国立雄英高等学校――――通称『雄英高』
No.1ヒーロー″オールマイト″を筆頭に、多数の有名ヒーローの母校として知られているヒーロー育成高校。
ヒーロー科、普通科、サポート科、経営科の4つの科があり、特に最難関とされているヒーロー科の入試倍率は、なんと脅威の300倍、偏差値は79。東京ドーム数個以上の広大な敷地面積に、さまざまな施設。受験するだけでも称賛されるほどの筆記と実技の試験。老若男女、誰もが知っている超有名高校だ。
「まさか0Pが倒されるとは……」
「今年の1年生は、面白くなりそうだね!」
そう述べたのは一匹のネズミ。
雄英高校の学校長である『みんな大好きほ乳類校長』、根津校長だ。
現在、雄英高校ヒーロー科の視聴覚室では、雄英の校長や教師陣全員が出席する審査会が開かれていた。
現役のプロヒーロー兼教師達が今年の雄英高校ヒーロー科の合格者を決めるためだ。
大画面のモニターには先ほど試験を終えた試験会場Bと、Cの受験生の名前と成績が、上位者からズラリと並んだ。
それを見た教師陣から感嘆の声が複数上がる。
彼等が見ているモニターは実技試験にて強烈な印象を与えた二人の受験生が映っていた。
最初に大きく映し出されたのは逆立っている金髪が特徴的な少年だ。
映像と実技の総合結果を見ながら、教師達は審査する。
「終盤になっても衰えない動き。相当なタフネスと体力だな!」
「基礎能力に関しては申し分ないし、文句なしだな」
続いて映し出されるのはそばかすと緑髪が特徴的な少年。
その少年は超巨大仮想敵″0P″へと飛び出し、そのまま文字通り素手で“ぶっ飛ばした”。
「まさか“救助活動P”だけで合格とは……」
「典型的な不合格者の動きだったけどな」
ワイワイ盛り上がって講評を行う教師陣。
「じゃ、次の試験を見ようか!」
テレビのリモコンのような物を取り出し、スイッチが押される。
A~Gの七か所の試験会場の内、開始まで数十秒近くの実技試験会場のLIVE映像に切り替えられた。
すると、先ほどまでは打って変わってヒーロー達の表情が皆引き締まった。
試験会場───ほぼデカい街だが。
D試験場では、これから試験を行う受験生が各々開始の合図を待っていた。
準備運動をする者、緊張を落ち着かせるために深呼吸をする者。
そして、一人の受験生が映される。
高い身長、深い青色でサファイアのような碧眼、銀色に近い髪を持つ少年。
今から行われる試験に集中するためかその少年は腕を組み、静かに佇んでいた。
『ハイ!――スタァァァァァトッ!!!』
ボイスヒーロープレゼント・マイクによる突然の開始の合図。この声に反応できたものは予知夢系の個性、テレパシーなどサイキック系統の個性持ち以外あまりにも少なかった。
しかし、この少年は開始の合図が出た瞬間に入口へ飛び出し、仮想市街地へ誰よりも先に足を踏み入れた。
突然の開始の合図に驚いていた受験生たちも遅れを取るわけにはいかないと続々と市街地へ入っていった。
走り抜けながら蹴りで仮想敵を数体倒した直後、少年の体から突如湧き出た白の輝きを放つオーラ、それが背中に集まっていき徐々にその形を定めていく。
「変形型の個性か?」
映像を見ていたプロヒーローたちは、その光景に目線を奪われる。
───白い輝きを放つ美しい翼
グッと膝に力を入れ、翼を力強く羽ばたかせた。
少年の姿は搔き消え、移動した痕跡である強風が巻き残される。
次の瞬間、会場の入り口付近に配置されていた仮想敵は少年によって次々と殲滅されていく。
高度とスピードを上げ、区域内の中心部で最も高いビルと同じくらいの高度でふわりと停止。
高所から視覚を頼りに仮想敵の密集地を探しだす。
青い眼が鋭い眼光を放っている。
眼下に仮想敵の集団を見つけると一気に急降下。
一瞬で接近すると同時に仮想敵の頭部を掴み、地面に叩きつけて着地。
そして次は拳で殴りつけ仮想敵の頭部を粉砕、背後からの仮想敵は蹴りで脚部を壊し倒れこんだところを足で踏み抜く。
音に反応した仮想敵数体に取り囲まれるが、『
「……この少年。自分の個性をよく理解している」
「個性の扱い方も上手いな」
「戦うのが苦手な子を時々庇っている様子も見受けられますね」
「うむ、個性を活かして怪我をした生徒の救援に動いているのもGOODだ!」
オールマイトも頷きながらそう述べた。
受験生に知らせていない、この試験のもう一つの採点基準。
それが救助活動Pだ。文字通り、救助活動に対しての追加得点。しかも審査制。
映像では仮想敵に取り囲まれて苦戦している、足に怪我をした、などの受験生を仮想敵から守る少年がいた。
他のプロヒーロー達も納得したのか頷き合う。
判断力、情報力、そして極めつきは圧倒的な戦闘能力。
どれもプロヒーローに引けを取らない実力。
注目を集める少年に、ワイワイと騒ぎながら講評を行う教師陣。
そして、そろそろ試験終盤に差し掛かろうとしていた。
「今年は豊作なんじゃない?」
「いや、まだわからないよ」
───ヒーローとしての真価が問われるのはこれからさ!!
ついに、根津校長によって『YARUKISUWITCH』が押された。
***********
――試験開始から6分が経過。
俺こと
「………デカい」
視界の隅では、あまりの揺れから受験生達はバランスを取ろうと揺れに抵抗している様な動きをして居るのが見える。
――所狭しと大暴れしているギミックよ! リスナーには上手く避ける事をお勧めするぜ?
「おいおい、正気か雄英!?」
―――圧倒的脅威
「うわああぁぁぁ!」
「逃げろぉぉぉ!!」
現れた物は0ポイントの超大型仮想敵。
一歩踏みしめるだけでも地面を踏み砕き、地響きを響かせ、クレーターを作っていく。
鈍重な腕を軽く振り上げ横に薙ぐと、コンクリートで造られたビルがいとも容易く破壊され、砂煙をたてて倒壊した。
しばらく超大型仮想敵の動きを観察する。
どうやら他の通常の仮想敵と同じく、近くにいる受験生に近づき攻撃しているようだ。
超巨大仮想敵を見た受験生達の反応は様々であったが、パニックになって逃げ惑っている。
移動速度が遅いのか、ある程度走れば大丈夫みたいだが。
ここから移動しようとした丁度その時、目に留まった。
「しまっ――――!……ッ!?」
オレンジ髪でサイドポニーが目を引く、容姿はかわいい系の少女。
その少女は超大型仮想敵に気を取られていたのか、数十体以上の仮想敵に襲われていた。
どうやら、ビルの倒壊音に反応した仮想敵が群がってきたようだ。
そこへ更に追い打ちをかけるかのように、戦闘の余波で脆くなっていたビルの外壁が崩れ落ちてきたのだ。
その上、最悪なことに近くには他の受験生が誰も居なかった。
突然の事に対応できず、驚いた事も相まって個性を発動する余裕もなく彼女は恐怖で目を閉じてしまっていた。
しかし何時まで経っても衝撃と痛みがやってこない。
不思議に思い目を開けると、碧眼で銀髪の少年が仮想敵の頭部を投げ捨てつつ、ゆっくりとこちらに振り向いたところだった。
「……無事か?」
「……た、助かった。その、ありがとう」
龍輝は手を差し伸べる。
少女はその手を掴み立ち上がらせてもらう。
……はずだった。
「――――ッ! 離れるぞ!」
「ええっ!?」
逆に手を掴んで少女引き寄せると横抱きにし、一気に跳躍して翼を展開。
次の瞬間、轟音が響く。
先ほどまでいた場所にビルが崩壊し瓦礫の山となっていた。
あのままいたら押しつぶされていただろう。
一旦距離を置くために離れたビルの屋上へ。
「二回も助けられるなんて……ホントごめん」
「ヒーロー志望なら人助けは当然。……気にするな」
ビルの屋上に降り立ち、横抱きから降ろされたサイドポニテ少女は顔をほんのり赤く染めながら感謝を述べた。
………かわいい。
ハッと我に返り、咳払いしつつ振り返って目線を超大型仮想敵にやる。
あれと正面からまともに戦うならば、振り下ろされる巨大さに見あった広範囲の攻撃を避けられる、若しくは防ぐ事が出来る手段と、分厚い装甲を突破出来る攻撃手段、他にも色々あるだろうが最低でもそれだけの事が出来る強力な″個性″が必要だろう。
俺にはある、
――――使い方を誤れば、たちまち人を殺めることができる
強力な個性が。
「……倒すかな」
「え?!何言ってんの!? あんなの倒せないって!! 」
少女が言っていることは正しい。
あの大型仮想敵を倒したところで一切のメリットはない。
超大型仮想敵から逃げつつ、他の1~3Pの仮想敵を倒してポイント稼ぐのが合理的。
しかし、それでは俺の憧れているヒーローにはなれない。
自らを象徴とすることで、手の届かない範囲の悪事を抑制するヒーローに。
戦闘力もさる事ながら、彼が居る!という事自体が人々を
――もう大丈夫!
――なぜって?
――私が来た!!!
ずっとそれを叶える為に努力して来た。
ヒーローになるために身体も、個性も出来うる限りのトレーニングをしてきた。
全てはこの日の為に。
ヒーローになるために。
「どんな敵だろうと、どんなピンチであろうと、絶対的に不利な条件下でも、笑みを浮かべてヒーローってのは勝つんだぜ?」
龍輝はそう言って、不安そうなサイドポニテ少女の横を通り過ぎながら綺麗な髪色の頭を軽くポンポンと叩く。
そして先ほどよりも一層強く輝き白いオーラを放つ巨大な翼を広げ、今いるビルの屋上よりも全体を見渡せる上空へと飛び上がった。
空中から超大型仮想敵の周囲に目を凝らす。
大きいわりに遅い足のせいか、近くには受験生の姿はなかった。
よって、自分の個性を使用した際に巻き込まれる者はいないと判断した。
龍輝の青い眼がカッと見開かれ、体内に意識を向けるように個性を発動させる。
龍輝の身体は白い光を放ち、優しく包み込まれた。
体が作り変えられるかの様な独特の感覚、手足の指先等体全体に順々に行き渡るように変化していく。
両手は万物を切り裂くような鋭い爪、サメを連想させる尖った牙。
強靭で長い尻尾、どっしりとした両足。
全身が白く輝くオーラを放ち、青みがかったボディ。
強大な威圧感を放つ青い眼。
浮かびあがる巨大な影は完全に変化を終えると、包み込んでいた光が晴れていく。
―――姿を現したのは伝説の龍。
天に向かい、大気を揺るがす大咆哮。
とある世界では「あまりの強さのためにすぐ生産中止となった」
どんな相手でも粉砕し、圧倒的攻撃力を誇る。
黎明期から存在し、非常に高い知名度と人気を持つ最強のドラゴン。
――――――――その名は
口がゆっくり大きく開かれると、強烈な光が発し膨大なエネルギーが1つに纏まり始める。
体全体からエネルギーを集め圧縮していく。
他の雑魚仮想敵同様、【青眼の白龍】を見つけた超大型仮想敵が狙いを定め、その巨大な手で掴もうとする。
それを空戦機動″バレルロール″でひらりと交わすと、
――――貴様を完膚なきまでに叩きのめす……喰らえ!!!
圧縮をし終えた、青きエネルギーをとき放った。
『滅びの
着弾した衝撃で試験会場の街全体を揺らす程の振動と衝撃音。
周囲の崩れたビルの残骸や瓦礫もろとも超大型仮想敵は消え去っていた。
高温による空気の揺らぎ、舞う土煙で辺りはよく見えないが、その向こうに巨大なシルエットが浮かび上がる。
浮かびあがる巨大な影は縮んでいき、人の形へ。
…この程度ではまだ足りない。
そう思いつつ土が見える剥がれたアスファルトだらけの地面に座る。
いつの間にか、疲労が溜まっていたようだ。
その場に座るとなかなか立てない。
周囲に視線を向けるとさっきのサイドポニテ少女が駆け寄ってくるのが見えた。
「……名前、……聞き忘れてた」
『試験終了~!!!!!!』
プレゼント・マイクの終了の合図とともに、実技試験は終わりを告げた。
誰でもヒーローになれる、特別な事をしなくても。
傷付いた少年の肩に上着をかけて「世界の終わりじゃ無い」と励ませば良い
最近久しぶりにみたとあるヒーローのセリフ。
ホントにかっこよかった…。