暁の異世界奇譚   作:近藤ロン
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第79話 破られた約束

太陽はいつの間にか西へ傾き、夕方が近づいていた。

ウロクが決闘を放棄したという話は、瞬く間に住民達の間に広がり、混乱を引き起こしていた。

私もグレイベルも、別に誰にも話していないのだが、おそらく誰かが逃走の様子を見ていたのだろう。

私が予想していなかったのは、住人の一部がグレイベルを責める態度を見せたことだった。

 

「あんた、我々を守ってくれるって約束したじゃねーか!」

「約束を破られたってことは、今にも霊獣が攻めてくるんじゃないの!?」

「俺達はどうすればいいんだよ!」

 

随分と勝手な言い様だ。

しかし、約束事によって守られるはずだったのに、突然それが破られる不安というのは私にも理解できる。

 

“俺は父親を演じるのが嫌になった”

 

中学の時、家を出ていく際に父が私に言った言葉が蘇る。

 

“じゃあ、どうして父親になったの?”

 

私の言葉に帰ってきたのは父の拳だった。

しかし、これは子供にとって当然の疑問だ。

一生、父親になるという覚悟もなく、なぜ父親になったのか。

なぜ、守れない約束事をしたのか。

それに比べれば、グレイベルの場合は約束を破ったことにはならない。

 

「みんな、待ってくれ。敵は勝手に決闘の約束を破ったんだ。この人に落ち度はない」

 

私はつい、我慢できなくなって反論してしまった。

すると、今度は私に不安と怒りの矛先が向いたのだった。

 

「他所者は口を出さないでちょうだい!」

「こっちは生き死にがかかってんだ!守って貰いたいから町で好きにさせてやってたんだ!」

「大体、ひょっとしてあんたのせいで決闘が邪魔されたんじゃないのか?あんた何で決闘中のソウさんに近づいたりしたんだ!」

 

まずい、と思った。

今の彼らは手近の者で八つ当たりできる理由を探しているだけだ。

理屈など関係なく、自分の不安を紛らわせる為の身代わりを探しているのだ。

 

「みんなやめなさい。少し冷静になって考えてみたらいい。霊獣は所詮霊獣、人間の理など解さない獣だ。このような形で4日間も生き延びることができたのを、まず感謝するべきじゃないかね?」

 

助け舟を出してくれたのは、意外にも町長だった。

彼の一言で、住人は不本意そうだが口をつぐんだ。

それまで黙っていたグレイベルは、町長に言葉をかける。

 

「町長、あたしは今から奴らのとこへ行って話をつけてくる。危ないからみんなを家の中へ入れて出さないように。いざとなったら逃げられるよう、荷造りもさせておけ。あんまり重い物は持たせるな」

「今からでは暗くなる、危険です。今夜は休まれては?」

「そんな時間はねぇ。連中が朝になるまで待ってるとは限らないんだぜ。良いから、あたし1人で行く」

 

町長は心配そうだったが、頷いて住人に話をし始めた。

町長がみんなに話をしている間、グレイベルは私に近づいてきて囁いた。

 

「アンタ、戦いの心得は多少あるんだろ?あたしがいない間、住人達を守ってやってくれねぇか?」

「………いいだろう。あんたがいない間だけだぞ?だから、ちゃんと帰って来い」

 

グレイベルはニッと笑い、私の肩を叩いて馬小屋へ向かった。

 



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