ハイスクールD×D 力ある者   作:塩基

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いま、私はある建物の一階広場にある椅子に腰を下ろしている。

 

私はカミュたちが出陣して、すぐにグレモリー邸からこの建物へ魔方陣を通って転移した。

 

ここは避難してきた者たちの避難所の一つであり、怪我人を収容して手当てをする緊急の仮施設でもある。

 

私は一休みに、この広場に設置されている大型テレビに目を向ける。

 

『ご覧ください!七体目の「豪 獣 鬼(バンダースナッチ)」が活動を停止させましたっ!!』

 

レポーターの叫声がテレビを通して聞こえてくる。

 

その『豪 獣 鬼(バンダースナッチ)』を仕留めたのは――()()()()()。画面に映る獣型の『豪 獣 鬼(バンダースナッチ)』は地に倒れている。巨体は大きく破壊し尽くされていて、再び動きだすことはなさそう。テレビのなかでは、二十八人は獣、半獣、人型の姿のままで喜び合っていた。

 

少し前に魔王の一人、『アジュカ・ベルゼブブ』の構築した対抗用術式によって、『豪 獣 鬼(バンダースナッチ)』へ大きな攻 撃(ダメージ)を通せるようになった。あの子たちの火力をいまの『豪 獣 鬼(バンダースナッチ)』が防ぎきることはできない。

 

放送局が映像を切り替えたのだろう、画面の映像が切り替わる。

 

『こ、こちら、首都『リリス』の西側より中継しています!――ご覧ください!ルリエル・ルシファーさまの率いる『暁』。構成員は十数名ですが、「超 獣 鬼(ジャバウォック)」の進行を食い止めています!……す、すごい戦いです!地形ごと「超 獣 鬼(ジャバウォック)」にダメージを与えています!!』

 

アナウンサーの声音などでも状況が把握できる。映像越しでも、猛攻をしているのが目に見えていた。

 

『すぐ行く』

 

私は後ろを見ずにメモ帳をサッと向けた。すると、後方から「わかりました」と声がして、足音が遠退いて行った。

 

ゆっくり椅子から立ち上がり、踵を返して広場から出る。

 

私は救護用に建てられたテントに入ると、回転椅子に座って『どうぞ』とメモをナースの娘に見せる。

 

ナースの娘が怪我人を連れてくると、ベッドの上に寝かせた。

 

怪我をしているのは、若い娘。聞くには、避難の最中にこけたらしい。

 

『大丈夫、安心して』

 

私は左手のガントレットを外して、その娘の手を握る。すると、みるみる娘の怪我が治っていく。…代わりに、娘の怪我していた場所と同じ部分が痛む。

 

私が力を使用するときは必ず代償がいる。…痛み。他者の怪我を治せば、代わりにその怪我の痛みを受ける。言霊なら、力を得たときに相応の痛みを受ける。

 

…この痛みぐらい、小さなもの。生き物を殺すときに使った言霊よりは、つまようじ並みの痛み。

 

『もう大丈夫』

 

ガントレットを装着して書いたメモを見せると、娘は頭をさげながら「ありがとうございます」と言って、テントから出ていった。

 

避難は各所完了していると聞いている…。怪我は大きくてもねん挫程度で、命にかかわるような怪我をしているという報告は、いまのところ入ってきていない。

 

『次、入れて』

 

私のメモを見ると、ナースがテントの外へ出る。

 

私は祈るように胸の前に手を組んで、目を瞑る。

 

……リュースケ、早く…早く戦いを終わらせて…。

 

                    D×D

 

「クソッ……」

 

俺は全身をボロボロにして、片膝をついていた。

 

「はぁ……はぁ…」

 

隣に立っている近衛も、服の所々が破け、肩で息をしている。

 

……完全にナメていた。ここまで苦戦するのは、兄さんぐらいだろうと思っていたんだが。

 

「万全でなくとも、ここまで我ら三人に立ち向かえてその状態とは……。だが、その目の力をほとんど使っていないようだが…?」

 

ゲオルクとかいってた奴だな…、感づき始めたか。

 

俺と近衛にとって、こいつらの能力は相性が悪い。

 

爆発を生む拳と聖剣を生みだす能力。数多の魔術を扱う魔術師…。

 

俺は左眼の輪廻眼を用いて戦っていたが、残りの体力が少ないために大技が使えない。…。使えたとしても、一回がどうかだ。

 

「――代わります!下がってください!」

 

突然、俺と近衛の前に複数の影が入り込む。

 

「………あぁ」

 

俺は力なく声を漏らし、近衛に肩を借りながら後衛へ下がる。

 

下がるとすぐに、俺と近衛は淡い光に包まれる…。

 

傷が徐々に癒えていくのがわかる…。

 

                    D×D

 

「さて、やるか。せっかくデュランダルを鍛え直したんだ。暴れさせないとダメだろう」

 

一歩前に出たゼノヴィアが、布にくるまった得物から布を取り払う。そこには変わらずにエクス・デュランダルの姿があった。曹操に破壊されたデュランダルは元通りになったようだ。

 

そして、天界で『支 配 の 聖 剣(エクスカリバー・ルーラー)』もプラスして鍛え直したはず。傍から見ても形の変化は見られないけど……。ただ、刀身から漂うオーラは以前とまるで違った。

 

――圧縮された濃密な聖剣のオーラが刀身を覆っていた。

 

実質、七本そろったエクスカリバー――真のエクスカリバーとデュランダルとのハイブリッド。スペックは凄まじいものがあるだろう。

 

「こっちもいいのをもらってきたんだから!」

 

イリナさんが腰に帯剣していた剣を抜き放つ。

 

――っ。なんてこと。この僕が抜刀されるまで気づかなかった。イリナさんが持っている剣は――聖魔剣だ!

 

僕の反応を見てイリナさんが微笑む。

 

「ええ、そうよ。これは三大勢力が同盟を結ぶときに悪魔側が天界に提供した祐奈さんの聖魔剣から作りだした量産型の聖魔剣なの!これは試作の一本!天使が持てるようにかなりカスタマイズされて作られたようだけれどね。祐奈さんの聖魔剣ほど多様で強くはないけれど、天使が持つ分には十分だわ!」

 

天界はそのような技術を開発したのね。

 

なんだか、旅に出した子供が成長して帰ってきたように思えてしまった。僕の聖魔剣は三大勢力の役に立ってもらえているみたい。

 

ゼノヴィアは剣の切っ先を――ジャンヌに向けた。

 

「ジークフリートに借りがあったんだが、祐奈や理子たちが倒してしまったのなら、仕方がない。イリナの借りを返すのに協力しよう」

 

ゼノヴィアの挑戦的な物言いにイリナさんも同意する。

 

「そうよそうよ!あのときの借りを返すわ!いくら聖人の魂を受け継いだとしてもあなたはダメダメよ!!」

 

イリナさんもゼノヴィアの真似をして聖魔剣の切っ先をジャンヌに向ける。

 

「あらあら、じゃあ、私も参戦していいかしら?――あれを持っているでしょうから、一人でも多いほうがいいわ」

 

朱乃さんもジャンヌの相手をするみたい。両手のブレスレットを金色に輝かせると、背に六翼の羽を出現させる。

 

――例の堕天使化ね。

 

「それなら、ウチとレイナーレさまも()るっすよ~。数と得物は多いほうが有利ってね!」

 

ミッテルトが弓を持った両手を頭の後ろに持っていって、一歩前に出る。

 

「そうね。イッセーくんの仇……討たせてもらうわ」

 

夕麻さん――レイナーレも槍の切っ先をジャンヌに向ける。

 

二人は片手のブレスレットを白銀に輝かせると、背に展開していた堕天使の翼が純白に変わっていき、頭の上には輪っかが出現する……。

 

――天使化。

 

五人からの挑戦にジャンヌは不敵な笑みを見せた。

 

「へー、五人も相手をしてくれるんだ。それにそちらのお姉さんとちびっ子はあれを知っているようね。おもしろいわ!禁 手 化(バランス・ブレイク)!!」

 

力のある言葉を発して、ジャンヌの背後に聖剣によって形作られたドラゴンが出現する。

 

「だ、誰がちびっ子だぁぁ!!くっそ!」

 

ミッテルトが額に青筋を立てて地団太を踏んでいた……だいじょうぶ、かな?

 

ジャンヌが使う聖 剣 創 造(ブレード・ブラックスミス)の亜種禁 手(バランス・ブレイカー)。相変わらずの濃厚な重圧。油断なんてできない相手ね。

 

それでもゼノヴィアはかまわずに剣をかまえる。

 

「このエクス・デュランダルには七つに分かれたエクスカリバーの能力がすべて付加されている。使いこなせば私はさらなる強さを手に入れられるだろうな」

 

その通りね。各エクスカリバーの七つの能力を有している。やり方によってはあの曹操の禁 手(バランス・ブレイカー)ともいい勝負ができるほどのスペックだよ。

 

そう僕は思っていたけど……。ゼノヴィアは堂々とこう述べる。

 

「だが、残念ながら私はバカだ。いますぐにテクニックうんぬんとなっても能力を使いこなせないだろう。だからこそ、これだ」

 

ゼノヴィアがエクス・デュランダルを振るう。

 

激しい破砕音と共に彼女の前方の路面に大きなクレーターが生まれていた。

 

「――破壊のエクスカリバーとデュランダルのパワーで十分だ」

 

圧倒的なまでの破壊力宣言!!

 

…………ゼノヴィア、『騎士(ナイト)』なんだから、もう少しテクニックのほうにも目を向けてくれないかな……。

 

僕の視線を感じたのか、ゼノヴィアは不満気な表情となる。

 

「むっ、祐奈。いまおまえはパワーバカだと思ったな。だが私から言わせれば、グレモリーのテクニック芸はおまえだけでいいと思うんだ。だから私は破壊力だけに費やす!」

 

お願い!テクニックにも目を向けてくれないかな!?うちの眷属はパワータイプばかりでただでさえテクニックタイプ不足なの!

 

……今度、真剣に部長に進言しよう。――もう一人、テクニックタイプを育てて欲しいと。

 

「……眷属一の苦労人、祐奈先輩」

 

ありがとう、白音ちゃん!

 

「ついてらっしゃい!悪魔に天使に堕天使だなんて!私はモテモテね!」

 

ジャンヌは嬉々としながら、聖剣で作られたドラゴンの背中に乗る。ドラゴンは主を背に乗せると、近くにある高層ビルの壁に手足を引っかけて高速で駆け上りはじめた。

 

ゼノヴィア、イリナさん、朱乃さん、夕麻さん、ミッテルトが翼を広げてそれを追う。すぐに空高くで激しいぶつかり合いが始まった!

 

                    D×D

 

残るは――ヘラクレスとゲオルク…という奴らだけか。

 

木場祐奈だったな…そいつがゲオルクに問う。

 

「なぜ、あのバスを狙った?というよりもなぜ首都リリスにいるの?」

 

「まず後者のほうから答えようか。――見学だ。曹操があの超巨大魔獣がどこまで攻め込むことができるか、その目で見てみたいというのでね」

 

そうゲオルクは答える。

 

「では、なぜバスを狙った?」

 

木場祐奈が再度訊く。ゲオルクは嘆息するだけだ。

 

「偶然、そのバスと出くわしてな。そうしたら、ヴリトラの匙元士郎とシトリー眷属が乗っていたのだ。あちらもこちらの顔を知っている。まあ、相対することになってしまうのも否めないだろう?」

 

すると、ヘラクレスという奴が挑戦的な笑みを見せる。

 

「俺が煽ったって面もあるぜ?偶然、あのヴリトラに出会ったんだ。魔獣の都市侵略の見学だけじゃ、物足りなくなってな。『子供を狙われたくなけりゃ、戦え』って言ったんだよ。――で、戦闘開始ってわけだ」

 

そのヘラクレスの言葉に木場祐奈が、手に握っている魔剣を強く握りしめたとき――、

 

「英雄派は異形との戦いを望む英雄の集まりだと聞いていたが……どうやら、ただの外道がいたようだ」

 

そう言いながら対峙している俺たちの間に現れる男がいた。

 

金色の体毛に包まれた巨躯の獅子……。それを付き従えている、純粋なオーラを薄くまとっている男だ。

 

「……サイラオーグ!」

 

紅髪の女……リアスとか言っていたな。

 

そのリアスが男の名を叫ぶ。

 

……サイラオーグ、それがあいつの名か。

 

その男――サイラオーグは巨躯の獅子をその場に留めさせると、一歩前に出る。そして一言、こう漏らす。

 

「――俺が行こう」

 

上着を脱ぎ捨てたサイラオーグの全身からは、濃い闘気が放出されている。

 

「首都で暴れ回っていた旧魔王派の残党を一通り屠ったところでな、遠目に黒いドラゴン――匙元士郎の姿が見えた。ゲームでの記録映像でしか見たことのない姿だったが、すぐに理解した。――強大な何かと戦っていると」

 

サイラオーグの戦意を受け、ヘラクレスがうれしそうな笑みを浮かべる。

 

「バアル家の次期当主か。知ってるぜ?滅びの魔力が特色の大王バアル家で、滅びを持たずに生まれた無能な次期当主。悪魔のくせに肉弾戦しかできないっていうじゃねぇか。ハハハ、そんなわけのわからねぇ悪魔なんざ初めて聞いたぜ!」

 

「英雄ヘラクレスの魂を継ぐ者」

 

「ああ、そうだぜ、バアルさんよ」

 

ヘラクレスのほうへゆっくりと足を進めながらサイラオーグは断ずる。

 

「――どうやら、俺は勘違いしたようだ。貴様のような弱小な輩が英雄のはずがない」

 

それを聞いたヘラクレスの額に青筋が浮かび上がる。

 

……典型的なパターンだ、こいつは。

 

「へっ、赤龍帝との殴打戦を繰り広げたらしいじゃねぇか。だせぇな。悪魔っていや、魔力だ。魔力の塊、魔力での超常現象こそが悪魔だといっていい。それが一切無い赤龍帝とあんたは何なんだろうな?」

 

ピキッ!

 

俺はなぜか、ヘラクレスが言った挑発の文句に軽くキレてしまった。

 

「…落ち着いてください、先輩」

 

立ち上がろうとした俺に、冷静に宥めてきた近衛。

 

「先輩がキレそうなのはわかります。私もあのような輩は嫌いです…」

 

「いや、そうなんだが…そうじゃない」

 

近衛は「えっ?」と二度大きく瞬きをする。

 

「さっき、赤龍帝のことをバカにしてただろ。おまえは間もないから知らないと思うが、赤龍帝は兄さんの義弟だ。そいつをバカにされてな、兄さんをバカにされたように思えて仕方がならないんだよ」

 

近衛は「なるほど、そういうことですか」と納得したようだ。

 

「つまりは、教え子の赤龍帝の人が馬鹿にされて、教えていたお兄さんも間接的に馬鹿にされた……。つまりは、お兄さんを好きな先輩の逆鱗ってところですね?」

 

「…何かが違うと思う上に、逆鱗まではいっていない」

 

俺は冷静さを取り戻し、近衛の治癒を受け続ける。

 

ヘラクレスの煽りは続く。

 

「元祖ヘラクレスが倒したっていうネメアの獅子の神 器(セイクリッド・ギア)を手に入れているっていうじゃねぇか。――皮肉だな、俺と会うなんてよ。それを使わなきゃ俺には勝てないぜ?」

 

ヘラクレスのその物言いをサイラオーグは一言で再び断じる。

 

「使わん」

 

「は?」

 

さらにコメカミに青筋を浮かび上がらせ、怒りの口調で問い返すヘラクレスだが……。

 

「貴様ごときに獅子の衣は使わん。どう見ても貴様が赤龍帝よりも強いとは思えないからな」

 

サイラオーグはそう断ずるだけだ。

 

それを聞き、ヘラクレスは哄笑をあげる。

 

「ハハハハ!俺の神 器(セイクリッド・ギア)爆破できないものはねぇのよ!たとえ、あんたが闘気に包まれてたってな!俺の神 器(セイクリッド・ギア)にかかれば造作もねぇよ!」

 

ヘラクレスが飛び出す。

 

手にオーラをまとわせ、サイラオーグの両腕をつかむ。――すると、爆破が起きる!

 

……ヘラクレスの神 器(セイクリッド・ギア)は攻撃と共に対象物を爆破するもののよだ。

 

爆音と共にサイラオーグの両腕が()ぜていた。

 

――だが、それを見てサイラオーグは平然とこう漏らす。

 

「なるほど。――こんなものか」

 

肉が爆ぜ血が噴き出ようとも、サイラオーグは表情を変えていない。

 

ヘラクレスは完全に激怒した様子で両手のオーラさらにを高まらせる。

 

「へへへ、言ってくれるじゃねぇか。じゃあ、これでどうよッ!?」

 

そのまま路面に向け拳を連打で繰り出す。刹那――、路面ごと大規模な爆破がサイラオーグの全身を包み込む。

 

瓦礫の山となった路面の上でヘラクレスが再び哄笑をあげる。

 

「ハハハハハハハハッ!ほら、見たことかよ!何も出来ずに散りやがった!これだから魔力もねぇ悪魔は出来損ないってんだよ!たかが、体術だけで何ができるって――」

 

そこまで言ってヘラクレスの口が止まる。――その表情は驚愕に包まれていた。

 

俺は爆発のなかに、サイラオーグの闘気を見ていた。兄さん並みにしぶとそうだ……。

 

煙が止んだ車道の中央でサイラオーグは何事もないように立っていた。

 

「――こんなものか?」

 

まったく薄れない闘気に――ヘラクレスの表情が軽く戦慄している。

 

「……舐めんな、クソ悪魔がッッ!!」

 

毒づくが、先ほどの余裕が少し陰りだしていた。

 

サイラオーグは一歩、また一歩とヘラクレスとの間合いを詰めていく。

 

「英雄ヘラクレスの魂を引き継ぎし人間というから、少しは期待したのだが……。どうやら、俺の期待はことごとく裏切られたようだ」

 

ヘラクレスが再び両手をかまえるが――サイラオーグは瞬時にヘラクレスの正面に移動する。

 

「俺の番だ」

 

ドズンッ!

 

重く、低く、鋭いサイラオーグの拳打がヘラクレスの腹部に深々と突き刺さる。その一撃の衝撃はヘラクレスの体を通り抜け、後方のビルの壁をも破壊した。

 

「――ッッッ!?」

 

予想以上の破壊力だったようだ。ヘラクレスは当惑の表情を浮かべ、苦悶へと変わっていく。

 

その場にひざをつき、腹部を手で押さえる。口からは血反吐が吐き出された。

 

……たったの一撃で、あそこまでの破壊力。…俺の須佐能乎を破りかねないな、サイラオーグ・バアル。

 

サイラオーグがヘラクレスを見下ろして言う。

 

「どうした。いまの一撃はただの拳打だ。おまえがバカにした赤龍帝はこれを食らっても一切怯まずに立ち向かってきたが?」

 

それを聞いたヘラクレスは、くぐもった声音で不気味な笑いを発している。

 

同時に激情に駆られた憤怒の形相で立ち上がる。

 

「…………ふざけるな……ッ!ふざけるなよ、クソ悪魔ごときがよォォォォォォッ!!魔力もねぇ!神 器(セイクリッド・ギア)も使えねぇ!ただの打撃でこの俺が――」

 

激昂するヘラクレスは全身を輝かせる。体を包む光がミサイルのような突起物を形成させていく…。

 

「やられるわけねぇだろうがよォォォォォォォォォォオオオオオオッ!!!」

 

叫声をあげながら、ヘラクレスは全身の突起物――ミサイルを縦横無尽に放出していく……!!

 

「ふんッ!」

 

サイラオーグは生みだされたミサイルを避けることもせず、拳だけで弾いて吹き飛ばしていく…。

 

サイラオーグに向かっていくすべてのミサイルが拳によって弾かれる。弾道を崩されたミサイルはあらぬ方向へ飛び、ビルの壁面や路面に直撃して散っていく…。

 

撃ちだされたミサイルのひとつ…いや、ふたつが避難を始めている子供たちと、少し離れた場所で非難をしていた女のもとに飛来していく!!

 

「…チッ!」

 

バチチチチチチ――。

 

俺は左手に黒雷をまとわせ、子供たちのほう――ではなく、女の前方へ輪廻眼の焦点を合わせた。

 

「千鳥!!」

 

前方へ黒雷をまとった左手を突き出すと同時に、俺は女の眼前へ瞬間移動して――。

 

ドォォォォォオオン!!

 

ミサイルが爆発し、爆風が全身を覆う。

 

…俺は砂塵を須佐能乎の腕で振り払い、後ろにいる女を一瞥した。

 

須佐能乎のもう片方の手を退ける。

 

「…怪我はないな。早く非難しろ、そいつと」

 

女はうなずくと、すぐに肩を貸していた女と子供たちのほうへ歩いていく…。

 

俺は須佐能乎を消すと、子供たちのほうを見る。

 

……子供たちは案の定、無事に非難をしていた。ミサイルが接近していた場所にはグレモリー眷属の一人だろう、女が立っていた。俺はあの瞬間、その女が子供たちとの間に入り込もうとしているのを目視していた。

 

「……くっ」

 

左腕の激痛に苦悶の声を漏らしてしまった。さっきの千鳥でミサイルを爆破したものの、おかげで左腕は血だらけになっている。

 

「…先輩、左手を貸してください」

 

いつの間にか背後にいた近衛が、俺の目の前に移動してきて……左腕をそっと持ち上げる。

 

右手をそえると、傷口からの出血が収まっていく。

 

少しすると左腕の傷は完治し、機能を取り戻した。

 

――ゾクッ!!

 

その瞬間、背筋を凍らせるような感覚が襲てくると同時に、周囲の空間がすべて闇に包まれていた――。

 

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