度重なる乱開発と、それに伴う環境汚染が負のループを紡ぎ続けた結果、最早人類は巨大複合企業が管理する完全環境都市、通称「アーコロジー」の外では、満足に生身を晒すどころか、人工心肺なしで活動することすらできない状態まで追い込まれた。
そのアーコロジー同士でさえ、僅かな物資を巡って衝突するほど疲弊した現実に嫌気がさし、逃避のための空想世界として人気を博したDMMO-RPGの中でも、豊富極まりないアバターモデルから職業の組み合わせをはじめ、無限に等しいプレイスタイルを誇った『ユグドラシル』は、長いこと不動の人気と業界内における確固たる地位を築いてきた。
しかし、いかに一世を風靡しようと、時と人気の流れに勝つことは叶わず、ついに12年にも渡ったその歴史に幕を下ろすことが決定されると、「最後の時くらい仲間とゆっくり」、あるいは「かつて倒せなかったあのボスを」などと大半のプレイヤーは考えていたのであろうが、その2月前――悪足掻き気味に前世紀初頭前後を主軸とした権利切れサブカルチャー作品を無差別に取り入れた、通称『最後の大規模イベント』こと大型アップデートイベント『古世界からの使者達』終了後、不特定多数のゲーム内市街地にて、挑戦状ともいうべきメッセージが掲載され始める。
「かつて伝説と栄華を誇った異形種の巣窟『アインズ・ウール・ゴウン』をはじめ、すでに多くの上位ギルドは過去の形骸と化した。そして最早残り少ない時で仮初の安寧を過ごし、最後を迎えるだけの諸君に対し、我等『暁の君臨者』は、最後の大決戦を申し込む。我こそはと思うものは、サービス終了日にて我等の本拠地たる『タワー』にて決戦を迎えよう
P.S 我等の『タワー』内部ギミックは挑戦者を殺すつもりで作った。お前らみんな殺す」
元々は旧時代のサブカルチャー作品に登場する悪役を好む者達が立ち上げ、『悪党軍団』と名乗っていたその集団は、せいぜい同好会クラスのごく小規模な集団に過ぎず、完全に無名の十把一絡げどころか、活動内容もあまり強力なボスに挑むようなことも難関ダンジョンを攻略するようなこともなく、日々適当に財を稼いでその日暮らしをするような代物だったが、『最後の大規模イベント』における活躍で、一気に有名な存在へと成り上がる。
最早サービス終了待ったなしな状態の『ユグドラシル』にて、他のプレイヤーが課金に走らず、せいぜい各所で興味を有した作品モチーフのイベントダンジョンを、まったりプレイで勤しむ中、「待ってました」とばかりにそれまでの消極的な活動がウソの様に活性化し、積極的なイベントダンジョンの探索、攻略に限らず、大規模な課金をしてまで様々なイベントクエストを急速にクリアしていき、その過程で彼らが『タワー』と呼ぶ超巨大拠点系ダンジョンを手中に収めると同時にギルドとして旗揚げし、外装を始めとしたアバターの改修、各々好きなキャラをモチーフにしたNPCの製作、同様にイベント限定の課金ガチャを枯渇させる勢いで無差別にまわし、傭兵NPCとして獲得可能なキャラの収集など、大規模な課金活動を含め、大幅に戦力を拡大していった。
あまりの金に糸目をつけないその振る舞いは、「メンバーはアーコロジーを切り盛りする支配層出身者」「戦力を確保するために野良プレイヤーを金銭で釣って招き、課金ガチャをやるだけやらせて、用が済んだら即座に切り捨てるような、ほぼ違法に等しいこともやった」「そもそもこのイベント自体、『ユグドラシル』終了にかこつけたアーコロジー支配者達の戯れ」なんて噂もあがったことさえある。
話を記載されたメッセージに戻すと、この挑戦状に対抗心を燃やし、すでに引退して久しいメンバーを呼び戻してまで準備に励むギルドも存在する中、名指しで過去の産物扱いされた当の『アインズ・ウール・ゴウン』もまた、「その挑戦を真っ向から受けてやろうじゃないか」と息巻いていた。
元々ギルド長のモモンガは、既に大半のメンバーが『ユグドラシル』を引退し、活動規模がとうに下火となった状態でも、初見攻略後拠点に改装した『ナザリック地下大墳墓』を存続させるべく、同様に定期的なログインを欠かさない熱心なメンバー――グランディス・ブラック、紅白鰐合戦、ブルー・インパルス、シャドウ・ウィドゥ達とともに、ノルマや制限時間を設けながら、競いあうようにして維持費を稼ぎ続けてきた。そうしたある種の依存に等しい状態のモモンガにとって、当然『ユグドラシル』終焉の報は非常に大きなショックとなったが、メンバー達の協力を得た上で、「せめて最後の思い出に」とアカウントも抹消していたかつての仲間達に対し、「折角だし久しぶりにメンバーで集まって、『ユグドラシル』最後の時を一緒に迎えませんか」とある種の未練も籠ったメールを送っていた。残念なことに大半のメンバーから返ってきたのは、仕事の多忙など現実での事情を理由とした謝罪と断りの言葉だったが、そうした中、偶々ネット上で晒されていた「暁の君臨者」の宣戦布告を目の当たりにした武人建御雷と弐式炎雷が、「引退して久しい身とは言え、かつて仲間とともに築き上げた栄光を、ぽっと出の連中如きから勝手に終わったような扱いをされちゃたまらん」と参加の意思を示す。
2人ともアカウントこそとうに抹消していたが、幸い当時使っていたアバターのモデルデータ自体は残っており、装備に関しても、引退の際モモンガに引き渡していたため、合流後に受け取れば問題なかった。更に運営も、最後のカムバックキャンペーンとして、アバター作成の際に種族や職業のレベルも――さすがに「公式チート」とも呼ばれる世界級職業は除外されたが――設定できるようにしていたため、実質無条件で当時の最強状態で復帰することも可能と、御誂えの条件が揃っている。そして相手を想うが故に強く自己主張できないモモンガに代わり、残存メンバー代表名義でグランディス・ブラック協力の元、2人が「名前も聞いたことないような連中から、まるで討ち取ったとばかりに名を挙げられて恥ずかしくないのか」「俺達は決して過去の存在じゃない、『アインズ・ウール・ゴウン」はいまだ健在なりと、勝手に名を持ち出してきた恥知らずどもに思い知らせてやろう』などと断ったメンバー達に改めて声をかけていくうち、プライドや思い出を刺激され、同様に「じゃあ自分も」と参加表明を示すメンバーが続出していき、最終的には攻略に参加せず、『ナザリック地下大墳墓』にて思い出に浸ったり、他の場所をまわったりして過ごそうとするものも含めれば、一転して実に半分近い20人ほどが再来を約束した。
特に『アインズ・ウール・ゴウン』の前身たる集団『九人の自殺点』の発起人にして、公式チート職業の1つ『ワールドチャンピオン』を取得していたたっち・みーの参加は、その打倒を目標としていた武人建御雷や、始めて間もない頃PKの被害に遭い続け、引退を考慮するほど嫌気がさしていたところを助けてもらったモモンガにとって、一際喜びを強めた。
残念なことに引退の際アカウントも抹消していたため、それに伴い『ワールドチャンピオン』の職業も失われており、また特例で招待された妻と娘にナザリックを案内するために、同じく古株で親交のあったあまのまひとつや、懇親の出来ともいうべき第六階層の夜空を名残惜しんだブルー・プラネットと共に残りたいと願い出たが、「『一緒に遊ぼう』とせがまれ、2人に合わせた」と語る新たなアバターはかつて使っていた昆虫系ではなく、天使系の最高位種熾天使で、現役時代何かと対立し、当時使っていた悪魔アバターのまま再開していたウルベルトは「ある意味アンタらしい姿になって帰ってきたな」と皮肉を漏らし、装備やステータスを見せてもらったモモンガは、その圧倒的な強さに思わず「『ワールドチャンピオン』を取得していたころに負けずとも劣らないのではなかろうか」「『暁の君臨者』の連中がどれほどの戦力を有してるのかはサッパリだが、やっぱりたっちさん1人加わってもらうだけで無双できるんじゃないかな」と眩暈を起こしかけたそうな。
またその裏で、同じくナザリック残留を望んだ餡ころもっちもちを始め、ぶくぶく茶釜、やまいこに加え、長らく『ネナベ』と呼ばれる性別偽証をしていたタブラ・スマラグディナを含む同じ女性メンバーに対し、ブルー・インパルスがわざわざ現実で呼び出し、「せっかくだし一念発起して新しいアバターにしてはどうか」と執拗に息巻いてきたが、「キモ可愛い」とは言い続けていたものの、周囲の予想通り――むしろその憐れむような反応が苦しかったそうだが――引くに引けずピンクの肉棒を使っていたぶくぶく茶釜と、かつてはクトゥルフ神話好きが高じ、クトゥルフ神を連想させるタコの様な頭に、溺死体のような膨れ上がった歪な体の『脳食い』を選択したが、他のメンバーが同族で強烈なキワモノ感満載のNPCを作ったせいで気持ち肩身が狭くなったタブラ・スマラグディナ以外の2人は「気に入ってるから」と当時のアバターで復帰する旨をたじたじになりながら伝え、それでもなお勧めてくるブルー・インパルスが「なると思った」と同行して予想通り助けを求められたシャドウ・ウィドゥに締めあげられる一幕もあった。こちらは「モモンガさんに余計な心労かけないため」と元々紅白鰐合戦も含め『爪弾き者』として活動していた頃のリーダーだったグランディス・ブラックにだけ通告され、後日彼が謝罪に駆け回る羽目になった。
結局同様に帰還したやまいこの説得で、娘のユカリは以前にも特例でナザリックを訪問したことのある彼女の妹あけみ共々ナザリックに残った仲間達に預け、同じ天使系種族の乙女天使を取得した妻のメグ共々戦力として駆り出されたたっち・みーが、巨大人工浮島にほど近いビル街の一角にて観察しているのは、人型――と言えるかどうかわからない、中央のレーザーキャノンに手足を取り付けたような風貌で、グランディス・ブラックや武人建御雷が撃破したロボット――ACの何倍もありそうな――具体的に言ってしまえば、周囲の高層ビルと大差ない、赤い装甲に覆われた巨大なロボット兵器。
『TypeD No.5』と呼ばれるその巨大兵器は、先ほどからレーザーキャノンに指からのグレネード、背部のミサイルポッドからのミサイルを次々乱射しては、挑みかかるプレイヤー達を周囲の地形を変える勢いで葬っていく。元のゲームでは割とガバガバな耐久管理のせいで、呆気なく片付いてしまうことも多かったそうだが、『ユグドラシル』で生まれ変わったこの巨大兵器は、当時の恨みを晴らさんとばかりに大暴れし、主達の野望のために破壊の限りを尽くす。
「茶釜さん達が相手してるって軍艦もだろうけど、多分アレも妨害系ボスの1種なんだろうな。まあ、こうして遠めに見てると、場所問わずに当たればダメージは入ってる分、先に相手したあの6本脚の奴よりはマシそうだけど……」
様子見をしているたっち・みーが思い出していたのは、ついさっき戦った別の巨大兵器。円盤状の本体から6本のぶ厚い板状の脚が伸びるその機体――『L.L.L』は、全身を非常に強固な装甲に覆われ、攻撃の際に顔を出す脚部のレーザーキャノン部分以外は、一切のダメージが通らないトンデモ仕様だった。何とか周囲で攻撃する他のプレイヤー達を囮にしている間にレーザーキャノンを破壊していき、撃破に成功したが、この調子ではまだまだ同様の巨大兵器が待ち構えているのではないかと思うと、思わずため息をつかずにはいられない。
「ほらほら、元気出して。ひとまずあれ撃破したら茶釜さん達と合流して、モモンガさん達待ちましょ?」
そんなたっち・みーの隣で、メグが苦笑いの感情アイコンを表示しながら宥める。その様子を眺めながら同じように苦笑いの感情アイコンを表示するのは、煙と炎をまとい、所々陽炎が揺らめくようにぼやけた人型の精霊、ジンのウィッシュⅢと、上半身こそシルエットはグラマラスで、降ろせば腰より下に届くと思わせる長い藍色の髪共々魅力的ながら、肌の色は下半身の蛇体共々深い蒼で、耳の上から1本ずつ角が後ろへなびくように伸び、口からは呼吸に合わせるように青白い炎が一定間隔で噴き出る、強力な悪魔系とドラゴン系の複合異形種『蛇竜母』に変更したタブラ・スマラグディナの2人。先程の『L.L.L』戦では、各員それぞれ1脚ごとに分散し、攻撃のために展開したレーザーキャノンを大威力の攻撃で破壊していき、最後は2人組となって残りの2脚のレーザーキャノンを仕留めフィニッシュとなったが、どちらもブランクを――タブラに関しては、今までと勝手が違うためのギャップも――感じさせない見事な身のこなしと、プレイスキルを披露している。――蛇足だがついでに言うと、実は先程モモンガ達がミツバチモチーフのエンブレムを付けたAC集団――『ビーハイヴ』を相手した時足場にしていた巨大オブジェは、まさに撃破された『L.L.L』の長年放置された残骸という設定だったりするが、当人達がそれを知るのは、もうしばらく先になる。
「やはり狙うとすれば、先程のように相手が攻撃する際のカウンターだろうね。特にあれは色々と武装を積んでいるようだから、どこを攻撃してもいいってんなら、さすがにコア部分のレーザーキャノンは危険すぎるにしても、最低でも背中のミサイルポッドと、それぞれが砲塔になっている指部分を破壊すれば大きく戦力を削げるはずだ」
「指部分といやあ、さっきから腕の中ほどでガチャガチャ鳴ってる飛び出た部分があるんだが、ありゃあ弾倉かね?だとしたらそっち爆破すればもっと効果的じゃないかと」
ひとまずこのまま眺めてばかりいてもどうにもならないので、攻略に取り掛かるべくタブラ・スマラグディナが提案したのは、先程の『L.L.L』同様の武装破壊。そのリスクとリターンを考慮し、まずは指先が大口径のグレネードキャノンとなっている腕部分と、そこから肩部分を通って到達可能な背部のミサイルポッドに狙いを定めようとしたところ、ウィッシュⅢがグレネード弾の詰まった弾倉部分を破壊すればより効率的と修正を加え、リーダー担当のたっち・みーの意見を待つ。
「わかりました。それではさっきと同様に、私達夫婦とそちらで左右に分かれて、可能なら周囲のプレイヤーと協力して、それぞれミサイルポッドと弾倉を破壊していきましょう」
「オーケーたっちさん。ならちょうどこっちに背を向けてるわけだし、早い者勝ちってことで、俺は左側のミサイルポッドをやらせてもらおうかな。タブラさんは腕の方頼みますわ!」
「ハイハイ、ターゲットの選択速度は相変わらずだねぇ」
そして決まったと同時に宣言通り飛び出していくウィッシュⅢにタブラ・スマラグディナが続き、たっち・みーもメグと共に反対側の武装破壊に向かう。
それぞれが一騎当千たる『アインズ・ウール・ゴウン』は、かつての最盛期に自分達が相手した1500人もの大攻勢を思い出す、1200人近い挑戦者の中でも突出して活躍した。正確には、むしろ他のギルドが活躍できないほど「暁の君臨者」の戦力が過度だったともいうべきかもしれない。なんせ彼らの拠点――『タワー』は地下深くへと潜っていく『ナザリック地下大墳墓』とは逆に、名前通り天高く聳え立つ塔を昇っていくのだが、その第1階層――建物が階段状に斜面の各所に立ち並び、その合間にヘリポートらしき開けた場所もある『市街領域』からして「色々とおかしい」と挑戦者達からクレームが勃発した。本来本拠地防衛の序盤戦力となるのは、『POPモンスター』と呼ばれる自動的かつ無尽蔵に出現するLv30までのモンスターなのだが、あろうことか『タワー』で挑戦者達を出迎えたのは、Lv80を超える傭兵NPC軍団だったのだから。
白一色のコスチュームに身を包み、ナイフでの近接戦を得意とする『好中球』、黒いコスチュームで肉弾戦を仕掛けてくる『キラーT』、淑女然とした姿に反し巨大な鈍器や刃物での一撃殲滅が脅威の『マクロファージ』と、予想に反した猛者達の猛攻に戦線は容易く崩壊し、多くの挑戦者達が早々に消え失せた。
これだけでも厄介なのだが、さらに拍車をかけたのが、彼らの有するワールドアイテム『原祖女悪魔の祝福』。このワールドアイテムは、『領域内での蘇生アイテムを使用不能にし、死亡した者を、敵味方問わず死亡時の不利益なしで3分後に体力最大値を保持していた地点に再生させる』という効果を有しているのだが、その再生条件が非常に複雑かつ厄介な代物で、例えば入って早々落とし穴にかかって死亡した場合、その手前に無傷の状態で復活できる。しかし戦闘後に装備を破壊された状態で体力を回復させ、地雷を踏んで死亡した場合、アイテムの消耗や装備の損傷も回復時の状態から引き継いでしまうため、極端な話、クリアするためには完全に回復はせず、勢いそのままに突撃して死に戻りを繰り返すのが1番消耗を抑えた効率的な攻略方法なのだが、乱戦での混乱と情報がなかったこともあって、その効果が判明する頃には大部分のプレイヤー達に本来不要な回復がされてしまっており、大いに後悔する羽目になった。
幸い傭兵NPC達には専用の再生ポイントが用意されていたようで、倒してから再度襲撃してくるまでに間はあったものの、いつの間にか姿を見せていた新手の傭兵NPC――たっち・みー曰く、「自分やあまのまひとつが好きな変身ヒーローものに登場する、等身大の怪人達」が無数のPOPモンスター――同じく「それぞれの戦闘員達」を引き連れ出現するとさらに激戦となり、他グループへの誤射防止のためある程度密集して迎撃しながら突き進んだところで現れたのは、変身ヒーローを思わせるマスクに反し、半そでのシャツに短パン、サンダルと、かなりラフな格好でマスクの上から喫煙する場違いじみた不審者。
操作画面での状態確認にて名前が『天体戦士 サンレッド』と判明した直後、Lvが表示される前に警戒していた十数人のプレイヤーを瞬殺した彼は、プロレス技やらステゴロの殴り合い、果ては吸っていた煙草の押し付けなど、ヒーローというより最早ならず者に等しい暴れぶりを見せ、かつてナザリック攻略でボスを仕留めたことのある、武人建御雷の『五大明王コンボ』で動きを封じたところへの弐式炎雷の『素戔嗚』での一撃さえ問題なく耐えてみせたが、その振る舞いに「ヒーロー像を汚すな」とキレたたっち・みーが大暴れしたことで本気状態の『ファイアーバードフォーム』に移行した末、一騎打ちで激戦の果てに撃破。
しかしこれで終わりかと思いきや、続いて姿を現したのは、全身を金属で覆った蛇のような竜、『メタルシードラモン』。本来上限がLv100の『ユグドラシル』ならあり得ないLv300はその場にいた者を驚愕させるには十分だったが、周囲から傭兵NPC達が姿を消していたこともあって、何とか仕様に慣れてきたところで戦闘自体は問題なく進んだものの、更に連続して重機を組み合わせたような『ブレイクドラモン』、巨大な2連装砲を背負った『ムゲンドラモン』、機動力に優れた『ダークドラモン』と同じLvの階層守護者級NPCが次々出現し、最後に現れたのは、Lv500の『メギドラモン』。「お前らみんな殺す」のフレーズに嘘偽りなしと言わんばかり続く怒涛の連戦に、この段階で早くも精神的に限界を迎え、マジギレしたプレイヤー達との激戦の傍ら、連戦に疲弊した『アインズ・ウール・ゴウン』の面々は彼らに戦闘を任せ休憩していたのだが、その間に大激闘の末、ようやく出現した次の階層――森林を中心に、砂漠や沼地など多様なフィールドが広がる『自然領域』への転移門が解放されると、ぷにっと萌えの提案で仕様が分かるまではまだ余力と勢いのある他のプレイヤー達に先を任せ、落ち着いて進むことになった。
ナザリックにも森林の階層はあるが、『自然領域』の名に恥じぬ多彩な環境は、ゆっくりと腰を落ち着かせることができる時間と、どのようなモンスターが現れても対処可能な装備があれば、森林浴を始めとした観光気分で眺めることもできただろう。しかしサービス終了間近の状態では早急な突破が優先事項であり、暢気に周囲を巡っている余裕などない。
『暁の君臨者』もそれを理解してか、転移門付近にお手本よろしくギミック担当のモンスター――自動車よりも大型のカブトムシやクワガタムシが何体か配備されており、Lv100~140を2体、160~180を1体と順に強くなっていくムシ達を倒していき、最後に現れるLv200を6体――つまり前哨戦含め24回の連戦を勝ち抜けば、階層守護者が出現すると解説まで入れてくるが、先のサンレッドからの連戦をこなした大半のプレイヤーからは、『市街領域』での有様から辿り着けまいと認識した挑発のように感じられたのは、ある意味仕方ないことであろう。
そして様々なモンスターの横槍をいなし続けた末、ギミックボスとでも呼ぶべき6体――『アクティオンゾウカブト』、『ギラファノコギリクワガタ』、『ヘルクレスオオカブト』、『タランドゥスツヤクワガタ』、『マンディブラリスフタマタクワガタ』、『ヘルクレスリッキーブルー』が倒され、最後に出現したのは、メギドラモン同様Lv500の『ヘルクレスエクアトリアヌスブルー』。容姿こそウルベルトに「使いまわし」と称されるように、ギミックボスのヘルクレス2体と大差ないが、メギドラモン程ではないもののその火力、HP共に圧倒的であり、相手の攻撃を避けて上下2本の角で掴み上げ、槍投げのごとく助走をつけて一気に投げ飛ばす必殺技『ジャベリン』で多くのプレイヤーが頭から地面に突き刺さる間抜けな姿――誰が呼んだか通称『スケキヨ』を披露する羽目となった。
そうして十分な休憩と観察を経た『アインズ・ウール・ゴウン』の面々がとった戦法は、まず獣王メコン川がフェイント攻撃をだし、エクアトリアヌスブルーがカウンターで『ジャベリン』を出す態勢に入ったところでぶくぶく茶釜が割り込んで妨害し、その隙にやまいこが吹き飛ばし効果を持つ巨大なガントレットで横から殴打。大きく体を仰け反らせて動きを止めたところに、武人建御雷の『五大明王コンボ』で動きを封じ、総員で袋叩きという、シンプルながら極めて確実な一手。
結果見事エクアトリアヌスブルーの撃破に成功し、現在いる荒廃した都市やその跡地に等しい砂漠地帯が主体の『傭兵領域』に到達。ここからはメンバー各員が階層守護者を担当するそうで、最初に到達したギルドが撃破ボーナスを獲得できるとあって、各ギルドが必死で探索しているのだが、その都度所属NPCに該当するACや、妨害ギミックポジションの巨大兵器が行く手を阻むように姿を現し、段々と戦力を分断している。
そして現在、胸部のレーザーキャノン以外の武装を破壊され、沈黙したTypeD No.5を前に、たっち・みー達が他のグループに伝言で状況を報告し合っている頃、最前線と言える巨大人工浮島でも、難敵とも言える巨大軍艦――St ELMOをぶくぶく茶釜達が撃破していた。
「いや~なんかもうこれだけでも達成感凄いですよね。いっそ切り上げてナザリックに帰っちゃいましょうか?」
「勝手に終わらすなバカ。むしろ連中の話じゃ全部で7ステージあるそうだから、ここをクリアしてもまだ半分も進んでねえだろうが」
早急に取り巻きを全滅させたペロロンチーノと死獣天朱雀の支援で各所の武装を破壊し、最後に残った後方から発射しようとした巨大ミサイルを発射口諸共潰して撃沈に成功したのだが、その戦果に浮かれ本来の目的を忘れたペロロンチーノが、獣王メコン川に小突かれる。そしてぶくぶく茶釜達が取り仕切り、次の行動を決める。
「はいはい、さっきたっちさん達も向こうの方でボス撃破したそうだから、合流次第一緒にモモンガさん達こっち来るの待ってようね~。っても最前線だけあって簡単には休ませてくれなそうだけど……」
気を緩ませたペロロンチーノに代わり、探知スキルを持つシャドウ・ウィドゥのおかげで事前に接近を察していたのだが、監視塔らしき一際高い建物の上から、こちらを窺っているACに目を向けると、向こうも戦闘態勢に入る。
『最初から勝つとは思っていなかったが……腕1本でも道連れにすればいいものを!役立たず共が!!貴様も!企業の連中も!!私の邪魔をするものは、皆死ねばいい!!』
一方的な言いがかりと共に大型狙撃砲での狙撃を決めてくるが、ぶくぶく茶釜のヘイト管理と防御であしらわれているうちにペロロンチーノのカウンター狙撃を受け、大型狙撃砲を捨てて移動と共にレーザーライフルとスナイパーライフルでの反撃に転ずると、意外と身軽な身のこなしで翻弄していくが、それから間もなく駆け付けたウィッシュⅢとタブラ・スマラグディナの焼夷で動きを封じられ、片手剣と盾のたっち・みーと長槍のメグ夫婦のコンビネーションに両腕ごと武器を破壊されると、続く新手の発言が遠く離れたはずの彼等にも届く。
『隊長~仲間はずれはよくないなぁ、オレも入れてくれないとぉ』
『主任!?貴様、何をする気だ!』
『いやいや、ちょっとお手伝いをね!』
しかし直後放たれた『主任』からと思わしき攻撃は、それまで戦っていた『隊長』に炸裂する。動きを止め、爆発する機体から最後に聞こえたのは、先程と打って変わり弱弱しい、まるで怯えたような問いかけ。
『主任……貴様は……貴様等……何者だ……』
「うっそー……ここで同士撃ち?」
「おそらくは演出なんだろうけど、より正確には協力していた第3勢力の離反と言ったところかな。しかし今の攻撃、どうやら核爆発に近い効果のようだ。範囲は狭い分距離が大幅に伸びているから、ペロロン君なら習得できそうな気もするね」
ぶくぶく茶釜が予想外の展開に思わず驚愕の感情アイコンを浮かべて呆然とする横で、死獣天朱雀は冷静に状況と先程の攻撃を分析し、その結果を伝える。その中で話題に挙がったペロロンチーノだが、今の攻撃を見て「いやいやいや」とストップをかける。
「できなくはないかもしれないけど、リスク大きそうじゃありません?それこそなんかの間違いで姉ちゃんああなったら今度は現実で俺の番ですよ?」
「まああの攻撃についてはともかく、そろそろこっちも狙ってきそうですよ。どうやらさっきの『主任』とやらのとこまで行けばいいみたいなんで、あれを避けながらだと難しそうな私とメコンさん、朱雀さん、ウィドゥさん、タブラさんはなるべく大きな建物の影に避難して、やまいこさんは引き続き『不完全な状態で』皆の回復を。残りのたっちさん達には申し訳ないんですが、各自分散して、到達次第攻撃でお願いします」
燃え尽きぬ『隊長』の残骸を見て話すペロロンチーノの仮定にぶくぶく茶釜が何か言いそうだったが、「来いよここまで!お前にその力があるなら!」と『主任』が挑発しながら攻撃準備をしてきたため、これ以上時間を無駄にできそうにないと判断したぷにっと萌えが仲裁に入り、自身を始め機動力の低い獣王メコン川とタブラ・スマラグディナ、あまり無理をさせたくない死獣天朱雀をやまいこに任せ、他のメンバーに攻略方法を伝える。
「わかりました。では、手早く片付けてきます」
「多分モモンガさん達が来るよりは早く片付くと思いますが、念のため伝えといてくださいね」
「接近は苦手だけど、機動力での翻弄なら姉ちゃんよりもうまいと思いますんで、そこは任せてください」
「言うじゃない。だけど、防御役だって攻撃できること、教えてあげなくちゃね」
言うが早くたっち・みー、メグ、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノはぷにっと萌えの指示通り散開。『主任』が放つ青白い光の砲弾を回避しながら接近していき、やがて沖合の古びた石油プラントの上にその姿――機動力に富んだ『隊長』に対し、防御を重視したような丸みを帯びた鈍重そうなACを確認したペロロンチーノが牽制を放つが、特に動じた様子はない。
『残念だけど、オレたちには味方なんていないんだ。そう、いないんだよ……味方も、そして、敵もね……愛してるんだぁ君たちをぉ!ハハハァッ!!』
「なんだ急に叫びやがって!ビックリしたなぁ!こちとらアンタみたいなオッサンに好かれたって欠片も嬉しかねえんだよ!」
『アハハハハッ!!いーいじゃあん!盛り上がってきたねぇ!』
最初に到達したため、1番近くで聞く羽目になったペロロンチーノのクレームを一切気にせず、そのまま次弾発射準備に入る『主任』だが、遅れて現れたたっち・みーが発光する巨大銃の銃身を切り、続けてメグの突きで串刺しにされ、最後にぶくぶく茶釜の盾突きで跳ね飛ばされた『主任』は、勢いのままあちこちにぶつかりながら落ちる寸前で止まり、動かなくなる。これで撃破かと思った4人の耳に入ってきたのは、唐突な新手の通信。
『なるほど、それなりの力はあるようですね。認めましょう、貴方の力を。今この瞬間から、貴方は我々の敵。この世界から、消え去るべき敵です』
謎の女性からの一方的な宣告の後、爆発の衝撃で高笑いと共に眼下の海に姿を消す『主任』。何とかクリアはしたものの、撃破した4人、そしてその様子を伝言で聞いたぷにっと萌えの脳裏には、新たな不安と鬱陶しさが陰りとなって、しばらく留まることとなった。