西の辺境の親愛なる隣人   作:158532

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転生する前に神さまとダラダラ喋るお話です。あんまり乗り気じゃない転生者さんに、神さまが怖くないからTRPGやろうぜ!みたいな流れですね。GMは別の神々ですが・・・


事の経緯(コンストラクション)

『諸神もすなる異世界転生といふものを、女神もしてみむとてするなり』

「つまり乗るしかない、このビッグウェーブに!ということですか?」

『話が早くて助かるよ!お互い分かる人とやった方が面白いしね!異世界転生詳しくない人に説明するの面倒だし!」

転生もの(テンプレ)の利点は話の早さですもんね」

 

 というわけで目の前にいる女神さま(その胸囲(バスト)は豊満であった)が僕を異世界に生まれ変わらせてくれるらしい。人生どうなるかわからないものだ。終わった後で思い知ることになるとは思ってなかったけどね。後悔は先に立たないというが、どうやら先があるようなのでここは目一杯しておくべきだろう。計画して(プラン)実行して(ドゥー)省みて(チェック)改善するのだ(アクション)

 

「というわけで己の人生を振り返ってみたところ、二点ほど考えまして」

『聞こうじゃないか!』

「来世はもちっと人に話しかけようと思います」

『そうだね。ボクもそれが良いと思う』

 

 人に話しかけるのが怖くてそのままぼっちになってたのが僕というやつなんだよな。この広大無辺なウェブ世界を前にしてTwitterで人に絡むことも出来ず、TRPGのルールブックを買ってきても自分で読んだり一人でキャラビルドしてたのだ。野良で集まってオンラインセッションとか、誰でも参加できるコンベンションとか幾らでもあるのにね!

 

『なんかごめんね・・・幼馴染とか長い付き合いの親友とかいたらもっと自信が持てたかな?』

「いや、もしも僕みたいなのに親友がいたらべったり付き合って迷惑かけまくってゆっくり離れられるよ。僕はそういうやつだよ」

『そういうところだぞキミ!』

 

 自虐したら怒られた。さてはこの女神さま、めちゃくちゃ優しいな?

 

「ところでどうして僕なのか聞いてもいいですか?別に轢かれそうになってる子供とか助けてないし、たくさんの人に幸せを振り撒いたりもしてないですよ。意識が朦朧としてたけど、多分季節の変わり目に風邪拗らせて死んだだけですよね?」

『うん・・・』

「まあ看病してくれる人とか居ませんでしたし」

『うん・・・』

「つまり、もっと立派な人とかそこら中で幾らでも死んでると思うんです」

『そこは聞かれると思ってたし、だから胸を張って言える答えは用意してあるよ』

 

 定番だしね、と微笑みながら女神さまはその豊満な胸を張る。

 

『立派な人と報われるべき人は違うんだよ。まあボクの主観の話だし正確に言うと、立派だと思う人と報われて欲しいと思う人は違うんだ。評価軸がね』

「つまり僕は立派じゃないけど幸せになって欲しいんですね」

『前者のことはあまり気にしないでね?それはキミ自身が下した評価に則ってるだけだから』

 

 たしか仏教には悪人正機説なるものがあった気がする。悪人こそまさに救いが必要なのだ、慈悲はある。とかそんな考え方だったか。

 

『雑だけど浄土真宗だね。似たような事は聖書にも書いてある。神の国は貧しき者や賤しき者にこそ開かれてるとかそういうやつ。まあ救いが必要な人って要するに救われてない人のことだからね』

「神さまは生前は救ったりしないんですか?」

『昔は結構手出ししてたしヤンチャもしてたよ?極悪なの鎮めたり、ヤバい連中沈めたり』

 

 この方思ってたよりガチの神様なのでは?

 

『でもまあ眷属に叛乱起こされたりして、ボクも反省したわけさ。どう生きるかは人それぞれ、自由意志を尊重するよ』

 

 やはりガチでは?

 

『まあボクの話はどうでもいいさ、キミを選んだのはちょうどいいタイミングで死んだ人たちの中で、ボクが個神的な趣味の範疇で何かしてあげたかったのがキミだっただけさ。深く考えなくていいよ。考えてもいいけどね』

「全人類の中で?」

『全員見てるし、他所に行っても見続けるよ』

「そうですか神さますごいですね」

『それほどでもないよ』

「ネットスラングにまで精通しているのに謙虚だ」

 

 そうか、見られていたのか。宇宙より広い視野で見ると僕はひとりぼっちじゃなかったらしい。ほんのちょっとだけ来世に前向きになれた気がする。

 

「ちなみに僕の過去世ってどんなでした?」

「美味しいてつかまきになったよ」

「今後お肉とか食べ辛くなるなあ」

 

 来世が知的生命体なだけでめちゃくちゃラッキーな気がしてきたよ。

 

「でも僕みたいな非生産的な誰の為にもならなかったオタクが神さまから凄いパワー貰った力頼みに大活躍してワーキャーヒーみたいなのは解釈違いかなって思うんですよ」

『えー、いいじゃん神様転生!無理強いする気はないけどさ、ボクとしてはキミに幸せになってほしいだけなんだけどなあ。あと流行ってるし』

「特別なことしてないのに特別扱いされるのはちょっとずるいですから」

『ボクの贈り物をずる(チート)呼ばわりされるのは心外だな。次にそれ言ったら意味もなくキラキラ光るようなすごいの贈っちゃうぜ?』

「あっはい恩寵(ギフト)です」

 

 よろしい、と大仰に頷く女神さま。やはり神たるもの人間に会ったら何かしら良いものを振る舞ったりしたいのかもしれない。自分のところで幸せになれなかった者に餞別を与えたい、と考えるなら自然な感情なのだろう。しかしそういうのを素直に受け取れる人間ならもうちょっとマシな人生送ってたのが僕なのだ。

 

『分かってたけど面倒臭いなキミ』

「そうでしょうねえ・・・」

『まあここは素直に受け取っておきたまえ。他の神のとこに投げるんだから世界観(レギュレーション)無視したようなのはやらないし大丈夫大丈夫!』

 

 一部の出自と経験と邂逅(ライフパス)とかを骰子(ランダム)から指定(チョイス)に変えるぐらいだよ!と彼女は語る。自由意志を尊重すると言うぐらいだから、その先は僕次第なのだろう。まあそれなら・・・でもなあ・・・

 

『なりたい自分や憧れのひと、あるだろう?』

 

 そう言われてしまうと思い付くものはたくさんある。どれも実在の人物ではなく創作上のキャラクターなのが少し恥ずかしいけど。

 

『人間が憧れるのはこれ全て物語だよキミ。それが実在の人物だろうと伝聞や想像に過ぎないさ』

「しかし、うーん。神さまなら僕が何と答えるかぐらいは分かってそうなものですが」

『キミが、自分で、口にすることが大切なのさ。時間をかけてもいいからキミの想いが聞きたいな』

 

 神さまにこうまで言われては観念するしかない。大好きな物語の登場人物たちを思い出し、主に人間性を考慮してひとり選ぶ。

 

「僕はスパイダーマンみたいな人になりたいです」

『かっこいいし良い人だよね!』

「そうなんです」

 

 そう、スパイダーマンはかっこよくて良い人なのだ。ごく小さなことでも世界の命運をかけた大事件でも関係なく、そこにいる誰かの為に戦うひと。大いなる責任を己に課して平和を守るヒーローに僕は憧れる。スパイダーラックは欲しくないけどね。

 

「別に大いなる力は欲しくないけど、僕の憧れはスパイダーマンです。ちなみにピーター・パーカーと小森ユウくんと忍殺語使うやつ以外はわかんないです。主にアルティメットなアニメ版が好きです」

『スパイダーバース上映前に死んじゃったかー』

「コミック版、多少高くても買っておけばよかったですよ」

 

 来世にアメコミが存在することを求めるのは間違っているだろうか?

 

『ちなみに生き様とか人間性はキミ自身に依存するのでボクにはどーにもなりませーん』

「まあ当然ですよね」

『だからキミ次第でかっこよく生きることもできるよう、努力ではどうにもならない部分を調整するのがボクの仕事だね。命を産むのは神のやること、命を使うのは人のやること』

「そしてどうなるかを見守るだけ、いやいつでも見守ってくれる・・・!」

 

 自信のない極度の寂しがり屋の僕に、これ以上ありがたいことがあるだろうか。この事実だけでおかわり三杯いけるのでは?どんなに辛い状況でも奮起努力して強く生きていけるのでは?

 ・・・いやそれは無理だろう。流石に楽観しすぎだろう。僕がそんなにポジティブを維持できるやつならもうちょっと良い生き方ができただろう。今の僕を包む自己肯定感は一時の高揚感に過ぎない。人間が信仰心を維持するには仏舎利とか十字架とか戒律とか、どうしても形ある証が欲しいのだ。だから聖遺物とか勝手に増殖するんだ。

 

「ということで神さまと実際に会った物証とか貰えます?無いと多分あーあれはただの妄想だったんだなぁという方向に落ち着くと思うので」

『たしかに人間ってそういうとこあるよね』

「愚かな人類ですみません」

『いやあそれは賢さに分類していいでしょ。忘れること、変わることも大切さ。キミだって無理に義理立てしようとせず、好き放題鞍替えしたり方針転換していいからね』

 

 すぐに自殺されたりしたらへこむかもしれないけど、と呟きながら女神さまは衣服の一部──青色の飾り紐(ブルーリボン)──を抜き取った。

 

『必ずキミの元に届くよう手配しよう』

「ありがとうございます」

『なあに良いってことさ、本当ならもっと色々あげたかったぐらいだからね!』

「もし生まれ変わって巨乳に育ったら、その紐で胸を支えます」

『いやそれは無いかな』

 

 どうやら僕が巨乳になる可能性は微塵もないらしい。細かいところまで既に決まっているようだ。

 

『というかキミ、哺乳類にならないから』

「マジですか」

『キミの来世は蜘蛛人(アラネイド)だよ』

「さてはガチファンタジーですね?」

 

 かくして僕は究極のスパイダーマンを目指してアルティメットに生きることになったのだった。おそらく地球ではない剣と魔法の世界で。

 




青色の飾り紐 ブルーリボン
例の紐。『神さま』の衣服の一部と考えると率直に言ってヤバい代物なのではないだろうか?そんなの迂闊に持たせて大丈夫なのだろうか?持ちこんでいいって?やったー。
これを持っていても昇降機は動かせないが、どこへやっても必ず持ち主の元に戻ってくる。この特徴はあんまり悪用すると神さまに怒られるかもしれないし、面白いアイデアとして採用されるかもしれない。周りの人と相談して決めようね。
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