俺は目を覚まして首を起こす。
あのあと、白い空間の扉を出た瞬間に意識が体に戻されたんだ。
『おおっと!赤龍帝が紅いオーラに包まれたと思ったら、スイッチ姫のおっぱいフラッシュを浴びて、鎧を変質させて立ち上がったーっ!』
なんてことを実況が叫んだ。
俺は映像に目をやって確認する――。
……紅く変化した鎧をまとうイッセー。どうやら、完全に復活したみたいだ。
少し驚いていた俺の隣に座っているアザゼルが言う。
「赤いオーラ……。いや、赤ではない。もっと鮮やかで、気高い色。あれは――。――真紅のオーラ。そう、紅だ。『
――紅か。って、おいおい、いまちゃっかりだが、イッセーの気持ちを代弁してなかったか?
「あいつにだけ許された奇跡か……ッ!ていうか、今回はリアスの乳を吸ってパワーアップするんじゃなかったのか!?」
……あ~、アザゼルはそこを見たかったってわけか…ご愁傷さまです。
イッセーの変貌を見て、獅子の鎧を着込むサイラオーグが言う。
『――「
イッセーは息を深く吐いて、決心した言葉を口にしだす。
『惚れた女のイメージカラーだ。部長は、リアス・グレモリーは俺が惚れた女だ。惚れた女を勝たせたい。惚れた女を守りたい。惚れた女のために戦いたい。俺は――俺はッ!』
イッセーは天高く叫ぶ!!もう、完全にやけくそのようだ。
『俺を求める冥界のこどもたちと、惚れた女の目の前であなたを倒すッ!!俺の夢のためッ!子供たちの夢のためッ!リアス・グレモリーの夢のためッ!!俺は今日あなたを超えるッ!俺はリアス・グレモリーが大好きだぁぁぁぁぁぁああああっっ!!!』
イッセーの隣に立っているリアスの顔が真っ赤を通り越した真っ赤になっていた。「……こっちも紅色だ!」って言いたくなるほどに…。
『ハハハハハハハハハッ!!』
イッセーのリアスへの告白を聞き届けたサイラオーグが、豪快に笑いだす。
『リアスの胸が発する光を浴びて、何かに目覚めたようだな。ならば俺はそのおまえを打ち倒し我が夢の糧とするッッ!』
イッセーが膨大な紅いオーラをまとって、神速で飛び出していく。
『
飛び出した勢いだけで周囲の景色が吹き飛びそうになっている。その速度はトリアイナの『
サイラオーグも全身に闘気をみなぎらせてイッセーを迎え撃つ格好を取る。
『
お互いが殴り、殴られ、ひたすら殴り、ひたすら殴られる。
顔を、腹を、腕を、脚を。ただただ、殴り続け、殴られ続ける。鎧が弾けるが、すぐに修復され、再び放り込まれた拳で破壊される。
お互いの拳が、お互いの体を破壊していく――。
そのたびにフィールド全体が大きく震え、地が避け、次元に穴が開く。
バカげるほどに単純な、威力に満ちた打撃戦。
実況が叫ぶ。
『殴り合いですッ!壮絶な殴り合いがフィールド中央でおこなわれておりますッ!!華麗な戦術でもなく、練りに練られた魔力合戦でもなく、超々至近距離による子供のような殴り合いッ!!殴って、殴られて、ただそれだけのことが、頑丈なバトルフィールド全体を壊さんばかりの大迫力で続けられておりますッ!観客は総立ちッ!!スタンディングオベーション状態となっておりますッ!!ただの打撃合戦に老若男女が興奮していますッ!!!よくやるぜ、二人ともォォォォッッ!!!!』
「「「「「「「「「「サイラオーグゥゥッ!!!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「おっぱいドラゴンッ!!おっぱいドラゴンッッ!!!!」」」」」」」」」」
大人子供がサイラオーグとイッセーを応援している。
『俺はッ!あんたを倒してッ!!上に行く……ッ!!!』
イッセーの右腕を紅いオーラが覆い、右腕のみをトリアイナの『
『
サイラオーグの腹部に突き刺さるイッセーの拳。
それを食らったサイラオーグが膝をつく…。
震えている足。ダメージは深刻のようだ。
サイラオーグは自身の足に激高した。
『どうした、足よ!何故震える!?まだ!!まだこれからではないか!!!』
地を大きく踏み込み、サイラオーグは立ち上がる。
『保て!保て俺の体よ……ッ!!このような戦い、いま心底味わわずに大王バアル家の次期当主が名乗れると思うのか……ッ!!!」
イッセーは迫るサイラオーグの太ももに目掛けてローキックを放つ。
ガシャッ!!
そのキックがサイラオーグの鎧ごと太ももを破壊した。
サイラオーグの体がぐらつくのを間髪入れず、イッセーは顔面を鋭く拳でぶち抜く。兜が割れ、生身の顔にイッセーの拳がもろに入り込む。
拳打の勢いで後方に吹き飛ぶサイラオーグ。イッセーは両翼からキャノンを出現させ、吹き飛ぶサイラオーグに照準を合わせる。
静かに鳴動が始まり、トリアイナの『
『クリムゾンブラスタァァァァァァァァァアッ!!』
『
紅色のオーラが放射され、サイラオーグを包み込む。強大な爆発を生みだしたあと、煙が止み、地を大きくえぐってできた巨大なクレーターの中央に――サイラオーグが倒れていた。動く気配がない。――イッセーの魔力の砲撃が通ったようだ。
その瞬間、会場が沸きあがった――。
もう、立てないだろう。先ほどの一撃や他の攻撃でかなりのダメージが蓄積されたはず――。
そのときだった――。俺の視界――映像のなかに……女性が一人、ゆらりゆらりと出現した。
俺は瞬時に眼を輪廻眼に変更させて見た。――間違いない、魂そのものだ。
それは……サイラオーグの傍らに立ち、何かを話しかけているようだ。
イッセーは気づいているみたいだが、その他はまったく気がついていない様子だ。
『―――なさい!』
女性は静かに、確かな口調で話し始めた。
すると、サイラオーグが、僅かに動いた。そして、顔をあげる。ボロボロと化した顔。目は虚ろだが、瞳の奥にまだ強い意志を感じる。
女性がサイラオーグを呼ぶ。
『サイラオーグ』
……誰だろうか?どこか、サイラオーグを思わせる雰囲気を醸し出しているな…もしかして、サイラオーグの母親か?確か、シトリーの領にある病院で昏睡していると聞いていたが……。
俺は先ほどの言動や雰囲気から、女性がサイラオーグの母親と想定する。それなら、この状況を理解できるからな。
その声は必死に戦う息子を
『立ちなさい。立ちなさい!サイラオーグ!』
女性の表情は厳しく、誇り高く、気丈なもの――。その声は応援などなく、息子を叱咤する母親のそれだ。
『あなたはだれよりも強くなると私と約束したでしょう!』
サイラオーグの体が――動いた。それは徐々に確かになっていき、手が動き、腕が動き、足が動いて、体が持ち上がり始めた。
『夢を叶えなさい!あなたの望む世界を、冥界の未来のために、自分が味わったものを後世に残さないために、そのためにあなたは拳を握りしめたのでしょう!』
その言葉がサイラオーグに届いているものなのかはわからない。聞こえてはいないのかもしれない。
『たとえ生まれがどうであろうと結果的に素晴らしい能力を持っていれば、誰もが相応の位置につける世界――。それがあなたの望む世界のはずです!これから生まれてくるであろう冥界の子供たちが悲しい思いを味わわないで済む世界――ッ!それを作るのでしょう!!』
女性は徐々に消えていくなか、最後に一瞬だけ微笑みを浮かべた。その表情は自慢の息子を見る母親の顔のそれだった。
その瞬間だ。
地を大きく踏みしめ、血をまき散らしながら、イッセーの眼前の
『さあ、いきなさい。私の愛しいサイラオーグ。あなたは―――私の息子なのだから』
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!』
獅子が咆哮を上げた。
オオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ……!!!!
それは雄々しく、しかし、どこか悲哀にも感じて――透き通るほどに見事な獅子王の
咆哮だった。崩壊する会場が大きく震えている。
『兵藤一誠ッ!!負けんッ!俺はッ!!俺には叶えねばならないものがあるのだッ!!!』
サイラオーグがイッセーに向かっていく……ボロボロのぐしゃぐしゃの状態で。
『俺だって!負けられねぇんだよォォォォォォッ!』
イッセーも呼応して飛び込む。
イッセーとサイラオーグの拳が同時にお互いの顔面に鋭く食い込む。
イッセーが幾度と殴ってもサイラオーグは倒れない。ギラギラとした双眸を一時も薄めないまま、サイラオーグはイッセーに拳を放り込む。
そのときだった……俺はなにかの異変に気がついた。
瞬時に眼を白眼へ変更させて……納得した。
――サイラオーグは……とっくに気を失っていると…。
『……はぁはぁ……お、俺にも夢がある……!!部長を……ゲーム王者にして……』
イッセーはフラフラになりながらも、それでも前に進み、サイラオーグに拳を放つ。
『俺も……いずれ王者になる……ッ!誰よりも強くなるッ!俺はッ!最強の『
……やめろ、とっくに勝負はついている!!
俺は試合を止めようとした――だが、そんなことはできなかった。
……止められない、止められるはずもない。
ドゴンッ!
イッセーの拳打がサイラオーグに届く。芯に響くほどの一撃だと、思わざるを得ないものだ。
サイラオーグはふらつき、ぐらぐらと体を揺らすが――倒れない。
――サイラオーグ、おまえは……ッ!!
イッセーは鎧を維持する力を失ったようで、
それでもイッセーは生身の拳でサイラオーグに立ち向かおうとしていた……。
『……赤龍帝……もういい……』
そのとき、サイラオーグの鎧の胸部分にある獅子が声を発した。
『……我が主は……サイラオーグさまは……』
獅子は目の部分から、涙を溢れさせている。
『サイラオーグさん……?』
イッセーもようやく気がついたようで、突きだそうとしていた拳を収めた。
『……サイラオーグさまは……少し前から意識を失っていた……』
……あぁ、そうだ。
『それでも……うれしそうに……ただうれしそうに……向かっていった……。……ただ、真っ直ぐに……あなたとの夢を賭けた戦いを真に楽しんで……』
獅子は慟哭した。
……そう、サイラオーグは意地だけでイッセーと戦っていた。意識を失おうとも、自身の夢のために――。
イッセーはサイラオーグに頭を深く下げていた。そしてそのボロボロの体を抱きしめ、震える声で叫ぶ。
『……ありがとう……、ありがとうございましたぁぁあッッ!!』
『サイラオーグ・バアル選手、
最後のアナウンスがされ、会場が熱気に包まれていった。
D×D
止まない大歓声のなか、意識を失ったのかイッセーが倒れ込んだ。
「アザゼル!俺はイッセーとサイラオーグのところに飛ぶ。救護班に連絡を入れてくれ!」
そう言い残して俺は
気を失った状態で立っているサイラオーグを横にし、イッセーを仰向けに寝かせると、双方に
「おい!治療チームはまだか!!」
アザゼルも心配のようで、魔方陣を展開して駆けつけてきた。
すると、俺の横に濃い霧が発生し……花楓が転移してきた!
「お兄ちゃんはサイラオーグさんのケガをお願い。花楓はイッセーのを診るから!」
俺と花楓は手分けをしてサイラオーグとイッセーの治癒に当たる。
――観客、救護班、アザゼル……皆の見守るなか、俺と花楓はほぼ同時に治癒を止めた。
「……ふぅ。大きな傷やダメージは治癒、緩和できた。応急処置はここまでだ」
「こっちも同じ。大体は回復できたから、大丈夫だと思います」
「そうか…、治療チーム!二人を治療室に運べ!!」
アザゼルの指示に救護班は担架にサイラオーグとイッセーをそれぞれ乗せ、魔方陣を展開して転移していった。
D×D
目が覚めるとそこは見知らぬ天井だった。
「……ここは?」
周囲を見渡せば自分は包帯姿で病室のベッドにいることがわかる。
……試合に勝ったまでは覚えているんだけど……。あのあと、気を失った?
「起きたか」
――っ。聞き覚えのある声!!隣を見れば――包帯姿のサイラオーグさんだった。
「サイラオーグさん……。と、隣のベッドだったんですね」
「偶然にもな。病室なら余っているだろうに。サーゼクスさまかアザゼル総督か、体力が回復するまでの話し相手としてマッチングしてくれたのかもしれないな」
ははは、ベッドでまで戦いたくありませんよ……。
「……負けたか」
サイラオーグさんがそうつぶやく。
「……悪くない。こんなにも充実した負けは初めてかもしれないな。だが、最後の一瞬はよく覚えていない。気づいたらここだった」
「俺も……正直、記憶が飛び飛びで」
「ひとつだけハッキリしている。――とても最高の殴り合いだった」
――確かに。清々しささえあった。
「俺もボコボコになって、ボコボコにしてやって、変に気分がいいです」
お互いに包帯姿で笑みを見せる。そこへ入室してくる者がいた。
「失礼するよ」
「邪魔するぞ」
紅髪の男性と黒髪の男性。サーゼクスさまと兄さんだ。
「サーゼクスさま、と兄さん」
「やあ、イッセーくん、サイラオーグ。本当に良い試合だった。私もそう強く思うし、上役も全員満足していたよ。二人の将来が楽しみになる一戦だった」
サーゼクスさまは激励を俺とサイラオーグさんに送ってくださったあと、近くの椅子に腰をおろした。
……兄さんが終始ニヤついているのはなんだろうか?気になるんだけど!?
「さて、イッセーくんにお話があるんだ。サイラオーグ、しばし彼と話していいだろうか?」
「俺はかまいません。……席を外しましょうか?」
「いや、かまわないよ。キミもそこで聞いておいて損はないかもしれない」
サーゼクスさまが真面目な顔でおっしゃる。
「イッセーくんに昇格の話があるのだよ」
……。
俺はいま、言われた意味が理解できなかった。
しかし、サーゼクスさまが続ける。
「正確に言うとキミと祐奈くんと朱乃くんだが。ここまでキミたちはテロリストの攻撃を防いでくれた。三大勢力の会談テロ、旧魔王派のテロ、神のロキですら退けた。そして先の京都での一件と今回の見事な試合で完全に決定がされた。――近いうちにキミたち三人は階級が上がるだろう。おめでとう。これは異例であり、昨今では稀な昇格だ」
笑顔でそう言うサーゼクスさま。
「へ……?」
しょ、しょ、しょ、しょ、昇格ぅぅぅぅぅっ!!
「お、俺が昇格!?え!?プロモーションとかじゃなくてですか!?」
俺の問いに兄さんが吹き、サーゼクスさまは笑む
「それだけのことをキミたちは示してくれた。まだ足りない部分もあるが、将来を見込んだ上でということだよ」
いまだ、事の成り行きがわからない俺にサイラオーグさんが言う。
「受けろ、兵藤一誠。おまえはそれだけのことをやってきたのだ。出自など関係ない。おまえは――冥界の英雄になるべき男だ」
…そ、そんなことを言われても俺は……。
混乱する俺を見て、兄さんは笑い、サーゼクスさまも苦笑されていた。
「うむ。詳細は今後改めてそちらに通知しよう。きちんとした儀礼を済まして昇格といきたいのでね。会場の設置や承認すべき事柄もこれから決めていかないといけないのだよ。では、これで失礼する」
それだけを言い残して魔王さまが退室していく。
残された俺とサイラオーグさんと兄さん。
や、やべぇよ、俺!!どうしよう!わけわかんねぇよ!!
混乱する俺にサイラオーグさんが言う。
「昇格もいいが、それよりもいまは――リアスのことだ。おまえは、好きなのだろう?リアスのことが」
――っ。
「えっと……はい。大好きです」
「なら、もう一度想いを伝えてみたらどうだ?今度は真っ正面で二人きりでだ。――あれだけの大衆の前で惚れた女と叫んだのだ、今更だろう」
俺はおそるおそる口にした。
「……俺……俺、自信持っていいんですよね?」
「ダメならダメで俺のところへ来い。
「……サイラオーグさん、ありがとうございます。俺……俺!!」
いいヒトすぎて泣けてきた。
今度このヒトと改めてお茶を飲みたいと思った。
そのあと、兄さんからもらったすごく苦い小瓶の薬を飲むと、安静のために横になって目を閉じた。
D×D
「一列になってお並びくださーい!」
ウェイトレス姿のアーシアが、廊下に並ぶ生徒たちを整列させていた。喫茶店のために並ぶ長蛇の列だ。
「はーい、こちらは占いの館とお祓いコーナーですよー。遠山白音ちゃんと姫島朱乃先輩が占いとお祓いをしてくれまーす」
「こっちもリコりんがいろいろなメイクをしてくれるっすよ~。もちろん、女子限定っすけどね~」
イリナとミッテルトがウェイトレス傍ら、各コーナーの呼び子をしている。
学園祭当日、旧校舎を丸ごと使ったオカルト研究部の出し物は大盛況だ。……なぜか、俺たち学生でもない者たちもかり出されていた。
まぁ、オカルト研究部と遠山家の女子たちは大人気だ。
「はーい、チーズ」
……と、喫茶店で写真を撮っているのはウェイトレス姿のリアスや奏たち部員だ。
俺の隣にいるイッセーは、リアスのウェイトレス姿が素晴らしいらしく、涙を流していた。
「イッセーくん、見てないでこちらに来て」
祐奈がお化け屋敷となっている教室から顔を出していた。イッセーはこの時間、お化け屋敷のフランケンシュタイン役。理子が手伝った専用のメイクをしている。ギャスパーはドラキュラ役なんだが……怖がられるどころか、逆にかわいがられている。
……他にもお化け屋敷のなかで役に没頭中の者が数人いる。
ゾンビだったり、ホムンクルスだったり……。
「僕、このまま喫茶店の手伝いに戻るから、仕掛けのことはよろしくね」
「へいへい」
各コーナー、大盛況なのだが、皆、行ったり来たりと旧校舎内を駆け回っている。
俺も休憩時間を終えたので、お化け屋敷の案内役にもどる。
「足元に気をつけてお進みください……うらめしや~」
決まり台詞のように言う。俺の姿は……なぜか、女性の幽霊だ。
特殊メイクで女性らしい姿になっている。これが悲しいことに、誰も女装しているとは気がついてくれないのだ…。しかも、男女関係なく見とれてしまうほどの容姿みたいだそうな…。
少し離れたところでフランケンシュタインに没頭しているイッセーが、お客さんの女子を驚かせようと――、
「がーっ!」
勢い良く飛び出していた。
「キャーッ!!変態の兵藤よ!犯される!!」
バシーンッ!と叩かれていた。
「わー、ドラキュラですよー。かみますよー」
「「きゃーっ!ギャスパーくん、きゃわいいっ!」」
ドラキュラ役のギャスパーは大好評の様子。
「あ、兵藤発見!やられる前にやるのよ!!」
バチーンッ!とまた、女子のお客さんに叩かれていた。しかも、脅かす前に。
…イッセー、日ごろの学校でのおこないのせいだと思うぞ……。
俺はそんな風に楽しみながら、役をこなしていった。
D×D
後半からは役を代わってもらい、俺はぶらりぶらりと一人で店を回っていた。
そんな風に歩いていると、眼前に射的屋が立っていた。
俺は暇つぶしに一ゲームでもしようかと思い、二百円を払っておもちゃの銃を受け取る。
軽く構えて撃とうとしたとき、近くから見知った声が聞こえてきた。
「よっしゃ、白音ちゃん。射的で俺に勝ったら、何かおごるよ!」
「……言いましたね?手加減しませんから」
俺の隣でおもちゃの銃を受け取っている二人に声をかけた。
「イッセー、白音……賭けごとでもする気か?」
「そうだよ、どっちが多くとれるか勝負するんだ」
「じゃあ、俺も雑ぜてもらおうかな?」
「えっ?兄さんも…」
バツが悪そうにするイッセーをよそに、俺はもう一丁おもちゃの銃を借りる。
「さーて、俺は二丁でいきますか」
表の世界で使っていた技術を解禁しようと思う…おもちゃの銃だけどね。
「兄さん、白音ちゃん、俺が合図するよ」
「りょーかい」
「……わかりました」
俺たち三人は銃をかまえる。
「――スタート!!」
D×D
「……ご馳走になります。兄さま」
とびっきりの笑顔で出店の食べ物を食べている白音。
勝負は俺が一位、白音が二位、ドンがイッセーだ。
さすがに俺がおごれと言うのは大人げないので、白音に全権をゆずった…。まぁ、もともとイッセーと白音の賭けごとだからな。
代わりに俺はイッセーと白音の買っていく食べ物を持つ係として、同行していた。
ちなみに、イッセーの結果は……0ポイントだ。
なぜ、0ポイントかって?ハハハ、俺がすべて邪魔したからだ。
――
この技により、俺の弾はイッセーの弾に当たって弾き飛ばし、もう一方の弾に当たって両方が軌道修正して同時に得物に命中するという方法だ。
だから、俺はフル得点(二丁分)でイッセーは0ポイントだ。
そんなとき、笑顔で食している白音の背中に抱きつく影が見えた――黒歌だ。
「にゃ~ん、白音、みぃ~つけた」
「……く、黒歌姉さま?」
突然現れた黒歌に驚く白音。
「あぁ~、わりぃ。イッセー、俺、用事思い出したわ。この荷物、黒歌にでも持たせといてくれ。んじゃ」
座っていたベンチに白音の荷物を置き、素早くトンズラした俺。
…事実、本当に俺には用事がある。それは、ルリエルたちと学園祭を回ること。
ルリエルたちの仕事の休憩の時間を利用して学園祭デートを決行するため、まずはルリエルとの待ち合わせ場所に移動した。
D×D
学園祭の終盤にさしかかり、校庭でキャンプファイヤーを焚いて、その周囲でオクラホマミキサーとなっていた。
俺はなんとかチケットを売り終わり、疲れた体で部室に戻る。
春奈ちゃんの料理は大好評だったし、理子ちゃんのメイクは女子受けがあって女性の先生たちも並んでいたぐらいの大評判だった。
お化け屋敷もすごく盛りあがっていた。なんでも、専用メイクの効果と演出がリアルで好評だった……俺以外はね。
そういえば、サーゼクスさまやレヴィアタンさまも今日来てた。顔見せだけですぐにグレイフィアさんや会長さんに引きずられていったけど……。
部室に入る俺。部室は特に会場にしなかったから、内部はそのまんまだ。
…と、中に誰かいる。部長の椅子に――部長が座っていた。いつの間にかウェイトレス姿から制服に着替えていたようだ。
「イッセー……」
俺を視界に捉え、そうつぶやいた。
「……お疲れさま」
「あ、はい」
「三年生だから、最後でしょ。だから、ちょっとここに戻りたくなって」
「な、なるほど……」
「…………」
「…………」
無言になる俺と部長。実は、あの戦いのあと、俺と部長は会話がギクシャクしてしまっていた。理由は当然――大衆の面前で俺が告ったからだ。
いま思い出しても恥ずかしい!!ノリの勢いとはいえ、俺もよくあんなところで好きな女だと告げたよな!あのあと、冥界の新聞には一面で報道されていた。
『おっぱいドラゴンとスイッチ姫、主従を超えた真剣恋愛か!?』って。その新聞を見ていた兄さんが『あの場とはいえ、最高の告白を見せてもらったぞ』とか言っていて、顔が真っ赤になったのは事実。
そして、サイラオーグさんの言葉が蘇える。
――もう一度想いを伝えてみたらどうだ?今度は真っ正面で二人きりでだ。
…………。
もう今更、か。
俺は覚悟してリアスの正面に立つ。生唾を飲み込むと息を深く吸って、上ずった声音で言ってやった。
「……リ、リアス……」
「………………………え?」
一瞬、呆然とした部長が訊き返す。
だから、俺はもう一度、はっきりと伝える。
「……俺、リアスのことが……リアスのことを一生守っていきたいです……。俺、惚れてます!!リアスのことが大好きです!!!」
「――っ」
言葉を詰まらせた様子の部長。次の瞬間、目から大粒の涙をぼろぼろと流していく。
青ざめて慌てる俺。部長は首を横に振って涙を拭った。
「…………違うの。私、私……。うれしくて――」
部長が俺のほうに歩み寄り、俺の頬をなでる。
「やっと、名前で呼んでくれた……。ずっと待ってた。ずっと待ってたのよ……。ううん、私、勇気がなくて、言えなくて……。もうダメかと思った……。けど、あのときあなたの想いを聞いて……本当にうれしくて、試合中なのにどうにかなりそうだった……」
…………。
それを聞いて、間の抜けた顔になる俺だが……。
それって――つまり!!
「……そ、そう思っていいんですか?」
俺の問いに彼女はうなずいた。
「……イッセー、私、あなたのことを愛している……。誰よりもずっと、あなたのことを――」
部長――いや、リアスのくちびるが俺のくちびるに近づいてくる――。
「リアス……」
「イッセー……」
――キス、しようとしたときだった。
ガタッ。
扉のほうで音がする。
「ちょ、ちょっと、押さないでよ、ゼノヴィア!」
イリナの声だった。
見れば、部屋の扉から部員の面々が顔を覗かせていた――ッ!!
「お、おめでとう、イッセー、部長!これで私も気兼ねなく言い寄れるんだな!!」
ゼノヴィアがギクシャクしながらもそう言う。
「あ、あの、お二人ともおめでとうございます!わ、私もこれでお姉さまのあとを追えます!!」
アーシアちゃんも見てたの!?
「あらあら、これで『浮気』を本格的に狙えますわね」
朱乃さんまで!!
「……ここからが本番です」
「…僕も……本気で…い、いくから」
白音ちゃんと祐奈、何を言っているの!?
「私も本気の本気でいかしてもらおう。覚悟しておきなさい?」
「私だって、本格的にイッセーくんの隣を狙うわ!」
カミュと夕麻ちゃんも!?
「ウチだって狙うにきまってるっすよっ!!」
「あたし狙うからなっ!サマーソルトの勢いで!!」
ミッテルトと春奈ちゃんも何を言っているの!?しかも、サマーソルトって……。
「あたしも狙うよ?ククク…」
裏理子さんの口調でそう言う理子ちゃん…怖いよっ!!
「感動しましたぁぁぁぁぁっ!」
ギャー助もか!?ふざけんな!!
「今日だけは不純異性交遊を認めてもいいんですよ?」
余計なお世話です、ロスヴァイセさん!てか、あなた教師でしょ!!
「……って、ことは――」
俺の勘がはたらいて、ぐるっと部室を見回してみる。すると――、
ソファとソファの間にカメラのレンズらしきものが、こちらに向いて光っていた。
……十中八苦、兄さんだろうな。
「…に い さ ん !?」
俺の声で隠れ場所がバレたと思ったみたいで、ソファの裏から顔を出す兄さんと……理恵先生!?
「あちゃー、バレましたか」
「バレバレっす。レンズが光ってるの」
「あ~、これのせいか!!」と、レンズのカバーを外した兄さん。隣で理恵先生がくすくすと小さく笑っている。
「そうだな~、皆、そろそろ出てきていいぞ?勘の鋭いイッセーに見つかるのも時間の問題だしな」
笑いながらそう言う兄さんの言葉に反応して、壁際に立ててある植木の横から、壁自体を描いた布を取り払って、角都さんと飛段さんが姿を現す……まるで忍者みたいに。
ガコッっと、天井から音がしたかと思うと――二カ所の天井板が外されて、ここにいなかった奏さんたちが飛び降りてきた!!
「家庭科室をお借りして、ケーキが完成しましたわ!」
と、勢ぞろいした部室に、レイヴェルが大きなケーキを持って入場してきた。その様子から、この子だけは覗いていなかったようだ。
「あれ、皆さま、どうかされたんですか?」
首をかしげ、怪訝そうに俺たちを見ていた。
俺の隣でリアスがぷるぷると全身を震わせていた。
「もう!あなたたち!!私の貴重で大切な一シーンだったのに!!!どうしてくれるのよ!!これもイッセーのせいよ!こんなところで告白するんだもの!!!」
「え!俺のせいなんですか!!」
『『『『『『『『『『ということにしましょうか』』』』』』』』』』
皆も同意する!ふざけんなぁぁぁぁっっ!!!
こうして、波乱に満ちた学園祭とサイラオーグさんとの戦いは幕を閉じたのだった。