ハイスクールD×D 力ある者   作:塩基

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去る者

次々と現れる死 神(グリムリッパー)

 

「しゃらくせぇぇぇ!!」

 

飛段さんが三つ刃の大鎌を振り回しながら、死神の鎌を防ぐと共に斬り払っていた。

 

『俺も本気を出そうか』

 

…そっちでは、角都さんが全身から地怨虞(じおんぐ)を出して…火、水、風、雷の性質の攻撃を広範囲に向けて繰り出していた。

 

「あらあら~、皆さんやる気みたいですねぇ~」

 

おっとりとした口調で言うリエお義姉ちゃん。襲いかかってくる死神を見もせずに、二本の日本刀の魔装錬器を振るって斬り払っていく。

 

「私も負けられないっ!」

 

握る聖槍で死神たちを薙ぎるけど、数が多すぎて体力を消耗するだけ…。

 

…いいこと思いついた!

 

花 楓(わたし)は黒い霧を周囲に発生させて、聖槍の光をいっそう強めた。

 

「――(バラン)(ス・ブ)(レイク)!!」

 

手元の聖槍の光が弾け、黒い霧は絡みつくように体の周囲に集まってくる。

 

光が収まると、聖槍の周囲には…光り輝く十個の円盤が浮いて回っている。

 

黒い霧は…体にまとわりつくように、黒い羽衣と化していた。

 

「……『極 光 な る 神 殺 し の 権 能 槍(カンピオーネ・ロンギヌス・ウルスイディア)』と『無 限 の 黒 夢(アンリミテッド・ディメンション)』。いくよっ」

 

花 楓(わたし)は聖槍の権能のひとつ――白馬を使う。

 

使用するとき命じると、周囲を回っている円盤のひとつが聖槍のなかへ入っていく。

 

その直後、熱風が全身を襲ってきたが…羽衣が体全体に巻きついて灼熱から守ってくれる。そして、目元だけ見えるように薄くなってくれた。

 

ドゴォォォォォン!!

 

爆音と共に壁に突き刺さった聖槍。壁は溶けだしていて真っ赤になっていた。

 

――というより、動いたのかさえわからないほど速かったわ!!

 

ほんの一瞬の出来事だった。周囲にいた死神は四散してしまっていた…。

 

花 楓(わたし)は聖槍を抜くと、次に使う権能を選んだ。すると、円盤のひとつが聖槍のなかに入っていく…。

 

ガッ!!

 

石突きで軽く地面を突く…すると、砕ける音と共に地面にひびが入った。

 

…そう、私の使った権能は『雄牛』。しかも、花 楓(わたし)自身も使っているから…とんでもない怪力になってるよねっ。

 

花 楓(わたし)は羽衣に身を包まれたまま、怪力を駆使して死神に向かっていった――。

 

                    D×D

 

「……求道玉」

 

魂を取ろうと斬りかかってくる死神に向けて、背後に浮いている黒球のひとつを撃ちだした。

 

…ほぼすべての性質を無力化させる求道玉。それが死神の一体に突き刺さって消滅させた。

 

俺が持てる求道玉は六つ。佐助が乗っているのを除くと、五つ。

 

射程圏内で縦横無尽に飛び回る求道玉。死神どもは足を取られ、武器の大鎌を破壊され、蜂の巣になって消滅していく。

 

「――熔 遁 螺 旋 丸(ようとんらせんがん)ッ!!」

 

爆音と共に灼熱の爆風が周囲を包み込む。

 

奏が六道仙術に混ぜ込んだ螺旋丸…尾獣たちの力を反映させた術。

 

バヂヂヂヂヂッ!!

 

スパークノイズと共に黒雷の千鳥を左手にまとわせる佐助。

 

ヒュッと瞬間的に消えて、数十メートル先を浮遊していた死神の腹部を貫いて四散させた。

 

…開眼した輪廻眼の力だろう。瞬間移動の能力を得たみたいだ…。

 

立て続けに空間を飛んで、宙に浮遊している死神どもを貫いて四散させていく……。

 

「……輪 墓(リンボ)辺 獄(へんごく)

 

俺の周囲に不可視の世界――辺獄より四人の()を呼び出した。

 

辺獄の四人が駆け出すと、次々に吹き飛んでいく死神ども。――向こうからすれば、「何もないところから突然の攻撃を受けた」に見えているだろう…。

 

「我らが剣の極意は、秘めたる剣にあらず」

 

動きを止めた奏が、祝 詞(のりと)(うた)うように静かに口ずさみだす。

 

「木の葉のごとく舞い飛ぶ剣――すなわち」

 

空中に砂、火、水、溶岩、泡…あらゆる性質のものが、無数の剣となる。

 

秘 剣(ひけん)百 鬼 漸 殺(ひゃっきざんさつ)ッ!!」

 

数えきれないほどの数の剣が死神どもを襲う。

 

爆音と共に風が吹き荒れ、砂埃が視界を奪う。

 

俺は求道玉の傘で剣の雨あられをしのぐことができたが――。

 

砂埃が静まると、視界が晴れて…かなりグロい光景が目の前で起きている。

 

奏の降らせた剣が、死神たちを串刺しに…etc。

 

その直後に四散していく死神ども…。

 

「…………」

 

佐助が無言で須佐之乎(すさのお)を解いて、お盆型の求道玉に乗って近くに位置した。

 

…一掃し終えて、周囲は荒れ地に…ホテルの反対側では赤い閃光が連続で輝き、水柱や火炎の柱やetc…が見えるほど、激戦状態になっているようだ。

 

俺たち三人はホテルの中層辺りをぶち抜いて、反対側――イッセーたちが戦闘をしているほうへ移動した。

 

                    D×D

 

反対側へ着くと、そこは荒廃しきったフィールドだった。

 

こちらの陣営は三十階の部屋にいる者、戦闘に出ている者の全員が生存している。

 

対してテロリスト側は、背の龍の腕を一本斬り落とされているジークフリート、ゲオルク、倒してきた死神ども以上にプレッシャーを放っている死神のみが残っていた。

 

「さて、ジークフリート、ゲオルク、チェックメイトだ」

 

光の槍の切っ先を奴らに向けるアザゼル。

 

……俺たち三人も参戦したことによって、戦況は見るからにこちら側が有利だろう。

 

「……相変わらずバカげた攻撃力だな」

 

そう言いながら、肩で息をするゲオルク。

 

駐車場の結界装置は健在している。あれだけの大規模な激戦のなかでも装置は壊れていなかった。――だが、ゲオルクも守備に全力を費やしていたせいだろう、息切れしている。そして、装置を覆う結界も歪みだしていた。

 

――その時だ。

 

バチッ!バジッ!!

 

ここの空間に快音が鳴り響きだす。音のするほうを見上げれば、ここの空間に歪みが生じ、穴が空きつつあった。

 

俺は出現した気配に表情を訝しめた。

 

次元に穴を空けて侵入してきたのは軽 鎧(ライト・アーマー)にマントという()で立ちの男が一人――。

 

そいつは俺たちとジークフリートたちの間に降り立つ。

 

「久しいな、赤龍帝。――それとヴァーリ」

 

イッセーを睨めつけ、護衛――ホテル上階の窓際にいるヴァーリも睨めつけた。まるで、俺たちは眼中にないように…。

 

アザゼルが目を細める。

 

「シャルバ……ベルゼブブ。旧魔王派のトップか」

 

カラクリがあるのか…?あの神殿で暴走したイッセーに葬られたと思っていたが……。

 

ジークフリートが一歩前に出る。

 

「……シャルバ、報告は受けていたけど、まさか、本当に独断で動いているとはね」

 

「やあ、ジークフリート。貴公らには色々と世話になった。礼を言おう。おかげで傷も癒えた。……オーフィスの『蛇』を失い、多少パワーダウンしてしまったがね」

 

「それで、ここに来た理由は?」

 

「なーに、宣戦布告をと思ってね」

 

大胆不敵にそう言うシャルバ。……嫌な予感しかしない。

 

シャルバが醜悪な笑みを浮かべてマントを翻すと――そこから一人の少年が姿を現す。少年の瞳は陰り、操られている様子だ。

 

俺はその少年を思い出す。――京都でアンチモンスターを生みだした『魔 獣 創 造(アナイアレイション・メーカー)』の所有者か!

――その少年を見てジークフリートとゲオルクが驚愕していた。

 

「……レオナルド!」

 

「シャルバ、その子をなぜここに連れてきている?いや、なぜ貴様と一緒にいるのだ!?レオナルドは別作戦に当たっていたはずだ!連れ出してきたのか!?」

 

面食らっている二人にシャルバは大胆不敵に言った。

 

「少しばかり協力してもらおうと思ったのだよ。――こんな風にね!!」

 

ブゥゥゥンッ!!

 

シャルバが手元に禍々しいオーラの小型魔方陣を展開する――少年…レオナルドの体にそれを近づける。魔方陣の悪魔文字が高速で動く。突然、少年が叫びだした!!

 

「うわぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああっ!」

 

絶叫を張り上げ、苦悶の表情を浮かべる。

 

同時に少年の影が広がっていき、フィールド全体を覆うほどの規模となっていく…。

 

その場で空中に浮き始めたシャルバが哄笑をあげる。

 

「ふはははははははっ!!『魔 獣 創 造(アナイアレイション・メーカー)』とはとても素晴らしく、理想的な能力だ!しかも彼はアンチモンスターを作るのに特化していると言うではないか!!英雄派の行動を調べ、人間界で別動隊と共に動いていた彼を拉致してきたのだよ!別動隊の英雄派構成員に多少抵抗されたので殺してしまったがね!それでは作ってもらおうか!!現悪魔どもを滅ぼせるだけの怪物をッ!!!」

 

ズオォォォォォォ……。

 

少年の影から嫌な気配を持つものが生みだされていく…。影を大きく波立たせ、巨大なものが頭部から姿を現していく――。

 

…規格外の頭部。巨大すぎる胴体。太すぎる腕。それらを支える圧倒的な脚。

 

フィールドを埋め尽くすほどに広がった少年の影から生みだされたのは――。

 

『ゴガァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

鼓膜が破れそうなほどの声量で咆哮を上げる――超巨大なモンスターだ。

 

二百メートルを超えるほどの魔獣!しかも、同等の大きさの奴がもう一体並んでいやがる……。

 

さらにそいつらよりサイズが一回り小さい巨大なモンスターも何体か影から生みだされていく。――百メートルを超えているモンスターを創りだしたぞ!!

 

ブゥゥゥゥンッ!!

 

その巨大な怪物どもの足元に巨大な魔方陣が出現する!

 

シャルバが哄笑しながら叫ぶ。

 

「フハハハハハハッ!いまからこの魔獣たちを冥界に転移させて、暴れてもらう予定なのだよ!これだけの規模のアンチモンスターだ、さぞかし冥界の悪魔を滅ぼしてくれるだろう!!」

 

魔方陣が輝き、その巨大なモンスターどもが転移の光に包まれていく!!

 

「とめろォォォォッ!」

 

アザゼルの指示のもと、イッセーたちは巨大なモンスターに攻撃を放つ――。しかし、その攻撃ではびくともしない。

 

「行かせると思うなよ!!」

 

俺は神速で一番手前の百メートル級の巨大なモンスターに接近して、求道玉を弾丸のように放った。

 

バスバス!!と貫通する求道玉。求道玉で空いたその穴は、塞がることがなく空いたまま…。

 

「奏っ!!」

 

俺は反射的に名を呼ぶ。俺の横を神速で抜けていった奏の右手には、守 鶴(しゅかく)の体表と同じ模様でできている螺旋丸があった。

 

仙 法(せんぽう)磁 遁 螺 旋 丸(じとんらせんがん)!!」

 

ドオォォォォオオン!!

 

破壊音と共に巨大なモンスターが、その巨体を後方へ一歩だけ揺らした!!

 

その直後、磁 遁 螺 旋 丸(じとんらせんがん)から模様が移動していき……巨大なモンスターの全身を覆っていく。

 

『ガァァァァァァァァアアアアアッ!!』

 

咆哮を上げながら、全身を模様で覆われて動かなくなった巨大なモンスター。

 

残りの巨大なモンスターどもはすべて転移型魔方陣の光のなかに消えていってしまった…。

 

「天照!!」

 

ゴォォォォオオオッ!!

 

佐助の放った天照が、動かなくなったモンスターの魔方陣ごとその巨体を包み込んで焼失させた。

 

グオォォォォォォン……。

 

フィールドも不穏な音を立て始めた。白い空に断裂が走り、ホテルなどの建造物も崩壊していく…。

 

ゲオルクがジークフリートに叫ぶ。

 

「装置がもう保たん!シャルバめ、所有者のキャパシティを超える無理な能力発現をさせたのか!!」

 

「……仕方ない、頃合いかな。レオナルドを回収して一旦退こうか。プルート、あなたも――」

 

ジークフリートはそこまで言いかけて、すでに姿をくらませていた死神に気づいた。

 

それを知り、ジークフリートは得心したようだ。

 

「……そうか、シャルバに影で協力したのは……。あの骸骨神の考えそうなことだよ。嫌がらせのためなら、手段を選ばずというわけだね。魔 獣 創 造(アナイアレイション・メーカー)の強制的な禁 手(バランス・ブレイカー)の方法もシャルバに教えたのか……?あんな一瞬だけの雑な禁 手(バランス・ブレイカー)だなんてどれほどの犠牲と悪影響が出るかわかったものではない。僕たちはゆっくりとレオナルドの力を高めようとしていたのにね……。これでは、この子は……」

 

それだけを漏らして、ジークフリートとゲオルクは気絶した少年を回収する。そのままフィールドから霧と共に消えていった…。

 

ドォォォンッ!ドォォォンッ!

 

今度はホテルのほうから爆音が鳴り響いてきた。

 

見上げれば、シャルバが後衛のメンバーに攻撃を加えているところだ。

 

「どうしどうした!ヴァーリィィィィィィッ!!ご自慢の魔力と!白龍皇の力は!!どうしたというのだァァァァァッ!!!フハハハハハハッ!所詮、人と混じった雑種ふぜいが、真の魔王に勝てる道理が無いッ!!」

 

シャルバが――ヴァーリを攻撃していた。防戦一方のヴァーリだが、エールの防御魔方陣が重なって防御力を増させているために、シャルバの攻撃は通っていなかった。

 

「……他者の力を借りてまで魔王を語るおまえには言われたくはない」

 

「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!最後に勝てばいいのだよ!!さて、私が欲しいのはまだあるのだ!!!」

 

オーフィスのほうに手を突きだすシャルバ。オーフィスの体に悪魔文字を表現した螺旋状の魔力が浮かび、縄のように絡みつく!

 

「ほう!情報通りだ!!いまのオーフィスは力が不安定であり、いまの私でも捕らえやすいと!このオーフィスは真なる魔王の協力者への土産だ!!私に再び『蛇』も与えてもらおうか!いただいていくぞ!!」

 

「させるかよッ!」

 

JET(ジェット)!』

 

イッセーがドラゴンの翼を広げて、一気にシャルバへと詰め寄る。

 

シャルバは醜悪な笑みを浮かべて言い放つ。

 

「呪いだ!これは呪いなのだ!!私自身が毒となって、冥界を覆い尽くしてやる……ッ!私を拒絶した悪魔なぞ!冥界なぞ、もはや用なしだッ!!もうどうでもいいのだよッ!そう、冥界の覇権も支配もすでにどうでもいい!!フハハハハハッ!!!このシャルバ・ベルゼブブ、最後の力を持って、魔獣たちと共にこの冥界を滅ぼす!!」

 

狂喜に包まれた表情のシャルバ。シャルバはイッセーに指を突きつける。

 

「……そうだな、貴殿が大切にしている冥界の子供も我が呪い――魔獣どもによって全滅だよ、赤龍帝!我が呪いを浴びて苦しめ!!もがけ!!血反吐を吐きながら、のたうちまわって絶息しろッ!フハハハハハッ!!傑作だな!下級、中級の低俗(ていぞく)な悪魔の子供をはじめ、上級悪魔のエリートの子息子女まで平等に悶死していく!!ほら!これがおまえたちの(のたま)う『差別のない冥界』なのだろう?フハハハハハッ!!!」

 

俺をはじめ、皆の眼の色が変わっていくのがわかる。

 

ホテルの室内にいる金華が叫ぶ。

 

「もう、このフィールドは限界にゃん!!いまなら転移も可能だから、魔方陣を展開するわ!それで皆でここからおさらばするよ!!」

 

魔方陣を展開する金華のもとにグレモリー眷属たちが集結する。近くでルリエルたちや花楓たちも魔方陣を展開した。

 

「フハハハハハッ!!」

 

いまだ哄笑を上げるシャルバ。その近くには捕らえられたままのオーフィス。

 

「イッセー!!転移するわ!早くこちらにいらっしゃい!!」

 

「お兄ちゃん!!準備はできてるよ!早く魔方陣に!!」

 

リアスと花楓がそう告げてくる。だが俺とイッセーは――。そっちには行かなかった。

 

「……イッセー?」

 

「……お兄ちゃん?」

 

怪訝に思っているだろうリアスと花楓、そしてメンバーの皆に俺とイッセーは同時に告げた。

 

「俺、オーフィスを救います。ついでにあのシャルバもぶっ倒します」

 

「俺も決着をつけてくる。シャルバの思い通りにはさせないつもりだ」

 

『――っ!!!』

 

俺とイッセーの告白に全員が度肝を抜かれていた。

 

「僕も戦うよ!」

 

「リュースケ!おまえたちだけで格好つけても意味ねぇぞ!!」

 

祐奈や飛段がそう言ってくれたが、イッセーは頭を振って俺は笑顔で振りむいた。

 

「いや、俺とイッセーだけでいい。俺たちが戻る間、冥界での非戦闘民の避難を頼む。終わりしだい飛雷神でそっちに飛ぶつもりだ。気にせずに行ってくれ」

 

「……兄さんの言う通りです。いま、シャルバを見逃すことも、オーフィスを何者かの手に渡すこともできません」

 

…いまのあいつは狂気に満ちている。このまま生かしておけば、今後の障害になるだろう。冥界だけじゃなく、人間界を巻き込むかもしれない事態に繋げたくはない。

 

「もう限界にゃん!いま飛ばないと転移できなくなるわ!!」

 

金華がそう叫ぶ。

 

「兵藤一誠」

 

アザゼルに肩を貸してもらっているヴァーリが、イッセーの名を呼んだ。

 

「ヴァーリ!おまえの分もシャルバに返してくる!!」

 

それを聞いたヴァーリは口の端を笑ました。

 

「イッセー!龍介!あとで龍 門(ドラゴン・ゲート)を開き、おまえらを召喚するつもりだ!!それでいいんだな?」

 

アザゼルの提案に俺とイッセーは頷く。

 

イッセーはドラゴンの翼を展開させると、背中のブーストの火を噴かす。

 

「イッセー!」

 

その声にイッセーが振り向く。

 

「必ず私のところに戻ってきなさい!」

 

「ええ、必ず戻ります!」

 

イッセーはそれだけ告げて、シャルバのほうへ突っ込んでいく。

 

俺は直後に三つの転移の光が膨らんで弾けて消えたのを確認して移動しようとした。

 

バサッ!!

 

羽ばたく羽音と共に俺の横に立ち並ぶ者が一人――。

 

「弟の不始末は姉が始末するものよ、リュースケ」

 

隣を向けば、そこにいたのは――ベラナだった。

 

「何となく、わかっていた。その『始末』の意味はわかっているんだろうな…ベラナ」

 

俺の問いにうなずいたベラナ。その目には強い意志が浮かんでいた。

 

「行くわよ、リュースケ!!」

 

俺は浮遊して、ベラナは悪魔の翼を羽ばたかせてシャルバのほうへ飛んでいった――。

 

                    D×D

 

ホテル上空で哄笑しているシャルバの眼前に、イッセーのあとにたどり着いた。

 

イッセーを視界に映すとシャルバは途端に不快な顔となる。

 

「ヴァーリならともかく、貴殿のような天龍の出来損ないごときに追撃されるとはな……ッ!!どこまでもドラゴンは私をバカにしてくれる……ッ!」

 

俺は怒りの反面…悲しさも感じていた。

 

「私を追撃するのは何が目的だ!?貴殿も真なる魔王の血筋を蔑にする気か!?それもオーフィスに取り入ることで力を求めるのか!?天龍の貴様のことだ、腹の底では冥界と人間界の覇権を狙っているのだろう!?」

 

シャルバの言葉にイッセーは息を吐いて言った。

 

「難しいことを並べられても俺にはまったくわからん。オーフィスもどうしたらいいかわからないし、覇権がどうたらなんてのも興味ねぇ。――ただな」

 

イッセーは指を突きつけて物申す。

 

「あんた、さっき悪魔の子供たちを殺すって言っただろう?それはダメだろ」

 

イッセーの言い分にシャルバは嘲笑う。

 

「それがどうした!当然なのだよ!!偽りの魔王が統治する冥界で育つ悪魔など、害虫以下の存在に過ぎない!成熟したところで真なる魔王である私を敬うこともないだろう!!そんな悪魔どもは滅んだほうがいいに決まっているのだ!だから、あの巨大な魔獣でゼロに戻す!!あの魔獣どもは魔 獣 創 造(アナイアレイション・メーカー)の外法によって創られた悪鬼のごときアンチモンスターなのだ!圧倒的な破壊をもたらしてくれるであろう!!穢れのない冥界が破壊によって蘇えるッ!それこそが冥界なのだよっ!!!」

 

その言葉にベラナが叫んだ!

 

「民も信頼もない魔王なんて覇王そのものだわっ!!シャルバ…あなたが成そうとしているのは、何の意味も持たないものだわ!それこそ、冥界の終焉そのものよっ!!」

 

頬に涙を伝わせていたベラナに俺は言う。

 

「やめておけ、ベラナ。あいつは…シャルバはもう、おまえを見ていない。イッセーを――赤龍帝だけしか目に入っていないんだ…」

 

俺はイッセーに向けて叫んだ!

 

「イッセー!真『女 王(クイーン)』に成れ!!シャルバをここで食い止めるぞ!!!」

 

「そのつもりだよッ!兄さんッ!!」

 

イッセーは紅いオーラを爆発させて、呪文を唱えだす!

 

「――我、目覚めるは王の真理を天に掲げし、赤龍帝なり!」

 

その声に反応して聞こえてくる歴代たちの声。

 

《いこう!兵藤一誠!!》

 

《ああ、そうだ!未来を――我らは皆の未来を守る赤龍帝なのだ!!》

 

《赤き王道を掲げるときだッ!!》

 

いままでとは違う、明るい呪文――。

 

「無限の希望と不滅の夢を抱いて、王道を()く!我、紅き龍の帝王となりて――」

 

新たな呪文を唱えるイッセーと歴代赤龍帝の思念たち。

 

「「「「「汝を真紅に光り輝く天道へ導こう――ッ!!」」」」」

 

Cardinal(カーディナル) Crimson(クリムゾン) Full(フル) Drive(ドライブ)!!!!』

 

イッセーの体を紅いオーラが包み込み、鎧を赤く染めていく。

 

「――ッ!紅い……鎧だと!?なんだ、その変化は!?紅……ッ!あの紅色の髪をもつ偽りの男を思い出す忌々しい色だッ!!」

 

そう吐き捨てたシャルバ。そして、俺たちに向けて手を突きだしてくる!空間が歪み、そこから大量の羽虫――蠅らしいものが周囲一帯を埋め尽くす!!

 

「真なるベルゼブブの力を見せてくれようッ!!」

 

吠えるシャルバは、大量の蠅を操り、幾重もの円陣を組ませてそこから極大の魔力の波動を無数に撃ちだしてくる。

 

「やれ!」

 

俺は六つの求道玉に指示を送り、魔力の波動を消し去る。それと共に『輪墓(リンボ)辺獄 (へんごく)』で呼び出した自分四体をぶつけて、魔力の波動をあさっての方向へ軌道を逸らした。

 

ベラナは水の魔力で創ったブレードで、蠅の大群を斬り払っている。

 

その間、数回にわたって機械音と共に鈍い打撃音が木霊していた。

 

俺は無数の魔力の波動をいなし、消し去って無力化した。

 

反対に、ベラナは大量の蠅を水の魔力のブレードで払い切っていた。

 

晴れた視界――そのさきには、口から吐血しているシャルバと真紅の鎧をまとっているイッセーが相対していた。

 

「クソ天龍が!これならどうだァァァァッ!!」

 

シャルバが血をまき散らしながら手元から魔方陣を展開させ、そこから出現したのは――一本の矢だ。

 

その矢が高速でイッセーに飛来し、鎧を貫通して右腕に突き刺さる。

 

矢を抜こうとしたイッセーの様子が急変した。矢を抜こうとした左手が震えて、抜くのを中断して見つめていた。

 

それを見たシャルバが笑う。

 

「フハハハッハハハハッ!!苦しいであろう!辛いであろう!当然だ!!その矢の先端にはサマエルの血が塗りこんである!ハーデスから借り受けたものだ!いざというときのヴァーリ対策用に持っていたのだが……まさかゴミのような貴殿に使うことになろうとはな……。まあいい。これで形勢逆転だ。ヴァーリのように魔力が高ければ多少は耐性があるのだろうが……魔力の素質がなさそうな貴殿では、すぐに死ぬぞ」

 

「あとは……裏切り者と厄介な転生者だけか」と言って、俺とベラナのほうを向くシャルバ。

 

俺は口の端を吊りあげて言う。

 

「シャルバ、ひとつ言っておく。おまえは俺たちをなめすぎだ。特にイッセーを、な」

 

俺はイッセーのほうに顔を向けると、イッセーはドラゴンの両翼を広げて、シャルバに向かって飛びだしていった。

 

それを見たシャルバは仰天している。

 

「呪いを受けているはずだ!!なぜに動く!?なぜに恐怖しない!?死が怖くないというのか!?」

 

ゴッ!ドゴッ!!ガンッ!!!

 

イッセーの拳と蹴りの乱打がシャルバを襲う。その攻撃を受けてシャルバはホテルの屋上に落下し、這いつくばる。

 

「バカな……ッ!!私は真の魔王だぞ!?人間やハーデスに助けを求めてまで、屈辱を、恥辱に塗れながらも復讐を遂げようと……ッ!!吐き気を催すような英雄派の実験にまで付き合ったというのに……ッ!なぜ貴様やヴァーリのような天龍たちが立ちふさがるのだ!?大した理念も理想もない低俗なドラゴン風情が!!なぜ私のような高みに臨む存在を蔑ろにしようとする!?理解不能!理解不能だァァァァッ!!」

 

捕らえられたままのオーフィスのもとにたどり着くと、シャルバは懇願する。

 

「オーフィス!オーフィスよ!!あの『蛇』をもう一度私にくれ!そうすれば再び私は前魔王クラス以上の力を得られる!この者を倒すにはあの『蛇』が必要なのだ!!」

 

「いまの我、不安定。力を増大させるタイプの『蛇』、作れない」

 

オーフィスの告白にシャルバは絶望しきった表情となっていた。

 

俺たちはシャルバの前に降り立つ。シャルバは震えながら俺たちを見上げる。

 

シャルバが何か言おうとしたが、言うより先にベラナが口を開く。

 

「私は何度もあなたを助けようとしたわ。この戦いの寸前でも……。でも、もう助けられない。あなたは自分の愚かさと罪を償わないといけないの…。その命を代償として、償わないといけないの」

 

ベラナの瞳から一筋の涙が流れ落ちる。だが、その目は姉の想うものではなく、身内の死を受け入れている目だった。

 

俺もベラナに続いて言った。

 

「俺もベラナと同じでいた。せめて、改心して償ってくれるのなら…俺たちはを手引いていただろう。だが、おまえは改心することもなく戻れないところまで来てしまったんだよ。おまえの選べる道はただひとつ、ベラナの言う通りのことだ」

 

そして、イッセーが言う。

 

「あんたは子供たちから笑顔を奪おうとした――。ぶっ倒される理由はそれだけで十分だろッ!俺はッ!子供たちのヒーローやってる、『おっぱいドラゴン』なんだよッ!!あの子たちの未来を奪おうとするなら、ここで俺が消し飛ばすッ!!!」

 

イッセーは翼から砲身を展開させ、静かにオーラをチャージしていく。

 

シャルバが翼を広げ、空中に逃げたが――。

 

「逃がすわけがないだろ?」

 

俺は求道玉を鋭状のものに変化させ、六つすべてをシャルバに向けて放つ。

 

空中で求道玉に六方向から串刺しにされるシャルバ。直後にイッセーが叫んだ。

 

「吹き飛べェェッ!クリムゾンブラスタァァァァァァァアアアアアアアアアアッ!!」

 

Fang(ファング) Blast(ブラスト) Booster(ブラスター)!!!!』

 

咆哮から紅色の極大なオーラが解き放たれる。

 

「フハハハハハハッ!どうせ貴殿もサマエルの毒で死ぬのだッ!!赤龍帝ェェェッ!!!」

 

落下しながら絶叫するシャルバを紅いオーラが包み込んでいった――。

 

                    D×D

 

イッセーがシャルバを消し去ったあと、俺はオーフィスを魔力の縄から解放した。ただ触れるだけで魔力の縄は消滅した。

 

その直後に俺の六道の力が解除されてしまった!せめて向こうに帰還できるまで保ってほしかったんだが、不安定すぎて言うことをきいてはくれなかったようだな…。

 

崩れおれかけた体をベラナが支えてくれる。

 

俺はイッセーとオーフィスの会話を聞きながら、サマエルの毒を取り出す方法を考えていた。

 

……六道の力は一時的とはいえ、使えない。仙術も削りすぎた体力に合わせていたら…無理だな、下手をすれば俺自身が危険な状態になってしまう。

 

…結局、サマエルの毒の取り出しはできそうにもない。俺の不安定すぎた六道の力に、ほとんどの体力を持っていかれたからな。

 

移動手段も飛雷神か神威…あと、龍 門(ドラゴン・ゲート)ぐらいだ。移動人数も最大で一人か二人…。

 

俺は思考タイムを終える。…まだ体がだるいので、ベラナの肩を貸してもらっていた。

 

話しが終わったのか、すぐ傍で座っていたイッセーとオーフィスが立ち上がった。

 

イッセーとオーフィスは歩きだす。そのあとに俺とベラナもついて行く。

 

…崩壊していくフィールドのなか、オーフィスに肩を貸してもらって歩くイッセー。時折、脱力しかけていたが、気力で踏ん張って持ち直していた。

 

「……なぁ、オーフィス」

 

横に並んで歩く俺たちに聞こえるぐらいの声量で、イッセーはオーフィスに話しかけた。

 

「?」

 

「おまえ、帰ったら何がしたい……?」

 

「帰る?我、どこにも帰るところない。次元の狭間、帰る力ももうない」

 

「……それなら、俺の家に……帰ればいい」

 

「赤龍帝の家?」

 

「……ああ、そうだ。アーシアと……イリナと……仲良くなれたんなら……きっと、他の……皆とも……」

 

足に力を入らず、前に倒れるイッセー。

 

「おい、しっかりしろ!イッセー!!」

 

俺はベラナから離れて、イッセーの傍に座り込んで叫んだ。

 

「……兄さん……らしくないよ。……泣く兄さん、初めて見た気がする……」

 

仰向けのイッセーが微笑みを浮かべて言う。

 

「イッセー、すまない…。俺は…今回何もしてやれない…。すまない…」

 

「……何を謝ってるんだよ、兄さん」

 

俺は視界がぼやけてしまうほど涙を流していた。

 

自分の無力さを呪いたい。…そう思ったのは初めてだった。

 

「……オーフィス、おまえ、誰かを……好きになったことはあるか……?」

 

イッセーが朦朧とした意識を保ちながら、オーフィスに問いかけた。

 

『相棒、気をしっかりしろ!皆が待っているのだぞ!』

 

ドライグも宝玉から音声を発してイッセーの意識を繋ぎ留めようとしていた。

 

「ドライグ、この者は呪いが全身に回っている。――限界」

 

『わかっている、オーフィス!そんなことはわかっている!!だが、死なぬ!この男はいつだって立ち上がったのだ!!』

 

「帰るぞ、イッセー。おまえの家に…皆が待つ家に……!!」

 

『そうだ、帰ろう!相棒!!何をしている!立て!!おまえはいつだって、立ってきたじゃないか!!!』

 

イッセーの目の光が薄れていく……。

 

「大好きだよ、リアス……………」

 

最愛の女性の名を口にしたイッセーは――眠るように瞼を閉じた。

 

……………………………………………――――――――――。

 

俺は初めて人の肩を借りて泣いていた……ベラナの肩を借りて。

 

ここまで悔しいことはなかった。以前、ドーナシークにイッセーを殺されてしまったときより…。

 

唇を強くかみしめ、血がにじみ出て鉄の味がする。

 

義弟の――イッセーの本当の死を眼前にして、俺は拭いきれない想いを背に負っていた。

 

俺は涙を拭い、「ありがとう」とベラナに言って座り直した。

 

オーフィスが亡骸のイッセーを見ながら言う。

 

「……ドライグ、この者、動かない」

 

『…………ああ』

 

「……ドライグ、泣いている?」

 

『…………ああ』

 

「我、少しの付き合いだった」

 

『…………そうだな』

 

「悪い者ではなかった。――我の、最初の友達」

 

『……ああ、楽しかった。……なあ、オーフィス。いや、この男の最後の友よ』

 

「なに?」

 

『俺の意識が次の宿主に移るまでの間、少しだけ話を聞いてくれないか?』

 

「わかった」

 

『この男のことを、どうか、覚えておいて欲しい。その話をさせてくれ……』

 

「いい赤龍帝だった?」

 

『ああ、最高の赤龍帝だった男の話だ』

 

俺とベラナはオーフィスと共にドライグの話を聞いて、龍 門(ドラゴン・ゲート)が召喚されるのを待った。

 

                    D×D

 

僕の眼前ではアザゼル先生と元龍王のタンニーンさまの協力のもと、召喚用の儀式が執り行われていた。

 

「召喚用の魔方陣を用意できた。――龍 門(ドラゴン・ゲート)を開くぞ」

 

先生がそう告げて、魔方陣が輝きを増していく。

 

中級悪魔の昇格試験センターにある転移魔方陣フロアに僕たちグレモリー眷属と暁とオカ研と遠山家の獣の方たち以外の者と関係者が一堂に会していた。

 

アザゼル先生が地下のいちフロア全体にドラゴンを呼び出す魔方陣を描き、龍 門(ドラゴン・ゲート)を開いてイッセーくんと龍介さん、そして転移直前に抜けたベラナさんを呼び寄せようとしている。ベラナさんは龍介さんの力でどうにかできるだろうと、アザゼル先生が言っていたから心配はあまりない。

 

元龍王のタンニーンさまを早急にお呼びし、龍 門(ドラゴン・ゲート)を開くための協力をしていただいている。もちろん、白龍皇であるヴァーリも魔方陣の隅で待機していた。

 

あのあと、あの空間から生みだされた『魔 獣 創 造(アナイアレイション・メーカー)』の規格外のモンスターたちは、現実の冥界に出現し、各都市部に向けて進撃を開始した。

 

すでに悪魔と堕天使の同盟による迎撃部隊が派遣されたのだが……。規格外の大きさ、凶悪な堅牢さに手を焼いているところだった。

 

話では、その魔獣たちは進撃と共に数多くのアンチモンスターを独自に生みだしているという。そこに旧魔王派の残党が合流して、巨大な魔獣たちの進行方向にある村や町を襲撃し始めたそうだと聞く。

 

ここにいないアルセウスさんたちは、転移したあと、すぐに冥界の各村や町に散開して避難誘導や生みだされたアンチモンスターの迎撃にあたっている。

 

冥府の神ハーデスは英雄派にも旧魔王派にも裏で力を貸していた。英雄派ですら騙されるほどに手広く魔手を伸ばしていた。悪魔や堕天使、各神話勢力に一泡吹かすことができれば何をしてもいいという判断なのだろうか……。

 

曹操に奪われたオーフィスの力も心配ね。それを使った新たなオーフィスの誕生……。

 

事態は深刻になっていき、魔王さま方も各勢力に打診しているそうなのだけれど……。

 

同盟関係にある各勢力からも救援部隊が派遣される。天界からは『御 使 い(ブレイブ・セイント)』が、堕天使サイドからは神 器(セイクリッド・ギア)所有者が、北欧からはヴァルキリー部隊など、冥界――悪魔の危機に応じてくれるみたいだった。

 

ゼノヴィアとイリナさんは無事に事件の顛末(てんまつ)を各上層部に伝えることができた。彼女たちは現在天界でデュランダルの修復に入っているという。

 

それに、奏さんの隣にいる人……龍介さんたちと一緒に戦っていた…。そう言えば、戦闘が始まる直前に電話で話していた「弟」さんだろうか…?どこか龍介さんに似ているし、さっきまで両目に写輪眼を出していた。

 

「――――よし、繋がった!」

 

アザゼルがそう叫び、巨大な魔方陣に光が走る!先生の持つファーブニルの宝玉が金色に光り、隅にいたヴァーリの体も白く発光し、タンニーンさまの体も紫色に輝いく。人間の姿のティアマットさんの体も青く輝き、アースさんの体も漆黒に輝く。それに呼応するように魔方陣の輝きがいっそう広がっていく。

 

力強く光り輝く魔方陣はついに弾けて何かを出現させようとした。そして、閃光がこのフロア全体を包み込んでいく。

 

……まばゆい光を手で遮ったが、それも止み、僕たちは視線を魔方陣の中央に向けた。

 

魔方陣の中央、そこに出現したのは――紅い八つの『兵 士(ポーン)』の駒を手に持った白髪の龍介さんと、その龍介さんを支えるように肩を貸しているベラナさんだった。

 

え……?どういうこと……?僕はその現象をまるで理解できなかった。

 

眼前にあるのはイッセーくんではなく――『悪 魔 の 駒(イーヴィル・ピース)』だった。そして、その色は部長が所有していた駒と同じ紅色――。けれど、イッセーくんではない。

 

そこには彼の姿は無く、『兵 士(ポーン)』の駒が八つしかなかった――。

 

数瞬、それをを意味することが何を示すのか、わからなかった僕たちだけれど――、

 

龍介さんがベラナさんに抱えられながら、大粒の涙を流した。

 

「……すまない、皆…」

 

それを聞いた先生が力なくその場でひざをついて、フロアの床を叩いた。

 

「……バカ野郎……ッ!」

 

龍介さんの涙と先生のしぼりだした声を聞いて徐々に理解し始める。

 

朱乃さんはその場にへたりと力が抜けるように座り込み、部長は呆然としたままその場に立ち尽くしていた。

 

「……イッセーさんは?……え?」

 

怪訝そうにうかがうアーシアさん。反応を示さない白音ちゃんにレイヴェルさんが抱きつき、「いやぁ……」と信じられないように首を横に振って嗚咽を漏らし始める……。

 

口元を両手で覆って嗚咽を漏らしているレイナーレさんにミッテルトさんが抱きついて嗚咽を漏らしている。

 

瞑目している冴子さんに抱きついて嗚咽を漏らしている理子さんと春奈さん。

 

皆が瞑目しているなか、飛段さんと角都さんが龍介さんに肩を貸して移動していく。

 

……卑怯だよ、イッセーくん。駒だけを帰すなんて……。ちゃんと戻るって言ったじゃない……。

 

僕の頬を伝う涙はしばらく止まらなかった。

 

その日、僕たちは最愛のイッセーくんを失った――。

 

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