせたどころか、助手君の可愛いお顔を狙うとは許せん!! くぅおうなったら、レプリカ巨神でノシイカにしてくれるわあ!! イテテテテテテテテ! なに!? 可愛いって言ったから照れたの!? 助手君かわ――イテテテテテテテテテテ!! 助手君の異常な愛情が痛い!!』」

 

 町の方からあのカピバラの声が追いかけて来て、スクラップ置き場から四角い下半身の巨神もどきが飛び出して来る。どうやら二足歩行では無く箱の下のキャタピラで推進して、前足部分のタイヤで方向転換している様だ。まるで地面の上を滑るように移動して土煙を上げていた。

 カピバラ本人はあのメイドさんがまた頭を掴んでいて、走って追いかけて来ている。あのサイズの巨神もどきと並走してるんだけど、ドンだけ走るの速いのさあのメイドさん。

 

 駄目だ、あんなでっかいの相手に、鉄仮面さんの銃だけじゃ対抗出来っこない。私は片手で鉄仮面さんの服を掴みながら、握りっぱなしだったスマホの画面をもう一度標示させて確認する。

 スマホの画面にはやはり巨人の視界が映っていた。土煙を上げて走行するバイクの背に乗る私を、スマホは大写しで標示している。スマホを見て目を見開いている所までばっちりだ。

 

 あの子は私のピンチを知っているんだ。それでも動かないのは、私が動かない様に言い聞かせたから。『言いつけを守れて偉い、良くやったね! 後で一杯よしよしして上げるから、お願い助けてクロノス!』って、私はあらん限りの声で叫んでいた。

 

 現在逃げている方向とは少し離れた場所で、轟音と共に高々と土砂が舞い上がった。視線を向ければ、そこには悠然と立ち上がる巨人の姿。頼もしくて、言いつけを守れる良い子が居た。

 私は突然現れたもう一体の巨人に慄く鉄仮面さんに、新しく現れた巨人に向かってくれと頼み込んだ。事情も説明せずに唐突に言った私の言葉だが、何度も何度もお願いしますと頼み続けると鉄仮面さんは二輪車の向きを変えてくれた。ああもう、この人本当にいい人過ぎるよ。

 

 でも、あの距離だと後ろの巨神もどきに先に追いつかれてしまうかもしれない。大きいくせに機動力まである何て、卑怯すぎるだろう!

 『クロノスお願い、間に合って!』なんて、言っても無駄と思っても言わずには居られない。

 

 そして、私の巨人はその思いに応えてくれた。

 両足の装甲が展開して最初の戦いの時の様に、生まれた溝に光が充填して紋様を浮かび上げる。そして、巨人が一歩足を踏み出した時、その巨人の姿が視界から消えた。

 は? 何て呆けた次の瞬間には、二輪車の進行方向とは逆側からとんでもない音量の金属音が響き渡る。音の方を向いてみれば、いつの間にか移動していた私の巨人が、巨神もどきをぶん殴っていたのだった。

 

 鉄仮面さんが驚いて二輪車を止め。そして、その直後に私達を猛烈な突風が襲った。元々巨人の居た方向からの、身体が飛ばされそうになる位の風圧だ。

 何とか横転を免れた私の耳に、スマホの着信音が響く。今度はチャットツールが起動しており、そこに『accelerator』と書き込まれていた。アクセラレーター? 加速したってこと? 何それ凄い。

 

 呆然と視線を巨人と巨神もどきの方に向ければ、二体の勝敗はもう既に決まりかけていた。完全に不意を突かれた形の巨神もどきは、最初の一撃で吹き飛ばされて横転してしまう。起き上がろうと腕を突っ張った所で、私の巨人がそのどてっぱらを蹴り上げる。その時点で、上半身と下半身が引きちぎれてしまった。

 倒れ伏した下半身は放置して、私の巨人は上半身を執拗に踏みつけて行く。一回、二回と、繰り返してとうとう頭部がひしゃげてしまう。更に胸部を踏み抜くと、ついに巨神もどきの上半身は巨大な爆発を生み出して砕け散った。

 

「『おのぉれぇい!! 吾輩がスクラップから丹精込めて五分で作り上げたレプリカ巨神を、よくもやってくれたなぁ!』」

 

 爆発が収まると、三度響くカピバラの声。彼は横転したもどきの下半身の上で、ピョンピョン飛び跳ねて存在を主張している。口を開かなきゃ可愛いんだけどなぁ。

 その足元の箱型の下半身が内側からボゴンとぶち破られて、中からパイプの沢山付いたカプセル型の金属の塊が現れた。カピバラがその金属に飛び乗ると、箱の内側から金属を抱えたメイドさんが飛び出し地面に降り立つ。彼女はブーメランをまた棒状にして片手に持ち、更に自分よりも大きな金属の塊――ついでにその上のカピバラも――を涼しい顔で肩に担いでいた。あまりの不条理な光景に、流石に嫌悪感が湧いてきてしまう。

 

「『動力炉だけは回収させてもらうのである! いいか、この敗北は我輩の頭脳の敗北ではない! これからの世界に羽ばたく我輩の新たなる科学技術の為の礎なのだ!! おぼえてろよー!! また先の方で出て来てやるからなー!!』」

 

 騒がしいカピバラと物静かなメイドは、捨て台詞と共に荒野を走って去って行った。何だったんだあいつらは……。流石に疲れた……。

 

「……詳しい話、聞かせてくれるんだよな?」

 

 私が頭を預けている背中の持ち主が、冷静だが有無を言わせない声色で訪ねて来る。どうやら私はまだ、ゆっくり休んではいられないようだ。

 

 

 次回、第九話『激し過ぎるよこんなの!』に続く。

 




これが私の考えだせる面白いキャラの現在の到達点。
要精進。
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