至高の夢は終わらない   作:ゲオザーグ

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第7話

 環境汚染が深刻な現実(リアル)では、経済的な由来から大規模な身分格差が当然となっており、とりわけ貧困層では僅かな物資や生活区域を巡って頻繁に衝突が起き、その(かたわ)らで飢餓や汚染に怯えながら生きるのが当然だった。だから偶々抗争に巻き込まれてしまった時も、「運がなかった」程度にしか認識せず、そのまま終わるのを待つだけのはずが、何の因果か完全環境都市(アーコロジー)支配者のトップクラスに属する令嬢が全く無縁な――むしろ危険すぎてまず足を踏み入れようなどとは考えない――はずのスラムを訪れ、面白半分に拾われた――それも理由を聞けば『心中仲間を探していた』などとのたまう――のだから、それを「酔狂」と断じる前に「人生何が起こるか分かったものじゃない」と思ってしまうのも無理はない。

 

『ここで一人寂しくってのを邪魔するようで悪いけど、どうせ死ぬんならもう少し楽しまない?そのための猶予と予算は当然用意するわ』

 

 そうして用意された先で待っていたのは、それまで無縁だった数多(あまた)のサブカルチャー作品の数々。たった1作のDMMO-RPGのために用意されたそれは、データでなければどれほどの空間(スペース)を占拠することかと思う程に膨大だった。

 

『折角分身(アバター)にするんなら、細かいところまでこだわりたいの。自分の体の延長戦、わかりやすく例えるなら、労働者達が着けてる人工心肺みたいなものだろうけど、それこそ全身を覆うパワードスーツにしちゃえば大分安心感が違うでしょ?』

 

 そう言ってまだ分身(アバター)を用意していないのに招いた電子空間で、指の1本ごとに対応させた分身(アバター)の触手を躍らせる彼女の姿に――表情は変わらずに――苦笑する仲間を見て、よく言えば腹を括った――実際のところは「色々諦めた」に近いが――のもいい思い出になっている。

 

 

 

 

 

 

 すでに金属を思わせる巨躯は限界を迎え、細部が徐々に砕けていき、対峙する『アインズ・ウール・ゴウン』の面々を苦戦させてきた再生能力は機能していない。最早形態(フォルム)を維持するのが精一杯の身でありながらも、イースレイはなお立ち向かっていた。

 

「さっきのもそうだったけど、やっぱコイツ等のタフさは異常だわ。能力値(ステ)に何か細工してんじゃね?」

 

 いくら相手が運営権限を持つ半公式のボスで、『ワールド・ディザスター』の自身が後のことを考えて温存されていると言え、通常ならここまで苦戦することは考えられないとウルベルトが攻撃しながら漏らすが、イースレイはその場で大剣(クレイモア)に変えた右腕で受け流し、隠れて迫る弐式炎雷を相手に鍔迫り合いに持ち込もうとするも、後方へと跳ね飛ばされたように飛び退く。

 

「スポンサー特権って奴か?確かにありそうっちゃありそうだよな、わざわざ終了に合わせてこんな大規模拠点(ギルドホーム)用意してイベント開催するくらいだし」

 

「確かに大分強化(ブースト)かかってるな。正確には苦手、不要分野を切り捨てて、その分を得意分野に割り当てた上で倍率を上げてる感じだ。俺や『黒』さんだったら攻撃魔法を完全に捨てて、その分を防御や機動、攻撃に振ってるみたいにな」

 

 様子を窺いながら話に乗った弐式炎雷に答えるイースレイだが、左前脚の欠けた下半身は最早動くこともままならないようで、その場に留まったままで、直後背後から迫るグランディス・ブラック、紅白鰐合戦、ブルー・インパルスの攻撃も、無理矢理上半身を捻って受け止めた左腕がバラバラに砕け散る。それが決定打となったようで、伝搬するように砕けていき、遂には口のない頭部だけが残る。

 

「尤も流石にここまでみたいだが、な。まぁ自画自賛だが、相応に相手できただろうと思っておくよ……」

 

 やがてそれもボロボロに崩れていき消滅すると、次の階層(フロア)に進む新たな転移門(ゲート)が出現する。それを見た『アインズ・ウール・ゴウン』の面々は「やっと終わったか」と安堵するが、直後轟音が響き渡り、発生源を向くと未だリングの上で戦っていた武人建御雷とストロング・ザ・武道が向かい合う形でロープに寄りかかっている。先程の轟音は2人が激突して生じたようだが同時にタイムの合図にもなっていたらしい。

 

「イースレイがやられたか。ならば私の出番もここまでだな。当人も言っていたが、お前ら複数人を相手に良く立ち回ったよ」

 

「よくやったな、お疲れさん。ってもこっちはまだかかりそうだけどな」

 

「なんだまだやる気か?すでにイースレイは倒れて転移門(ゲート)も出現してるんだ。余計な消耗はするべきじゃないだろ」

 

 宣言通り先に進ませるつもりの武道に対し、武人建御雷はまだ終わるつもりではないようで、ロープに体を押し付け下がっていく。

 

「そりゃそうなんだろうけどよ、ここで終わっちゃアンタも不完全燃焼だろ?だから折角だし、これで決着を決めようぜ」

 

「……ふ、いいだろう。だがここで負けても文句は言うなよ?」

 

 やがて武道も提案に乗り、同様に下がって勢いをつけていく。

 

「これで終わりだ!『喧嘩(クォーラル)ボンバー』!」

 

「ぜりゃああぁぁぁ!!」

 

 そして両者がロープの反動で直進しすれ違う瞬間、先程とは比べ物にならない音と衝撃が周囲を包み、しばしの沈黙が訪れる。

 

 

 

 

 

『期限はあるけど、そこまでなら好きなだけ追求できる場を用意してあげる。あなたもこの世界に満足してないんでしょ?私もなの。だから最後は派手に決めようって、あなたみたいなのを集めてるの』

 

 元々は些細な興味から始めた武術の追求だったが、いつしか本格的なものになっていき、様々な文献や映像に目を通していく中、壁に当たってしまう。今現在普及しているのは、いつしか金持ちの道楽に成り果てた、動きにキレも技術もない、さながら「紛い物」とでも呼ぶべき様な陳腐過ぎる有様の物で、到底期待も納得も出来なかった。

 だからこそ『彼女』が示した破滅への片道切符は、非常に魅了的に感じたのだろうと、今でも思う。

 

 

 

 

 

 

 ピシリ、と何かが割れる様な音がすると、武道に身を包む道着にひびが広がり、やがて砕け散るとともに本来の姿――ギリシャ神話の神像を思わせる風貌をしたザ・マンが現れ、リングに倒れ込むとともにどこからかゴングの音が鳴り響き、試合の終了を告げた。

 

「見事だ、武人建御雷……最後にお前ほどの猛者と戦えて……感謝する、ぞ……」

 

「こっちこそアンタとの大勝負、楽しかったぜ」

 

 表情が変化したならば、おそらく笑顔で交わしたろうやり取りが終わるとともに、ザ・マンが消滅し、これでこの階層(フロア)も完全制圧したと言えるだろう。

 

「すまんなモモンガさん、勝手な真似しちまって」

 

「いえいえ。さすがに無事とは言えませんが、こうしてお互い勝利できたんですし、あのまま不完全燃焼にしない方が後腐れなかったでしょうから、よしとしますよ」

 

 「おかげで大苦戦したけどな」とヤジが飛ばされたが、結果としてはボス担当者を2人撃破できたのだから、充分と言えよう。

 次の階層(フロア)への不安は拭い切れないが、改めて腹を括った『アインズ・ウール・ゴウン』のメンバー達は、更に足を進めていく。




()できれば年内に転移まで行きたかったけど、結局全然進まねぇ・・・

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