『扱いづらいパーツとかって話だが、最新型が負けるわけねえだろ!!行くぞおおぉぁあ!!』
かつての繁栄が去って久しい、砂嵐に埋もれた大都市の一角。所々塗装が剥げ、錆びた部分が見える標識や、辛うじて線が覗く路上にて、青と緑に塗装されたロボットが、両肩に収納されていた仕込み武器のブレードを展開して、勢いよく啖呵を切りながら突き進む先にいるのは、巨大な角と牙が目立つ、重厚な和風鎧に身を包んだ半魔巨人。そして両者がすれ違わんとした瞬間、ロボットが両腕を叩きつける前に動き出した巨人の一閃で腰から上下に分断され、巨人を飛び越えた上半身は頭から地面に突き刺さり、下半身は装甲の着いた左足を下にしてきりもみ回転で後方へと過ぎ去っていく。
「う~わぁ、見事に真っ二つ。流石は建やん」
直後ロボットの下半身を足場に姿を現したのは、異様な覆面で顔を覆った、いかにも忍者と言わんばかりの装いの人物。左手に持つ刀には、こちらも今しがた倒してきたところらしい、折り畳み式の細い首部分から引き千切られ単眼のロボットの頭部が、頭頂部から串刺しにされていた。
「まあレベル自体は相変わらず高くて、今までと大差ないようだが、さっきまでみたいにワンサカ湧き出て乱戦にならないだけ、まだこっちのが戦いやすいっちゃ言えるな」
ふう、と半魔巨人がため息をついた直後、巨大な航空機が炎上しながらはるか彼方に墜落し、爆音を上げる。ついで発生した突風と土煙が、両者を覆ってなお勢い止まらず進んでいくことから、爆発が相当な規模だったことがうかがえる。
「わっぷ、すっげー土煙だなオイ。確かあのデカブツ、ブラックさんがウルベルトさんとブルー・インパルスさん連れて相手しにいったんだっけか?」
「そうだな。ここ入って早々に、アレと同じのから違うのまで幾つも上空で飛んでるのを見たブラックさんが、『ずっと飛んでたらヤバそうだから、少しでも片付けてきます』って、文字通り飛んでったっけ」
土煙が止んでから自身のステータスを確認すると、ダメージ等は特に問題ないと判断した両者がこの場にいない仲間の話をしていると、新たな敵影が現れる。
『傭兵同士の潰し合いかよ、仕事ってのは辛いねぇ』
『2人がかりでよく言う、潰す気マンマンのくせによ。ヘヘッ』
「…確かお前がアーベラージで使ってるのって、あんな感じの機体だったか?」
「コイツもそうだったけど、イメージとしてはそうだと思うわ。あの装備がどんくらいの代物かはわかんねえけど」
くすんだオレンジ色で、鳥を思わせる脚部の機体と、細身の青い機体は、2人に狙いを定めたようで突撃してくるが、すでに迎撃の準備を整えた半魔巨人が前者、「クソ…が…ブッ殺…」と怨のこもったノイズ混じりの音声を流すロボットの頭部を、刀を振った勢いで投げ飛ばした忍者が後者に向けて銃撃の合間を縫って接近し、仕留めるまで大して時間はかからなかった。
「にしてもこれ、サービス終了まで間に合うもんかねえ?モモンガさん達も心配だし、やっぱ次フロアへの転移門探しのためにバラけたのは失敗だったか?」
「今更言ったってしょうがねえよ。まずはこのどんどん出てくる場違い極まりないロボット軍団とっとと片付けて、その転移門探し出すぞ」
スケジュールと仲間の心配をする忍者に対し、半魔巨人の意識は早くも駆け付けた新手――両手の盾に、いくつもの着弾跡が刻まれた盾のエンブレムが描かれた緑色の機体と、戦車のような下半身で、銃器を構えたピンクの機体――に向いていた。それ以外にも、ダークグリーンのカラーと右手にガトリング砲を持つ点が共通する機体や、色合いこそ先程のと似てなくもないが、より重装甲重装備の機体など、次々とロボット達が2人に向けて集まってくる。
『私の命はあなたのもの。いつもどおりに、ご遠慮なく!』
『言われなくても撃つけどさ。アンタが死のうが、アタシどうでもいいから』
『来たぜ!おい、ホントに全開でいいんだな?』
『弾代は保証するって話だ!撃ちまくれえアッハッハッハッハッハ!』
『我ら親子の戦い、その要諦は守り!いいか、焦りも恐れも無用だ』
『了解だ、親父。いつもどおり、やってみせるさ』
『今日もいつもと同じだ、兄弟。あいつが動かなくなるまで撃つ』
『そうだな、兄弟。撃って殺すだけだ、俺たちの前に立つ奴は』
『いくら手ごわいと言え、2人がかりでは…勝ったところで、これでは卑怯者呼ばわりされます』
『そこそこ腕は立つようにはなったが、バカか貴様は!いいか、死んだ奴はモノを言わんのだ!』
「…どうしよ、終わる気がしなくなってきた」
「安心しろ、潰し続けりゃいつかは出てこなくなるさ」
軽口をたたき合いながらもしっかりと武器を構える半魔巨人――武人建御雷と忍者――弐式炎雷。両者の視界に眼前の軍勢はなく、すでにその先を見ていた。
ところ変わって、先程の2人から離れた別の摩天楼。薄く霧がかかり、立ち並ぶ高層ビルは上部が大きくえぐり取られたように破損したものや、丸ごと喪失したまま放置され、人気も全くない。そんな中、開けたところで円盤状のボディから生えていただろう複数本の足をほぼ失い、残りを天に向けるように倒れた状態で放置された巨大兵器の残骸の上に「彼ら」はいた。「彼ら」を人と称するには、どうしても語弊があるだろう。場違いにも程がある――尤も「彼ら」にしてみれば、この場所の方が文字通り「場違い」なのだろうが――武骨なローブをまとい、身の丈と並ぶ長さの杖を手にした者は、その顔が皮も肉も一切ない、眼窩の吊り上がった髑髏なのだから。そして周囲のビル上に立ち並ぶ、黄色いカラーリングに蜜蜂をモチーフにしたエンブレムを左肩に施されたロボットの軍団から、その髑髏を守るように対峙するのは、口がついた数多の球状の肉塊がブドウの粒のように集まり、人型を成した様な者と、中世の貴族を思わせる三角帽子に、バロック朝時代の貴族を思わせる派手な服装を真紅で揃え、右手に構えたレイピアを前方のロボット達に突き付ける、アイボリーのワニ人間。
『世界は破壊しつくされ、それでもなお戦いは続いている。消してあげます。そして世に平穏のあらんことを』
『世に平穏のあらんことを。でもあの機体じゃ……たいした金にならなそうだなぁ』
『あなたのような方を消さねば、戦いは無くならぬ。我らはそう仰せつかりました。世に平穏のあらんことを』
『あれだ同志よ。世の平穏を乱す、愚か者よ』
『消さねばならぬ。さもなくば、この荒れ果てた世は救えぬ』
『『世に平穏のあらんことを。世に平穏のあらんことを』』
『我らの本懐を妨げる愚か者…消えよ。世に平穏のあらんことを』
『そろそろ殺しにも飽いたろう。吾が自ら、引導を呉れてやる。彼岸にて、心安らかに暮らすがよい。そして世に平穏のあらんことを』
『大いなるものが我らを見ている。負けるはずがない』
『このエンブレムこそ、その証……ウッフフフフ……』
『『世に平穏のあらんことを』』
世の平穏を掲げ、その邪魔になると一方的に排除を宣告するロボット軍団に対し、真っ先に反応したのは、――傍から見ればどうやったのかは不明だが――喉奥から押し殺すような笑い声をあげる髑髏だった。
「先程から聞いていれば、随分と勝手なことを言ってくれる。かつて我等が成しえた栄光を、何の接点もなく過去のものと称する貴様等の主もそうだが、敵とみれば品なく攻め込んでくるだけだった下の階層の連中といい、随分と無礼者ばかりたむろしていると見える。ならば貴様等の主に、礼儀を徹底的に叩き込んでやろうではないか。我等『アインズ・ウール・ゴウン』がな!」
「さあ行きましょうぞモモンガ様!御前を塞ぐ者は、このクロコダイル公爵が逃がすことなく打ち払いますが故!」
続くようにワニ人間がノリノリで口上を述べると、最後に残った口だらけの肉塊も、ため息とともに呆れ顔の感情アイコンを浮かべるが、合わせるように腰の鞘から得物のロングソードを引き抜く。
「相変わらずノリノリですねえ2人とも。まあサッサと片付けて、ナザリックでお疲れ会に行きたいって気持ちは、俺もわからなくはないですがね」
直後4足型が一斉に銃撃を仕掛け、その合間を縫うように2足型が前方2人に切りかかるが、「クロコダイル公爵」と名乗ったワニ人間は、向かってきたコンビの機体に対し、即座に片方をレイピアで串刺しに、もう1機の頭を鷲掴みにすると同時に魔法を放ち、支援射撃と共に突き進む単体の機体が狙いを定めた肉塊は、ロングソードで切りつけると同時に魔法を発動させる。直後「モモンガ」と呼ばれた髑髏も、合わせるようにより強力な魔法を狙撃してくるロボット達目掛けて放つ。
「魔法最強化!強化掌握雷撃!」
「爆発する斬撃!」
「彼岸に行くのは貴様等のようだな!連鎖する龍雷!」
三者三様の攻撃で呆気ないほどにロボット軍団を全滅させた3人は、拍子抜けしながらも周囲を警戒する。先程の2人ほどではないが、度々波状攻撃気味に複数機が攻め込んできたため、油断はならない。
「揃って派手に決めるのもいいですが、そろそろ建御雷さん達と合流しましょう。ここで手間取ってると、またさっきみたいなのに絡まれちゃいますからね」
「そうですね。いやー、さっきはついいつもの調子で暴言吐いちゃいましたけど、最後の最後にこんな大舞台用意してくれたのは、素直に感謝ですね。おかげで予想してたよりも、大分メンバーが戻ってきてくれましたし」
「ここ最近はログインしても、せいぜいギルド維持費稼ぎくらいしかやることもありませんでしたからねえ。あちらさんも粋な真似をなさりますよ。ベルリバーさんも久々の実戦でしたが、腕が鈍ってないようで何よりでしたわ」
ワニ人間――紅白鰐合戦があるかどうかも分からない額をぬぐうような仕草で目の後部を撫でると、演技をやめて素に戻った髑髏――死の支配者のモモンガも、うれしい誤算のきっかけになってくれた存在への感謝を述べ、口だらけの肉塊――ベルリバーに合わせて仲間との合流を目指す。久々に元気を取り戻したモモンガの姿を見た紅白鰐合戦は、「この調子で新たな生き甲斐を見つけてほしいものだが」と依存ともいえるくらいこの世界にのめり込んでいる彼の身を案じていた。
先ほど墜落したのとはまた違う航空機が爆発、炎上をおこし、高度を下げていく。やがて地上に接触すると、付近に存在するものを無差別に呑み込むような大爆発を起こし、爆発音と衝撃波から少し遅れて、もうもうときのこ雲と土煙を巻き上げる。その様子を上空から眺めているのは、シルクハットを被り、顔の右半分を仮面で覆ったヤギ顔の悪魔、発達した腕と、淡く光る3対6つの紫眼を持ち、胸鰭と腹鰭が翼の如く重なって一体化した濃紺の影鮫、そして黄金色の四肢の先に、猛禽を思わせる漆黒の鉤爪を備え、身体を鮮やかな青い羽で覆った竜鳥人間。やがておもむろに口を開いたのは、ヤギ顔の悪魔だった。
「これで累計何機目だ?全然減る様子見せねえな・・・」
「今ので6機目だから、向こうにしてみれば全然な感じでしょうね。さっきから何機もヘリや飛行機が往復してますけど、そっちもしょっちゅう撃墜されてるはずなのに、全然減る様子ないし」
「もしかして、飛んでるの全部総合して演出用のオブジェクトとか?だとしたら完全無駄骨じゃん…」
「仲間の安全のため」と飛び出した影鮫をサポートすべく同行した悪魔との竜鳥人間だったが、それが完全に無意味な可能性を考慮した後者は、泣き顔の感情アイコンとともに愚痴を漏らすが、どちらもそれに付き合う気はないらしく、以後どうするかに話題を切り替えている。
「とりあえずもう空のデカブツどもは無視して、他のグループと合流しましょう。爆撃もいつまで続くかわかりませんし、早いとこ先に進まないとそのまま強制ログアウトで解散させられかねませんし」
「そりゃいいけど、航空戦力相手する羽目になったのはお前が原因なんだから、しっかり合流までのサポートしろよ?もう終わるからってアイテムとかケチって誤魔化すのはなしだからな」
「あっちょ、置いてくなぁ~!」
慌てて先に降りた2名を追って竜鳥人間も地上へ降りると、狙ったかの如く付近のビル上から黒いロボットが飛び降り、手にした銃器を構えて対峙する。
『お前で28人目。恐れるな、死ぬ時間が来ただけだ』
そのロボットの発言に、真っ先に反応を示したのは影鮫。片方の刃渡りだけでも自身の肩幅ほどもある両刃の戦斧を右手に呼び出し、調子を確かめるようにブンブンと音を立てて振り回して見せた後に改めて突き付けるように構えると、大見得と共に――足がない故空を切って――突撃する。
「へえ、奇遇だな。確かに俺は28人目だよ。ただしアンタの獲物じゃなく、栄えある『アインズ・ウール・ゴウン』のな!」
そのまま縦横無尽にビルを駆け上り、路上を飛び回りながら時にロボットが距離を取って銃器で狙い撃ち、時に影鮫が一気に詰め寄り戦斧を叩きつける様を眺めていた悪魔と竜鳥人間は、認識される間もなく置き去りとなったためにその時間を無駄にするのは惜しいと、両者を無視して路地裏に隠れ、合流予定の調整に入った。
「とりあえず最寄りの組に合流するとして、今んところどこに誰がいる感じだ?」
「さっき『探索』使って調べた分だと、1番遠いのは茶釜さん達の組かな。それで、モモンガさん達が建御雷さん達と合流目指して移動中。だから、ブラックが戻ってきたら私等も後者と合流目指した方がいいと思う」
竜鳥人間の提案に悪魔が了解の返事をしようとしたのと同時に、その言葉を遮るかの如く『ガシャーン!』と炸裂音が響き渡る。様子を覗き見ると、胸部に大きな裂傷を負ったロボットがビルの中腹に背中から突き刺さる様にめり込み、勝利した喜びを誇る間もなく影鮫が戦斧を収納して戻ってくるところだった。
「すいません、今終わりました」
「ああ、見て分かった。とりあえず、モモンガさん達が建御雷さん達と合流目指してるから、俺達もそこに落ち合おう。インパルスさん、案内頼む」
「オッケー、じゃあ2度手間どころか余計な戦闘挟んだけど、もっかい飛行…は、面倒か。んじゃあ無駄手間かけさせたんだし、アンタがウルベルトさん抱えて運んでよブラック」
「え~…まあそれくらいいいけどよ…」
「いや、いい、自分で飛ぶわ。むしろそれなんて罰ゲームだよ……」
不満げな影鮫――グランディス・ブラックに両脇から肩を抱え込まれそうになって、拒絶した悪魔――ウルベルト・アレイン・オードルが手早く操作画面を呼び出し、発動させた飛行の魔法で空に舞うと、遅れて飛び上がった竜鳥人間――ブルー・インパルスが先陣を切って仲間達の元へと馳せ参じる。
激しい雷雨と荒れ狂う波風が吹き付ける巨大人工浮島は、激戦区となっていた。各地で戦闘由来の爆発や破損が生じる中、沿岸部から波風に乗って、打ち寄せられた廃材やコンテナを蹴散らしながら、ドラム缶を横にしたような無限軌道の下半身に盾と銃器を搭載したロボット達を豪快に突き飛ばすのは、長い鼻の横に対となった同様に長い牙、大きな耳を持つゾウの頭に、黒々とした豊かなライオンの鬣を首に蓄え、同じく漆黒の剛毛に覆われた腕に鋭利な鉤爪と肉球が露呈したクマのような手で、上半身よりも大きな鎚頭の戦槌を持つ獣王人。その後ろからは、雨風吹き荒れる中でも目立つ金の装飾で全身を飾った鳥人が、手に持った弓で、円盤のような体から、手足のような銃器とブースターが生えたロボットや、高台に陣取り、背負った折り畳み式の砲塔を伸ばして、狙撃体制をとる二足歩行のロボットを的確に射抜いていく。
「だぁクッソ!なんだってこんなわざわざ現実に合わせたみてえなフィールド用意してやがんだ!こかぁ『ユグドラシル』じゃねえのか!」
「ここまで荒廃はしてないだろうけど、オフ会でグラブラが、こんな感じの職場って話してた気がするわね。にしてもホント現実そっくりで、ガスマスクが欲しくなってくるわ……」
ウンザリするように突き進みながら戦槌を振り回し、建物や施設ごとロボットや戦闘している人間をまとめて撃破していく獣王人の横から、飛散する破片を避けながら姿を見せるのは、4本の腕を除いて形状だけ見れば人に似た上半身に、同じく甲殻に覆われ、各所に節のある4本の脚、その後ろに大きく膨らみながら先端部が急激に細くなった尾を持ち、背中の甲羅に透明な翅をしまう竜蜘蛛。どちらも見覚えのあり過ぎる周囲の景色に辟易しているが、それは他の者たちも同じようで、周囲の敵を一掃した鳥人を皮切りに、次々合流する仲間達も、同様に不満を露にする。
「マジでほぼまんま現実な状態ですよねーこの階層。一応これ、大分昔のゲームのステージらしいけど、昔の人って予言してたのかな?」
「むしろ『そうなる』って警告してたのに無視し続けた結果が、今の現実なんじゃないかね。それにしても、人数の多さに任せて行動している間に、随分モモンガ君達と離れてしまったようだな。そろそろ回復も必要だと思うし、ここを突破した辺りで、皆を待ちながら休憩しないかい?」
真っ先に肯定したのは、姿こそ鳥人の同族にも見えるが、雨の中でも消えない色鮮やかな炎をまとった朱雀。羽織ったローブや手にした杖を含め、身に着けた装飾品も炎をモチーフにしており、羽毛は髪や髭を思わせる顔の付近こそ角度や光の加減で白や銀にも見える薄水色だが、それ以外は落ち着いた赤で統一されており、穏やかな物腰もあって、老紳士を思わせる。続けて合流したのは、両手に巨大盾を持ち、全身金属鎧をまとった竜人。ローブの鳥人からの提案を聞き、兜の顔部分を開いて素顔を晒して答える。
「さんせー。いやー、あの姿も愛着はないことないんだけど、せっかく復帰するんなら、ってちょっと気分転換のつもりで種族変えてみたら、こうも使い勝手が変わるなんてねえ。粘液盾の名が泣くわ……」
「そういえばそのアバター、インパルスさんがデザインしたんでしたっけ?」
苦笑い顔の感情アイコンを浮かべ、ブランクを抜きにしても、以前活躍した時との勝手の違いを嘆く竜人に尋ねたのは、蔓が束になって、人型を成した様なヴァイン・デス。決して小さくはないものの、周囲が巨体ばかりなため、相対的にそう見えてしまう。
「そうそう、あの人この手のキャラが好きで、復帰の話したら『是非アバターデザインを』ってこっちが引くくらい必死になって頼み込んできてさあ。他にも人魚やら半人半馬やら、色々デザイン提出してきてね。で、『ボツったのは勿体ないから、折角だしナザリックの余ってるポイント使って、NPC作るんだー』って意気込んでた」
「あー、懐かしいなあ。初対面で自己紹介した時、女性って知った途端マナーも何もなしにインパルスさんが『そんなアバター』呼ばわりして、それにキレた姉ちゃんが1発キツいのぶちかましたから、もうブラックさんと鰐合戦さんが平謝りし続けて……」
「オイ愚弟、テメエドサクサでいつの話引っ張り出してきやがんだよ」
割り込んできた鳥人に対し、それまでの良く言えば可愛げのある、悪く言えば媚びたような声から一転し、急にドスの利いた低い声で威圧する竜人。それを見た残りの面々は過去を思い出し、「ああまたか」と呆れた様な雰囲気を出すが、直後炸裂音と共に付近の建物が何か所も吹き飛び、爆発が起きる。
「あー、お2人さん姉弟喧嘩どころじゃないよ。さっきペロロン君が見つけたあの軍艦、だいぶ接近してきたみたい。無視してさっさと次に行くか、一気に叩いて無力化するか。どの道ここは早急に決めないと、今度はさっきのを浴びることになるかもしれないよ?」
「そうね。でもペロロン君や教授みたいな奴も飛び回ってるし、このままじゃ先に進む前に、ミサイルやら砲撃やらで全滅よ。まあ、ここの連中が持ってるおそらくはワールドアイテムの効果で、いくらか戻されても振り出しにならないだけマシなんだろうけど……」
両手に巨大な籠手を装備した半魔巨人が忠告し、竜蜘蛛も早急な指示を要求するように、崩落していくらか開けた部分から海の方を見れば、そこには見るからに巨大な軍艦が鎮座しており、各所から射撃やミサイルを発射し、撃破しようと駆け付けた者達を次々葬っていく。さらにその付近には、先ほどの円盤型を始め、鳥のような風貌をしたロボットや、両脇のコンテナにプロペラを付けた大型機を始めとした様々なヘリが何機も滞在しており、軍艦をサポートするかのように、それぞれが思い思いに備えた銃器を発射している。
「じゃあ周囲の航空戦力は俺と朱雀さんが始末するとして、メコンさんは姉ちゃんとシャドウさんを護衛、ぷにっと萌えさんとやまいこさんをサポートに、軍艦をお願いしていいですかね?」
「そこはむしろ、君達の方に茶釜さんをおいて、アイツ等の気を引いてもらった方がいいんじゃないかと思いますよ?あの数と弾幕じゃ、そちらにも盾役を護衛に置かないと負担が大きすぎますよ。私としては、特に朱雀さんが大丈夫か心配です」
即座に鳥人が護衛の相手を名乗り出たが、ヴァイン・デスがその布陣に対する問題点を挙げ、自分と共に軍艦の相手に推薦された竜人を、両者の護衛に配備するよう意見する。
「心配ありがとう。まあ、確かに年と体への負担のせいで、ドクターストップ受けて引退することにはなったけど、今日1日くらいなら、そこまで負担にはならないと思うよ。むしろあのまま参加を見送っていたら、今後そのことを後悔し続ける羽目になったんじゃないかな。それじゃあいい加減ここから出ないといけなそうだし、ササッとバフを済ませるから、やまいこ君は回復を頼む。ペロロンチーノ君の作戦と、ぷにっと萌え君の陣形で行こう。頼んだよメコン君達」
「応ともさ!そこまでお膳立てされちゃあ、無様は晒せませんよ」
「奮戦するのはいいですけど、無茶しないでくださいね?心配してるのはぷにっとさんだけじゃないんですから」
短杖を振って仲間に回復をかける半魔巨人のやまいこと共に、手に持つ杖を光らせ、仲間に恩恵を与える朱雀――死獣天朱雀は、自身の体調が決して万全ではないことを自覚している。仲間の中には、かつての根城に残った者同士や、親族など親交のある部外者と思い出に浸ることを優先した者、そもそも顔を出すことを選ばなかった者もいたが、それでも彼が今回の参加メンバーに名乗りを挙げたのは、老齢の身故に先が短いと自覚しているからこそ、この世界で知り合った友のために、最後にもう一奮いくらいはするのが、せめてもの礼儀だと判断したから。「どうせ先がないのなら、ここで活躍すれば、いい冥土の土産になるだろう」と、多少冗談めいた説得で困らせてしまったことへの謝罪も込め、こうして心配する周囲に無理を押して願い出た。
そしてその思いを受け取った仲間達――獣王人の獣王メコン川は、竜蜘蛛のシャドウ・ウィドゥ、ヴァイン・デスのぷにっと萌えにやまいこを連れ――間の悪いことに他グループの「必ずや撃墜して帰ってきます!」「必ずや撃墜して帰ってくるなよ!」「必ずや撃墜して帰ってこられないんですか!?やぁだ~!」などとふざけたやり取りがBGMになったため「なんつー締まりのない様だ」と思いながらも――軍艦へと向かい、鳥人のペロロンチーノ、その姉の竜人――ぶくぶく茶釜は、彼等のサポートのため、死獣天朱雀と共に、周囲のロボットやヘリに立ち向かって行く。