ハイスクールD×D 力ある者   作:塩基

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Queen vs Queen

『まだ動くか。その勝利への執念、恐れ入る。これ以上の攻撃はあまりに残酷と言える。いいだろう、一気に楽にしてやろう』

 

ドラゴンが口から火炎を吐こうとしたそのときだった――。

 

『――そうはさせない』

 

極大で異様なオーラを放ちながら、ゼノヴィアが姿を現した。デュランダルから迸る聖なるオーラ。魔の存在でない俺でも、背中に一筋の冷や汗をかいた。

 

その体にあった呪いの紋様はなくなっていた…どうやら解呪に成功したようだ。

 

ゼノヴィアはギャスパーに近寄り、すでに意識を失っている後輩を抱き寄せる。

 

『――よくやったぞ、ギャスパー。男だな。――すまなかった、私が不甲斐ないばかりにおまえにこんな……』

 

ゼノヴィアが涙を流してギャスパーに謝っている。

 

サイラオーグの『僧侶(ビショップ)』が杖の先端をゼノヴィアに向ける。ドラゴンも両翼を広げてかまえた。

 

ゼノヴィアは静かに立ち上がり、ぼそりとつぶやく。

 

『……足りなかった』

 

カシャカシャとエクス・デュランダルの鞘が変形していき、攻撃フォルムへ姿を変えた。

 

『私には覚悟が足りなかったようだ。だから、あんなものに捕らわれた。仲間のために、部長の――主のために持つべきだった死ぬ覚悟がギャスパーよりも足りなかった。こいつのほうが私なんかよりもずっと覚悟を決めてこの場に立っていた!自分があまりに情けない……ッ!私は自分が許せなくて仕方がないんだ……ッ!!』

 

待機しているイッセーたちに、いまのゼノヴィア言葉がどこまで届いているのかはわからないが、声はしっかりと聞こえていたと思う。

 

『なら、どうすればいい?どうすればこいつの思いに応えられる?』

 

呪詛のようにつぶやきながら、ゼノヴィアは涙を拭いさる。

 

『そうだな。それしかないだろう。すまない、ギャスパー。――せめておまえのためにこいつらを完全に吹き飛ばしてやろう!それがおまえへの応えだと思うからなッ!』

 

ゴオォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

天高く立ち上る、聖なる光のオーラ。エクス・デュランダルが生み出した極大なオーラだ。それをまともに受ければ上級悪魔でも耐え切れられない。

 

『そうはさせるかッ!今度はこの命を代償にもう一度あの「騎士(ナイト)」の能力を封じる!』

 

サイラオーグの『僧侶(ビショップ)』が杖をかまえ、(セイクリッ)(ド・ギア)を発動しようとしたが――その体が意識ごと停止する。

 

ドラゴンがギャスパーに視線を向ける。ギャスパーはリタイヤの光に包まれ、意識を失いながらも双眸を赤く輝かせていて、サイラオーグの『僧侶(ビショップ)』を停止させたのだ。

 

『停止の邪眼かッ!バカな!』

 

叫ぶドラゴン。ゼノヴィアはデュランダルを大きく振り上げた。

 

『おまえたちはギャスパーに負けたんだ――ッ!!!』

 

そう漏らしたゼノヴィアはエクス・デュランダルをドラゴンと停止した『僧侶(ビショップ)』に目掛けて解き放つ。

 

大質量の聖なる波動がサイラオーグの眷属二人を飲み込んでいく――。

 

『サイラオーグ・バアル選手の「戦車(ルーク)」一名、「僧侶(ビショップ)」一名、リアス・グレモリー選手の「僧侶(ビショップ)」一名、リタイヤです』

 

第四試合の終わりを告げるアナウンス。

 

白音とギャスパーを失ってしまったイッセーたち…リアス眷属。

 

                    D×D

 

第四試合を終えて、お互いの眷属はこちらが部長、朱乃さん、祐奈、ゼノヴィア、アーシア、ロスヴァイセさん、俺の七名。

 

相手は『(キング)』のサイラオーグさん、『女王(クイーン)』、例の仮面の『兵士(ポーン)』のみとなっていた。

 

数から見れば、こっちのほうが圧倒的に有利だ。

 

『さあ、戦いも(ミドル)(ゲーム)を超えようとしているのかもしれません!サイラオーグ・バアル選手のチームは残り三名!対するリアス・グレモリー選手は七名となっています!グレモリーチームが有利ですが、バアルチームも残りのメンバーが強力です!巻き返しとなるか!』

 

実況が会場をそう盛り上げる。

 

第五試合の出場選手を決めるための『(キング)』によるダイス振りが始まる。

 

さすがにサイラオーグさん側のメンバーが少ないためか、小さな数字になった場合、再度振り直しとなった。

 

何度めかで合計数字が――9となる。

 

「あちらもついに三人。9ということは『女王(クイーン)』か『兵士(ポーン)』しか出てこられないわ。……『兵士(ポーン)』はまだ出さないと私は思うの」

 

部長はそう言った。

 

「根拠はあるんですか?」

 

俺が問う。

 

「サイラオーグはあの『兵士(ポーン)』をできるだけできるだけ使いたくないと思っているような気がするわ。まるで出てくる気配が感じられない。温存しているとしても温存し過ぎよ。『兵士(ポーン)』が出られる試合は何度もあったし、ロスヴァイセと白音が戦った第二試合に投入してきてもいいと思ったわ」

 

部長はそう話す。

 

「となると、相手は次に『女王(クイーン)』ですか、部長」

 

「ええ、祐奈。サイラオーグの『女王(クイーン)』――クイーシャ・アバドン。『(エキ)(スト)(ラ・)(デー)(モン)』アバドン家の者が来るでしょうね」

 

「――私が行きますわ」

 

――と、朱乃さんが部長にそう進言する。

 

「……朱乃、いいの?相手の『女王(クイーン)』はアバドンの者よ?記録映像を見る限りでも相当な手練れだったわ」

 

部長の言う通りなんだ。グラシャラボラスとの戦いでは、あちらの『女王(クイーン)』は絶大な魔力とアバドン家の特色という『(ホール)』を使って圧倒していた。

 

その『(ホール)』ってのが、ユーさんのブラックホールと同じでなんでも吸い込んでしまう代物で……。

 

「俺が行きましょうか?勝てる算段はあるんですけど」

 

俺がそう言うが、朱乃さんは首を横に振った。

 

「それは例のトリアイナを使ったものでしょう?まだ出してはダメよ、イッセーくん。もっと大きな数字が出たとき――(エンド)(ゲーム)で見せてこそですわ。それまでは私がなんとか戦力を削りましょう。うしろに祐奈ちゃんやゼノヴィアちゃん、ロスヴァイセさん、そして部長とイッセーくんが控えていてくれるからこそ、できる無茶もあるんです」

 

ニコニコ笑顔の朱乃さん。

 

「……わかったわ、朱乃。お願いするわね」

 

「ええ、リアス。勝ちましょう、皆で」

 

朱乃は転移魔方陣の中へ消えた――。

 

                    D×D

 

第五試合め…。リアス側から朱乃が、サイラオーグ側からはクイーシャ・アバドンがフィールドに転送されてきた。舞台は無数の巨大な石造りの塔が並ぶフィールドだ。朱乃とクイーシャ・アバドンはそれぞれの塔の上に立っている。

 

『やはり、あなたが来ましたか。雷光の巫女』

 

クイーシャ・アバドンがそう漏らす。

 

『ええ、ふつつか者ですが、よろしくお願い致しますわ』

 

朱乃も不敵に返す。

 

両者『女王(クイーン)』同士が睨み合うなか、審判(アービター)が出現し、両者を見据えた。

 

『第五試合、開始してください!』

 

開始の合図が出される。

 

朱乃とクイーシャ・アバドンは翼を羽ばたかせて空中へ飛び出す。

 

そこで魔力による壮絶な撃ち合いが始まる。

 

朱乃が炎を魔力を高出力で撃てば、アバドンは巨大な氷の魔力を放つ。

 

朱乃が水を使えば、アバドンは風を使う。

 

魔力による空中戦は互角……。周囲の塔が両者の魔力の余波で次々と崩壊していく。

 

朱乃が魔力で空に暗雲を作りだすと、そこから大質量の雷をクイーシャ・アバドンに放った!!

 

ビガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!

 

閃光が走り、アバドンを雷が包み込んでいく……寸前で空間に歪みが生じ始めた。歪みに『穴』が出現する。――ここで『(ホール)』を使ってきたな。

 

高出力の雷光は為す術なく『(ホール)』に吸い込まれていった…。

 

『ここですわ!これならどうでしょう!』

 

朱乃はこの機会を狙っていたようで、さらに雷光を走らせる!

 

ドガガガガアガガガガガガガガガアガガッ!!!

 

高出量で幾重もの雷光が周囲一帯を覆い尽くす。周囲の塔は避雷した雷光によって、次々に破壊されていく。

 

荒れ狂う雷光の乱舞の嵐がクイーシャ・アバドンに襲いかかっていく――。

 

俺は眉間に手を当てて、「やっちまった」と内心で叫んだ。

 

俺の確信は現実となる…。

 

クイーシャ・アバドンが『(ホール)』を広げ、さらにその場に複数の『(ホール)』を出現させたのだから。

 

巨大な『(ホール)』とその周囲に現れた複数の『(ホール)』に雷光の嵐が難なく全て吸い込まれる…。その光景を見て朱乃が絶句していた。

 

アバドンは冷笑を浮かべながら言う。

 

『私の「(ホール)」は広げることも、いくつも出現させることもできます。そして、「(ホール)」のなかで、吸い込んだ相手の攻撃を分解して、放つこともできるのです。――このようにして』

 

朱乃を囲むように無数の『(ホール)』が出現する。

 

『雷光から雷だけを抜いて――光だけ、そちらにお返ししましょう』

 

ビィィィィィィィィィッ!!

 

無数の『(ホール)』から、朱乃に向けて一直線の光線が幾重にも放たれていく――。

 

……悪魔にとって、光は猛毒だ。朱乃はリタイヤの光に包まれていった。

 

『リアス・グレモリー選手の「女王(クイーン)」、リタイヤです』

 

無情な審判(アービター)からのアナウンスが響きわたった。

 

                    D×D

 

「吸い込むだけではなく、あのようにカウンターにも使えるのね」

 

祐奈が絞り出した声でそう言う。

 

朱乃さんを失い、俺たちはショックを受けていた。

 

――アバドンの『(ホール)』をあまくみていたのが、俺たちの敗因。

 

……兄さんが「カウンターは一つだけではない、気をつけておけ」と言っていた言葉をいま思い出して、俺は歯噛みをした。

 

「……気を取り直しましょう。(エンド)(ゲーム)に差しかかっているのだから、気は抜けないわ。これからよ」

 

部長は自分にも言い聞かせるようにそう言った。

 

第六試合のダイスを振るときが迫っていた。両『(キング)』がダイスを振る。

 

その合計数字は――12ッ!!

 

『出ました!ついに12が出ました!!この数字が意味することは、サイラオーグ選手が出場できるということです!』

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

実況の声に観客が大いに沸いた。

 

それに呼応するかのように、サイラオーグさんが陣地で上着を脱いだ――。

 

戦闘用に用意したのか、上着の下にはビッチりとした黒い戦闘服らしきものを着込んでいた。見事な体格が浮き彫りとなる。

 

――サイラオーグさんの視線がこちらに向いた。

 

ゾクリとするほどに戦意に満ちた双眸だった。全身の毛穴が開くほどの重圧。それが俺たちに向けられた。

 

「イッセーくん」

 

俺の肩に手を置く祐奈。祐奈は真っ直ぐにつぶやいた。

 

「僕とゼノヴィアとロスヴァイセさんでサイラオーグさんと戦う」

 

騎士(ナイト)』二人で6、『戦車(ルーク)』一人で5、合計で11か。

 

「……そうか」

 

俺はそう返した。普通なら「俺が行くっ!」って言うだろうけど、祐奈の決意は固いだろう。

 

「できるだけ相手を消耗させるつもり。イッセーくんと部長のために」

 

「あぁ、頼む」

 

「祐奈!あなた、まさか……」

 

部長が言わんとすることを察して、彼女はうなずいた。

 

「僕単独ではサイラオーグ・バアルには勝てません。そんなことは重々承知です。では、僕の役目は?簡単です。出来るだけ相手の戦力を削ぐこと。この身を投げ捨ててでも――。ゼノヴィア、ロスヴァイセさん、付き合ってくれますか?」

 

祐奈の問いかけにゼノヴィアとロスヴァイセさんがうなずいた。

 

「あぁ、もちろんだ。イッセーと部長がうしろに控えているというだけで、こんなにも勇気が持てるとはな。朱乃副部長の想いがよくわかる」

 

「役目がハッキリしている分、わかりやすくていいですね。――できるだけ、長く相手を疲弊させましょう」

 

皆、覚悟が決まった顔をしていた。俺は――強く握った拳に血をにじませながらも笑みで応えていた。

 

勝利のために、仲間のために、一手でも多く相手チームの(チェッ)(クメイト)を目指す。

 

「……イッセーと祐奈か、ゼノヴィアが組めば――」

 

部長がそう言うが、祐奈が首を横に振る。

 

「ダメです。イッセーくんをここで出すわけにはいきません。アーシアさん、この試合のあと、おそらく相手の『女王(クイーン)』とイッセーくんが戦う。そうなると――」

 

祐奈が口にしている作戦に部長が続いた。

 

「そうなると残る相手は二人だけれど、ルール上、イッセーが連続で出場できないわ。だから、次の次の試合はアーシアが出場することにすればいい。そして戦わずにすぐにリザインする。最終決戦となれば回復役のアーシアは必要なくなるでしょうから、そこでリタイヤさせて、後続のイッセーに繋げる。そして、その次の試合はサイラオーグの性格からすれば、相手は『兵士(ポーン)』を出さずに、イッセーとサイラオーグの最終決戦になるわ。――そういうことね、祐奈」

 

部長の問いに祐奈は満足にうなずいた。

 

「はい。やはり、そこまで作戦を立てていてくれたんですね……だからこそ、ここが正念場になります。――僕たちがサイラオーグ・バアルの力を削ります」

 

祐奈は爽やかな笑顔だった。

 

「それにやれるなら倒す!」

 

ゼノヴィアは気合に満ちていた。祐奈は苦笑する。

 

「そうだね、そのつもりでもあるよ」

 

部長は覚悟を決めたのか、大きく息を吐いた。

 

「お願いするわ、三人とも。サイラオーグに少しでも多くのダメージを与えてちょうだい。……ゴメンなさい。さっき、心中で覚悟を決めたばかりなのに、またあなたたちに教えられてしまったわ……。本当に私は甘くて、ダメな『(キング)』ね」

 

部長の自嘲に祐奈は首を横に振った。

 

「僕たちは部長に出会って、救われました。ここまで来られたのも、部長の愛があったからこそです。――あなたに勝利を必ずもたらします。僕たちで」

 

祐奈はそれだけを言い残し、ゼノヴィアとロスヴァイセさんと共に転移魔方陣へ向かっていく。

 

その三人に俺は親指を立て、笑顔で送り出す。

 

「……頼んだぜ。祐奈、ゼノヴィア、ロスヴァイセさん」

 

三人は魔方陣の上でうなずくと、バトルフィールドへ転送されていった――。

 

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