ハイスクールD×D 力ある者   作:塩基

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怒りの赤龍

両者が転移したのは、湖の湖畔(こはん)だ。少し前に到着して、腕組みをした状態で待機していたサイラオーグ。

 

サイラオーグは少しあとに転移してきたリアスの――祐奈、ロスヴァイセ、ゼノヴィアを見て言う。

 

『リアスの案か?』

 

すべてを認識した上での台詞(セリフ)だろう。それに対して祐奈たちは何も答えなかったが、サイラオーグは感心したように口の端を吊り上げていた。

 

『そうか。リアスは一皮むけたようだ』

 

サイラオーグは組んでいた腕をとき、三人に告げる。

 

『おまえたちは俺に勝てん。いいんだな?』

 

『ただでは死にません。――最高の状態であなたを赤龍帝に送り届けるッ!』

 

祐奈の覚悟が決まった言葉に、サイラオーグは打ち震えているようだ。

 

『いい台詞だッッ!!おまえたちはどこまで俺を高まらせてくれる……ッ!!!』

 

『第六試合、開始してください!』

 

審判(アービター)からの開始の合図が下りる。

 

刹那――、サイラオーグの四肢に奇妙な紋様が浮かび上がった。

 

『これは、俺の体の縛り、負荷を与える枷だ。――これを外させてもらおう。全力でおまえたちに応えるッ!!』

 

パァァァァ、淡い光がサイラオーグの四肢から漏れると、紋様が消失していった。

 

次の瞬間、ドンッ!!とサイラオーグを中心に周囲が弾けとぶ!風圧が巻き起こり、サイラオーグの足元は激しく抉れ、クレーターとなった。

 

湖の水が大きく揺れ、波立つ。クレーターの中心で白く発行するサイラオーグの体。

 

サイラオーグが体にまとっているのは――闘気だ。…仙術か?いや、俺や黒歌、白音の用いているものとは違うな…。

 

俺がそう思ったとき、隣に座っているアザゼルが言う。

 

「……なんて奴だ。闘気をまとってやがる。しかもここまで可視化するのほどの濃厚な質量……」

 

『となりますと、サイラオーグ選手は気を扱う戦闘術を習得していると?』

 

実況が疑問をアザゼルにぶつけた。

 

「いや、サイラオーグが仙術を習得しているという情報は得ていない」

 

俺はアザゼルに続けて言う。

 

「えぇ、サイラオーグの出している気は……純粋そのものようですね。仙術ではなく、内から――生命の力といったそのものをまとっている。…眼を通して見ていますが、かなり厚い……ッッ!!」

 

皇帝(エンペラー)ベリアルが続く。

 

「はい、龍介団長の言う通り、彼は仙術を一切習得していませんよ。あれは、体術を鍛え抜いた先に目覚めた闘気です。純粋にパワーだけを求め続けた彼の肉体はその身に魔力とは違う、生命の根本というべき力をまとわせたのです。彼の有り余る活力と生命力が噴出して、可視化したと言っていいでしょう」

 

サイラオーグはもともと魔力の素質がゼロだ。修行であの闘気を身につけるのは必然的だったのかもしれない。

 

俺は全員の目線がサイラオーグたちの試合に注目している隙をついて木分身と入れ替わり、蜉蝣(かげろう)で解説室を抜け出した。

 

                    D×D

 

木分身と入れ替わった俺は蜉蝣(かげろう)で床に潜り込んで病室で治療しているギャスパー、白音、朱乃の様子を伺ってみることにした。

 

天井から顔を出して部屋のなかを見ると、包帯でグルグル巻きになっている人物がベッドの上で横になっていた。

 

ベッドの識別用のプレートからしてその人物――ギャスパーは片目以外を包帯で巻かれていて、一目では誰だか判断できない。

 

その片目もいまは閉じていることからして、寝むっているのだろう…。

 

俺は壁を伝い、近くにある小さなテーブルの上に音を立てないように神威(カムイ)で取り出した小さな瓶とメモ書きをそっと置く…瓶の中身は治癒力を向上させる薬が入っている。もちろん、俺が調合しておいたものだ。

 

再び壁のなかに潜り込んで移動する。

 

次に顔を出したところは…白音の病室のようだ。

 

白音はベッドを起こして背を預けた状態で宙に浮いているモニターを凝視していた。俺の気配は完全に消えているので、元猫又の白音に気づかれることはない。

 

白音もギャスパーと同様に包帯を巻いているが、治癒力を高めるだけの仙術だけあって怪我の範囲は狭く箇所的に頭部の額と両腕だけだ。その巻かれている腕に填めていたISの腕輪はテーブルの上に置かれている…ひびが入っているところから見ると、かなり破損状況が酷いようだ。

 

俺は物陰からテーブルの上に小さな瓶とメモ書きをそっと置いて再度壁に潜った。

 

移動して顔を出したところは…朱乃の病室だ。

 

こちらも白音同様に宙に浮いているモニターを凝視している。

 

俺は気づかれないようにそっと小瓶とメモ書きをテーブルの上に置いた。

 

『リアス・グレモリー選手の「戦車(ルーク)」一名、リタイヤ』

 

モニターの映像から審判(アービター)の判定の下りる声がした。こっそりと映像を見てみると……映っている映像が激しく揺れ、サイラオーグの前方の地面が遥か先まで――まるで、地割れでも起こしたような割れ方をしていた。

 

――なんつぅ拳打だ…。まるで尾獣クラスだぞ…おい。

 

俺は審判(アービター)の判定からロスヴァイセが転送されたことを思い出して、すぐに床へ潜り込んだ。

 

しばらくして天井から顔を出すと、そこの病室では運ばれてきたロスヴァイセの治療が始まっていた。

 

俺は再度潜ると、少し違う方向へ移動した。

 

顔を出したところは…誰もいない控え室の床だ。

 

俺はこの部屋のモニターで試合を見る。

 

『――見事としか言いようがない。おまえたちと戦えたことに感謝する』

 

横たわっていた祐奈とゼノウィアが光に包まれていった直後、切断された右腕を拾ったサイラオーグがそう言った。

 

『リアス・グレモリー選手の「騎士(ナイト)」二名、リタイヤです』

 

俺はそれを確認してすぐにロスヴァイセのいる病室へ、再度床に潜って移動した。

 

                    D×D

 

治療が終わってベッドの上で寝ているロスヴァイセの近くにあった花の添えてある花瓶の横に小瓶とメモ書きを置いて床のなかを移動する。

 

次にゼノウィアのいる病室の天井から顔を出して、治療が終わっていることを確認してからテーブルの上に小瓶とメモ書きを置いた。

 

床に潜って移動し、祐奈の病室前の天井から顔を出す。ちょうどそのタイミングで医者やナースたちが部屋から出ていった。

 

俺は寝ている祐奈以外誰も部屋にいないことを確認して、花瓶の横に小瓶とメモ書きを置いて床に潜って解説室に戻る。

 

解説室に戻ると、顔を出して誰も俺に気がついていないことを確認して木分身と入れ替わった。

 

試合は……ちょうどイッセーがバトルフィールドに転送されてきたところのようだ。対するは『女王(クイーン)』のクイーシャ・アバドン。

 

木分身を取り込んだ俺は、先ほどまでの戦況を把握した。

 

『兵藤一誠、妙な落ち着きを見せますね。女である私が相手ならばもっと喜ぶかと思ったのですが……」

 

『………。うれしいっスよ!美人は歓迎します!!』

 

イッセーは一泊あけて、わざとらしい笑みを見せる。

 

俺はわかっている。そして、この状況を理解してもいた。

 

――爆発寸前だと。

 

俺と同等……それ以上の仲間想いのイッセーはいまのいままで騒ぐようなことはなかった。感情…『怒り』と『悲しみ』の強いイッセーが、いまも落ち着きを保ち、冷静でいる…。

 

審判(アービター)が両者の間に現れ、戦闘が開始される寸前のことだ。

 

イッセーが両手を広げて、ぶつぶつと独り言を始める。

 

『もう、いいよな?もう、我慢しなくていいよな?祐奈、朱乃さん、白音ちゃん、ゼノヴィア、ロスヴァイセさん。――俺、もう無理だわ』

 

そのつぶやきにサイラオーグの『女王(クイーン)』は怪訝な様子だったが…。

 

『第七試合!開始してください!!』

 

それが告げられたが……、サイラオーグの『女王(クイーン)』は特に何もせずにイッセーの行動を待っている。

 

『赤龍帝、(バランス)(・ブレイカー)となりなさい。私の主サイラオーグさまはあなたの本気の姿を所望している。ならば『女王(クイーン)』の私もそれを望みましょう』

 

少しの間が空き、カウントが済んだイッセーが鎧を身にまとい、一言だけ、サイラオーグの『女王(クイーン)』に漏らした。

 

『……俺の中に眠っている力が出てくるので、手加減できません。死にたくなかったら、防御にすべてをつぎ込んでください。そうすればリタイヤだけで済むと思いますから』

 

うっすらと鎧の外側に朱いオーラ――九喇嘛(クラマ)のチャクラをまといだすイッセー。

 

「言ってくれるわね。いいでしょう。私も全力であなたに臨みます。赤龍帝だろうと、我が主のため私は――」

 

『――警告はしました』

 

イッセーの体が赤い閃光に包まれていく――。

 

(ウェルシ)(ュ・ソ)(ニックブ)(ースト)(・ナイト)ォォォォォォッッッ!!!』

 

Change(チェンジ) Star(スター) Sonic(ソニック)!!!!』

 

鎧がパージされ、イッセーが目に留まらぬ神速で飛び出し――。

 

サイラオーグの『|女王《クイーン』」が認識することができない速さで眼前にたどり着いていた。俺の写輪眼をもってしても、軌跡をたどって追いつくことができたほど速い!!

 

イッセーは体に赤いオーラをまとわせて叫ぶ!

 

(ウェル)(シュ・)(ドラゴ)(ニック)(・ルーク)ゥゥゥゥゥゥッッ!!』

 

Change(チェンジ) Solid(ソリッド) Impact(インパクト)!!!!』

 

肉厚になるイッセーの鎧と衣。

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!』

 

絶叫を張り上げたイッセー。肘にある撃鉄を打ち鳴らし、オーラを吹き上げながら拳の勢いが激しく増す。その上に衣のオーラも付加されて加速した。その一撃がサイラオーグの『女王(クイーン)』に容赦なく降りかかって――。

 

パァァァッ。

 

その前にサイラオーグの『女王(クイーン)』の体が光に包まれて、フィールドから転送されていった…。

 

ゴゥゥゥゥゥゥウゥゥンッ!!

 

空を切った絶大な一撃は、眼前のコロシアムを跡形もなく破壊していく。

 

『サイラオーグ・バアル選手の「女王(クイーン)」、リタイヤです』

 

審判(アービター)がそれを告げる。いまの一瞬…イッセーはトリアイナコンボで決着をつけようとした。

 

…だが、そのコンボによる一撃は――『女王(クイーン)』のリタイヤによって空を切ったのだ。

 

強制リタイヤをした……それをできるのは、主である『(キング)』のみ。――サイラオーグだ。

 

モニターの映像にサイラオーグが映り込む。

 

その表情は苦渋に塗れていた。

 

『…………俺が強制的にクイーシャをリタイヤさせた。あのままでは赤龍帝に殺されるところだったからな。殺すつもりだったのだろう?』

 

サイラオーグがバトルフィールドにいるイッセーに語りかける。

 

イッセーはマスクを収納して、顔を見せて言った。

 

『すみません。あなたたちへの敵意が止まらないもので。いまのは後輩たちの分ってことで許してください』

 

冷淡な声音と残酷な言葉を発したイッセーに、俺は軽く畏怖してしまった…。

 

……やはり、内側に溜めこんでいた想いを爆発させた、と。

 

それを理解してサイラオーグがうれしそうに笑んだ。

 

『なんて目を向けてくれる……ッ!殺意に充ち満ちているではないか……ッ』

 

サイラオーグがカメラ目線で訴えかける。

 

『赤龍帝と拳を交える瞬間を俺は夢にまで見た。――委員会に問いたい。もう、いいだろう?この男をルールで戦わせなくするのはあまりに愚だ!――俺は次の試合、こちらの全部とあちらの全部での団体戦を希望する……ッ!』

 

――団体戦か…。確かにそのほうが会場のボルテージが上がるし、楽しめるな。

 

サイラオーグは最高のいまの状態のイッセーと戦いたい、イッセーもそれを望んでいると思う。

 

サイラオーグの提案に観客がどよめき、実況も叫ぶ。

 

『おおっと!ここでサイラオーグ選手からの提案が出てしまいましたーっ!』

 

ディハウザー・ベリアルがにこやかに言う。

 

「確かにこのあとの流れは簡単に読めてしまう。連続して出られないルール上、次がバアルの「兵士(ポーン)」とグレモリーの「僧侶(ビショップ)」、その次が……おそらくサイラオーグと赤龍帝の事実上の決勝戦となるでしょう。それはもう読めてしまう。あまりにもつまらないという点はありますね」

 

アザゼルもあごに手を添えながら意見を口にする。

 

「それならば、次を団体戦にしてケリをつける。分かりやすいし、このテンションを継続して見られるだろうな。さて、委員会の上役は読める流れを取るか、この状況を維持したままの団体戦を選ぶか」

 

「そうですね、大王家の次期当主のサイラオーグ・バアルと二天龍の一角『赤龍帝』兵藤一誠の対戦カードを見るために来場されたかたが大数を占めているでしょうし……、会場の盛り上がりを下げるようなことはしないでしょうね。レイティングゲームそのものの評価が下がってしまうのは、大変でしょう」

 

俺も二人の言葉に続いて言う。……少しきつかったかな?

 

少し時間が流れ、実況席に一報がもたらされた。

 

『え、はい。いま、委員会から報告を受けました!――認めるそうです!!次の試合、事実上の決定戦となる団体戦です!両陣営の残りメンバーの総力戦となります!!』

 

その報告に会場が沸き上がる。

 

待ちに待っていた対戦カードが始まるのだから、それは当然の反応だろう。

 

サイラオーグは決定を聞き、イッセーに不敵に告げた。

 

『――だそうだ。やりすぎてしまうかもしれん。死んでも恨むなとは言わんが、死ぬ覚悟だけはしてくれ』

 

イッセーも口の端を吊り上げて、返していく。

 

『――殺す気で行きます。そうじゃないとあなたに勝てなさそうだし、リタイヤしていった仲間に顔向けできないんで』

 

『たまらないな……ッ』

 

――誰にも止められない『獅子王』と『赤龍帝』の戦いが、始まろうとしていた……。

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