ハイスクールD×D 力ある者   作:塩基

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吸血鬼の訪問

セルベリアとの買い物の翌日の深夜――。

 

俺は家のリビングにいる。

 

…前日、買い物から帰ってきてすぐにアザゼルから連絡が入った。『明日、吸血鬼との会談がある』と。

 

そういうことで、俺たちは先ほどまで会場の準備をしていた。

 

この場に集合したのは、グレモリー眷属全員、シトリー側のソーナと真羅椿姫、堕天使代表としてアザゼル、形としての護衛でカラワーナ、ミッテルト、レイナーレがつき、暁と鷹の全メンバー、冥界の領地から角都と飛段が、そして天界側からはシスターが一人――。

 

ベールを深くまで被ったシスター。二十代後半ほどで柔和な表情と、やさしそうな雰囲気をまとっている。

 

…このシスターのことは、ミカエルからの連絡で大体は把握している。

 

シスターが見渡すようにこの場にいる全員へあいさつをくれる。

 

「あいさつが遅れました。私、この区域の天界スタッフを統括しておりますグリゼルダ・クァルタと申します。赤龍帝さんやシスター・アーシアとは少し前にごあいさつできたのですが、皆さまとはまだでしたので、改めまして今後とも何とぞよろしくお願いできたら幸いです」

 

「私の上司さまです!」

 

イリナがそう付け加えた。

 

アザゼルがシスター・グリゼルダと握手を交わす。

 

「おー、話は聞いてるぜ。ガブリエルの(クイーン)!シスター・グリゼルダっていやー、女のエクソシストのなかでも五指に入ってたな」

 

「恐れ入ります。堕天使の前総督さまのお耳に届いているとは……光栄の至りですわ」

 

シスター・グリゼルダはアザゼルとのあいさつが終わると、俺の前に立つ。

 

俺もその場で立ち、お互い握手をする。

 

一言躱すと、シスター・グリゼルダはエールとあいさつを交わしていた。

 

……一番の本命は、エールと知り合うことかな?だって、神の子だし。

 

エールとのあいさつを終えたシスター・グリゼルダが深く陳謝する。

 

「申し訳ございませんでした。本来ならもっと早くにあいさつをうかがうべきでしたのに……もろもろ都合が付かず、いまになってしまい、己の至らなさを悔やむばかりです」

 

丁寧な物腰……だが、ここにいる一人の人物に対して態度が違うとミカエルに聞いたが…。

 

「あらあら?ゼノヴィアったら、顔色が悪いわね?」

 

イリナが意味深な質問をゼノヴィアに投げかけていた。

 

「……からかうな、イリナ」

 

ゼノヴィアは顔を強張らせてシスター・グリゼルダの視界に入らないようにしている…。

 

そう…ゼノヴィアに対しては、態度が変わると聞いた。

 

そのゼノヴィアの顔をシスター・グリゼルダは両手でしっかりと押さえる。

 

「ゼノヴィア?私と顔を合わせるのがそんなに嫌なのかしら?」

 

「……ち、違う。た、ただ……」

 

「ただ?」

 

「……で、電話に出なくてごめんなさい」

 

たまに目にしていたが、ゼノヴィアがある着信を無視していたのは…。

 

ゼノヴィアからの謝罪を受け、シスター・グリゼルダも手を離す。

 

「はい。よく出来ました。せっかく、番号を教え合ったのだから、連絡ぐらいよこしなさい。わかりましたか?食事くらいできるでしょう?」

 

「……ど、どうせ、小言ばかりだろうし……」

 

「当たり前です。また一緒の管轄区域になったのだから、心配ぐらいします」

 

……まるで、マリアや黒歌のような人だ。まぁ、二人と違って、姉は姉でもシスコンってわけじゃないようだ。

 

シスター・グリゼルダが一通りあいさつを済ませ、あとは吸血鬼の来客を待つだけとなる。

 

さらに夜は更け――。

 

外は完全に静まりかえり、皆も会話をしなくなった頃、外より冷たい気配を感じ取る。それを把握した皆は廊下のほう――玄関の方向へ視線を向けている。

 

俺は立ち上がり、リビングの壁につけているインターホンのモニターを確認する。

 

「来たか。……俺が迎えに出る」

 

そう言い残して、そそくさと廊下に出る。

 

玄関に出ると、小門の前に三人の人影が立っていた。

 

…何もしてこないだろうが、一応の警戒はしておこう。

 

俺は両眼を写輪眼に変化させ、小門を開ける。

 

「……どうぞ、なかへ」

 

三人はゆっくりと敷地のなかに入る。俺は入ったのを見て、小門を閉じた上に人払いの結界を張り巡らせた。

 

三人のうち、吸血鬼側の代表がすぐに判断できた。…中央にいる少女がそうだろう。

 

中世時代の貴族が着ているようなドレスに身を包んでおり、長い金色の髪をヴェーブさせている。

 

左右に立っている男女はスーツ姿。…どう見ても付き人としか思えないな。

 

玄関のなかへ招き、なかに入ってもらう。

 

上がる直前、俺は準備しておいたスリッパを並べた。

 

「すみません、ここから先は土足厳禁なので…。そのスリッパに履き替えて上がってくれ」

 

三人はスリッパを一瞥して履物を音も立てずに脱ぐ。

 

俺は三人がそれぞれのスリッパを履いたのを見て、廊下を進んで案内をする。

 

リビングのドアを開け、なかに入る。

 

「連れてきたぞ」

 

俺はドアを手で固定して三人をリビングに招き入れた。

 

吸血鬼側の代表の少女は、俺を含めた全員にあいさつをくれる。

 

「ごきげんよう、三大勢力の皆さま。特に魔王さまの妹君お二人に、堕天使の前総督さま、暁の(おさ)さまとお会いできるなんて光栄の限りです」

 

リアスに促され、リアスの対面の(ソファ)にその少女は座る。

 

俺もアザゼルと対面する席に座ることに。

 

座る前に彼女は名乗る。

 

「私はエルメンヒルデ・カルンスタイン。エルメとお呼びください」

 

アザゼルがあごに手をやる。

 

「……カルンスタイン。確か、吸血鬼二大派閥のひとつ、カーミラ派のなかでも最上位クラスの家だ。久しぶりだな、純血で高位のヴァンパイアに会うのは」

 

純血という言葉に若干引っかかった俺だが…ヒルダは現在、純血なのかハッキリしない存在のため、スルーすることにした。

 

…まぁ、生まれが両派閥の真祖の子だったりするけどな。

 

俺の影が若干動く…ヒルダか。

 

席に座るエルメンヒルデ。

 

俺、アザゼル、リアスとソーナ、シスター・グリゼルダ、エルメンヒルデがテーブルを囲う形となった会談の席となる。

 

朱乃がお茶を差し出したのを確認して、リアスが開口一番に率直な質問をする。

 

「エルメンヒルデ、いきなりで悪いのだけれど、質問させてもらうわ。――私たちに会いに来た理由をお話ししてもらえるかしら?いままで接触を避けてきたあなたたちカーミラの者が、突然グレモリー、シトリー、アザゼル前総督、暁のもとに来たのはなぜ?」

 

エルメンヒルデは瞑目し、一度うなずくと目を静かに開いた。

 

「――ギャスパー・ヴラディのお力を借りたいのです」

 

――そうきたか。

 

何となく感づいていた俺はともかく、イッセーたちは予想もしていなかった答えに絶句し、驚愕していた。皆の視線がギャスパーに集まる。

 

……当のギャスパーはぶるぶると全身を震わせていた。

 

これは俺の勘だが、ギャスパーの覚醒したという能力を求めている…いや、それに頼るならば、それなりの事象が向こう側で起きたということなのだろう。

 

「……まさかと思うけど、神滅具(ロンギヌス)が関わっているとか?」

 

俺の後ろに控えている花楓が、突然の発言をした。

 

「――ッ!!」

 

その問いに目を見開いて驚愕しているエルメンヒルデ。

 

「…花楓、どうして神滅具(ロンギヌス)が関わっていると思った?」

 

「え~と、勘…かな。フィニアも『そうじゃないか』って言ってたし…」

 

「…そうか、フィニアが……」

 

俺は「フィニア」と問いかけると、花楓の背から黄金の翼が出現する。

 

『…は、はい』

 

「フィニア、なぜ『神滅具(ロンギヌス)』が関わっていると思った?」

 

『……そ、それはですね、神滅具(ロンギヌス)の乱用をすると、僕の力が共鳴するからです…さ、最近、発現したばかりのものですけれど』

 

乱用という二文字を聞いたアザゼルが「その神滅具(ロンギヌス)は何だ?」と問いかけた。

 

『さ、最悪と言っても過言ではない代物………「幽 世 の 聖 杯(セフィロト・グラール)」です』

 

フィニアの言葉を聞いた瞬間、俺とアザゼルは目元をさらに厳しくする。

 

「よりにもよって、聖遺物(レリック)のひとつ――聖杯か」

 

聖遺物(レリック)――。曹操の持っている『黄 昏 の 聖 槍(トゥルー・ロンギヌス)』、無法者のはぐれ魔法使いどもの集団に『紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)』が在籍している。そして、ヴァンパイア側に『幽 世 の 聖 杯(セフィロト・グラール)』ときた。

 

俺はヴァンパイアのなかで、誰が『幽 世 の 聖 杯(セフィロト・グラール)』の所有者を訊きだす。

 

「エルメンヒルデ、その『幽 世 の 聖 杯(セフィロト・グラール)』の現所有者は誰なんだ?」

 

「ツェペシュ側のハーフから出てしまったのです」

 

ハーフからねぇ…。三分の二は把握できたが、肝心の名前がわからないか。

 

俺は無理なく聞くため、名前を訊きだす問いはしなかった。

 

アザゼルが言う。

 

「最後の晩餐(ばんさん)に使われたもの、イエスの血を受けたもの、聖杯ってのはとりわけ伝説が多い。だが、神 器(セイクリッド・ギア)のアレはただの聖杯じゃない。神滅具(ロンギヌス)であり、生命の断りを覆しかねない代物だ。……エルメンヒルデといったか、不死者の吸血鬼がそれで何を求める?」

 

「絶対に死なない体――。杭で心臓を抉られても、十字架を突きつけられようとも、自分の棺で眠らずとも、太陽の光を浴びようとも、決して滅びない体をツェペシュの者たちは得ているのです。いえ、正確に言いますと、滅びにくい体を得た――でしょうか。聖杯の力はまだ不完全のようですから」

 

エルメンヒルデは続ける。

 

「何も弱点のない存在になろうとしているのです。吸血鬼としての誇りを捨てる。それだけならまだしも、あの者たちはこちら側を襲撃してきたのです。すでに犠牲者を出しております。これらの一連の行為を私どもは決して許すつもりはございません。同じ吸血鬼として粛清するつもりです」

 

エルメンヒルデの瞳は暗く、憎悪の色を強く帯びていた。

 

…まぁ、この反応は当然なものだ。被害を受ければ誰だって頭にくる。

 

「カーミラ側は吸血鬼としての生き方を否定して、襲ってきたツェペシュサイドのやり方が気に入らないってことか。まあ、攻撃されたら誰だってアタマくるわな」

 

「はい、その通りです。そして、私たちの目的は――」

 

エルメンヒルデはアザゼルの言葉にうなずき、視線をギャスパーへと移す。赤い双眸と赤い双眸が邂逅する。

 

「そちらにいらっしゃるギャスパー・ヴラディの力を借りて、ツェペシュの暴挙を食い止めることです」

 

……やはり、そうなったか。

 

リアスが冷静に訊く。

 

「……それは、ギャスパーがヴラディ家の――ツェペシュ側の吸血鬼であることと関係があるのかしら?」

 

いつもと同じ態度と口ぶりのリアスだが、何となく内で押さえている激情を感じ取っている。

 

情愛深いリアスが、大切な眷属を抗争に貸せと言われて黙っていられるわけがない。

 

リアスの問いにエルメンヒルデは意味深な笑みを見せた。

 

「それもあります。リアス・グレモリーさま。けれど、本当に私どもが欲しているのは、ギャスパー・ヴラディの力です。眠っていた力が目覚めたと耳に挟んだものですから」

 

思った通りの返答だが、俺は何かに引っかかっていた。

 

エルメンヒルデは言葉を続ける。

 

「私どもは吸血鬼同士の争いを吸血鬼の力で解決しようと思ってますわ。そのためには、ギャスパー・ヴラディのお力をお借りしたいのです」

 

…吸血鬼同士の争いは吸血鬼の力で止める、か。ギャスパーは転生悪魔だが、吸血鬼の力も有しているからな。

 

リアスが眉根を寄せて訊く。

 

「……あの力は何?あなたたちはそれを知っているの?」

 

核心だな。いま俺たちが知りたいことの本質。

 

俺たちの視線がエルメンヒルデに注ぐ。

 

「……ごく希に本来の吸血鬼の持つ異能から逸脱した能力を有する者が、血族から生まれることがあります。今世においてはハーフの者に多く見られておりますわ。ギャスパー・ヴラディもその一人でしょう。カーミラに属する私どもでは、詳細を調べ上げられるほどの資料を有しておりません。しかし、ツェペシュ側には手がかりになるものがあるやもしれませんわ」

 

…そういうことか。詳しく調べたいのなら、ヴラディ家を訪問しろということだな。

 

エルメンヒルデは続ける。

 

「そして、問題の聖杯について。所有者はもちろん忌み子――ハーフではありますが、名はヴァレリー・ツェペシュ。ツェペシュ家そのものから生まれたのです」

 

…俺の気にしていた疑問が、出てきたぞ。

 

その名を聞いて、反応した者がいた。――ギャスパーだ。

 

泣きそうな顔をしている。

 

「……ヴァレリーが……?う、嘘です!ヴァレリーは僕みたいに神 器(セイクリッド・ギア)を持って生まれてはいませんでした!」

 

エルメンヒルデは答える。

 

「生まれつきでなくとも神 器(セイクリッド・ギア)とは、何かの切っ掛けで発現します。それはあなたもご存じでしょう?ヴァレリー――彼女も例外ではありませんでした。近年覚醒し、能力を得たものと思われます」

 

そう、俺も初めから神 器(セイクリッド・ギア)を発現できたわけじゃない。

 

アザゼルが目を細め、腕を組む。

 

「俺たちや天界が観測、特定が済む前に隠蔽(いんぺい)されたと思っていいんだろうな。ったく、どうしようもないな。聖なる力を嫌う吸血鬼が、聖遺物の神滅具(ロンギヌス)――聖杯を捨てもせず、こちらに預けもしないで、自分たちのもとに隠すなんてよ」

 

「私もそう思います」

 

アザゼルの言葉にエルメンヒルデも応じた。

 

エルメンヒルデはギャスパーに視線を向ける。ギャスパーはおどおどしながらも今度は真っ直ぐに視線を交わす。

 

「ギャスパー・ヴラディ、あなたは自分を追放したヴラディ家に――ツェペシュに恨みはないのかしら?いまのあなたの力なら、それが可能ではないかと私は思うのだけれど」

 

「……ぼ、僕はここにいられるだけで十分です。部長たちと一緒にいられればそれだけで――」

 

「――雑種」

 

その言葉を耳にした途端、ギャスパーの顔は徐々に曇り始める。それを確認して、エルメンヒルデは続ける。

 

「――混じりもの、忌み子、もどき、あなたはいかような呼び名でヴラディ家で過ごしていたのかしら?感情を共有できたのはツェペシュ家のハーフ、ヴァレリーだけ、でしたわね?ツェペシュ側のハーフが一時的に集められて幽閉される城のなかで、あなたとヴァレリーは手を取り合い、助け合って生きてきたと聞いておりますわ。ヴァレリーを助けたいと思いませんか?」

 

いままで沈黙していたシスター・グリゼルダが口を開く。

 

「あなた方はハーフの子たちを忌み嫌いますけれど、もともと人間を連れ去り、慰み者として扱い、結果的に子を宿らせたのは、吸血鬼の勝手な振る舞いでしょう?あなた方に民を食い散らかされ、悔しい思いをしながらも憂いに対処してきたのは、我々教会の者たちです。できれば、趣味で人間と交わらないでもらいたいものです」

 

やわらかい物腰だが、その言葉には多分に毒が混ざっている。それに目が笑っていない笑みといい…怖いな。

 

エルメンヒルデは口元に手をやり、小さく笑む。

 

「それは申し訳ございませんでしたわ。けれども、人間を狩るのが我々吸血鬼の本質。悪魔や天使も同じだと思っておりますが?人間の欲を叶え対価を得る、または人間の信仰を必要とする。我々異形の者は、人間を糧にせねば生きられぬ『弱者』ではありませんか」

 

そう、異形は何かしら人間を糧という『形』にして存在している。

 

――吸血鬼と悪魔は似ているな。純血とそうでない者の二者しかない…。

 

エルメンヒルデは、後方で待機していたボディガード役の吸血鬼を呼び、鞄から書面らしきものを取り出させた。

 

「手ぶらで来たわけでもありませんわ。書面を用意しました」

 

エルメンヒルデは書をアザゼルに渡す。

 

受け取ったアザゼルは、書面を見て息を吐く。

 

「……カーミラ側の和平協議について、か」

 

『――ッ!?』

 

アザゼルの言葉にこの場の皆が驚く。

 

…このタイミングで外交カードを切ってきたか。

 

アザゼルは書類をテーブルに置いて、エルメンヒルデに言う。

 

「つまりだ。今日のこれは外交――特使として、おまえさんが俺たちのもとに派遣されたってことだな?」

 

アザゼルの問いにエルメンヒルデは笑みを見せる。

 

「はい。我らが女王カーミラさまは堕天使の総督さまや教会の方々との長年にわたる争いの歴史を憂いて、休戦を提示したいと申しておりました」

 

エルメンヒルデの対応にアザゼルは額に青筋を立てていた。

 

「順番が逆だ、お嬢さん。普通は和平の書面が先で、神滅具(ロンギヌス)の話はあとだろうが。これじゃ、まるで力を貸してくれなければ、和平には応じないと言っているようなもんだ」

 

目元を怪しく細めたシスター・グリゼルダも平静を装いながら続く。

 

「隔てることなく各陣営に和議を申し込み、応じていた我ら三大勢力が、この話し合いに応じなければ他の勢力への説得力が薄まりますわね。『各勢力に平和を説いているのに相手を選んで緊張状態を解いているのか』――と。しかも停戦ではなく、休戦ですもの。こちらの弱みを突かれた格好ですわね」

 

…そう、停戦ではなく、休戦。無期としている停戦に比べ、終期を設けられる休戦はこちら側としては弱みも同然。

 

エルメンヒルデはうれしそうに口の両端をつり上げて言った。

 

「ご安心ください。吸血鬼同士の争いは吸血鬼同士でのみ、決着をつけます。ギャスパー・ヴラディをお貸しいただければ、あとは何もいりませんわ。和平のテーブルにつくお約束と共にヴラディ家への橋渡しも私どもがおこないましょう」

 

感情が高まってしまったイッセーが、訊こうとして口を飛段に手で封じられていた。

 

俺は小さくも怪しく笑みを浮かべ、口を開く。

 

「…停戦、休戦のどちらでも()()かまわない。無事にギャスパー・ヴラディをこちらに返してくれればな。……こいつのみを指名したのは、『吸血鬼同士の争いは吸血鬼同士のみで決着する』――こういうことだろう?」

 

俺の問いにエルメンヒルデは首を縦にして答える。

 

「はい、あくまで我々の決着は我々の手でおこないます。アドバイザーぐらいでしたら、いかようにも」

 

「そうか、なら…ひとつアドバイスだ。エルメンヒルデ、カーミラ女王に俺たちの介入の許可をいただいてもらいたい。吸血鬼同士の問題は吸血鬼同士のみで解決したいのはわかるが、聖杯がツェペシュ側にあるのなら…カーミラ側に勝機ない」

 

その言葉にエルメンヒルデは眉をしかめた。

 

「なぜそう思うのです?」

 

エルメンヒルデは、カーミラはツェペシュと同等以上だと考えていたのだろう。

 

「なぜかって?聖杯が向こうにあって、すでに犠牲者も出ている。エルメンヒルデは戦場図を扱ったことはあるか?戦闘には必ずその戦場の状況を把握し、戦術を練らないとならない。…最低の犠牲と消耗で敵の大将の首を打ち取るには、それだけのことが必要になる。それに、寝返り――裏切りだってないわけじゃない。そうなれば…敗北どころか、殲滅される可能性も出る。…まぁ、こんなことを言っても仕方がないわな。ただ――」

 

俺は湯呑を手に取ってお茶を飲んで、湯呑をテーブルにおいて言う。

 

「そうなり得る前に、手を打ってもらいたいだけだ。それには三大勢力を頼らなくてもいい。俺やそこにいる転生者に頼めば、取引なく手を貸す。…こう見えても、転生者一人で一勢力分の権限と力を有しているからな。それでも断るなら、『竜悴公姫(ドラキュリア)』にでも頼ればいい。所在ぐらいは割れている」

 

俺の影にくっ付いているんだけどな…これが。

 

「わかりましたわ。最悪にはならないと思いますが、女王カーミラさまにお伝えしましょう」

 

意外な答えに、皆の目が点になる。

 

そんな俺たち全員を見渡したあと、エルメンヒルデは立ち上がる。

 

「以上ですわ。今夜はお目通りできて幸いでした。何よりも、自分の根城に吸血鬼を招き入れられるという寛大なお心遣いに感謝しますわ、リアス・グレモリーさま」

 

エルメンヒルデのわざとらしい氷の微笑にリアスは、憤怒の形相になっていた。

 

「……ええ、今日は貴重な会談ができてよかったわ。あなたたちのことがよくわかったものね」

 

「それでは、ごきげんよう。この地に従者を置いていきます。何かありましたら、その者に取り次いでください。――では、よいご報告をお待ちしております」

 

リアスの根城とエルメンヒルデは言ったが、ここの家主は俺なので、礼儀としてリビングのドアを開けて廊下へ、玄関につくと靴を履いたのを確認して玄関のドアを開けて外へ。そして、小門を開けて敷地の外に出た。

 

「気をつけて」

 

俺はその一言だけ言い、小門を閉めた。

 

暗闇へ消えるように姿が見えなくなったのを確認して、玄関に入ろうとしたときだ。

 

「…ひとつ、ふたつ…二人か」

 

俺は結界内に侵入した異形の存在を感知し、即人数と居場所を特定する。

 

「ちょっといいか?ヒルダ」

 

影に話しかけると、影が独立で動きだして――小さなスパークノイズを発しながら、ヒルダが姿を現した。

 

「……何かしら?リュースケ」

 

ヒルダはエルメンヒルデたちが消えていったほうを一瞥してすぐ、俺のほうを向いた。

 

「すまないが、リビングに戻るついでに伝言を頼まれてくれないか?」

 

「伝言?…いいわよ」

 

「あぁ、伝言の内容は『結界内に侵入者がいる。俺一人で行くが、誰もついてくるな。あまり時間はかけないつもりだ』と。…頼む」

 

ヒルダは俺の伝言を聞いて「わかったわ。任せなさい」と言い残して、すたすたと玄関に入っていった。

 

俺はヒルダを見送ると、神威で三叉クナイが入っているポーチを取りだして腰に提げる。

 

「…あぁ、あとで絶対どやされるな。俺」

 

先ほどの会談のことを思い出して、眉間をつまんだ。

 

…まぁ、それはいい。それよりも――、

 

俺は闇夜に溶け込むように、目的地へ向けて駆けだした。

 

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