ゲームの開始時間を目前にして、俺たちはドーム会場の入場ゲードに続く通路でその時を待っていた。ゲードの向こうから会場の熱気と明かりが差し込んできていた。同時に観客の入り乱れた声も聞こえてくる。
皆の戦闘服はおなじみの駒王学園の制服。けど、いつもの制服とはわけが違う。
ゲームのために用意した特別仕様。耐熱、耐寒、防弾、魔力防御、などなど、あらゆる面で防御力を高めた作りである。
ゼノヴィアはいつもの自前の戦闘服。作りは制服と同じようになっているが。
ロスヴァイセさんも鎧姿。そちらのほうが落ち着くらしい。
アーシアもシスター服。アーシアの勝負服だな。こちらも防御力を上げている。しかも、鮫肌が背中にくっ付いていて、アーシアの盾と矛になるから…もっと防御力が上がっている。
それぞれのリラックス方法でギリギリまで待機するなか、部長が重い口を開いた。
「……皆、これから始まるのは実戦ではないわ。レーティングゲームよ。けれど、実戦にも等しい重さと空気があるわ。ヒトが見ているなかでの戦いだけれど、臆しないように気をつけてちょうだいね」
『さあ、いよいよ世紀の一戦が始まります!東口ゲートからサイラオーグ・バアルチームの入場ですッ!』
「「「「「「「わぁぁぁぁぁああああああああああああああああああぁぁぁっ!」」」」」」」
こちらにまでビリビリと伝わってくる声援、歓声。バアル眷属の入場にドーム会場は大きく震えた。
「……緊張しますぅぅぅぅっ!」
「……だいじょうぶ、皆、かぼちゃだと思えばいいってよく言うから」
緊張するギャスパーと落ち着いた白音ちゃんのやり取り。
「ゼノヴィアさん、イリナさんがグレモリー側の応援席で応援団長をやっているって本当なのですか?」
「あぁ、アーシア。そのようだぞ。なんでもおっぱいドラゴンのファン専用の一画で応援のお姉さんをすると言っていた」
などというアーシアとゼノヴィアの会話が聞こえてくる。
『そしていよいよ、西口ゲートからリアス・グレモリーチームの入場ですッ!』
――っ!
ついにアナウンスされた。
「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!」」」」」」」
すでに観客もヒートアップしてる。
そのなかで、部長が皆を見渡して一言だけ言った。
「ここまで私についてきてくれてありがとう。――さあ、いきましょう、私の眷属たち。勝ちましょう!」
「「「「「「「「はいッ!」」」」」」」」
返事をする俺たち。そして、ついにゲートを潜った――。
D×D
大歓声のなか、俺たちが目の当たりにしたのは――広大な楕円形の会場の上空に浮くふたつの浮島だった。
その一つにバアル眷属がそろっていた。
『さぁ、グレモリーチームの皆さんもあの陣地へお上がりください』
アナウンスがそう促す。
長い螺旋階段があり、俺たちもバアル眷属同様に会談を上がって、岩の上にたどり着いた。
遠くにバアル眷属が見える。
陣地には椅子が人数分と、謎の台がひとつだけ。あとは一段高いところに設けられた移動式の魔方陣らしいもの。
遠目に見やると、あちらの陣営も同様のようだ。
眼下に広がるのは陸上競技用のトラックなどしかない…。
なんてことを、首をひねりながら考えていた俺の耳に男性のアナウンスが届く。
会場に設置された超巨大モニターに映り込むイヤホンマイクを耳につけたど派手な格好の男性!
『ごきげんよう、皆さま!今夜の実況は私、元七十二柱ガミジン家のナウド・ガミジンがお送り致します!』
大歓声が沸く会場!!
『今夜のゲームを取り仕切る
宙に魔方陣が出現した。魔方陣から銀色の長髪に正装という出で立ちのイケメンが現る!!
「……リュディガー・ローゼンクロイツ。元人間の転生悪魔にして、最上級悪魔。しかもランキング七位……」
白音ちゃんがぼそりとそうつぶやく。
「でも、グレイフィアさんじゃないんだな」
俺がそうつぶやいた。
「大王家が納得するわけありませんわね。グレイフィアさまはグレモリー側ですから」
朱乃さんが淡々と言った。
言われてみれば納得がいくかも……。グレイフィアさんはサーゼクスさまの『
『そして、特別ゲスト!解説として堕天使の総督アザゼルさまにお越しいただいております!どうも初めましてアザゼル総督!』
――と、画面一杯に映し出される見知った男性。
…………。
俺たちは唖然としてそれを見てしまっていた。その男性――先生がニッコリ笑顔であいさつをする。
『いや、これはどうも初めまして。アザゼルです。今夜はよろしくお願い致します』
……せ、せ、先生じゃねぇかぁぁぁぁぁっっ!!
聞いていない!VIPルームに行けないってこういうことだったのか!!
驚く俺たちをよそに実況者による先生の紹介が始まる。
『アザゼル総督はサーゼクス・ルシファーさまをはじめ、各勢力の首領の方々と友好な関係を持ち、
『そうですね。私としましては両チームともに力を出し切れるのかという面で――』
などと、先生ったら、営業スマイルで解説を始めやがったぞ!
先生の紹介が落ち着くと、次にカメラが先生の隣に移り、端正な顔立ちに灰色の髪と瞳をした男性を映した。
……
『さらに、もう一方お呼びしております!レーティングゲームのランキング第一位!現王者!
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」」」」」
先生が登場したときよりも遥かに大きい叫声があがった。会場全体の振動がこちらにまで
響くほどの――。
男性――
『ごきげんよう、皆さん。ディハウザー・ベリアルです。今日はグレモリーとバアルの一戦を解説することになりました。どうぞ、よろしくお願い致します』
……俺はその男性を網膜に焼き付けておこうと思った。
――この人がゲームの覇者!!
なんだか、震えてきた。怖い……からじゃない。武者震いだと思う。うれしくて震えてきた。
――カメラが先生に戻ったと思ったら、その隣に移った。そこにいた狐の面をした男性が映し出される。
「――っ!!」
その面の見た瞬間、俺は絶句した。……俺だけじゃない、部長や朱乃さん…眷属の皆も俺と同じように唖然としていた。
『最後に、サプライズゲストとして暁の長、リュースケ総長にお越しいただいております!!』
その狐の面をした男性が面を横にずらして独特な被り方をした。そして、その男性――兄さんが透き通るような赤い瞳の写輪眼の目を細くして口を開く。
『初めまして。龍介です。サプライズゲストとして解説をさせていただくことになりました。よろしくお願いします』
『リュースケ総長は「乳龍帝おっぱいドラゴン」の適役である「ドミニオン」で有名ではありますが、リアス・グレモリーチームの戦闘教官をされた上でどう注目されているのでしょうか?』
『そうですね、自分としましては――』
微笑みを絶やさず解説を始めた兄さん!!
兄さんの紹介が落ち着くと、実況者が先生と
『さっそくですが、グレモリーチームのアドバイザーをしておられたアザゼル総督とバアルチームのアドバイザーをしておられた王者にそれぞれ見所を教えていただけると助かります』
『そうですね、グレモリーチームといえば、まずはおっぱいドラゴンとスイッチ姫!なわけですが―――』
実況アナウンサーの質問に先生が答え――、
『はい、サイラオーグ選手は「
「……ディハウザー・ベリアル……」
そう、あの王者は部長の将来の目標。ゲームの各タイトルの総ナメ。それをするってことは、必ず立ちはだかる最後の壁があの王者……。
部長は決意に満ちた表情をする。
「いつか必ず――。けれど、いまは目の前の強敵を倒さなければ、私は夢を叶えるための場所に立つことすらできないわ」
そうだ!サイラオーグさんとの戦いであの男と眷属を倒せるかどうかだ!!
俺が顔をパンと叩いていると、解説が進む。
『まずはフェニックスの涙についてです』
おおっ!!フェニックスの涙!その有無で戦術が相当変わるって部長も気にしていたしな。
『皆さまもご存じの通り、現在テロリスト集団『
実況者が巨大モニターに指を突きつける。そこに映し出されるのは、高価そうな箱に入ったふたつの瓶。
『涙を製造販売されているフェニックス家現当主のご厚意とバアル、グレモリー、両陣営を支持されるたくさんの皆さんの声が届きまして、今回のゲームで各チームにひとつずつ支給されることとなりました!』
「「「ワ―――ッ!」」」
その
「……サイラオーグ・バアルを二度倒す覚悟を持たないといけないみたいだね」
祐奈が険しい面持ちでつぶやく。
そうだな。そういうことになる。あちらで使うとしたら、絶対にサイラオーグさんだ。
バアル最大戦力であり、『
そこで問題になるのはこちら側は誰が使うのか?幸いにもこちらには回復要員のアーシアがいる。
それでも近くにアーシアがいなければ涙を使うことを迫られるだろうし、いつの日のゲームのときみたいに回復道具は持ち込んでいない。
そんなことを頭のなかで巡らせていたとき、ついに一番欲していた話題が展開する。
『このゲームには特殊ルールがございます!』
やっぱり、あったか、特殊ルール!俺たちの実力を直接封じるものではないという話何だが……。
『特殊ルールをご説明する前にまずはゲームの流れからご説明致します!ゲームはチーム全員がフィールドを駆け回るタイプの内容ではなく、試合方式で執り行われます!これは今回のゲームが
――っ!駆け回るタイプじゃないのか!初めての経験だ、試合方式なんて!!
兄さんたちとのタイマン用の修行もしていたけど、チーム用のトレーニングも重ねていたわけで、試合方式になると活かせるかどうか……。
特殊ルールの説明は続く。
『そして、その試合を決める特殊ルール!両者陣営の「
設置台?あぁ、陣地にあるあの台か。ずっと気になってたんだよな。
促された部長と――あちらの陣地にいるサイラオーグさんがそれぞれの設置台の前に移動した。
設置台から何かが機械仕掛けで現れた。
巨大モニターにもその光景が映し出されていく。映しだされたのは――サイコロだった!
『そこにダイスがございます!それが特殊ルールの要!そう、今回のルールはレーティングゲームのメジャーな競技のひとつ!「ダイス・フィギュア」です!』
ダイス・フィギア?聞き慣れない単語に俺は訝しげに首をかしげた。
「ダイス・フィギアね……」
祐奈がそう言い、俺に向けて説明をくれる。
「本格的なレーティングゲームにはいくつも特殊なルールがあるからね。僕たちがやってきたのは比較的プレーンなルールのゲーム。その他に今回みたいなダイスを使ったり、フィールド中に設置された数多くの旗を奪い合う――『スクランブル・フラッグ』と言うルールもあるよ。ダイス・フィギュアはダイスを使った代表的なゲームなの」
ルール解説が更に続く。
『ご存じではない方のために改めてダイス・フィギュアのルールをご説明致します!使用されるダイスは通常のダイス同様六面、一から六までの目が振られております!それを振ることによって、試合に出せる手持ちが決まるのです!』
ダイスで試合に出せる選手が決まる……?
じゃあ、ダイスが俺たちの運命を決めるってことか!!
『人間界のチェスには駒の価値というものがございます!これは基準として「
あー、あれか。『
『まず、両「
つまり、出た数字が最大の12なら、その数だけ眷属を試合に出せるってことか。
……そういえば、前に兄さんが言ってたな。「俺たちが駒価値のあるゲームをするとしたら、かなりのハンデになる」と…。
いま思えば、このゲームとか他にも駒価値を基準としたゲームが存在しそうだな。
そうだ…、出た目の数が最低の数字ならどうするんだ?
疑問を脳裏に浮かべた俺にちょうど説明がされていく。
『しかし、リアス・グレモリー選手とサイラオーグ・バアル選手の手持ちの駒には価値基準でいうところの1から2の該当選手がいません。出た目の数が3から、選手を出せるということになります!合計数字ですので、最低数の「2」となった場合のみ振り直しとなります。また、試合が進めば手持ちも減りますので、出せる選手の数字にも変化があると思いますのでそれはその都度、お互いの手持ちと合致するまで振り直しとなります!』
まぁ、当然か。では、肝心の『
『「
「てか、『
俺が疑問を口にしていた。
「説明の通りですわ。事前にゲームの審査委員会が部長とサイラオーグ・バアルが、ダイス・フィギュアでどのぐらいの駒価値があるか評価を出しているのです。それによって、両者が試合に出場できる数字が決まりますわ。これは『
朱乃さんが補足説明をくれた。ありがとうございます。
『それでは、審査委員会が決めた両「
実況者のそう叫ぶと、巨大モニターに部長とサイラオーグさんの名前が悪魔文字で表示され、その下の数字が動きだした。
そして、軽快な音と共に数字が表示される。
『サイラオーグ・バアル選手が12!リアス・グレモリー選手が8と表示されました!おおっと、サイラオーグ選手のほうが高評価ですが、逆に言いますとマックスの合計が出ない限りは出場できないことになります!』
部長の数字は朱乃さんより低く俺と同価値だけど、算出方法はその都度変わるって言ってたよな?
「……内容で巻き返すだけだわ」
部長のことだから、評価が低くて悔しがるかと思ったけど、案外冷静だった。
「12が出たら確実にサイラオーグさんが来るのかな?」
俺が言うと、祐奈は難しそうな顔をした。
「サイラオーグさんが必ずしも出るとは限らないかも。特に
「なんでだ?」
「それで勝利できたとしても場合によっては評判が少し落ちる。ワンマンチームはあまり評価されないからね。ゲームでは眷属の力をフルに活用してこそ、評価されるもの。しかも『
世間の評判も視野に入れないと将来が暗転するってか。怖ぇ……。
『それともうひとつルールを。同じ選手を連続で出す事は出来ません。これは「
了解。ってことは、サイラオーグさんの連続出場はないってことだ。
「最初の数字が12だとしても、サイラオーグ自身が
ここまで読みますか…。
部長がアーシアに視線を向ける。
「このルールだとアーシアを単独で出すのも、組んで出すのも悪手ね。どちらも回復役のアーシアを集中的に狙うでしょうから。ここに残ってもらって勝って帰ってきた者を回復する役に回したほうが得策だわ。これはこちらの利点のひとつね、フェニックスの涙を使わずに回復できるなんて。ゴメンなさい、アーシア。試合には出せないわ。ここで帰ってきた者を回復してあげてちょうだいね。鮫肌もアーシアを手伝ってあげてね。それも立派なゲームの役目よ」
部長にそう言われたアーシアだが、嫌な顔ひとつせずに笑顔を見せていた。
「はい、お姉さま。私、ここで鮫肌さんと一緒に皆さんのケガを癒します!だから、皆さん、無事に戻ってきてくださいね」
「ギギギギギギギギギギギ」
「「「「「「「もちろん」」」」」」」
アーシアと鮫肌の激励に俺たちが声を合わせた。
鮫肌の戦闘ぶりを見たかったけど、アーシアが出ると部長の評価が下がりそうだし、鮫肌をうまく扱えるのはこのなかでアーシアだけだもんな。
「逆にアーシアさんが出てこないことは読まれますね」
と、祐奈が言い、部長もうなずいた。
「ええ、こちらは実質戦闘要員が八名となるわ」
八名!回復役のアーシアが後方にいてくれるだけでも多少の無茶をしてもいいじゃないかって勇気を持てる!体力の回復は鮫肌がしてくれるけど、無謀すぎることまではやりたくないな……。
『さあ、そろそろ運命のゲームがスタートとなります!両陣営、準備はよろしいでしょうか?』
実況者が煽り、
『これより、サイラオーグ・バアルチームとリアス・グレモリーチームのレーティングゲームを開始致します!ゲームスタート!』
開始を告げる音と共に、歓声が会場中に響き渡る――。
ついにゲームが始まった――!!