今は大分落ち着いたんですが、もう体調と天気で予定滅茶苦茶になってから出かけるのも億劫になってきて、変な鬱憤が溜まってきた感じが……
「ウルベルトさんって、あんな禍々しい感じの好きじゃありません?」
「だから単騎で相手しろって?願い下げだよ」
空を見上げてぼそりと漏らすたっち・みーに対し、即刻ノーを突き付けるウルベルト。全盛期ならここから言い争いに発展したものだったが、現在は状況がそれどころではないため、たっち・みーも「いえ、そこまでは……」と濁しただけで、それ以上ウルベルトに余計なことをいう様子はない。
『主任』を撃破した後にモモンガ達と合流し、メンバーが揃った『アインズ・ウール・ゴウン』の面々が、眼球を思わせる球状の本体から複数の触手を伸ばす兵器――『AMMON』を始めとする各種兵器を払い除けながら進んだ先に着いたのは、すぐ後ろの炎上崩壊する市街地から一転して広がる、荒れ果てた大地。先に何があるのかも分からないが、それ以上に今不安を煽るのは、相変わらず
その機体から聞こえるのは、先程撃破した後に通った地下通路で再度出現し、再度倒したと思った矢先、今度は胸の大穴を始め各所破損した状態で倒壊した柱から引き抜いた鉄骨を右腕にまとわせ、殴りかかってきたところを再度撃破したはずの『主任』の声だが、先程までの鬱陶しいほどに扇情的な様子から一転し、今は不気味なほど落ち着き、まるで見定めるような発言をしてくる。
「しかし『戦いこそが人間の可能性』とは、かなり歪な考え方だな……」
「抗わなければ何も変わらないって意味なら、まさに
『証明して見せよう。貴様になら、それが出来る筈だ』
『主任』らしき対峙者の出した結論――『戦いこそが人間の可能性』と語るその思考を歪と評する死獣天朱雀に対し、ベルリバーは複雑な様子でネガティブな意見を出すが、他のメンバーが論争に混ざる前に、戦闘準備を済ませた『主任』が翼を光らせながら突撃を繰り出す。
「『
とっさにモモンガが
「何つー威力だ!あれじゃ茶釜さんでも防ぎきれんぞ!」
『アインズ・ウール・ゴウン』最強の
それを可能な限り強化したはずなのに、まるで豆腐に正拳突きでも打ち込んだかの如く一瞬で粉砕された様子に、思わず声を荒げたのは獣王メコン川だけだったが、誰もが同様に驚愕し、その意見に共感した。
実質
合流まで時間がかかるだけでなく、引き続き連続での戦闘が想定される以上、ここでメンバー最強の
「食らいやがれえぇッ!!」
「『
グランディス・ブラックがEXUSIAの無防備な背中に獣王メコン川の
「さっきもそうでしたけど、魔法より打撃のが効果的みたいです!ただ柱ぶん回してた時と違ってビルぶち抜いたりまではしないみたいなんで、引き続き可能な限りタゲ取してますから、近接職のたっちさん達は一緒に攻撃参加して、魔法職のモモさん達は物陰から援護に徹してください!」
「わかりましたー!無理しないでくださいねー!」
瞬時にグランディス・ブラックが判明した情報を周囲に伝えると同時に指示を飛ばし、それにモモンガが返事をしながらウルベルトや
そうして何度も攻撃していくうち、遂に右の翼から爆発が起き、EXUSIAの動きが止まる。そうなれば最早こちらのものと言わんばかりに、それまで攻撃の激しさと機動力の高さから、戦闘に参加できなかった弐式炎雷と武人建御雷、初撃以来なかなかチャンスがなかった獣王メコン川も攻撃に加われば、間もなくなす術なく叩かれ続けたEXUSIAも力尽き、爆発を繰り返した末に跡形もなく消滅した。
「やっと終わったか……にしてもいくら
「全くだな。確か始まったのが昼の1時で、今……もうすぐ3時半か。早いんだか遅いんだかわからんし、警告も出てないからまだ大丈夫だと思うが、そろそろいったんナノマシーン注入した方がいいんじゃないか?」
「ですね。にしても弾代かかるからあんま使ってなかったけど、あんなん出てくるんだったらグレートランチャーやダブルガトリングガンも装備してくればよかったかな……」
装備の選別を後悔するグランディス・ブラックを放置して、弐式炎雷と武人建御雷が気にしだしたのは、『ユグドラシル』へのネットワーク接続を行うために必要なナノマシーンの残量。ナノマシーンは新陳代謝に伴い徐々に体外へ排出されていき、脳内の濃度が15%以下にまで低下するとネットワークに接続不能となり、強制的にログアウトされてしまうため、その前に無痛注射器で注入する必要がある。
『
「今んとこマズい人はいなそうですけど、さすがにこの調子じゃもちませんでしょうね。装備の方も余裕があるうちに何とかしときたいですが、そのためにわざわざ一回死ぬってのも……」
撃破を確認して、新たな敵が出現する様子もないことから、安全と判断して戻ってきたモモンガも同意する。仕様が分からない以上迂闊な行動がとれないため、果たしてどうすれば正解なのか。下手にログアウトしたら、そのまま締め出されるなんて事態も、ないとは言い切れない。などと悩んでいる『アインズ・ウール・ゴウン』のメンバーの耳に、「ピンポンパンポーン」と唐突な電子音が届く。先程『自然領域』にて、『
『只今3時半から4時までの30分、ナノマシーン補充等のための休憩時間とするわ。その間戦闘は発生しないし、ログアウトしても現在地から再スタートできるから、安心して離席なさい。それと、現時点で攻略最深部の『傭兵領域』にいるプレイヤー達は、4時になったら特別ボーナスとして、その場で装備の損傷含むダメージを全快状態にしてあげる。ただし、その時点でログインしてないとすっぽかされるから、遅れず戻ってくること。それじゃ、引き続き頑張ってね~』
『天の声』とでも呼ぶべきか、『
「まるで時間停止だなこりゃ。とりあえず、今のうちにログアウトしちゃいましょうか」
「そうですね。それじゃあ各員休憩して、今後の戦いに備えましょうか」
「さんせー、んじゃまた後程な」
おそらく
「いやー2時間半もかけて半分も終わってないとか、向こうは大激戦みたいだね……」
既に
ナザリック地下大墳墓の第六階層、『大森林』でも一際大きい――というよりも太いと表現した方が適切そうな巨大樹のふもとにて、覆面で顔を隠し、人型のカニを背負ったようにも見える姿をしているのは、『アインズ・ウール・ゴウン』の鍛冶師、あまのまひとつ。
かつて『ナインズ・オウン・ゴール』結成からしばらくは、自己防衛のためにある程度戦闘可能なビルドを組んでいたが、メンバーが充実し、この
その時の影響か、再登録の際も似たような
「俺としてはあちらさんが作った『自然領域』が気になってきちゃいましたよ。ここもここで悪くないし、力作とあって思い出も豊富で感慨深いけど、あっちもあっちで様々な自然環境が詰め込まれたって聞いたら、どうしてもね……同行しなかったのは失敗だったかな……」
それに返事をするのは、彼の付近に並ぶ、幼げな2人の
頭上に広がる星空を始め、
悩むブルー・プラネットを見て苦笑するあまのまひとつだったが、新たな来訪者の声を聴き、そちらに向き直る。
「お2人さんお待たせー。ペス達連れてきたよー」
「おー、ありがとうございます。しかしあけみちゃんからも可愛いって好評でしたけど、ユカリちゃんも初対面だったのに相当懐いてましたっけねぇ。やっぱりその姿って、女の子にはウケがいいんでしょうかね?」
複数人のメイドを引き連れ先頭を歩くのは、腹部や手足の先は白く、首元にブロンドも混じってはいる他は、ほぼ全身を灰色のフワフワした毛に包んだ垂れ耳のウサギに似るが、右耳の根元にはタンポポの花でできた小さな花輪が飾られ、然程広くない額には、その種族――カーバンクルの象徴ともいうべき赤い
彼女の名は餡ころもっちもち。かつて性別を偽っていたタブラを含めても『アインズ・ウール・ゴウン』には7人しかいない女性メンバーの1人で、以前はぶくぶく茶釜ややまいこ、時折その妹のあけみもまじえて「女子会」を楽しんでいたのだが、今回はどちらも『
餡ころもっちもちが
「こんな席に呼ばれるなんて、ちょっと自分でも違和感湧いちゃったりするんですが、今更ながら『ユグドラシル』としてはこうした楽しみ方もアリなんでしょうね」
「待ってる間にブルー・プラネットさんから聞いた話じゃ、昔はそうでもなかったみたいですけど、こうして森林浴しながらお茶を飲むなんて、
背負ったカニ部分から伸びるハサミで、器用に持ち手をつまんだティーカップを、覆面で隠れた顔に持っていくあまのまひとつ。彼は現役時代、鍛冶作業の前にゲン担ぎとして、
過去にメンバー同士集まって、オフ会を開いたこともあったが、その時の会計だって割り勘などしようものなら、モモンガやウルベルトのような貧困層に属する者は足が出るどころでなくなるため、たっち・みーややまいこのような経済的に余裕のあるメンバーがある程度負担しなければ、碌な店を選べなかったのだから、規制の関係で味覚などは感じれないものの、ゲーム内でもこうして口にできるだけで、2人が幸福を感じるのも無理はない話だろう。
「正直言っちゃうと、私も
語尾を伸ばす、独特な緩さを感じさせるしゃべり方をする餡ころもっちもちだが、彼女もまた貧困とまではいかないものの、かといってお世辞にも富裕とまでは言えない身。なのでペストーニャの
「なんか折角のお茶会なのに暗い感じになってきちゃったな……っても
空気を察して何とかブルー・プラネットが話題の変換を考えていると、タイミングよく電子音が鳴り、虚空に新たな訪問者が現れたと表示される。
訪問者の名はホワイトブリム。餡ころもっちもちがペストーニャと共に連れきた数人を始め、かつての仲間と同じく41人いるメイド達のデザインを担当したイラストレーターで、『ガチを通り越して最早病気』と評される程にメイド服への入れ込みぶりを持つ人物だった。
「おぉホワイトブリムさんお久しぶりです!今餡ころもっちもちさんと第六階層の巨大樹付近でお茶会してるとこなんですが、よろしければ一緒にどうですか?」
『どうもお久です~。おぉ、いいですね!じゃあ復帰した際モモンガさんから『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』返してもらってるんで、今行きますね』
その姿はブルー・プラネットと同様に、腕の役割をする木の枝が焦げ茶のコートの裾から覗き、同じ色の帽子と、深緑のマフラーに包まれた顔は、目や鼻が木炭の
「ほぉほぉ、インクリメントとエトワルに、デクリメント、フィースが一緒だったか……っと、失礼失礼。改めて皆さんお久です」
「えーっと……あ、本当だー。全部当たってる」
「さすがホワイトブリムさん。ってか、41人もいてよく覚えてられましたね……」
ホワイトブリムが「生みの親なら当然」とばかりに、着いて早々その場にいたメイド達を一目見ただけで名前を当てる。その姿に驚く仲間達に改めて挨拶をするが、連れてきた餡ころもっちもちが
「そりゃあ今でもパソコンの
ホワイトブリムは現在漫画家をしており、メイドを主人公とするその作品に、度々『
ついでに説明すると、彼が名を挙げた『プレアデス』は、ペストーニャを含むこの場にいるメイド達とは違い、戦闘を担当する特別な6人のメイド達のことであり、普段は別行動となっている7人目の末妹が加わることで、『プレイアデス』と呼び名を変える。セバスことセバス・チャンはその指揮をする執事で、この場にいないたっち・みーが作り出している。
「ああ、たっちさんとやまいこさんと、メコンさんと弐式さんは
「うっわ、それは参ったなぁ……ヘロヘロさんにはク・ドゥ・グラースさんと合わせて連絡とって、許可もらった際に『よかったらソリュシャンも出してやってください』って言われたけど、折角だし、この子達にお別れする余裕くらいあってほしいんだけど、厳しそうだなぁ……」
ブルー・プラネットが名前を呼んだメンバーのうち、ホワイトブリムが反応したヘロヘロは、5人のプログラマー仲間達と共にメイド達の行動AIを作り上げた人物。度重なる激務で以前から何かと健康面に不安がある旨を語っており、「健康診断がレッドすぎて逆にグリーン」などとジョークを飛ばして、笑うよりも先に心配されたこともある。話の様子から、確認できる限りでは幸い存命はしているようだが、今の時世的に、何かの拍子で体調を崩して、そのまま世を去ってしまうことも多々あるため、心配は尽きない。
もう1人のク・ドゥ・グラースは、ホワイトブリムが描き起こしたイラストを元に、NPCとしてネット世界に生み出した
「うーん話題がどんどん暗く……どうすりゃいいのかなぁ……」
せっかく新しくホワイトブリムが加わったのに、話は弾まずむしろ余計に重くなるばかり。
ほんとは休憩明けから次の話でステージボスまで進めてく予定だったけど、軽い気持ちで場面転換に入れたナザリック側が予想外に進行で悩んだ結果こうなった。
ちなみに餡ころもっちもちさんのアバターモデルは自分が昔飼ってたウサギです(オスでしたが)
以下蛇足気味なネタバレ
ここだけの話、今まで登場&名前出たメンバー全員転移します