至高の夢は終わらない   作:ゲオザーグ

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黒幕たちの幕間

 N-WGIX/vが倒される少し前、『私情領域(プライベートエリア)』の円卓では、中央で輝く3Dディスプレイに、リアルタイムで映し出される『アインズ・ウール・ゴウン』との戦況を、遅れて合流した仲間達(メンバー)も交えて、眺めていた。

 

「人数としては非戦闘員も含めた全盛期の半分もいないと言え、ここまで駆け付けた『アインズ・ウール・ゴウン』の面々もすごいけど、それをたった1人でこうも捌ける『死神』さんも流石の腕前だよ。『暁の君臨者(うち)』で1番のPvP経験者なだけはあるな」

 

「あまり気分のいい話じゃないけど、『ユグドラシル』始める前から現実(リアル)でも異名通りのことやってきたらしい、ってだけはあるわね。片方は元でも、世界級職業(ワールドクラス)2人がいるんだもの……」

 

 体調が優れないのか、右腕で頬杖を突いた者が時折酷く咳込むと、右隣に座る仲間が――アバターの都合上表情に変化はないが――心配そうに覗き込む。『姫』もその様子にN-WGIX/v(仲間)の活躍に集中できないようで、ディスプレイの発光に照らし出されたワニのような鋭い牙が並ぶ顔をそちらに向ける。

 

「『武蔵』、ちゃんと薬は飲んだの?出番はまだ先だけど、一応大事とったつもりで本来の倍は処方させたんだから、余裕あるうちにしっかり飲んできなさい」

 

「あぁ、決着を見届けたらそうさせてもらうよ……」

 

 卓上に投げ出した左手を口元に当て、先程よりも大きな咳を何度もする武蔵。アバターこそ見せつけるかの様にはだけた衣装から、健康的な褐色の肌と抜群のプロポーションを誇る肢体を覗かせる彼女だが、現実(リアル)では酸素マスクを装着し、『姫』こと『ビオランテ』のコネで得られた大量の薬で容態を安定させていなければ、満足に呼吸もできない程の重病人で、発育不良で幼いうちに成長の止まった貧相な体は、特注された延命装置がなくては10分も持たない。その苦しみの原因たる汚染された環境と、貧富の格差に対する憎悪と諦観が、皮肉にもビオランテのお眼鏡に適い、満足に体を動かすこともままならない妹を嘆き憐れんだ、隣に座る姉の『大和』と共に、こうして彼女の仲間に迎えられ、最期の時を待って耐えてきた。

 

「おい、そろそろ終わりそうだぞ。HPゲージが赤くなってる」

 

 ビオランテの右側にいる武蔵とは反対側の席から声をかけたのは、現実(リアル)との感覚差を無視し、見栄え重視で規格外のサイズとなったアバターのメンバーでも、一際巨体の『ガルバトロン』。右隣の席で戦況を見つめる、同様に巨体の弟『メガストーム』に加え、左隣で、背後に使役する装備を模した、彼よりは一回りほど小さいと言え、並の人間に比べれば十分に大きいNPCを従えた、足元までありそうな長い黒髪と、黒いワンピースの妻、『戦艦棲姫』と、その膝に座る、母とは対照的な白髪(はくはつ)に同色のワンピース、ミトングローブを着けた娘の『北方棲姫』、同じく左へと順々に並ぶ義妹達――姉とは違い自立性はない、背負い型の装備を後に置いた、姪同様の白髪に、デザインの異なるワンピースを着た『港湾棲姫』と、膝下まで伸びた淡いピンク色髪をツインテールにまとめ、武蔵同様はだけたジャケットの下はビキニ水着で、肘置きに乗せた腰から伸びる装備の上に、重武装の腕を置いた『南方棲鬼』共々加入して以来、メンバー間のスケジュールや予算の管理を担当している。

 

「もうそこまで?やっぱりキャラに釣られた特殊技能(スキル)任せのニワカ共と違って、全盛期からの叩き上げは相手のし甲斐がありそうね」

 

「そうだな。尤も易々負けるつもりはないと言え、荷が重い俺にはどこまでこなせるか分からんが……」

 

 お眼鏡に適わなかった挑戦者達を嘲笑するビオランテに、消極的(ネガティブ)な合いの手を向けるのは、剣と魔法の世界たる『ユグドラシル』においては正統派だろうが、その世界観を無視し、個々が好き勝手やった結果、SF色が強くなった『暁の君臨者(エオ・ラグナンテス・クリプター)』においては逆に異端の容姿ともいえる、中世的な衣装に長髪の男性、『イースレイ』。次に相手をする『妖魔領域』の階層支配者(フロアボス)だが、彼も決して弱い方ではない。しかしN-WGIX/vが今現在見せる奮戦に比べれば、酷く地味で盛り上がりに欠けるだろうことも自覚している。だからこそ少しでも惨めにならぬよう、自らが先陣を切り、最初の階層支配者(フロアボス)を免罪符に印象を薄めようとしていた。

 そうこうしてる間にN-WGIX/vが撃破されるが、すぐさまビオランテのアナウンスに合わせて復活し、戦闘が再開される。それに合わせて、他の区域で未だに復活したNPC達と戦い続けている他のプレイヤーに――アバターでは表情が分からないが――ウンザリした目を向けていたであろう彼女に、武蔵の右奥から声がかかる。

 

「あ~、妙に機嫌が悪いと思ったら、そもそも客足が願望より少なかった上に、エンジョイ勢(そっち)のが多かった感じ?でも正直なところ、それこそ『アインズ・ウール・ゴウン(この人達)』が大暴れした全盛期ならともかく、幾らラストイベントって大々的に銘打っても、ポッと出の『暁の君臨者(うち)』じゃあそもそも集客力に欠けたんじゃない?」

 

 そもそも宣伝や名乗り上げの時期、或いは謳い文句に問題があったのでは、と指摘したのは、大きく開いた胸元を下で結んだジャケットで持ち上げ、タイトスカートから伸びる脚にサイハイソックスを履いた『アイオワ』。かつて集団(クラン)悪党軍団(ヴィランズ)』として水面下で工作していた時代に属しておらず、『古世界からの使者達』開催後に便乗的に参入した者の1人で、そうした意味では閉鎖的なメンバーに対し、ある程度部外者ならではの視点を有している。

 実際彼女が言うように、ビオランテはかつて『ユグドラシル』全盛期、異形種プレイヤーに対し猛威を振るった人間種プレイヤーのPK(プレイヤー・キル)へのカウンターPKで悪名を響かせた『アインズ・ウール・ゴウン』が、拠点(ギルドホーム)の『ナザリック地下大墳墓』に攻め込んだ1500人もの『ナザリック討伐隊』を激戦の末壊滅させた伝説を耳にしており、『ユグドラシル』最後の日にそれを凌駕すべく、倍の3000人以上を見込んでこの1大イベントを企画したが、実際集結したのは『ナザリック討伐隊』の8割程度と、撮らぬ狸とばかりに彼女の見積もりを大きく下回る結果だった。

 おまけに参加を期待した肝心の名を馳せただろう猛者達は、名指しされた『アインズ・ウール・ゴウン』を除けばほとんどがとうに引退したか、最早イベントに食いつくような熱意を失ったようで、参加者の大半は、過去の偉人を模し、『宝具』と呼ばれる特殊技能(スキル)を持つ『英霊(サーヴァント)』、『幽波紋(スタンド)』と呼ばれる特殊技能(スキル)持ちの分身を使役する『幽波紋(スタンド)使い』、単純な能力値(ステータス)だけならそれこそかの世界級職業(ワールドクラス)をも上回る『サイヤ人』、「全盛期に実装されていたら相当つぎ込んだだろう」とたっち・みーやあまのまひとつが苦笑した各種特撮ヒーロー達を始め、『古世界からの使者達』期間中に実装されたガチャで獲得した、多彩な特殊技能(スキル)と専用外装(グラフィック)から人気を博した特殊分類(ジャンル)キャラをNPCとして引き連れたり、自身のアバターに差し替えたりした疑似最強系仕様のまま、軽いノリで便乗したような有様だった。

 その結果、仕事をし過ぎて400人もの脱落者を生み出した、本来なら軽い気持ちで悪乗りした連中への(ふるい)の1つに『豆腐』がいる。

 手足どころか――帽子こそ被っているが――頭に当たる部位もない、人間大の白い柱状の外観は、見るからにネタ感満載の代物で、レベルも職業(クラス)取得分は一通り戦力となる程までは育てているものの、カンスト(100)までは届いておらず、能力値(ステータス)もそれほど高くない。加えて『打撃ダメージ倍増』のマイナス特殊技能(スキル)もあるため、『アインズ・ウール・ゴウン』の面々で挙げるなら、見た目に反し攻撃力の低いやまいこでも数発殴れば撃破できる。しかし挑戦者からしてみればその外観以上にふざけた仕様として、先ほど挙げた4者を始めとする1部特殊分類(ジャンル)キャラに対し、一切ダメージを受けず、なおかつ与えるダメージが10倍になるなんてチートにも等しい特効を有しており、実際とある英霊(サーヴァント)プレイヤーが放った、絶大な威力と同士撃ち(フレンドリーファイア)効果を持つ音響攻撃に対し、一切ダメージを受けず接近し、ナイフの一刺しで撃破してしまった様子は、眺めていた『暁の君臨者(エオ・ラグナンテス・クリプター)』の面々を爆笑させている。

 この他にも宝具の効果で大量の配下NPCを召喚した英霊(サーヴァント)を単体で火炎放射器を振るい焼き尽くした『こんにゃく』、爆弾製作能力持ちの幽波紋(スタンド)に幾度も爆破されながらも煙の中から無傷で現れ、使役者の足元に投げた手榴弾1つで返り討ちにした『ういろう』、インフレのきっかけともいえる『宇宙の帝王』を、その強さと共に印象付けた多段変身を見せる前に拳銃のヘッドショットで仕留めた『杏仁豆腐』、原作(モチーフ)では神の力を借りた悪逆非道の権化の如き英霊(サーヴァント)を、逆にガトリングガンでハチの巣の末ロケットランチャーで粉砕してしまった『プリン』と、同様の見た目と能力値(ステータス)のNPC達が、騙されたプレイヤーや率いるNPCを数多く駆逐している。

 当然そうした補整を有するNPCは他にも多々おり、『市街領域』なら「原作再現」を理由に強化され、階層支配者(フロアボス)ラッシュの先端となったサンレッドは、無数の武器を背後から射出する英霊(サーヴァント)を攻撃前にアッパーカットで瞬殺しているし、『自然領域』では度々職権乱用で空間干渉計能力を発動させていた英霊(サーヴァント)が『アルキデスオオヒラタクワガタ』の特殊技能(スキル)――空間干渉計能力を持つ相手に対する、演出を元にした複数回攻撃を浴びて跳ね飛ばされ、『最強』と称された聖剣から放たれた一切を消し飛ばす巨大な光の奔流を浴びても、掠り傷どころか身を覆うビロード色の体毛が焼けたりハゲたりすることさえなかった『エレファスゾウカブト』はその英霊(サーヴァント)を掬い上げた後再度かち上げて一気に上空から叩きつけ、一定時間内の不都合な事象を除去できるはずの幽波紋(スタンド)は、攻撃不発の改変を無視した『グランディスオオクワガタ』の大牙に使役者共々抱擁され、反復横跳びの末、前転しながら放物線を描いて頭から地面に刺さり、著名な冒険者ではなく、その裏に隠れた略奪者として呼び出された英霊(サーヴァント)が呼びだした巨大船も、求めた財宝を思わせる黄金(こがね)に輝く甲殻の『オウゴンオニクワガタ』が放つ連続突きで、10秒と経たず使役者以下乗員の肉片と混ざりあった瓦礫に代わり、時を止める能力を持つ幽波紋(スタンド)使いは、『アクティオンゾウカブト』に発動後ラッシュを仕掛けようとしたところで、幽波紋(スタンド)諸共突き飛ばしからの押し潰し(プレス)でグチャグチャに潰れながら地面に埋まり、反射するものに次々と飛び移れる性質を持つはずの幽波紋(スタンド)は、何の因果か『タランドゥスツヤクワガタ』の全身を覆う光沢に拒まれるように跳ね返され、連続突進のコンボで星となった。

 更にメガストームが少し前に名を挙げた『レクシィ』や『インドミナス』は、魔法攻撃を有さない代わりに、『ワールド・ディザスター』が相手でも魔法攻撃が効かない特殊技能(スキル)を持ち、仮に後悔する前に宣言を無視してけしかけようものなら、『アインズ・ウール・ゴウン』の面々でももう数回黒星が追加されただろう。

 アイオワにしてみれば、幾ら圧倒的に相手方のパワーバランスが上回っていたとしても、こうした露骨な補正に嫌気がさしたプレイヤーは、延々とGMコールでクレームをぶつけてくる奴も多い。それこそこちらの意思など気にも留めず、「今まで通りのクソ運営&製作」とその場で匙を投げて諦めるならまだマシな方と言える。

 

「何?全盛期はもっと理不尽なボスだってワンサカいたんだから、プレイヤースキルでどうにかなるくらいな状況で、キャラに頼り切りなヘタレが音を上げる方がおかしいのよ。むしろ恵まれた能力値(ステータス)特殊技能(スキル)からその後のこれに何かしら対策がされてることを考えてない連中なんて、ハナっから願い下げ。つまらない意地で居座り続けるような奴も、この後消滅するって思うと、幾分留飲も下がるわ」

 

 理不尽の原因たるアバターの外装(グラフィック)操作画面(コンソール)で容易に解除できることに加え、NPCの索敵能力はそこまで高くないため、素直に物陰に隠れるか、最悪『原祖女悪魔の祝福(マトリクス・リリス)』の効果で復活(リスポーン)を待ってる間に大人しく解除して挑み直せば、後は人数次第で数の暴力に持ち込んでも十分撃破は可能となっているし、実際『市街領域』での階層支配者(フロアボス)ラッシュや、『自然領域』における甲虫達との連戦が突破されたことで、それが証明されている。ビオランテにしてみれば、わざわざそれを無視してケチをつけながら居座り続けられるより、サービス終了を前に復帰者たちで繁盛しているであろう都市で通り魔的に目に付いたプレイヤーを狙うなり、仲間と拠点(ギルドホーム)に戻るなりでもしてPvPに(いそし)しんでもらった方が、遥かに有意義だと認識している。

 

「ねぇ、今気づいたんだけど、『武道』さんは?さっき見た時は並んで席に着いてたからログインしてるみたいだけど……」

 

「あぁ、あの人なら一足先に『妖魔領域』に行ってるよ。『瞑想でもして待ってる』ってさ」

 

 ふと大和がこの場に1人いない仲間のことを尋ねると、共同で迎え撃つ予定のイースレイが答える。現在現実(リアル)の彼等がいるのはビオランテが完全環境都市(アーコロジー)の一角に用意した専用の別荘で、ここで共同生活を営みながら、自室や居間などの各所で『ユグドラシル』に勤んでいる。件の『武道』こと『ザ・マン』は、特定の領域(フロア)を有さず、遊撃支配者(ランダムエンカウントボス)として各所を好きに移動できる身だが、彼の領域に間借りする形で設置物(オブジェクト)やNPCを配置しているためか、基本そこに身を置くことを好んでいる。先程大和は武蔵の介抱を終え、取り換えた消耗品などを片付ける途中で、彼がここにいたメンバーと共に居間で接続(ログイン)していた姿を目撃していた。

 

「おぉ、ついに決着がついたか。敗れることが前提の身と言え、少し物悲しくもなるな」

 

「そうね。いっそのこと昔あった映画みたいに、この仮想空間を現実に生涯を過ごしたかったわ……」

 

 再度撃破されたN-WGIX/vの姿にアナウンスを入れるビオランテを横目に、イースレイが早々に席を立つ。

 

「さて、それじゃあ軽くやられてくるよ。せいぜい悪足掻きを楽しんでくれ」

 

「開き直るにしても自虐し過ぎよ。あまり卑下されたらこっちまで大変になるんだから」

 

 港湾棲姫の呆れ声を背に、自分の領域(フロア)へと向かった

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