皆との集合場所で合流した俺はイッセーたちとホテルの一室で待機していた。
集まってすぐに左目のことを訊かれ、俺は『生体の宝珠』のことを話した。もちろん、転生者のみが触れることができ、蘇生できると伝えておいた。
「……駐車場に死神が出現していました。相当な数です」
様子を見に行っていた祐奈が待機している部屋に戻ってきた。
「……ハーデスの野郎、本格的に動き出したってわけか!」
アザゼルが憎々しげに吐く。
曹操との戦闘のあと、怪我人だらけのグレモリー眷属、イリナ、アザゼル、暁、オカ研、カミュ、ヴァーリ、金華、ルフェイ、オーフィスはこの疑似空間のホテル上階で陣地を取っている。
六十階まであるホテルの真ん中の三十階まで移動したあと、この階層を丸ごとルフェイとエールの強靭な結界で幾重にも覆って陣地を形成していた。
俺は『生体の宝珠』で快復して万全。アルセウスたちも自己再生で負っていた傷も完治しており、イッセーやゼノヴィア、アザゼルの治癒も完了している。
金華は治療を終えてはいるが大事を取って別室で休んでいる。黒歌と白音とレイヴェルが面倒を見ているらしい。
…サマエルの呪いを受けたヴァーリはケガ自体は治っているが、呪いが解けずに別室で激痛に耐えているようだ。
回復役のアーシアは連続での治療で、体力の消耗が大きいために隣の部屋で仮眠を取っている状態だ。
…休憩中または看病しているメンバー以外の者が集結しているこの部屋で、ルフェイが嘆息した。
「本部から正式に通達が来たようです。砕いて説明しますと――『ヴァーリチームはクーデターを企て、オーフィスを騙して組織を自分のものにしようとした。オーフィスは英雄派が無事救助。残ったヴァーリチームは見つけしだい始末せよ』だそうです」
ルフェイの報告に皆が驚く。
「やられたな……。『本物』を回収して、しぼり取られたオーフィスは無かったことにされたか。………でっち上げもいいところだ」
俺は三叉のクナイを取り出して床に突き立てた…下らなさと怒りを感じたからだ。
ルフェイはがっくりきたようにうなだれる。
「私たちはグレートレッドさんをはじめ、世界の謎とされるものを調べたり、伝説の強者を探し回ったり、時々オーフィスさまの願いを叶えたりしていただけなのですが……。英雄派の皆さんは力を持ちながら好き勝手に動く私たちが目障りだったようです。特にジークフリートさまは私たちのことが相当お嫌いだったそうです。何より、元英雄派でライバルだった兄のアーサーがこっちに来たのがお気に召さなかったようでして……」
「世界の謎ってなんだ?それに伝説の強者もわからん」
イッセーがルフェイに訊く。
「はい、次元の狭間を泳ぐグレートレッドさんの秘密に始まり、滅んだ文明――ムー大陸やアトランティスの技術、それに異世界のことについて調査していました。北欧神話勢力の
「……ほとんど冒険家みたいだな」
「はい、大冒険の毎日ですよ!その末に強者とも戦ってきましたから。ヴァーリさまはドラゴンという存在がどこから発生したのか、それを調べようともしているのです。あと二天龍が封じられる切っ掛けとなった大ゲンカの原因も調査してます。それと、新しい
楽しそうに語りだすルフェイ。
…俺は「かなりの暇人集団だな!」の「か」を言った直後に咳払いをして流した。
「ヴァーリさまの探求心は総督さまの影響だと思います」
ルフェイは最後にそう付け加える。それを聞いたアザゼルは、息を吐いて目元を細める。
アザゼルのその表情にルフェイは苦笑していた。
「それにしても総督さま、ここ最近は
話しを振られたアザゼルは顔を天井に向ける。
「……『
「はい、お話はうかがっております」
ルフェイがクスクスと笑う。
イッセーはアザゼルに疑問を投げかけた。
「そういや、先生。一番強い
「ああ、『
話を振られたイリナは首をひねりながら答えた。
「デュリオさまですか?各地を放浪しながら、美味しいもの巡りをしていると……」
その答えにアザゼルは絶句して、俺は眉間を指で押さえた。
「な……っ。仮にもセラフ候補にも選出されるかもしれない転生天使きっての才児だろうがっ!
アザゼルの質問にイリナは困り果てていた。
「そのヒトもやっぱり強いんですか?」
イッセーがアザゼルに訊く…反応したのはルフェイだった。
「ヴァーリさまの戦いたい方リスト上位に載ってるほどの方です。教会最強のエクソシストだそうです」
元教会の聖剣使いだったゼノヴィアが反応した。
「デュリオ・ジェズアルド、教会でも有名な存在だった。直接の面識はなかったが、人間でありながら凶悪な魔物や上級悪魔を専門に駆り出されていたよ」
アザゼルが嘆息する。
「
イッセーたちが出会った
アザゼルが突然何かをひらめいたように立ち上がった。……大概、くだらないことを言い出すんだよね…、こういう場合のアザゼル。
「あ!いま俺は現世の
……はい、予想通りの展開だったな。
アザゼルは続ける。
「それともうひとつ、共通点を見つけた。――
……あぁ、確かにその通りかもしれない。亜種化、危険を除いた進化…いままで見てきた
帰ってきそうもないアザゼルを放って話を進めようとしたとき、ハッと何かに気づいて思考タイムを終えたアザゼル。
その何か――オーフィスと龍巳がこの部屋に戻ってきた。
『この階層を見て回る』
悠長に出かけていったオーフィスに心配で付いていっていた龍巳が、ようやく戻ってきた。
「――で、具合はどうだ、オーフィス」
「弱まった。いまの我、全盛期の二天龍より二回り強い」
「それは……弱くなったな」
「……いやいや、封じられる前のドライグたちよりも二回りも強いんでしょ?それで弱くなったって……」
アザゼルの発言に突っ込んだイッセーだが、龍巳の強さを思い出したようで最後の言葉を濁らせた。
「そういうことだから、あまり心配しないであげて」
龍巳がオーフィスの頭を撫でながらそう言う。
「なあ、オーフィス。訊きたいことがあるんだ。なんで、あのときアーシアやイリナを助けてくれたんだ?」
…オーフィスはロビーについた直後に曹操が放ってきた複数の火炎の魔法に、壁となってイリナとアーシアを守っていた。
オーフィスは一言だけ答えた。
「紅茶、くれた。トランプ、した」
「紅茶とトランプって、家でのことか?」
イッセーの言葉にオーフィスはうなずく。
「そ、それだけで?」
イッセーの問いにオーフィスはこくりこくりとうなずく。
「ありがとうございます、オーフィスさん!」
アーシアとイリナがオーフィスにお礼を言う。
オーフィスからの状態を聞いてアザゼルがあごに手をやる。
「……しかし、二天龍よりも二回り強いぐらいか。妙だな。曹操は絞りかすといまのオーフィスを蔑んでいたが、正直、これだけの力が残っていれば十分ともいえる」
オーフィスが無表情で挙手する。
「曹操、たぶん、気づいてない。我、サマエルに力取られる間に我の力、蛇にして別空間に逃がした。それ、さっき回収した。だからいまは二天龍よりも二回り強い」
オーフィスのその告白に龍巳以外の全員が度肝を抜かる。アザゼルが叫んだ。
「おまえ、この階層を見て回ってくるって出ていったのは別空間に逃がした自分の力を回収するためか!?」
オーフィスはこくりとうなずく。それを見てアザゼルは「ククク」と含み笑いをしていた。
「曹操め、あいつはサマエルでオーフィスの力の大半を奪ったと言っていたが、オーフィスは力を奪われている間に自分の力を別の空間に逃がしていた。それをさっき回収して力をある程度回復させた。それが全盛期のドライグの二回りときたもんだ。オーフィスを舐め過ぎたな、英雄派」
アザゼルを尻目にオーフィスは指先に黒い蛇を出現させる。
「力、こうやって蛇に変えた。これ、別空間に送った。それ、回収した。でも、ここからは出られない。ここ、我捕らえる何かがある」
オーフィスの指先にある黒い蛇を見て、俺は軽くため息を吐く。
アザゼルは途端に笑いを止め、息を吐いた。
「ま、死神がここに来たってことは、ある程度オーフィスの抵抗を想定してのことだろう。それにいまのオーフィスは無限じゃない。有限だ。あちらはサマエル以外でオーフィス封じの策があるだろうさ。俺たちが依然として慎重になるのは当然だな」
アザゼルがルフェイに訊く。
「ルフェイ、おまえさんは金華と同様、空間に関する魔法に秀でていたな?どうにかして外に助けを呼ぶ
「あることはあります。――ですが、金華さんが倒れたいま、私だけでは限界があります。私と共にこの空間を抜け出る魔法がありますが……共にこの場から離れられるのはお二人が限界だと思われます。一度、ヴァーリさまとフェンリルちゃんの入替転移をしたので、あれからここの結界は強固になっているでしょうから。入替転移をもう一度おこなうのもおそらく無理でしょう。ゲオルクさまはこちらの術式をある程度把握したと思われますので。とっておきの転移魔法をしたとしても、チャンスはあと一度だけです」
…脱出はできる、ね。ルフェイを入れて三人、チャンスは一度のみときたら…選出はかなり限られてしまう。
「ルリエルたちの転移術はどうなの?」
奏が挙手して言う。その質問にエールが答えた。
「……おそらく無理だと思います。あの転移術はルリエルたち七人の魔力と、私の力を組み合わせて使用するもので、固定して向こう側と繋げるのに若干のタイムラグがでてしまいます。その間に察知されて対処されてしまうと転移は不可能になりますし、常に固定しておかなければいけないので、相当なリスクを負うことになります」
それを聞いて俺たちはため息を吐いた。
「そんじゃぁさ、リュースケの時空間はどうなんだ?」
飛段がそう訊いてきた。
「…飛雷神は実証済みで無理だ。外界の術式を察知できなかったからな。
俺の答えを聞いて、全員がため息を吐いた。
アザゼルは結論を述べだす。
「…とにかく、結界をどうにかして破壊して共に脱出するしかない。それと死神は想像以上に危険だ。あの鎌に斬られるとマズイ。死神の鎌はダメージと共に生命力を刈り取る。生命力を回復中のイッセーが攻撃を受け続ければ、寿命が尽きて死ぬことになる。オーフィスだっていまは有限だ。鎌に斬られ続ければ弱ってしまうだろう。オーフィスは死守しなければならない。こいつの力をこれ以上他に流出させたら、問題はもっと肥大化する。特に相手があのハーデスならな」
……いまのイッセーたちの実力なら、死神に劣っているとは限らない。ランクにもよるが、それでも劣ってはいないだろうな。
「かといって外に助けを呼びに行くメンバーは出したほうがいい」
アザゼルの視線がイリナを捉える。
「――イリナ、おまえだけは先に行け。行ってサーゼクスと天界に英雄派の真意とハーデスのクーデターを伝えろ」
「で、でも!先に出るのはレイヴェルさんのほうがいいと思います!!」
食い下がろうとするイリナにアザゼルは間髪入れずに告げる。
「レイヴェルは脱出できたとしても自分を優先しなくてもいいとさっき言ってきた。――俺たちのほうが基本的に不利だ。あいつらは確実にオーフィスと龍巳、ヴァーリとイッセー、そして龍介たち暁を葬りに来る。奴らにとって、龍神姉妹と二天龍、転生者は消しておきたいものなんだよ。こっちのオーフィスをハーデスに悪用されたら、この世界に何が起こるかわからん!!」
アザゼルの言葉にイリナは何か言いたげだったが、言葉を飲み込んでうなずいて了承した。
…仲間想いの強い子だったな。だが、自身の立場と役目を理解した。
アザゼルはゼノヴィアに視線を向けた。
「護衛としてゼノヴィアも連れていけ。エクス・デュランダルの機能をやられてしまったが、デュランダル自体はまだなんとか使えるだろう。結界の外で英雄派の構成員か、死神が待機している可能性があるからな」
「……護衛か」
目を細めるゼノヴィア。
「護衛も立派な任務だ。――それに、そろそろ天界であれの研究がひとつの結論を出す頃だ。それも打診してこい。ついでにデュランダルの修理もな。そのこともあるからおまえを先に脱出させる。ここの戦いだけで終わりそうにないからな、さっさと直してこい」
アザゼルにそう言われ、ゼノヴィアは静かにうなずく。
ルフェイが転移魔方陣の術式を構築するため、別室へ移動していく。共に脱出するゼノヴィアとイリナの基本情報を組み込むため、一緒に別室移動となる。
この部屋を出る前、ルフェイがイリナに鞘に収まった剣一本を手渡した。
「こ、これは!」
驚くイリナにルフェイは微笑む。
それはアーサー・ペンドラゴンが所有していた最後のエクスカリバー、『
「これを持っていってください。兄から預かっていたものです。お渡しするタイミングがつかめずにいたのですが、良い機会だと思いましたので。私たちにとって、それはすでに用が済んだものなのです」
「いいのか?」
ゼノヴィアの言葉にルフェイはうなずく。
「フェンリルちゃんは手に入れました。制御するためにフェンリルちゃんの力はだいぶ下がってしまいましたが、それでもあれ以上の魔物はいません。――デュランダルの修理にエクスカリバーをすべて使われてもよろしいのではないでしょうか?」
イリナは深々と頭を下げる。
「……あ、ありがとうございます!ルフェイさん!英雄の血を引く方って、怖い人ばかりだと思ってましたけど、良い人もいるんですね!!」
「ふふふ、恐縮です。兄と共に変人とは言われますけど」
ルフェイはそう苦笑いし、イリナ、ゼノヴィアと共に脱出魔方陣の術式を組むため、別室へ移動していく。
すべてのエクスカリバーを統合させたエクス・デュランダルか…。
アザゼルがひざを叩く。
「さて、リアス、龍介。脱出作戦を構築するぞ。オーフィスを連れて全員生き残るのが目的だ」
「ええ、当然よね」
「そうだな」
俺を含めた策士三人は不敵に笑む。
――作戦タイムの始まりだ。